「象る」と「模る」の違いとは?正しい使い分けと公用文のルール

「象る」と「模る」、どちらも「かたどる」と読みますが、この二つの漢字をどう使い分ければよいのか、迷った経験はありませんか?

実は、この二つは常用漢字表にあるかどうかという明確な基準で使い分けるのが最も確実です。

この記事を読めば、「象る」と「模る」の意味の違いはもちろん、公的な文書やビジネスシーンでどちらを使うべきかがハッキリと分かり、もう変換候補で迷うことはなくなります。

それでは、まず最も重要な違いから見ていきましょう。

結論:一覧表でわかる「象る」と「模る」の最も重要な違い

【要点】

基本的には一般的には「象る」を使えば間違いありません。「模る」は常用漢字表にない読み方のため、公用文やビジネスでは「象る」または「ひらがな」が推奨されます。

まず、結論からお伝えしますね。

「象る」と「模る」の最も重要な違いを、以下の表にまとめました。これさえ押さえれば、基本的な使い分けはバッチリです。

項目象る模る
中心的な意味物の形を写し取る。ある形をまねて作る。抽象的なものを具体的な形で表す。形をまねる。模倣する。手本とする。
常用漢字あり(「かたどる」という読みが認められている)なし(「かたどる」は表外読み)
使用シーン公用文、新聞、ビジネス、日常会話など全般。小説、詩、個人の表現など、あえて「模倣」のニュアンスを強めたい場合。
ニュアンス形にする、象徴する、表現する。真似る、似せる、コピーする。

一番大切なポイントは、「象る」は常用漢字の読みとして認められているが、「模る」は認められていないということです。

そのため、迷ったら「象る」を選ぶか、あるいはひらがなで「かたどる」と書くのが、最も無難で正しい選択と言えるでしょう。

なぜ違う?漢字の成り立ち(語源)からイメージを掴む

【要点】

「象」は動物のゾウの姿を描いた象形文字で「形そのもの」を表します。「模」は「木」と「莫」からなり、木型や手本を意味します。ここから、形を表す「象る」と、型通りに真似る「模る」の違いが生まれています。

なぜ同じ「かたどる」という読みなのに漢字が違うのか、その語源を紐解くとイメージが掴みやすくなりますよ。

「象る」の成り立ち:「形」や「様子」を表す

「象」という字は、動物の「ゾウ」を横から見た形を描いた象形文字です。

古代中国では、ゾウのような巨大な動物の骨や姿を見て、目に見えない大きな力や法則、あるいは物の「形」や「様子」を「象(しょう)」という言葉で表現するようになりました。

そこから、「象る」は、ある物の形を写し取って、別の形で表現するという意味を持つようになったのです。

「象徴(しょうちょう)」や「印象(いんしょう)」という言葉があるように、具体的な形だけでなく、抽象的なイメージを形にするニュアンスも含まれています。

「模る」の成り立ち:「型」や「手本」を真似る

一方、「模」という字は、「木」偏に「莫(ばく)」を組み合わせた文字です。

「莫」には「覆い隠す」などの意味がありますが、「模」はもともと、鋳物(いもの)を作るための「木型」を指していました。

そこから、型に合わせて作る、手本通りに真似るという意味が強くなりました。

「模倣(もほう)」や「模型(もけい)」という熟語からも分かるように、あるものを忠実に再現する、コピーするというニュアンスが「模る」には込められています。

具体的な例文で使い方をマスターする

【要点】

基本的には「象る」を使います。星座の形を模したアクセサリーや、平和の象徴などは「象る」。一方、原作を忠実に再現したり、手本を真似るニュアンスを強調したい文芸的な表現では「模る」が使われることもあります。

言葉の違いは、具体的な例文で確認するのが一番ですよね。

ビジネスと日常、そして間違いやすいNG例を見ていきましょう。

「象る」を使った例文(一般的・推奨)

公的な文章や一般的なシチュエーションでは、こちらを使います。

【OK例文】

  • 雪の結晶を象ったブローチを身につける。
  • このモニュメントは、平和を象っている。
  • 動物の姿を象った可愛らしいクッキーを焼いた。
  • 英雄の姿を象った銅像が広場に立っている。

これらはすべて、「ある形を写し取って表現している」という意味で使われていますね。

「模る」を使った例文(限定的・表外読み)

常用漢字表外の読み方ですが、小説や個人の表現として「真似る」ニュアンスを強めたい場合に使われることがあります。

【文芸的な例文】

  • 師匠の芸を忠実に模ることに専念した。(※「真似る」に近い意味)
  • 古代の土器を模って作られたレプリカ。

ただし、これらも「象る」と書いて間違いではありませんし、公用文では「象る」または「かたどる」と書くべきです。

これはNG!間違えやすい使い方

意味は通じることもありますが、漢字の使い分けとして不適切な例です。

  • 【NG】企画書で「成功事例を模ってプランを作成します」と書く。
  • 【OK】企画書で「成功事例を参考にして(または真似て)プランを作成します」と書く。

ビジネス文書で常用漢字外の「模る」を使うのは避けたほうが無難でしょう。また、「かたどる」という言葉自体が「形を写す」という意味なので、単に「参考にする」という意味で使うと少し違和感が出る場合があります。

【応用編】似ている言葉「型取る」との違いは?

