「イギリス英語」と「アメリカ英語」は、同じ英語でありながら、単語・スペル・発音・文法において明確な違いがあり、時には全く異なる言語のように感じられることさえあります。
なぜなら、17世紀にアメリカ大陸へ渡った移民たちが持ち込んだ英語が独自に変化した一方で、本国イギリスでは伝統的な用法が維持されたり、階級社会の中で洗練されたりといった歴史的背景があるから。
この記事を読めば、日常会話やビジネスシーンで頻出する具体的な単語の違いやスペルの規則性、さらには発音の特徴まで体系的に理解でき、もう使い分けに迷うことはなくなるでしょう。
それでは、まず最も基本的な違いを一覧表で確認することから詳しく見ていきましょう。
結論:一覧表でわかる「イギリス英語」と「アメリカ英語」の最も重要な違い
最大の違いは「単語」の選び方と「スペル」の規則性にあります。イギリス英語はフランス語の影響を残す伝統的な綴りが多く、アメリカ英語は発音通りに綴る合理性を重視する傾向があります。
まず、結論からお伝えしますね。
この二つの英語の最も重要な違いを、以下の表にまとめました。
これさえ押さえれば、基本的な使い分けの全体像はバッチリです。
| 項目 | イギリス英語 (BrE) | アメリカ英語 (AmE) |
|---|---|---|
| 中心的な特徴 | 伝統的で、フランス語由来の綴りを残す傾向がある | 合理的で、発音と綴りを一致させようとする傾向がある |
| 単語の例(1階) | Ground floor | First floor |
| 単語の例(地下鉄) | Tube / Underground | Subway |
| 単語の例(クッキー) | Biscuit | Cookie |
| スペルの傾向 | -our (colour), -re (centre) | -or (color), -er (center) |
| 発音の特徴 | Rを発音しないことが多い、Tをはっきり発音する | Rを強く発音する、TがDやRに近い音になる |
一番大切なポイントは、同じ意味でも全く異なる単語を使うケースが多々あるということですね。
特に「1階」の数え方などは、旅行やビジネスで誤解を招きやすい代表例と言えるでしょう。
なぜ違う?歴史的背景からイメージを掴む
17世紀にアメリカへ渡った英語が古風な形を留めた一方、イギリス本国では産業革命や階級社会の影響で変化しました。さらにアメリカ独立後、ノア・ウェブスターが「独自の国語」を確立するために合理的なスペル改革を行ったことが決定的要因です。
なぜ同じ言語なのにここまで違いが生まれたのか、歴史的な流れを紐解くと、その理由がよくわかりますよ。
分岐点:17世紀の移民と「保存」された英語
実は、アメリカ英語の一部には、イギリス英語よりも「古い」特徴が残っていることがあります。
17世紀にアメリカ大陸へ渡った初期の移民たちは、シェイクスピア時代の英語を話していました。
彼らが海を渡った後、本国イギリスではロンドンの上流階級を中心に発音や語彙が変化していきましたが、アメリカでは古い形がそのまま保存されたり、独自の環境に合わせて変化したりしました。
つまり、アメリカ英語は「崩れた英語」ではなく、ある時点のイギリス英語が独自進化した兄弟のような存在と考えると分かりやすいですね。
改革者:ノア・ウェブスターの「スペル改革」
決定的な違いを生んだのは、アメリカ独立後の辞書編纂者、ノア・ウェブスターの存在です。
彼は「独立した国家には独自の言語が必要だ」と考え、複雑なイギリス式の綴りを簡素化し、より発音に近い合理的なスペルを辞書に採用しました。
例えば、「colour」から「u」を抜いて「color」にしたり、「centre」を「center」に変えたりしたのです。
この合理性を追求する精神こそが、アメリカ英語の根底にあるイメージなんですね。
具体的な例文で使い方をマスターする
日常会話で頻出する「移動手段」「食べ物」「休暇」などの単語は、国によって全く異なる言葉が使われます。相手の出身地に合わせて使い分けることで、スムーズなコミュニケーションが可能になります。
言葉の違いは、具体的な例文で確認するのが一番ですよね。
旅行やビジネスで遭遇しやすいシーン別に、間違いやすい例を見ていきましょう。
【シーン1】建物・移動に関する使い分け
まずは、誤解を生みやすい「場所」や「移動」に関する表現です。
【イギリス英語】
- ホテルのGround floor(1階)で待ち合わせしましょう。
- ロンドン市内へはUnderground(地下鉄)で行きます。
- Lift(エレベーター)が故障しています。
【アメリカ英語】
- ホテルのFirst floor(1階)で待ち合わせしましょう。
