「表題」と「掲題」、ビジネスメールでよく見かける言葉ですが、この二つを正確に使い分けられていますか？
「表題の件につきまして…」と書く人もいれば、「掲題の件ですが…」と書く人もいますよね。
実は、この二つはタイトルそのものを指すか、タイトルに書かれた内容を指し示すかという点で微妙にニュアンスが異なります。
この記事を読めば、それぞれの言葉の正確な意味や、ビジネスシーンで相手に違和感を与えないスマートな使い分けがスッキリ理解でき、もうメール作成で手が止まることはありません。
それでは、まず最も重要な違いから詳しく見ていきましょう。
結論：一覧表でわかる「表題」と「掲題」の最も重要な違い
「表題」は書物やメールのタイトルそのものを指す一般的な言葉です。「掲題」は「（上に）掲げた題目」という意味で、主にビジネスメールの本文中で「件名のこと」を指し示すために使われる書き言葉です。
まず、結論からお伝えしますね。
この二つの言葉の決定的な違いを、以下の表にまとめました。
これさえ押さえれば、基本的な使い分けはバッチリです。
| 項目 | 表題（ひょうだい） | 掲題（けいだい） |
|---|---|---|
| 中心的な意味 | 書物、演劇、メールなどのタイトルそのもの | （冒頭などに）掲げ記された題目 |
| 使われる場面 | 書籍、作品、メール、日常全般 | ほぼビジネスメール・文書限定 |
| 機能・役割 | 中身を表す見出しとしての機能 | 「件名の件」と指し示す指示語的役割 |
| 話し言葉 | 使われる（例：表題作） | 使われない（書き言葉専用） |
一番大切なポイントは、「掲題」はメール本文の中で「件名」を指すとき専用の言葉だということです。
「表題」はもっと広く、タイトルのことなら何でも指せますが、「掲題」は「上に書いてあるアレのことですが…」というニュアンスで使われます。
なぜ違う？漢字の成り立ち（語源）からイメージを掴む
「表」は“おもて・外側”を意味し、「表題」は外側に記されたタイトルを指します。「掲」は“かかげる”を意味し、「掲題」は高い所に掲げられた題目を指し示します。
なぜこの二つの言葉に使い分けが生まれるのか、漢字の成り立ちや語源を紐解くと、その理由がよくわかりますよ。
「表題」の成り立ち：「表」が表す“顔”のイメージ
「表」という漢字は、「おもて」「表面」「外側」を意味します。
つまり、「表題」とは書物や文書の「おもて（外側）」に記された題目のことです。
本の表紙に書いてあるタイトルや、メールの一番上（外側）にある件名がこれに当たります。
中身を代表する「顔」としてのタイトルそのものを指す言葉として、古くから広く使われています。
「掲題」の成り立ち：「掲」が表す“指し示す”イメージ
一方、「掲」という漢字は、「掲示」「掲載」などに使われるように、「高くかかげる」「人目につくように出す」という意味を持っています。
ここから、「掲題」は「（冒頭などに）掲げられた題目」という意味になります。
重要なのは、この言葉が「すでに掲げられているもの」を指し示すために使われる点です。
つまり、メールの本文から見て「上に掲げてある、あの件名のことですが」と言及する際に便利な言葉として、ビジネスシーンで定着しました。
具体的な例文で使い方をマスターする
メールの件名に言及する際は「表題の件」「掲題の件」どちらも使えますが、「掲題」の方がよりビジネスライクな響きになります。書籍や芸術作品のタイトルを指す場合は「表題」一択です。
言葉の違いは、具体的な例文で確認するのが一番ですよね。
ビジネスと日常、そして間違いやすいNG例を見ていきましょう。
ビジネスシーンでの使い分け
メールや社内文書では、どちらも頻出します。
【OK例文：表題】
- 表題の件につきまして、詳細をご報告いたします。（メール本文の冒頭で）
- 会議の議事録には、必ず日時と表題を記入してください。
- メールの表題（件名）は、内容がわかるように具体的にしてください。
【OK例文：掲題】
- 掲題の件、承知いたしました。（メール本文で、件名の用件について返答する際）
- 掲題のプロジェクトについて、進捗状況を共有します。
- まずは掲題の件から回答させていただきます。
メール本文で「件名」の内容を指す場合は、どちらを使っても問題ありませんが、「掲題」を使うと「ビジネス慣れしている」雰囲気が少し出ます。
日常会話・その他の使い分け
ビジネスメール以外では、使い分けがはっきりします。
【OK例文：表題】
- この短編集の表題作が一番面白かった。
- レポートの表題をどうするか悩んでいる。
- 教科書の表題を見るだけで内容が想像できる。
【OK例文：掲題】
- （※日常会話で「掲題」を使うことはまずありません）
これはNG！間違えやすい使い方
「掲題」は用途が限定的であることに注意が必要です。
- 【NG】芥川賞を受賞した掲題作を読んだ。
- 【OK】芥川賞を受賞した表題作を読んだ。
本のタイトルを指して「掲題」とは言いません。本や作品のタイトルは常に「表題」です。
- 【NG】（口頭で）「それでは、けいだいの件について話し合いましょう」
- 【OK】（口頭で）「それでは、表題（または議題・件名）の件について話し合いましょう」
「掲題」は書き言葉専用です。話し言葉で使うと、「境内（神社の敷地）？」と聞き間違えられる可能性もあり、不自然です。
【応用編】似ている言葉「標題」との違いは？
「標題（ひょうだい）」は「表題」と同じ読みですが、文書全体ではなく、章や節ごとの「見出し」を指す場合に使われます。「表題」は全体に一つ、「標題」は複数あり得るイメージです。
