「力を合わせる」と「力を併せる」。
どちらも「ちからをあわせる」と読みますが、文章で書くときに「あれ、どっちの漢字だったかな?」と迷うことはありませんか?
意味が似ているようで、実は微妙なニュアンスの違いがあるんです。この二つの言葉は、複数のものを一つにまとめるのか、それとも二つ以上のものを並び置くのかで使い分けるのが基本です。この記事を読めば、「合わせる」と「併せる」の核心的なイメージの違いから具体的な使い分け、公用文でのルールまでスッキリ理解でき、もう迷うことはありません。それでは、まず最も重要な違いから見ていきましょう。
結論:一覧表でわかる「合わせる」と「併せる」の最も重要な違い
基本的には、複数のものを一つにしたり、一致させたり、調和させたりする場合は「合わせる」、二つ以上のものを並べたり、同時に行ったり、付け加えたりする場合は「併せる」と覚えるのが簡単です。「合」は一体化、「併」は並列・追加のイメージを持つと分かりやすくなります。
まず、結論からお伝えしますね。
「合わせる」と「併せる」の最も重要な違いを、以下の表にまとめました。これさえ押さえれば、基本的な使い分けはバッチリです。
| 項目 | 合わせる | 併せる |
|---|---|---|
| 読み方 | あわせる | あわせる |
| 中心的な意味 | 二つ以上のものを一つにする。一致させる。調和させる。比べる。 | 二つ以上のものを並べる。同時に行う。一緒にする。付け加える。 |
| イメージ | 一体化、一致、調和、対照 | 並列、同時進行、追加、統合 |
| 対象 | 力、意見、視線、焦点、基準、答え、顔など(一つになるもの) | 二つの機能、複数の要素、異なる性質、二つの場所など(並び立つもの) |
| ニュアンス | ピタッと合う、一つにまとまる、比べる。 | 同時に持つ、付け加える、一緒くたにする。 |
| 使われ方 | 「力を合わせる」「意見を合わせる」「時計を合わせる」 | 「AとBを併せて考える」「両方の機能を併せ持つ」「併せてご検討ください」 |
簡単に言うと、みんなで協力するのは「力を合わせる」、二つの部屋を一つにするのは「部屋を併せる」というイメージですね。
「合わせる」はピタッと一つになる感じ、「併せる」は二つ以上のものが横に並んだり、一緒になったりする感じです。このイメージの違いを掴むのがポイントですよ。
なぜ違う?漢字の成り立ち(語源)からイメージを掴む
「合」は蓋(ふた)と口(くち)がぴったり合う形から、「一つになる」「一致する」という意味を持ちます。「併」は人が二人並んでいる形(並)と両手を広げる形(廾)から、「並べる」「一緒にする」という意味を持ちます。漢字の成り立ちが、「合わせる」(一体化)と「併せる」(並列・統合)の意味の違いを明確に示しています。
なぜこの二つの言葉にニュアンスの違いが生まれるのか、使われている漢字「合」と「併」の成り立ちを紐解くと、その理由がよくわかりますよ。
「合わせる」の成り立ち:「合」が表す“ぴったりと一つになる”イメージ
「合」という漢字は、蓋(ふた)のある器の形、あるいは蓋(亼)と口(口)がぴったりと合う様子を表していると言われています。
このことから、「合」は二つ以上のものが隙間なく一つになること、一致すること、調和することを基本的な意味として持っています。「合計」「合格」「合意」「合唱」といった言葉を考えると、そのイメージが掴みやすいでしょう。
このため、「合わせる」には、別々のものを一つにまとめる、基準にぴったり合わせる、互いに調和させる、向かい合うといったニュアンスが強く含まれるんですね。
「併せる」の成り立ち:「併」が表す“二つ以上のものを並べる”イメージ
一方、「併」という漢字は、「亻(にんべん)」と「并」で構成されているように見えますが、本来は人が二人並んでいる形(並)と、両手を広げて何かをまとめる形(廾)を組み合わせたもの、あるいは「人」を二つ並べた形に由来すると言われています。
このことから、「併」は二つ以上のものを横に並べること、一緒に行うこと、あわせ持つことを基本的な意味として持っています。「併合」「併設」「併用」「併記」といった言葉を考えると、そのイメージがしやすいかもしれませんね。
このため、「併せる」には、複数のものを並列に扱う、同時に行う、一つにまとめる(統合する)といったニュアンスが強く含まれるんですね。単に一致させるだけでなく、複数の要素を同時に存在させるイメージです。
具体的な例文で使い方をマスターする
時計の時刻を標準時に「合わせる」、皆で心を「合わせる」のように、一致や調和は「合わせる」です。書類Aと書類Bを「併せて」提出する、二つの機能を「併せ持つ」のように、並列や統合は「併せる」です。迷ったら「一つにする」か「並べる・加える」かで判断しましょう。
言葉の違いは、具体的な例文で確認するのが一番ですよね。