- ニューヨーク市内へはSubway(地下鉄)で行きます。
- Elevator(エレベーター)が故障しています。
ここで注意が必要なのは、イギリス英語で「First floor」と言うと「2階」を指す点です。
また、イギリスで「Subway」と言うと「地下道」を指すことが多いので、地下鉄を探しているときは通じないかもしれませんね。
【シーン2】食事・買い物に関する使い分け
次に、日常的な「食べ物」や「買い物」のシーンです。
【イギリス英語】
- お茶と一緒にBiscuit(クッキー)を食べます。
- ランチにChips(フライドポテト)を注文した。
- スーパーでAubergine(ナス)を買ってきて。
【アメリカ英語】
- コーヒーと一緒にCookie(クッキー)を食べます。
- ランチにFries(フライドポテト)を注文した。
- スーパーでEggplant(ナス)を買ってきて。
アメリカで「Chips」と言うと「ポテトチップス(薄い方)」を指します。
イギリスでポテトチップスは「Crisps」と呼ぶので、ここもややこしいポイントですね。
これはNG!混同しやすい要注意ワード
意味が全く変わってしまう、あるいは通じない使い方を見てみましょう。
- 【NG】(イギリスで)「I wore pants today.」(今日はズボンを履いたよ)
- 【解説】イギリスで「pants」は「下着(パンツ)」を指すことが一般的です。ズボンは「trousers」と言いましょう。アメリカでは「pants」でズボンを指します。
- 【NG】(アメリカで)「Where is the toilet?」(トイレはどこですか?)
- 【解説】アメリカでは「toilet」は便器そのものを指すニュアンスが強く、場所を聞くなら「restroom」や「bathroom」が自然です。イギリスでは「toilet」や「loo」が普通に使われます。
【応用編】スペル(綴り)の違いは?
「-our/-or」「-re/-er」「-ise/-ize」など、語尾の綴りに明確な法則性があります。アメリカ英語は発音通りに文字を減らす傾向があり、イギリス英語は語源の綴りを保持する傾向があります。
単語そのものが違うケースだけでなく、同じ単語でもスペルが微妙に違うことがあります。
これには一定の法則があるので、パターンを覚えると読むのも書くのも楽になりますよ。
法則1:-our(英) vs -or(米)
「u」が入るかどうかの違いです。
イギリス英語はフランス語の影響で「u」を残しますが、アメリカ英語は省きます。
- 色:Colour(英) / Color(米)
- お気に入り:Favourite(英) / Favorite(米)
- 行動:Behaviour(英) / Behavior(米)
法則2:-re(英) vs -er(米)
語尾の「r」と「e」の順番が逆になります。
アメリカ英語は発音の順序(ァー)に合わせて「er」と綴ります。
- 中心:Centre(英) / Center(米)
- 劇場:Theatre(英) / Theater(米)
- メートル:Metre(英) / Meter(米)
法則3:-ise(英) vs -ize(米)
動詞の語尾の違いです。
ただし、イギリス英語でも「-ize」を使うことは許容されており、オックスフォード英語辞典などでは「-ize」を推奨している場合もありますが、一般的には「-ise」が多く見られます。
- 気づく:Realise(英) / Realize(米)
- 組織する:Organise(英) / Organize(米)
- 謝罪する:Apologise(英) / Apologize(米)
「イギリス英語」と「アメリカ英語」の発音の違いを解説
イギリス英語は「R」を母音の後で発音せず、「T」を明確に発音します。対してアメリカ英語は「R」を巻き舌で強く発音し、「T」が「D」や「R」に近い音に変化するのが特徴的です。
文字だけでなく、音の響きにも大きな違いがあります。
リスニングやスピーキングにおいて、この違いを知っておくことは非常に重要ですね。
「R」の響きの有無
最も顕著な違いは「R」の発音です。
アメリカ英語では、単語のどこにあっても「R」を舌を巻いて強く発音します(rhotic)。
一方、標準的なイギリス英語(RP:容認発音)では、母音の後の「R」は発音せず、前の母音を伸ばすだけに留めることが多いです(non-rhotic)。
例えば「Car(車)」は、アメリカでは「カール」のように聞こえますが、イギリスでは「カー」と聞こえます。
「T」の音声変化
「T」の音も大きく異なります。
イギリス英語では「T」を「トゥ」と破裂させて明確に発音する傾向があります。
対照的に、アメリカ英語では母音に挟まれた「T」が「D」や日本語の「ラ行」に近い音に変化します(フラップT)。