「表題」と同じ読みで、よく混同されるのが「標題」です。
これも整理しておくと、文書作成のスキルが一段上がりますよ。
「表題（ひょうだい）」は、これまで説明した通り、その文書や書籍全体のタイトル（Title）です。
一方、「標題（ひょうだい）」は、文書の中にある各項目の見出し（Heading）を指すことが多いです。
- 表題：本の背表紙や表紙にあるタイトル。メールの件名。
- 標題：各章のタイトル、新聞記事の見出し、演説の題目など。
ただし、実際のビジネスシーンでは「標題」を「表題」と同じ意味（全体のタイトル）で使うことも許容されており、厳密に区別されないことも多いです。
迷ったら、全体のタイトルには「表題」、中身の小見出しには「見出し」という言葉を使うのが無難でしょう。
「表題」と「掲題」の違いを学術的に解説
辞書的な定義では、「表題」は書物の題名、「掲題」は掲げられた題目を指します。「掲題」は明治以降に見られる漢語的表現であり、現代ではビジネス用語として特化して定着しています。
ここでは、辞書の定義や言葉の成り立ちから、より深く二つの言葉を見てみましょう。
『広辞苑』などの国語辞典を見ると、「表題」は「書物の表に記した題名。うわがき。」と定義されています。
一方、「掲題」は多くの小型国語辞典には載っていないこともありますが、掲載されている場合、「掲げ記した題目。掲げられた題。」とあります。
「掲題」という言葉自体は、明治時代の新聞や雑誌などで、記事のタイトルを指して使われる例が見られますが、現代のように「メールの件名を指す代名詞」として定着したのは、電子メールが普及したビジネス環境による影響が大きいと考えられます。
「前述の」「上記の」という意味を含ませる指示語（「掲題の件」＝「上記件名にある件」）として機能しているのが、現代の「掲題」の大きな特徴です。
これは、効率を重視するビジネスコミュニケーションにおいて、「件名に書いてあるから、いちいち繰り返さないよ」という省略の美学（あるいは手抜き）から生まれた用法とも言えるでしょう。
僕がメールで「掲題」を連発して赤っ恥をかいた体験談
僕も新入社員の頃、この「掲題」という言葉を覚えたてで、失敗した経験があります。
先輩のメールを見て「『掲題の件』ってカッコいいな、デキる人っぽいな」と思い込み、社内外問わずあらゆるメールで使いまくっていました。
ある日、取引先のお客様（かなり年配の方）との打ち合わせ中、僕が「先日メールでお送りした掲題の件ですが…」と口走ってしまったんです。
するとお客様はキョトンとして、「ケイダイ？ ……ああ、あの件名の話ね」と苦笑いされました。
後で上司にこっそり注意されました。
「『掲題』は書き言葉だし、ちょっと堅苦しい表現だから、口頭で言うもんじゃないよ。それに、相手によっては『気取っている』『事務的すぎる』と取られることもあるから、使いすぎには注意な」
顔から火が出るほど恥ずかしかったです。言葉の意味だけでなく、「書き言葉か話し言葉か」「相手との距離感」まで考えて使わなければならないと、身をもって学びました。
それ以来、口頭では「件名の件ですが」「先ほどの件ですが」と普通の言葉を使い、メールでも相手や内容に合わせて「表題の件」と使い分けるようにしています。
「表題」と「掲題」に関するよくある質問
Q. 目上の人に「掲題の件」と使っても失礼ではありませんか？
A. 基本的には失礼ではありませんが、相手との関係性や社風によります。「掲題」はやや事務的で硬い印象を与えるため、親しい間柄や、柔らかい対応が求められる顧客に対しては「表題の件」や「件名の件」とした方が無難な場合もあります。
Q. 「件名」と言うのと何が違いますか？
A. 意味は同じです。「件名の件につきまして」と書いても全く問題ありません。ただ、「表題」「掲題」の方が、「件名」よりも少し改まった、フォーマルな印象を与えます。社内メールなら「お疲れ様です。件名の件ですが、」で十分ですが、社外への正式な回答なら「表題の件につきましてご報告いたします」の方が締まります。
Q. 「標題」とメールで書いてもいいですか？
A. 間違いではありませんが、一般的ではありません。メールのタイトル欄はシステム上「件名（Subject）」となっていることが多く、それを指す言葉としては「表題」や「件名」、あるいは「掲題」が定着しています。「標題」を使うと、相手に「？」と思われる可能性があります。
「表題」と「掲題」の違いのまとめ
「表題」と「掲題」の違い、スッキリご理解いただけたでしょうか。
最後に、この記事のポイントをまとめておきますね。
- 基本の意味：「表題」はタイトルそのもの、「掲題」は掲げられたタイトルを指す言葉。
- 使える場面：「表題」は本や作品にも使える。「掲題」はほぼビジネスメール・文書専用。
- 話し言葉：「掲題」は書き言葉専用。口頭では使わない。
- 使い分け：フラットに指すなら「表題」、直前の件名をスマートに指すなら「掲題」。
言葉一つで、メールの印象はガラリと変わります。
「掲題」をサラッと使いこなせればビジネス慣れした印象を与えられますが、迷ったときや丁寧に伝えたいときは「表題」を選べば間違いありません。
これからは自信を持って、的確な言葉を選んでいきましょう。さらに言葉の使い分けについて知りたい方は、ビジネス用語の違いまとめの記事も参考にしてみてください。
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