「与る」と「預かる」の違い!ビジネスで恥をかかない正しい使い分け

「与る」と「預かる」、どちらも「あずかる」と読みますが、意味は全く異なります。

あなたは、この二つの漢字を自信を持って使い分けられていますか?

実は、恩恵を受けたり物事に関与したりする場合は「与る」、物を保管したり管理したりする場合は「預かる」を使うのが正解です。

この記事を読めば、それぞれの言葉が持つ本来の意味や漢字の成り立ちがスッキリと理解でき、ビジネスメールや公的な文書でも迷うことなく正しい漢字を選べるようになります。

それでは、まず最も重要な違いから詳しく見ていきましょう。

結論:一覧表でわかる「与る」と「預かる」の最も重要な違い

【要点】

基本的には目上の人からの恩恵や参加を表すなら「与る」、保管や保留を表すなら「預かる」と覚えるのが簡単です。ビジネスシーンでの「お褒めにあずかる」は「与る」が正解で、ここを間違えると教養を疑われる可能性があります。

まず、結論からお伝えしますね。

この二つの言葉の最も重要な違いを、以下の表にまとめました。

これさえ押さえれば、基本的な使い分けはバッチリです。

項目与る(あずかる)預かる(あずかる)
中心的な意味目上の人の好意を受ける、物事に関係する人から頼まれて保管する、管理する、保留する
対象恩恵、好意、賞賛、相談、企画荷物、金銭、子供、留守、勝負
ニュアンスありがたく受ける、仲間に入る手元で守る、責任を持つ、一時的に引き受ける
よくある間違いお褒めに預かる(×)→ 与る(〇)企画に与る(〇)※参加の意味なら正解

一番大切なポイントは、「受ける・加わる」なら「与る」、「保管する・管理する」なら「預かる」ということですね。

特にビジネスシーンで頻出する「お褒めにあずかる」や「ご相伴にあずかる」は、相手からの好意を受けるという意味なので、「与る」を使うのが正解です。

逆に、物理的な物や責任を一時的に引き受ける場合は、「預かる」を使います。

なぜ違う?漢字の成り立ち(語源)からイメージを掴む

【要点】

「与る」の「与」は「あたえる」とも読み、授与や関与のように「関わる・受ける」イメージです。一方、「預かる」の「預」は「あらかじめ(予)」という意味を含み、前もって手元に置いておく「保管・管理」のイメージを持つと、違いが明確になります。

なぜこの二つの言葉に意味の違いが生まれるのか、漢字の成り立ちを紐解くと、その理由がよくわかりますよ。

「与る」の成り立ち:「与」が表す“関与と授受”のイメージ

「与」という漢字は、「あたえる」と読みますよね。

この漢字には、「授与(じゅよ)」や「関与(かんよ)」という熟語があるように、「物を渡す」「関係を持つ」という意味があります。

「与る(あずかる)」と読む場合は、自分が主体的に何かを与えるのではなく、目上の人から何かを与えられる、あるいはある事柄に関係して加わるという意味になります。

「関与する」の「与」だと考えると、「企画に与る(=企画に関与する)」という使い方がイメージしやすいでしょう。

また、「授与される」側になると考えれば、「お褒めに与る(=お褒めの言葉を授かる)」という表現も納得がいきますね。

「預かる」の成り立ち:「預」が表す“一時的な保管”のイメージ

一方、「預」という漢字は、「予(あらかじめ)」と「頁(頭・顔)」から成り立っています。

「預金(よきん)」や「預入(あずけいれ)」という言葉があるように、手元に置いて管理する、一時的に保管するという意味を持っています。

「あらかじめ(予)手元に置いておく」というイメージですね。

「荷物を預かる」「留守を預かる」といった使い方は、すべてこの「保管・管理」のニュアンスから来ています。

また、「勝負を預かる」のように、決着をつけずに保留にしておくという意味も、一時的に手元で止めておくというイメージから派生しています。

具体的な例文で使い方をマスターする

【要点】

ビジネスでの感謝やお礼の場面では「与る」が多く使われます。一方、日常業務での荷物の受け渡しや管理業務では「預かる」が頻出します。状況に応じて、「受ける」のか「保管する」のかを見極めることが大切です。

