「感情」と「情動」の違いとは?心理学的な意味と使い分けを解説

「感情(かんじょう)」と「情動(じょうどう)」、どちらも心の動きを表す言葉ですが、その違いを正確に説明できますか?

日常会話ではあまり区別せずに使っているかもしれませんね。

実はこの二つの言葉、心の動きが持続的で複雑か、一時的で身体反応を伴うかという点で使い分けられます。この記事を読めば、「感情」と「情動」の核心的な意味から、心理学的な違い、具体的な使い分けまでスッキリ理解でき、もう迷うことはありません。あなたの心の動きへの理解も深まるはずです。

それでは、まず最も重要な違いから見ていきましょう。

結論:一覧表でわかる「感情」と「情動」の最も重要な違い

【要点】

「感情」は比較的長く続く、主観的で複雑な心の状態(好き、嬉しい、悲しいなど)を指します。一方、「情動」は特定の刺激に対する、一時的で強い身体反応を伴う心の動き(怒り、恐怖、驚きなど)を指します。簡単に言えば、じわじわ続くのが「感情」、カッとくるのが「情動」とイメージすると分かりやすいでしょう。

まず、結論からお伝えしますね。

「感情」と「情動」の最も重要な違いを、以下の表にまとめました。これさえ押さえれば、基本的な使い分けはバッチリです。

項目 感情 (Emotion) 情動 (Affect/Passion)
中心的な意味 物事に感じて起こる気持ち。主観的な心の状態。 急激で一時的な心の動き。身体反応を伴うことが多い。
持続時間 比較的長く続くことが多い(数分〜数時間、場合によっては数日以上)。 比較的短時間で一時的(数秒〜数分)。
強さ・激しさ 穏やかなものから強いものまで様々。 比較的強く激しいことが多い。
身体反応 伴う場合もあるが、必須ではない 心拍数の増加、発汗、震えなど、明確な身体反応を伴うことが多い。
意識・認知 意識されやすい。原因や対象について考えられることが多い。 意識される前に起こることも。反射的な側面が強い。
複雑さ 複雑で多様(喜び、悲しみ、愛情、憎しみなど)。社会的・文化的な影響を受ける。 比較的基本的・原始的(怒り、恐怖、驚き、喜び、嫌悪、悲しみなど)。生物学的な基盤が強い。
具体例 幸福感、満足感、不安、嫉妬、尊敬、後悔。 カッとなる怒り、飛び上がるほどの喜び、身がすくむ恐怖、突然の驚き。

心理学などの学術分野では、この二つは明確に区別されることが多いですね。日常会話では「感情」という言葉がより広く使われる傾向にありますが、急激で身体が反応するような心の動きを表現したいときには「情動」を使うと、よりニュアンスが正確に伝わるでしょう。

なぜ違う?言葉の意味と成り立ちからイメージを掴む

【要点】

「感情」の「感」は“感じる”、「情」は“心の動き”、「動」は“うごく”を意味します。「感情」は「感じて心が動く」という主観的な気持ちを広く指すのに対し、「情動」は「情(心の動き)が(身体を)動かす」という、より強く身体的な反応を引き起こす心の動きを強調しています。

なぜこの二つの言葉に違いが生まれるのか、漢字の意味や成り立ちを紐解くと、その理由がよくわかりますよ。

言葉のルーツを知ると、それぞれのニュアンスの違いが、より深く理解できるようになりますよね。

「感情」とは:「感」じて動く、持続的で複雑な心の状態

「感情」は、「(かん)」と「(じょう)」という漢字で構成されています。

「感」は、「感じる」「心が動く」という意味を持っています。「情」もまた、「心の動き」「気持ち」「なさけ」などを意味します。

つまり、「感情」とは、何かを見たり聞いたり、経験したりすることによって「感じ」、それによって引き起こされる「心の動き」や「気持ち」を広く指す言葉と解釈できます。

特定の出来事だけでなく、人との関係性や自分の置かれた状況など、様々な要因によって比較的時間のかけて形成され、持続する心の状態。「好き」「嫌い」「嬉しい」「悲しい」「安心」「不安」といった、私たちが日常的に経験する多様で複雑な心のあり方を包括するイメージです。