どのような場面で使うのか、そして間違いやすいNG例を見ていきましょう。
「合わせる」を使う場面(例文)
複数のものを一つにしたり、一致させたり、調和させたり、比べたりする場合に使います。
- 会議の前に、関係者間で認識を合わせる必要がある。(一致させる)
- 時計の時間を標準時に合わせる。(基準に一致させる)
- みんなで力を合わせて、この困難を乗り越えよう。(一つにする)
- 服装の雰囲気を合わせるために、ネクタイの色を選んだ。(調和させる)
- 答え合わせをするので、隣の人と答案を交換してください。(比べる)
- カメラの焦点を被写体に合わせる。(ピントを一致させる)
- 隣の席の人と視線を合わせる。(向かい合う)
「合」が持つ「ぴったり合う」「一つになる」というイメージがよく表れていますね。
「併せる」を使う場面(例文)
二つ以上のものを並べたり、同時に行ったり、付け加えたり、一つにまとめたりする場合に使います。
- 資料Aと資料Bを併せてご提出ください。(一緒にする、付け加える)
- 彼は知性とユーモアを併せ持つ魅力的な人物だ。(同時に持つ)
- 隣接する二つの土地を併せて、新しい公園が作られた。(一つにまとめる、統合する)
- 洋風のデザインに和の要素を併せたインテリア。(組み合わせる)
- 総務と人事を併せて担当する部署が新設された。(兼ねる)
- 本件と併せて、関連事項についてもご検討ください。(付け加えて)
- 敵に攻め併せる。(力を一つに合わせて攻める ※少し古風な言い方)
「併」が持つ「並べる」「一緒にする」というイメージが基本ですが、「統合する」という意味合いで使われることもありますね。「力を併せる」も間違いではありませんが、現代では「力を合わせる」の方が一般的です。
これはNG!間違えやすい使い方
意味の中心を取り違えると、不自然な表現になります。
- 【NG】会議の前に、関係者間で認識を併せる。
- 【OK】会議の前に、関係者間で認識を合わせる。
認識は「一致させる」ものなので、「合わせる」が適切です。「併せる」だと、複数の異なる認識を並べて持つような、不自然な意味合いになってしまいます。
- 【NG】資料Aと資料Bを合わせてご提出ください。
- 【OK】資料Aと資料Bを併せてご提出ください。
二つの別の書類を「一緒に」「付け加えて」提出する、という意味なので、「併せて」が適切です。「合わせて」だと、二つの書類を合体させて一つにするようなニュアンスにも取られかねません。
- 【NG】彼は知性とユーモアを合わせ持つ。
- 【OK】彼は知性とユーモアを併せ持つ。
異なる要素を「同時に持つ」という意味なので、「併せ持つ」を使います。「合わせ持つ」という言葉は一般的ではありません。
【応用編】「あわせる」の他の漢字との違いは?
「あわせる」には「合わせる」「併せる」の他に、「顔」と書く「靥せる(あわせる)」がありますが、これは「えくぼ」を意味する非常に稀な漢字です。また、「逢わせる・遭わせる」は「会わせる」と同義で、人に出会わせる意味。「あわす」と読む場合は「合わす・併わす」がありますが、「合わせる・併せる」と同じ意味で使われます。
「あわせる」と読む言葉には、「合わせる」「併せる」以外にもいくつか漢字がありますが、日常的に使われることは稀です。
- 靥せる(あわせる):「靥」は「えくぼ」を意味する漢字で、「靥せる」という言葉自体、現代ではほとんど使われません。
- 逢わせる・遭わせる:これらは「会わせる」とほぼ同じ意味で、人に偶然または意図的に出会わせることを指します。「合わせる」「併せる」とは意味が異なります。
また、「あわす」という読み方の場合、「合わす」「併わす」という表記がありますが、これらはそれぞれ「合わせる」「併せる」と同じ意味で使われることが多いです。「合わせる」「併せる」の方が一般的な送り仮名ですね。
したがって、通常「あわせる」を使う場面では、「合わせる」と「併せる」の使い分けを理解しておけば十分と言えるでしょう。
「合わせる」と「併せる」の違いを公的な視点から解説
「合」も「併」も常用漢字です。文化庁の『公用文における漢字使用等について』では、「合わせる・併せる」を意味に応じて使い分ける同音の漢字の例として挙げています。つまり、公的な文書においても、一つにする場合は「合わせる」、並列・追加・統合の場合は「併せる」と、意味に基づいて明確に使い分けることが求められています。どちらか一方に統一するルールはありません。
公用文や法令など、より多くの人が目にする文章での使い分けも確認しておきましょう。
「合」も「併」も、どちらも「常用漢字表」に含まれている、一般的に使われる漢字です。
文化庁が示している「公用文における漢字使用等について(通知)」(平成22年)では、「同音の漢字による書きかえ」の項目で、「意味が区別できる場合は漢字で書き分ける」という方針を示しています。