言葉の違いは、具体的な例文で確認するのが一番ですよね。

ビジネスと日常、そして間違いやすいNG例を見ていきましょう。

ビジネスシーンでの使い分け

相手への敬意を表す場面では「与る」、業務上の管理を表す場面では「預かる」となります。

【OK例文:与る】

  • 過分なお褒めの言葉に与り、光栄に存じます。(=お褒めいただいた)
  • 本プロジェクトの企画に与ることになりました。(=企画に参加する)
  • 貴重なご意見に与り、大変参考になりました。(=ご意見をいただいた)
  • 先輩の昇進祝いのご相伴に与る。(=宴席に参加してご馳走になる)

【OK例文:預かる】

  • お客様のお荷物をクロークで預かる。(=保管する)
  • 部長の留守を預かることになった。(=管理・統率する)
  • この件は一旦、私の方で預からせてください。(=保留する・引き取る)
  • 会費として一万円をお預かりします。(=受け取って管理する)

日常会話での使い分け

日常でも、物理的な物のやり取りか、恩恵を受けるかで判断します。

【OK例文:与る】

  • 有名作家のサイン会で、握手に与ることができた。
  • 友人の結婚式の恩恵に与り、美味しい料理を堪能した。

【OK例文:預かる】

  • 旅行に行く友人の猫を預かる
  • 子供を実家に預けて、夫婦で出かける。
  • 「お釣りは100円のお返しです」ではなく「100円お預かりします」と言う。(※コンビニ等での店員用語)

これはNG!間違えやすい使い方

変換ミスや思い込みで間違いやすいケースを見てみましょう。

  • 【NG】社長のお褒めに預かる
  • 【OK】社長のお褒めに与る

「お褒め」は保管するものではなく、いただく(受ける)ものなので、「与る」が正解です。

  • 【NG】このプロジェクトに預かることになった。
  • 【OK】このプロジェクトに与ることになった。

プロジェクトという組織や企画に「参加する・関与する」という意味なので、「与る」を使います。

【応用編】似ている言葉「携わる」との違いは?

【要点】

「携わる(たずさわる)」は、ある仕事や物事に従事することを表し、手を取って行うイメージです。「与る」も関与を意味しますが、「与る」はあくまで「仲間に入る・関係する」というニュアンスが強く、「携わる」は「実際に手を動かして従事する」という能動的なニュアンスが強くなります。

「与る(関与する)」と似た言葉に「携わる(たずさわる)」があります。

これもビジネスシーンではよく使われる言葉ですね。

「携わる」の「携」は、「携帯電話」の「携」でもあり、「手でさげる」「連れ立つ」という意味があります。

そこから転じて、ある事柄に関係する、従事するという意味で使われます。

「企画に与る」と「企画に携わる」は、ほぼ同じ意味で使えますが、微妙なニュアンスの違いがあります。

  • 与る:その企画のメンバーとして加わっている、関係者席にいる、という「所属・関係」のニュアンス。
  • 携わる:その企画の業務を実際に行っている、従事している、という「活動・労務」のニュアンス。

「教育に携わる」とは言いますが、「教育に与る」とはあまり言いませんよね。

「携わる」の方が、より職業的・継続的な関わりを示す場合に適しています。

「与る」と「預かる」の違いを学術的に解説

【要点】

「あずかる」の語源には諸説ありますが、「あ」は「我(あ)」、「つかる」は「付く」を意味し、「自分に関係する」ことが原義とされています。国立国語研究所などの資料でも、同音異義語の使い分けは文脈依存性が高いとされていますが、漢字の字義(与=関与、預=預託)に立ち返ることで論理的な区別が可能です。