「Water(水)」は、イギリスでは「ウォーター」、アメリカでは「ワーラー」や「ワダー」のように聞こえるでしょう。
母音「A」の深さ
「Can’t」や「Dance」などの「a」の発音も違います。
アメリカ英語では「エ」と「ア」の中間のような明るい音(キャント、ダンス)になりますが、イギリス英語では口を縦に開けた深い「ア」の音(カーント、ダーンス)になります。
この違いが、イギリス英語に「気取っている」「上品」、アメリカ英語に「カジュアル」「親しみやすい」という印象を与える一因かもしれませんね。
イギリス英語とアメリカ英語の壁にぶつかった留学体験談
僕も学生時代、この「英語の違い」に直面して冷や汗をかいた経験があります。
日本の学校教育で習うのは基本的にアメリカ英語ですよね。僕もそのつもりで、ある程度自信を持ってロンドンへ短期留学に行きました。
到着した初日、ホストファミリーに「地下鉄の駅はどこですか?」と聞こうとして、自信満々に「Where is the subway station?」と尋ねました。
するとホストマザーは不思議そうな顔をして、「Subway? お腹が空いているの? サンドイッチが食べたいなら、あそこの角にあるわよ」と答えたんです。
僕は一瞬混乱しました。地下鉄に乗りたいのに、なぜサンドイッチの話になるんだろう?と。
後で知ったのですが、イギリスで「Subway」は地下道(またはサンドイッチチェーン店)を指し、地下鉄は「Tube」や「Underground」と言うべきだったんです。
さらにその夜、建物の「1階」にあるレストランで待ち合わせをしたのですが、僕はエレベーター(イギリスではLiftですね)の「1」を押してしまい、日本でいう「2階」に到着してしまいました。
イギリスでは1階が「Ground floor」で、2階が「First floor」になるという基本を知らなかったために、友人を10分も待たせることになってしまったのです。
「言葉が通じているはずなのに、話が噛み合わない」。
この経験から、相手の国の文化や言葉の背景を知ることこそが、真のコミュニケーションには不可欠だと痛感しました。
それ以来、単語一つひとつがどちらの英語で使われているのか、その背景にはどんな文化があるのかを意識して学ぶようになりました。
「イギリス英語」と「アメリカ英語」に関するよくある質問
どちらの英語を勉強すればいいですか?
基本的には、あなたの目的によります。ビジネスや旅行でアメリカに行く機会が多いならアメリカ英語、ヨーロッパやオーストラリア、歴史・文学に興味があるならイギリス英語がおすすめです。日本の学校教育はアメリカ英語がベースなので、馴染みやすいのはアメリカ英語かもしれません。
両方の英語を混ぜて使っても通じますか?
通じます。ネイティブスピーカーは互いの違いを理解していることが多いので、会話で混ざっても大きな問題にはなりません。ただし、論文や公式文書を書く際は、どちらかのスペルや語彙に統一するのがマナーです。
カナダやオーストラリアの英語はどっちに近いですか?
歴史的な経緯から、スペルや文法はイギリス英語に近いですが、発音や語彙にはアメリカ英語の影響も強く受けています。それぞれ独自の表現も多いため、単純にどちらかに分類するのは難しいですが、ベースはイギリス英語と考えて良いでしょう。
「イギリス英語」と「アメリカ英語」の違いのまとめ
「イギリス英語」と「アメリカ英語」の違い、スッキリご理解いただけたでしょうか。
最後に、この記事のポイントをまとめておきますね。
- 単語の違いに注意:同じ物でも「1階(Ground floor / First floor)」や「地下鉄(Tube / Subway)」のように全く違う言葉を使うことがある。
- スペルには法則がある:イギリスは「-our」「-re」、アメリカは「-or」「-er」など、合理性の有無が鍵。
- 発音の響きが違う:アメリカは「R」を巻き、イギリスは「T」をはっきり発音する傾向がある。
- 歴史的背景を知る:アメリカ英語は「崩れた」ものではなく、独自の進化と合理化を遂げた言語。
言葉の背景にある歴史や文化を知ると、機械的な暗記ではなく、感覚的に使い分けられるようになりますね。
これからは相手に合わせて、よりスムーズで粋なコミュニケーションを楽しんでいきましょう。
英語の語源や由来についてさらに詳しく知りたい方は、英語由来語の違いをまとめたページもぜひご覧ください。
また、国際的な英語教育機関であるブリティッシュ・カウンシルのサイトなども、イギリス英語のニュアンスを深く知るのに役立ちますよ。
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