「ときしらず」という名前の鮭を聞いたことはありますか?
漢字では「時鮭」と書かれることもあり、どちらも高級な鮭として知られていますが、この二つに違いはあるのでしょうか。
実は、「時鮭(ときさけ)」と「ときしらず」は、どちらも同じ魚を指す呼び名です。生物学的な違いはありません。「ときしらず」は「時鮭」の別名であり、その名前には「時期外れに獲れる」という深い理由があります。
この記事では、時鮭とときしらずがなぜ同じなのか、そして、私たちがよく知る「秋鮭」とは何が決定的に違うのか、その秘密を専門的に徹底解説します。
脂の乗りから旬、価格まで、これを読めば「ときしらず」のすべてが分かりますよ。
結論:時鮭とときしらずの違いが一目でわかる比較表
「時鮭(ときさけ)」と「ときしらず」は、どちらも同じ魚(標準和名:シロザケ)を指します。「ときしらず」は「時鮭」の別名・俗称であり、生物学的な違いはありません。これらは、本来の旬(秋)ではない春〜初夏に獲れるため、「時を知らない」という意味で名付けられました。
「時鮭」と「ときしらず」は同じものですが、私たちが一般的に「鮭」として認識している「秋鮭」とは全く異なる特徴を持っています。その違いを比較表で見てみましょう。
| 項目 | 時鮭(ときしらず) | 秋鮭(アキアジ) |
|---|---|---|
| 標準和名 | シロザケ | |
| 呼び名の違い | 「時知らず」とも呼ばれる | 「アキアジ」とも呼ばれる |
| 獲れる時期(旬) | 春〜初夏(5月〜7月頃) | 秋(9月〜11月頃) |
| 獲れる場所 | 日本近海(回遊中) | 沿岸部(産卵のため川に戻る直前) |
| 成熟度 | 未成熟(産卵の準備前) | 成熟(産卵直前) |
| 脂の乗り | 非常に良い(脂質 10〜20%) | 少ない(脂質 2〜5%) |
| 身の色 | 鮮やかなサーモンピンク | 薄いオレンジ色 |
| 味わい | とろけるような食感で旨味が強い | あっさり淡白で、身が締まっている |
| 主な用途 | 塩焼き、刺身(ルイベ) | ちゃんちゃん焼き、鍋物、新巻鮭、筋子・イクラ |
| 価格 | 高価(希少) | 安価(漁獲量が多い) |
時鮭とときしらずの定義と呼び名の違い
「時鮭」も「ときしらず」も、標準和名「シロザケ」のうち、春から夏に獲れる未成熟な個体を指す言葉です。「時を知らない」という俗称が「ときしらず」、漢字表記が「時鮭」として定着しています。
時鮭(ときしらず)とは?
私たちが日本で「鮭(サケ)」と呼ぶ場合、その多くは標準和名「シロザケ(学名:Oncorhynchus keta)」を指します。
シロザケは、海で成長し、産卵のために生まれた川に戻ってくる魚です。通常、この「里帰り」の時期は秋(9月~11月)です。この時期に獲れる、産卵直前のシロザケを「秋鮭(アキアジ)」と呼びます。
しかし、ごく一部のシロザケは、まだ成熟する前の若い時期(2~3歳)に、時期外れの春から初夏(5月~7月頃)に日本近海(北海道や三陸沖)を回遊中に漁獲されます。
これが「時鮭(ときしらず)」です。
「時鮭」と「ときしらず」は同じ?
