「インクルーシブ」と「インクルージョン」の違いとは?品詞と使い方の決定的な差

「インクルーシブ」と「インクルージョン」。

SDGsやビジネスシーンで頻繁に耳にするようになった言葉ですが、この二つの使い分けに戸惑ったことはありませんか?

結論から言うと、「インクルーシブ」は「包摂的な」という意味の形容詞で、名詞にくっついて使われることが多く、「インクルージョン」は「包摂・受容」そのものを指す名詞という決定的な違いがあります。意味の根っこは同じですが、文の中での役割が異なります。

この記事を読めば、「インクルーシブ教育」や「ダイバーシティ&インクルージョン」といった言葉がなぜその形で使われているのかがスッキリと理解でき、ビジネスや社会課題の話題でも自信を持って言葉を選べるようになります。

それでは、まず二つの言葉の核心的な違いを比較表で見ていきましょう。

結論:一覧表でわかる「インクルーシブ」と「インクルージョン」の最も重要な違い

【要点】

「インクルーシブ」は形容詞で、後ろに来る名詞を説明します(例:インクルーシブな社会)。「インクルージョン」は名詞で、状態や概念そのものを指します(例:インクルージョンの実現)。

まずは、結論からお伝えしますね。

この二つの言葉の最も重要な違いを、以下の表にまとめました。これさえ押さえれば、基本的な使い分けはバッチリです。

項目インクルーシブ(inclusive)インクルージョン(inclusion)
品詞形容詞(~的な、含む)。名詞(包含、包摂)。
役割後ろの名詞を修飾する。
(どんな◯◯か?)
状態や活動のゴールを示す。
(何を目指すか?)
よくある複合語インクルーシブ教育、インクルーシブ社会、インクルーシブデザイン。ダイバーシティ&インクルージョン、ソーシャル・インクルージョン。
ニュアンス「誰も排除しない」という性質「受け入れられている」という状態・概念

一番大切なポイントは、「インクルーシブ」は単独で使うよりも「インクルーシブな〇〇」という形で使われることが多いということです。

なぜ違う?英語の成り立ち(品詞)からイメージを掴む

【要点】

どちらも動詞「include(含む)」が語源。「-sive」は性質を表す形容詞を作り、「-sion」は動作や状態を表す名詞を作ります。

なぜ形が違うのか、英語の語源と接尾語(言葉のお尻)に注目すると、その役割の違いがよくわかりますよ。

「インクルーシブ」の成り立ち:含む性質を持つ

「インクルーシブ(inclusive)」は、動詞「include(含む)」に、形容詞を作る接尾語「-sive」がついた言葉です。

「Active(活動的な)」や「Positive(積極的な)」と同じ仲間ですね。つまり、「何かを含んでいる性質がある」「包括的な」という状態説明をする言葉です。

「Exclusive(排他的な)」の対義語として、「誰も排除せず、仲間外れにしない」という性質を表す際によく使われます。

「インクルージョン」の成り立ち:含むこと、状態

一方、「インクルージョン(inclusion)」は、「include」に、名詞を作る接尾語「-sion」がついた言葉です。

「Decision(決定)」や「Vision(視覚・展望)」と同じ仲間です。こちらは「含めること」「包含」「包摂」という、行為や概念そのものを指します。

ビジネスにおいては、多様な人々が組織の中で尊重され、一体感を持っている「状態」を指す言葉として定着しています。

具体的な例文で使い方をマスターする

【要点】

「インクルーシブ」は「教育」や「社会」などの名詞とセットで使います。「インクルージョン」は「ダイバーシティ」とセットで使われたり、目指すべきゴールとして使われます。

言葉の違いは、具体的なフレーズで覚えるのが一番効率的です。

よく使われるシーンごとの使い分けを見ていきましょう。

「インクルーシブ」を使う場面

【OK例文】

  • 障害の有無に関わらず共に学ぶインクルーシブ教育を推進する。
  • 高齢者や障害者も使いやすいインクルーシブデザインの公園。
  • 誰もが活躍できるインクルーシブな社会を目指す。

このように、後ろに名詞が来るか、「〜な」という形で性質を説明する場合に使います。

「インクルージョン」を使う場面

【OK例文】

  • 我が社は「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」を経営戦略に掲げている。
  • 社会的排除をなくす「ソーシャル・インクルージョン(社会的包摂)」の考え方。
  • 組織内でのインクルージョンを高める施策を行う。

こちらは「概念」や「取り組みの名称」として使われることが多いですね。

これはNG!間違えやすい使い方

意味は通じそうでも、文法的に不自然な使い方です。

  • 【NG】我が社はインクルーシブに取り組んでいます。
  • 【OK】我が社はインクルージョン(またはD&I)に取り組んでいます。

「形容詞に取り組む」というのは少し変ですよね。「包括的な(何に?)」となってしまいます。概念に取り組む場合は名詞の「インクルージョン」が適切です。

【応用編】似ている言葉「ダイバーシティ」との違いは?