「情動」とは:「情」が引き起こす、一時的で強い身体反応

一方、「情動」は、「(じょう)」と「(どう)」から成り立ちます。

「情」は「感情」と同じく「心の動き」を意味しますが、「動」は「うごく」「うごかす」という意味ですよね。

ここから、「情動」とは、「情(心の動き)」が、身体をも「動かす」ような、より強く、瞬間的な心の反応というニュアンスが生まれます。

例えば、危険を感じて心臓がドキドキする(恐怖)、理不尽な扱いを受けてカッとなる(怒り)、予期せぬ出来事にハッとする(驚き)など、特定の刺激に対して瞬間的に発生し、しばしば心拍数の変化や発汗、筋肉のこわばりといった生理的な反応(身体反応)を伴うのが特徴です。生物が生存するために備わった、より本能的で原始的な心の働き、というイメージを持つと分かりやすいでしょう。

具体的な例文で使い方をマスターする

【要点】

心理学の論文などでは「扁桃体の活性化が情動反応を引き起こす」のように「情動」が使われます。日常会話では、「彼の言葉に感情が揺さぶられた」のように「感情」が一般的ですが、「怒りの情動に駆られて行動した」のように、強い衝動性を表現したい場合に「情動」が使われることもあります。

言葉の違いは、具体的な例文で確認するのが一番ですよね。

学術的な文脈と日常会話、そして間違いやすいNG例を見ていきましょう。

どういう場面でどちらを使うのが自然か、感覚を掴んでみてください。

心理学や学術的な文脈での使い分け

専門分野では、定義に基づいて厳密に使い分けられます。

【OK例文:感情】

  • 失恋による悲しみの感情は、数週間にわたって彼を苦しめた。(持続的な心の状態)
  • 目標達成によって得られる達成感や満足感は、ポジティブな感情の一例である。(複雑な心の状態)
  • 異文化理解においては、相手の感情表現の背景にある文化的要因を考慮する必要がある。(社会的・文化的な側面を含む)

【OK例文:情動】

  • ヘビを見た瞬間に恐怖の情動が引き起こされ、心拍数が急上昇した。(一時的で強い身体反応)
  • 不意に大きな音がしたため、驚きの情動反応として肩がすくんだ。(刺激に対する反射的な反応)
  • 彼の侮辱的な発言に対し、怒りの情動が抑えきれなくなった。(急激で強い心の動き)
  • 喜びの情動が高まり、思わず飛び上がってガッツポーズをした。(身体的表出を伴う)

日常会話での使い分け

日常では「感情」が広く使われますが、「情動」も特定のニュアンスで使われます。

【OK例文:感情】

  • 彼の優しい言葉に、感謝の感情で胸がいっぱいになった。(一般的な気持ち)
  • 映画のラストシーンを見て、様々な感情が込み上げてきた。(複雑な心の動き)
  • 自分の感情をコントロールするのが難しい時がある。(意識される心の状態)

【OK例文:情動】

  • あまりの悔しさに、思わず情動的に叫んでしまった。(衝動的な行動を伴う)
  • 彼は情動の起伏が激しいタイプだ。(感情の波が急激で強いことを示す)
  • 一時の情動に流されて判断を誤ってはいけない。(理性を失わせるほどの強い心の動き)

日常会話で「情動」を使う場合は、「衝動的」「激しい」「瞬間的」といったニュアンスを強調したいときが多いですね。

これはNG!間違えやすい使い方

意味は通じるかもしれませんが、少し不自然に聞こえる使い方です。

  • 【NG】友人の結婚を心から祝福する情動を覚えた。
  • 【OK】友人の結婚を心から祝福する感情(気持ち)を覚えた。

心からの祝福は、じわじわと続く温かい気持ちであり、「情動」が持つ急激で一時的なイメージとは合いません。「感情」や「気持ち」を使うのが自然です。

  • 【NG】ジェットコースターに乗って、楽しい感情で叫んだ。
  • 【OK】ジェットコースターに乗って、興奮や恐怖といった情動(あるいは単に「スリル」)で叫んだ。/楽しかったという感情を覚えた。

ジェットコースターで叫ぶのは、楽しさというより、興奮や恐怖といった瞬間的で強い生理的反応(情動)によるものです。乗った後に「楽しかった」と感じるのは「感情」ですが、叫んでいる最中の心の動きは「情動」と表現する方がより的確です。

【応用編】似ている言葉「気分」との違いは?