はい、「時鮭」と「ときしらず」は全く同じものを指します。
本来の旬である秋とは全く違う時期に獲れることから、「時を知らないで獲れる鮭」という意味で「ときしらず」という俗称が生まれました。そして、その漢字表記として「時鮭(ときさけ、または「ときじゃけ」とも読む)」が使われるようになったのです。
どちらも商品名やブランド名として使われており、優劣や明確な使い分けはありません。
【最重要】「時鮭(ときしらず)」と「秋鮭(アキアジ)」の決定的な違い
時鮭(ときしらず)と秋鮭は、同じシロザケですが、「脂の乗り」と「成熟度」が全く違います。秋鮭は産卵直前で脂が少ないですが、時鮭は産卵前で栄養を蓄えているため、別格の脂の乗りと旨味を持っています。
同じシロザケなのに、なぜ時鮭(ときしらず)は高級魚として扱われるのでしょうか。その理由は、秋鮭との違いにあります。
違い①:獲れる時期と成熟度の違い
- 秋鮭(アキアジ):
秋に、産卵のために川に戻ってきた「成熟」した鮭です。オスもメスも、体力を精巣(白子)や卵巣(筋子・イクラ)を作るために使ってしまっています。 - 時鮭(ときしらず):
春から夏に、まだ産卵の準備に入っていない「未成熟」な状態で回遊している鮭です。ロシアのアムール川系が起源とされ、エサを求めて日本近海を回遊している最中に獲られます。
違い②:脂の乗りと味わいの違い
この「成熟度の違い」が、味わいの決定的な違いを生みます。
秋鮭は、産卵にエネルギーを集中させているため、身の脂質は非常に少なくなります(脂質2~5%程度)。そのため、味わいはあっさり・淡白です。身が締まっているので、鍋物やちゃんちゃん焼きなど、他の食材や味噌と合わせる料理に向いています。
一方、時鮭(ときしらず)は、これからさらに成長し、将来の産卵に備えてエサをたくさん食べて栄養を蓄えている最中です。そのため、全身に上質な脂が行き渡っています(脂質10~20%超)。この脂が、とろけるような食感と濃厚な旨味を生み出します。
違い③:見た目(色や体型)の違い
見た目も異なります。
秋鮭は、川に遡上する準備が始まっているため、体表に「ブナ模様」と呼ばれる婚姻色が出ていることが多く、特にオスは鼻が曲がった(鼻曲がり)いかつい顔つきになります。身の色も脂が抜けて薄いオレンジ色です。
時鮭(ときしらず)は、まだ若いため、体型がスマートで銀色に輝いています。婚姻色も出ておらず、顔つきも精悍です。身の色も脂が乗っているため、鮮やかなサーモンピンク色をしています。
時鮭(ときしらず)の味・食感・見た目の特徴
時鮭(ときしらず)の最大の魅力は、「とろけるような脂の乗り」です。身は非常に柔らかく、熱を加えると脂がじゅわっと溶け出します。鮭特有の臭みも少なく、濃厚な旨味が口いっぱいに広がります。
時鮭(ときしらず)を一度食べると、その違いに驚くはずです。
見た目は美しいサーモンピンク色。焼くと、皮と身の間から上質な脂が溢れ出してきます。食感は、秋鮭のようなパサつきは一切なく、驚くほどふっくらとして柔らかいのが特徴です。
鮭の旨味が凝縮されており、塩焼きにするだけで、その脂の甘みと濃厚なコクを存分に楽しめます。鮭というよりは、むしろ高級なマス(例えば「マスノスケ(キングサーモン)」)に近いような、リッチな味わいですね。
栄養成分と健康面の違い(秋鮭との比較)
時鮭(ときしらず)は、秋鮭に比べて脂質が圧倒的に多く、高カロリーです。しかし、その脂にはDHAやEPAといった良質な不飽和脂肪酸が豊富に含まれています。また、身の赤色色素であるアスタキサンチンも豊富です。
日本食品標準成分表(八訂)で「しろさけ」の「秋獲り(秋鮭)」と「その他(時鮭など)」を比較してみましょう。
(しろさけ・生・100gあたり)
| 項目 | 時鮭(ときしらず)など | 秋鮭(アキアジ) |
|---|---|---|
| エネルギー | 176 kcal | 124 kcal |
| たんぱく質 | 22.5 g | 22.3 g |
| 脂質 | 10.4 g | 4.1 g |
出典:文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)」
数値で見ても、時鮭(ときしらず)は秋鮭の約2.5倍の脂質を含んでいることがわかります。これが、あのとろけるような食感と旨味の源です。
この豊富な脂には、血液をサラサラにする効果が期待されるDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)といったオメガ3脂肪酸が多く含まれています。
また、身の鮮やかなピンク色は「アスタキサンチン」という強力な抗酸化作用を持つ色素によるもので、健康維持にも役立つとされています。
時鮭(ときしらず)の美味しい食べ方・調理法
時鮭(ときしらず)の上質な脂と柔らかい身を活かすには、シンプルな調理法が一番です。厚切りの「塩焼き」が王道ですが、鮮度が良ければ「ルイベ(刺身)」も絶品です。