【要点】

「ダイバーシティ(多様性)」は多様な人材が存在する「状態」。「インクルージョン(包摂)」はその多様な人々が尊重され、活かされている「関わり方」です。

よく「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」とセットで使われますが、この二つには明確なステップの違いがあります。

  • ダイバーシティ(Diversity):「多様性」。性別、国籍、年齢など、様々な属性の人が「そこにいる」こと。
  • インクルージョン(Inclusion):「包摂」。多様な人々が互いに認め合い、個性を発揮して「一体となっている」こと。

よく言われる例えに、「ダイバーシティはパーティーに呼ばれること、インクルージョンはダンスに誘われること」というものがあります。ただ人が集まっているだけでなく、参加して楽しめているかがインクルージョンの鍵です。

「インクルーシブ」と「インクルージョン」の違いを社会・教育の視点から解説

【要点】

教育分野では形容詞の「インクルーシブ(教育)」が主流用語として定着しており、ビジネス・人事分野では名詞の「インクルージョン(D&I)」が主流用語として使われる傾向があります。

少し専門的な視点から、分野ごとの使われ方の傾向を見てみましょう。

【教育・福祉分野】
文部科学省などが推進しているのは「インクルーシブ教育システム」です。これは、障害のある子供とない子供が可能な限り同じ場所で共に学ぶことを目指すものです。ここでは「教育」というシステムを修飾するために、形容詞の「インクルーシブ」が使われるのが一般的です。

【ビジネス・人事分野】
企業経営においては、経済産業省などが推進する「ダイバーシティ&インクルージョン」という言葉が主流です。これは組織の状態や経営方針を指すため、名詞の「インクルージョン」が使われます。最近ではさらに「Equity(公平性)」を加えた「DE&I」という言葉も増えています。

つまり、分野によって「よく使われる形(コロケーション)」が決まっているため、その文脈に合わせて使い分けるのがスマートです。

僕が会議で「インクルーシブ推進」と言って違和感を持たれた話

会社の経営企画会議で、人事制度改革のプレゼンをした時のことです。

僕は流行りの言葉を使って意気揚々とこう言いました。「これからは、社内のインクルーシブを推進していく必要があります!」

すると、上司から「うん、インクルーシブな『何』を推進するの? 社会? 環境? それとも『インクルージョン』のこと?」とツッコまれてしまいました。

僕はハッとしました。「インクルーシブ」は「〜的な」という意味の形容詞なので、それ単体では「包括的な…(何?)」という宙ぶらりんな状態になってしまっていたのです。名詞である「インクルージョン(包摂)」を使うか、「インクルーシブな組織づくり」と言えばよかったのです。

この経験から、カタカナ語を使う時は、元の英語の品詞(名詞か形容詞か)を意識しないと、言葉足らずで恥をかくことになると学びました。

「インクルーシブ」と「インクルージョン」に関するよくある質問

「ソーシャル・インクルージョン」とは何ですか?

「社会的包摂」と訳されます。貧困、障害、国籍などを理由に社会から排除(エクスクルージョン)されている人々を、社会の一員として取り込み、支え合う社会を目指す考え方や政策のことです。

「インクルーシブ公園」とはどんな公園ですか?

障害のある子もない子も、誰もが一緒に遊べるように配慮された公園のことです。例えば、車椅子のまま乗れるブランコや、寝そべったまま乗れる遊具、スロープ付きの砂場などが設置されています。

対義語は何ですか?

「インクルーシブ」の対義語は「エクスクルーシブ(Exclusive:排他的な)」、「インクルージョン」の対義語は「エクスクルージョン(Exclusion:排除)」です。ただし、エクスクルーシブは「高級な、独占的な」というポジティブな意味で使われることもあります(例:会員制のエクスクルーシブなサービス)。

「インクルーシブ」と「インクルージョン」の違いのまとめ

「インクルーシブ」と「インクルージョン」の違い、スッキリご理解いただけたでしょうか。

最後に、この記事のポイントをまとめておきますね。

  1. 品詞の違い:「インクルーシブ」は形容詞(〜的な)、「インクルージョン」は名詞(包摂)。
  2. 使い分け:後ろに名詞が続くなら「インクルーシブ」、概念やゴールを指すなら「インクルージョン」。
  3. 分野の傾向:教育は「インクルーシブ(教育)」、ビジネスは「(D&)インクルージョン」。

言葉の形は少し違いますが、どちらも目指しているのは「誰も置き去りにしない」「違いを認め合って活かす」という温かい世界観です。

これからは文脈に合わせて正しく言葉を選び、その理念をスマートに発信してみてください。さらに詳しい社会用語やビジネス用語の使い分けについては、社会・関係の言葉の違いまとめもぜひご覧ください。

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