【要点】

「型取る」は、文字通り「型(かた)を取る」行為を指します。石膏などで実物の型を取る場合などに使われ、「象る」のような「象徴する」という意味合いはありません。物理的な作業を指すことが多い言葉です。

「かたどる」には、もう一つ「型取る」という表記を見かけることがあります。

これは、「象る」や「模る」とは少しニュアンスが異なります。

「型取る」は、物理的に型(鋳型や模型など)を取るという意味合いが強い言葉です。

  • 歯医者で歯の形を型取る
  • 足型を型取ってインソールを作る。

このように、物理的な形状をコピーするための「型」を作る作業には「型取る」が使われます。一方で、「平和をかたどる」のような抽象的な意味では「象る」を使います。

「象る」と「模る」の違いを学術的に解説

【要点】

昭和56年の常用漢字表制定以降、「模」の訓読みから「かたどる」が外れました。これにより、公用文や学校教育においては「象る」が唯一の正解となっています。言葉の歴史的変遷を知ることで、迷いがなくなります。

専門的な視点から、この二つの漢字の使い分けをもう少し深く掘り下げてみましょう。

実は、かつては「模」にも「かたどる」という訓読みが認められていた時代がありました。

しかし、昭和56年(1981年)の常用漢字表の制定(その後、平成22年に改定)において、「模」の訓読みから「かたどる」が削除されました。

現在、常用漢字表で「模」の読みは、音読みの「モ」「ボ」のみとなっています(例:模倣、規模)。

一方で、「象」には「ショウ」「ゾウ」という音読みのほかに、「かたどる」という訓読みが明確に認められています

この経緯から、公用文(法律や役所の文書)、新聞、教科書、放送用語などでは、「かたどる」と漢字で書く場合は必ず「象る」を使うルールになっています。

もしあなたが、「模る」という表記を小説などで見かけたとしたら、それは作家が「模倣」のニュアンスを強調するためにあえて表外読みを使ったか、あるいは古い表記に従っているかのどちらかである可能性が高いですね。

詳しくは文化庁の「常用漢字表」などでご確認いただけます。

僕が「模る」を使って指摘されたデザイン案の体験談

僕もライターになりたての頃、この「象る」と「模る」の使い分けで冷や汗をかいたことがあります。

ある企業のロゴデザインのコンセプトを説明する資料を作っていたときのことです。「このロゴは、御社の理念である『飛躍』をツバメの姿に模ってデザインしました」と書いて提出しました。

「模倣」の「模」だから、形を真似るという意味で合っているだろうと、深く考えずに変換した漢字を使っていたんです。

すると、デザイン監修に入っていたベテランのアートディレクターから、こんなフィードバックが返ってきました。

「この『模る』だと、何か既存のものを単にコピーした(模造した)ようなニュアンスに見えちゃうよ。理念を形にする、シンボルにするという意味なら、『象る』を使うべきだし、そもそも『模る』は常用漢字じゃないから、クライアント向けの公式資料としては不適切だね」

顔から火が出るほど恥ずかしかったのを覚えています。

僕はてっきり「形をまねる」のだから「模」でも良いと思っていましたが、そこには「象徴する」のか「コピーする」のかという、クリエイティブに対する姿勢の違いまで含まれていたのです。

それ以来、僕は「かたどる」と書くときは、迷わず「象る」を使うか、柔らかい印象にしたいときはひらがなにするようにしています。

「象る」と「模る」に関するよくある質問

ここでは、「象る」と「模る」に関してよく検索される疑問に、会話形式でお答えします。

「形取る」と書くのは間違いですか?

間違いではありませんが、使うシーンが限定されます。「形取る」は「型取る」と同様に、物理的な形を写し取る場合や、衣服の寸法を合わせる際などに使われることがあります。しかし、常用漢字表の付表などにも記載がないため、一般的な文章では「象る」を使うか、ひらがなで「かたどる」とするのが無難ですね。

ひらがなで「かたどる」と書いても良いですか?

はい、もちろん大丈夫です。むしろ、漢字で書くと堅苦しい印象になる場合や、読み手が読めない可能性がある場合は、ひらがなで「かたどる」と書くほうが親切です。特にWebライティングや広告のキャッチコピーなどでは、読みやすさを重視してひらがなにするケースも多いですよ。

「象る」は「かたどる」以外になんと読みますか?

常用漢字表では「かたどる」の他に、「ショウ」(例:気象、対象)、「ゾウ」(例:象、巨象)という読み方があります。「かたどる」は唯一の訓読みですので、これを覚えておけば「象る」と出てきたときに迷わず読めますね。

「象る」と「模る」の違いのまとめ

「象る」と「模る」の違い、スッキリご理解いただけたでしょうか。

最後に、この記事のポイントをまとめておきますね。

  1. 基本は「象る」一択:常用漢字として認められているのは「象る」のみ。公用文やビジネスではこちらを使います。
  2. 「模る」は表外読み:「模倣」などの意味で使われますが、常用漢字ではないため、一般的な使用は避けたほうが無難です。
  3. 意味のイメージ:「象る」は形を写す・象徴する。「模る」は真似る・コピーする。

言葉の背景にある「常用漢字かどうか」というルールを知っておくと、もう迷うことはありませんね。

文章を書く際は、自信を持って「象る」を選んでください。もし堅苦しくしたくない場合は、ひらがなで「かたどる」と書くのも素敵な選択肢です。

これからも、正しい言葉選びで、あなたの思いが誤解なく伝わる文章を書いていきましょう。言葉の使い分けについてさらに知りたい方は、漢字の使い分けの違いをまとめたページもぜひご覧ください。

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