高級な時鮭(ときしらず)が手に入ったら、その素材の良さを最大限に引き出す食べ方をしたいですよね。
塩焼き(絶品の脂を味わう)
最もおすすめの食べ方です。厚めに切った切り身に軽く塩を振り、皮目をパリッと焼き上げます。
加熱することで、身に蓄えられた脂がじゅわっと溶け出し、ふっくらとジューシーに仕上がります。秋鮭のようにパサつくことがなく、鮭本来の濃厚な旨味を堪能できます。
ルイベ(刺身)
時鮭(ときしらず)は、アニサキスなどの寄生虫のリスクを避けるため、一度冷凍処理(-20℃で24時間以上)されたものが刺身用として流通します。
北海道の郷土料理である「ルイベ」は、この冷凍した鮭を半解凍の状態で薄切りにして食べる刺身のことです。シャリっとした食感と、口の中の温度で脂がとろけていく感覚がたまりません。
おにぎり・ちゃんちゃん焼き
もちろん、おにぎりの具や、野菜と一緒に蒸し焼きにする「ちゃんちゃん焼き」にしても絶品です。ただし、秋鮭で作るよりも脂が多いため、非常にリッチで贅沢な味わいに仕上がります。
主な産地・価格・希少性
時鮭(ときしらず)は、北海道の太平洋沿岸やオホーツク海沿岸、三陸沖などで漁獲されます。漁獲量が秋鮭に比べて圧倒的に少なく、味が良いため、非常に希少で高価な鮭として取引されます。
時鮭(ときしらず)は、春から初夏にかけて、ロシアのアムール川方面へ向かう途中で日本近海を回遊しているところを漁獲されます。
秋鮭の漁獲量(数万トン規模)に比べ、時鮭(ときしらず)の漁獲量はその数十分の1とも言われ、非常に希少です。
そのため、価格も秋鮭の2倍から3倍以上することも珍しくありません。特に脂の乗りが良いものはブランド化され、高級贈答品としても扱われます。
体験談:高級旅館で出会った「ときしらず」の衝撃
僕が「時鮭(ときしらず)」の美味しさを知ったのは、初夏の北海道旅行で泊まった旅館の朝食でした。
朝食の焼き魚として、一切れの鮭が出てきたのですが、見た目からして普段食べている鮭と違いました。身が分厚く、色が濃く、皮がパリパリに焼けて脂が輝いていたんです。
仲居さんが「こちらは『ときしらず』でございます。脂が乗っておりますので、まずはお醤油なしでどうぞ」と説明してくれました。
言われた通り、一口食べてみると……衝撃でした。
「鮭=パサパサ」という僕の固定観念が崩れ去りました。身は信じられないほどふっくらとしていて、噛むと鮭の上質な脂がじゅわっと口の中に広がります。鮭特有の臭みは全くなく、ただただ濃厚な旨味と甘みだけが残りました。
「これは、僕が知っている鮭じゃない。別の魚だ!」
それまで「鮭は秋が旬」としか思っていませんでしたが、「時を知らない鮭」がこんなにも美味しいということを知り、日本の食文化の奥深さを感じた体験でしたね。あれ以来、春から夏に「時鮭」や「ときしらず」の文字を見かけると、あの感動を思い出して、つい買ってしまいます。
時鮭とときしらずの違いに関するよくある質問(FAQ)
Q1. 「時鮭」と「ときしらず」は、どちらが高級なんですか?
A1. どちらも同じものを指すので、高級さに違いはありません。「時鮭」も「ときしらず」も、秋鮭に比べて希少で脂が乗っているため、どちらも高級魚として扱われます。
Q2. 「時鮭」と「鮭児(けいじ)」の違いは何ですか?
A2. 「鮭児(けいじ)」は、時鮭よりもさらに希少なシロザケです。秋鮭の漁獲時期(10月~11月)に、ごく稀に(1万本に1~2本)混じって獲れる、未成熟で脂が全身に回った若い鮭を指します。「幻の鮭」と呼ばれ、脂の乗り(脂質20~30%)は時鮭以上とも言われ、日本で最も高価な鮭とされています。
Q3. 時鮭(ときしらず)にイクラや白子は入っていますか?
A3. いいえ、基本的には入っていません。時鮭(ときしらず)は、産卵の準備に入る前の「未成熟」な鮭であるため、卵巣(筋子・イクラ)や精巣(白子)はまだ発達していません。その分、栄養がすべて身に行き渡っているのが特徴です。
まとめ:時鮭とときしらずは同じ!見かけたら食べたい高級鮭
「時鮭(ときさけ)」と「ときしらず」の違いは、単なる「呼び名(漢字表記か俗称か)」の違いであり、どちらも「春から初夏に獲れる、未成熟で脂が乗ったシロザケ」を指すことがお分かりいただけたかと思います。
むしろ、私たちが知っておくべき重要な違いは、「時鮭(ときしらず)」と「秋鮭」の違いです。
- 時鮭(ときしらず):春〜夏。未成熟。脂が乗り、とろける食感。塩焼きや刺身(ルイベ)向き。
- 秋鮭(アキアジ):秋。成熟。脂が少なく、あっさり淡白。鍋物やちゃんちゃん焼き向き。
時鮭(ときしらず)は漁獲量が少なく高価ですが、その味わいは秋鮭とは全くの別物です。もし鮮魚店やスーパーで「時鮭」や「ときしらず」の文字を見かけたら、それは「旬」の高級魚の証。ぜひ一度、その格別な脂の乗りを試してみてはいかがでしょうか。
当サイト「違いラボ」では、他にも様々な肉・魚介類の違いについて詳しく解説しています。ぜひご覧ください。