【要点】

「気分」は、「感情」よりもさらに持続時間が長く、比較的穏やかで、原因が特定されにくい漠然とした心の状態(例:「今日は気分がいい」「なんとなく憂鬱な気分」)を指します。「感情」や「情動」が特定の対象や出来事によって引き起こされることが多いのに対し、「気分」はより全体的な心のコンディションを表す言葉です。

「感情」「情動」と似ていて、使い分けに迷う言葉に「気分(きぶん)」がありますね。

「感情」や「情動」が、特定の出来事や対象に対して比較的はっきりと生じる心の動きであるのに対し、「気分」は、もっと漠然としていて、特定の原因がはっきりしないことも多い、比較的長く続く穏やかな心の状態を指します。

例えば、「今日は天気が良くて気分がいい」「理由はないけど、なんとなく気分が沈んでいる」といった使い方をしますね。これは、「嬉しい」という特定の感情や、「驚いた」という情動とは異なり、全体的な心のコンディションや雰囲気を表しています。

持続時間で考えると、一般的に

情動(短い:秒〜分)< 感情(中くらい:分〜日)< 気分(長い:時間〜週、月)

という関係性があるとされています。もちろん、これはあくまで目安ですが、言葉のニュアンスを掴む助けになるでしょう。

「感情」は「喜び」や「悲しみ」など具体的なラベルを付けやすいのに対し、「気分」は「良い」「悪い」「重い」「晴れやか」といった、より包括的で曖昧な表現で語られることが多いのも特徴です。

「感情」と「情動」を心理学的な視点から解説

【要点】

心理学では、「情動」は生物学的な基盤を持つ、生存に関わる基本的な反応(怒り、恐怖など)として捉えられることが多いです。脳の扁桃体などが関与し、身体的な変化を伴います。一方、「感情」は情動に加えて、個人の経験、記憶、思考、社会文化的な文脈などが複雑に関与して形成される、より高次な精神活動とされます。大脳皮質などが関わり、主観的な「気持ち」として意識されます。

「感情」と「情動」、心理学の世界ではどのように捉えられているのでしょうか?

少し専門的になりますが、この視点を知ると、二つの言葉の違いがより深く理解できます。

多くの心理学の理論では、「情動(Affect/Passion)」は、より生物学的で、生存に関わる基本的な反応として位置づけられています。危険を察知したときの「恐怖」や、邪魔されたときの「怒り」などが典型例です。これらは、脳の古い部分(特に扁桃体など大脳辺縁系)が深く関与し、自律神経系の活動(心拍数、血圧の変化など)や内分泌系(ホルモン分泌)の変化といった、明確な身体反応を引き起こすと考えられています。つまり、私たちが意識する前に、体が勝手に反応してしまうような、素早く自動的なプロセスという側面が強いのです。

一方、「感情(Emotion)」は、この情動反応に加えて、個人の経験、記憶、思考(認知)、価値観、そして社会や文化といった、より多くの要因が複雑に絡み合って形成される、高次な精神活動とされています。脳の新しい部分である大脳皮質(特に前頭前野)などが関与し、私たちはそれを「嬉しい」「悲しい」「誇らしい」「申し訳ない」といった主観的な「気持ち」として意識します。感情は、情動ほど急激ではなく、より長く続き、その原因や対象について私たちが思考を巡らせることを可能にします。

例えば、暗い夜道で突然物音がしてドキッとするのは「情動(恐怖)」ですが、その経験を思い出して「あの時は怖かったなあ」と感じたり、夜道を歩くこと自体に「不安」を感じ続けたりするのは「感情」と考えることができます。情動が“生の反応”だとすれば、感情はそれに“意味づけ”や“解釈”が加わったもの、と言えるかもしれませんね。

ただし、心理学の中でも研究者によって定義や分類は異なり、「感情」と「情動」を厳密に区別しない立場や、異なる用語(例:「気分 Mood」)を含めて議論することもあります。ですが、一般的に「情動=身体反応を伴う短く強い反応」「感情=より持続的で複雑な主観的状態」という区別は、多くの理論で共通してみられる考え方です。

僕が「感情」と「情動」の区別を意識した瞬間

以前、プレゼンテーションの練習をしていた時のことです。どうしても人前で話すのが苦手で、練習でも声が震え、手には汗が滲み、心臓がバクバクしていました。これはまさに「恐怖」や「不安」という「情動」が引き起こす身体反応ですよね。自分ではコントロールできない、原始的な反応だと感じました。