ここでは少し視点を変えて、学術的な側面からこの二つの言葉を深掘りしてみましょう。

専門家の視点を知ることで、より深く言葉を理解できます。

「あずかる」という大和言葉の語源は、「我(あ)」+「付く(つかる)」で、「自分に関係する」という意味から来ているという説が有力です。

古くは、自分に関わりを持つこと全般を指していた言葉が、時代と共に漢字が当てられ、意味が分化していったと考えられます。

漢字の「与」は、元々「牙(組み合わせる)」と「手」などを組み合わせた字形で、協力して持ち上げる様子から「くみする」「あたえる」という意味が生まれました。

一方、「預」は「予(あらかじめ)」の要素を持ち、前もって手配する、あるいはゆとりを持って待つという意味合いを含んでいます。

現代日本語においては、「関与・恩恵」の文脈では「与」、「保管・管理」の文脈では「預」という明確な使い分けが定着しています。

文化庁の「異字同訓の漢字の使い分け例」でも、これらの使い分けは明記されており、公用文作成においても厳密な区別が求められます。

詳しくは文化庁の国語施策情報などで、言葉の細かな規定を確認してみるのも面白いですよ。

僕が「お褒めに預かる」と書いて赤面した新入社員時代の体験談

僕も新入社員の頃、この「与る」と「預かる」の使い分けで、顔から火が出るような恥ずかしい思いをしたことがあります。

配属されて間もない頃、取引先の役員の方から、僕が作成した資料についてお褒めの言葉をいただきました。

舞い上がった僕は、すぐにお礼のメールを作成しました。上司や先輩にもCCを入れて、「本日は過分なお褒めに預かり、大変光栄です」と送信したのです。

送信ボタンを押して一息ついていると、すぐに上司から内線がかかってきました。

「おい、今のメール見たぞ。『お褒めに預かる』って、お前、役員から褒め言葉を預かってどうするつもりだ? 金庫にでもしまっておくのか?」

上司は笑いながら指摘してくれましたが、僕はその瞬間、自分の無知を悟り、冷や汗が止まりませんでした。

「褒め言葉は『保管(預かる)』するもんじゃないだろ。ありがたく『頂戴(与る)』するものだよ。漢字変換で一番上に出てきたからって、そのまま使うなよ」

その言葉は、今でも僕の胸に深く刻まれています。

「預かる」と書いてしまうと、まるで相手の言葉を一時的に保管しているだけで、自分のものとして受け止めていないような、なんとも他人行儀でトンチンカンな意味になってしまいます。

この失敗から、言葉の響きだけでなく、漢字の意味を考えて選ぶことの重要性を痛感しました。

それ以来、感謝を伝えるメールを送る際は、必ず一度立ち止まって漢字を確認する癖がつきました。

「与る」と「預かる」に関するよくある質問

パソコンで「あずかる」と打つと「預かる」しか出ないのですが?

多くの変換ソフトでは、使用頻度の高い「預かる」が優先的に表示されます。「与る」は常用漢字表外の読み方(表外読み)である場合が多く、ソフトによっては変換候補の下の方にあるか、あるいは「関与(かんよ)」などと打ってから「与」を出す必要がある場合があります。単漢字変換を活用することをおすすめします。

「お褒めに預かり」という表現をよく見かけますが、間違いですか?

はい、厳密には間違いです。正しくは「お褒めに与(あずか)り」です。しかし、ネット上や個人のブログなどでは誤変換のまま定着しているケースも散見されます。ビジネスや公的な場では、教養を疑われないためにも「与る」を使うのがマナーです。

「あずかる」をひらがなで書くのは逃げですか?

いいえ、決して逃げではありません。特に「与る」は読み手が読めない可能性がある場合や、堅苦しさを避けたい場合に、あえてひらがなで「あずかる」と書くこともあります。ただし、意味を正しく理解した上で、相手や状況に合わせて選択することが大切です。

「与る」と「預かる」の違いのまとめ

「与る」と「預かる」の違い、スッキリご理解いただけたでしょうか。

最後に、この記事のポイントをまとめておきますね。

  1. 基本は「受ける」か「保管する」か:恩恵や参加なら「与る」、物の管理なら「預かる」。
  2. 漢字のイメージで区別:「与」は授与の“あたえる・受ける”、「預」は預金の“あらかじめ保管する”。
  3. ビジネスでの注意点:「お褒めにあずかる」は絶対に「与る」。変換ミスに要注意。
  4. 迷ったらひらがなもアリ:読み手への配慮として、あえてひらがなにするのも一つの手です。

言葉の背景にある漢字の意味を理解しておけば、もう変換候補の前で迷うことはありません。

正しい言葉選びは、あなたのビジネスパーソンとしての信頼感をグッと高めてくれますよ。

漢字の使い分けについてさらに詳しく知りたい方は、漢字の使い分けの違いまとめの記事もぜひ参考にしてみてくださいね。

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