そして、その例として「合わせる・併せる」が挙げられています。
- 合わせる:一つにする。一致させる。調和させる。比べる。
- 併せる:一緒にする。付け加える。兼ねる。
このように、公的な文書においても、それぞれの漢字が持つ本来の意味に基づいて、明確に使い分けることが求められています。「現れる・表れる」と同様に、どちらか一方に統一するというルールはありません。
例えば、法律の条文などでも、「~の規定と合わせて適用する(=一緒に適用する)」のように「合わせる」が使われたり、「~の刑と併せて処断する(=両方を科す)」のように「併せる」が使われたりします。
「一体化・一致・調和」なら「合わせる」、「並列・追加・統合」なら「併せる」という基本原則は、公的な場面でも同様に適用されると考えて良いでしょう。詳しくは文化庁のウェブサイト「公用文における漢字使用等について」で確認できます。
僕が資料作成で「合わせて」と「併せて」を混同した体験談
僕も以前、企画書を作成している際に、この「合わせる」と「併せる」の使い分けで頭を悩ませたことがあります。
新しいキャンペーンの提案で、既存のサービスAと新サービスB、それぞれのメリットを説明した上で、最後に「これらのサービスをあわせて利用することで、より大きな効果が期待できます」と書こうとしました。
その時、ふと手が止まったんです。「この『あわせて』は、『合わせて』なのか? それとも『併せて』なのか?」と。
- 「合わせて」だと、サービスAとBが一体となって一つの効果を生む、というニュアンス?
- 「併せて」だと、サービスAとBをそれぞれ利用し、その結果が合わさる、というニュアンス?
自分の中で考えがまとまらず、しばらく悩んでしまいました。どちらも間違いではないような気もするし、でも微妙に伝えたいことが違うような気もする…。
結局、その時は「二つのものを同時に利用する、付け加える」という意味合いが強いと考え、「併せて」を選びました。「サービスAの効果に、サービスBの効果が加わる」というイメージですね。
もし「合わせて」を使っていたら、「二つのサービスが協力し合って一つの相乗効果を生む」ような、少し違うニュアンスに受け取られたかもしれません。
この経験から、似ている言葉でも、どちらの漢字を選ぶかで、伝えたいことの微妙な焦点が変わってくることを実感しました。特に、複数の要素の関係性を示す際には、「一体化」なのか「並列・追加」なのかを意識することが、誤解を防ぎ、意図を正確に伝える上で重要だと感じましたね。
それ以来、資料作成などで「あわせる」を使う際には、漢字の持つイメージ(合=一つになる、併=並べる・加える)を頭に思い浮かべて、より適切な方を選ぶように心がけています。
「合わせる」と「併せる」に関するよくある質問
どちらを使うか迷ったときはどうすればいいですか?
迷った場合は、「一つにまとめる・一致させる」イメージなら「合わせる」、「二つ以上のものを並べる・付け加える」イメージなら「併せる」と考えてみてください。それでも迷う場合や、どちらの意味合いも含むような場合は、文脈によってはひらがなで「あわせて」と書くのも一つの方法です。
「力をあわせる」はどちらの漢字ですか?
一般的には「力を合わせる」と書きます。これは、複数の人の力を一つに結集する、協力するという意味合いが強いため、「合」のイメージに合致するからです。「力を併せる」も間違いではありませんが、「複数の力を並べて使う」ようなニュアンスになり、やや古風な表現とされます。
「併せて御礼申し上げます」の「併せて」はなぜ「併」ですか?
これは、主となる用件に「加えて」「同時に」感謝の意も述べます、という意味合いだからです。「御礼」という別の要素を付け加えるニュアンスなので、「併せる」が使われます。「合わせて御礼申し上げます」とは通常言いません。
「合わせる」と「併せる」の違いのまとめ
「合わせる」と「併せる」の違い、スッキリご理解いただけたでしょうか。
最後に、この記事のポイントをまとめておきますね。
- 意味の中心:「合わせる」は一体化・一致・調和、「併せる」は並列・追加・統合。
- 漢字のイメージ:「合」はぴったり合う、「併」は並べる・一緒にする。
- 使い分けの基本:一つにするなら「合わせる」、二つ以上を並べたり加えたりするなら「併せる」。
- 公的な扱い:常用漢字であり、意味に応じて使い分けることが推奨される。
漢字の持つイメージを掴むと、どちらを使うべきか判断しやすくなりますね。文章の意味を正確に伝えるために、これらの違いを意識して、適切な漢字を選んでいきましょう。
言葉の使い分けについてさらに知りたい方は、漢字の使い分けの違いをまとめたページもぜひご覧ください。
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