練習を重ね、本番でなんとかプレゼンを終えた後、上司から「よく頑張ったな。すごく分かりやすかったよ」と声をかけられました。その瞬間、緊張から解放された安堵感と、認められた嬉しさで、胸がじわっと温かくなるのを感じました。これは、プレゼン中の身体的な反応とは質の違う、持続的で肯定的な「感情」でした。

さらに後日、プレゼンの成功体験を思い出し、「やればできるんだ」という自信や、「もっと上手くなりたい」という意欲を感じました。これもまた、過去の経験や自己評価が加わった、より複雑な「感情」ですよね。

この一連の経験を通じて、「情動」がその場の状況に対する直接的で身体的な反応であるのに対し、「感情」は経験や思考を通して育まれ、変化していく、より持続的で内面的なものなのだと実感しました。

この区別を意識するようになってから、自分が今感じている心の動きが、一時的な「情動」なのか、それとももう少し根深い「感情」なのかを客観的に捉えやすくなった気がします。特に、カッとなったり(情動)、落ち込んだり(感情)した時に、「これは一時的な反応だ」「これは少し長引くかもしれないな」と考えることで、少し冷静に対処できるようになったのは、大きな収穫でしたね。皆さんも、自分の心の動きを観察する際に、この違いを意識してみてはいかがでしょうか。

「感情」と「情動」に関するよくある質問

「感情」と「情動」、どちらがより原始的な反応ですか?

一般的に「情動」の方がより原始的・基本的な反応と考えられています。情動は、生物が生存するために必要な、危険察知や闘争・逃走反応などと結びついた、脳の古い部分(大脳辺縁系など)が関わる自動的な反応とされます。一方、「感情」は、情動反応に加えて、大脳皮質などが関わる高次な認知プロセス(思考、記憶、解釈など)が影響して形成される、より複雑な心の状態とされています。

怒りは「感情」ですか?「情動」ですか?

「怒り」は、文脈によって「情動」とも「感情」とも捉えられます。例えば、侮辱されてカッとなり、心拍数が上がるような瞬間的な反応は「怒りの情動」と表現するのが適切です。一方、特定の人物に対して長期間にわたって抱き続ける怒りや、社会の不公正に対する憤りなどは、より持続的で認知的な評価を含むため「怒りの感情」と表現するのが自然でしょう。心理学的な分類(基本情動など)では怒りが情動に含まれることも多いですが、日常的な使われ方としては両方の側面があります。

ビジネスシーンで「感情」と「情動」を使い分けるメリットはありますか?

ビジネスシーン、特にプレゼンテーションや交渉、チームマネジメントなどにおいては、この二つを意識的に使い分けることにメリットがあります。例えば、相手が一時的な「情動」(例:反発、不快感)を示しているのか、それとも根深い「感情」(例:不信感、諦め)を抱いているのかを見極めることで、対応を変えることができます。情動的な反応に対しては、まず冷静になる時間を与えたり、共感を示したりすることが有効かもしれません。一方、感情的な問題に対しては、その背景にある原因を丁寧にヒアリングし、根本的な解決策を探る必要があるでしょう。自分の心の動きを理解する上でも、衝動的な「情動」に流されず、長期的な視点での「感情」コントロールを意識することが、より良い意思決定につながります。

「感情」と「情動」の違いのまとめ

「感情」と「情動」の違い、スッキリご理解いただけたでしょうか。

最後に、この記事のポイントをまとめておきますね。

  1. 持続時間と身体反応が鍵:「感情」は長く続き主観的、「情動」は短く身体反応を伴うことが多い。
  2. 複雑さと意識:「感情」は複雑で意識されやすい、「情動」は基本的で意識前に起こることも。
  3. 漢字のイメージ:「感情」は「感じて」動く心、「情動」は「情」が身体を「動かす」反応。
  4. 心理学的な区別:「情動」は生物学的・原始的、「感情」は認知的・高次的。
  5. 「気分」との違い:「気分」はさらに長く続き、原因不明なこともある漠然とした状態。

これらの違いを理解することで、自分や他者の心の動きをより深く、そして正確に捉えることができるようになるでしょう。日常会話では「感情」を使う場面が多いかもしれませんが、特に心理学的な文脈や、急激で強い心の動きを表現したい際には、「情動」という言葉を意識して使ってみてくださいね。

言葉の使い分けについてさらに知りたい方は、心理・感情の言葉の違いをまとめたページもぜひご覧ください。