「講師」と「教員」。どちらも学校で生徒に教える先生を指す言葉ですが、その法的な立場や雇用形態に明確な違いがあることをご存知でしょうか?
結論から言うと、「教員」は学校で教育に携わる職員全体(校長、教諭、講師など)を指す総称であり、「講師」はその中で主に非正規雇用で働く特定の職名を指します。つまり、講師は教員の一種ですが、一般的に「教員(正規採用の教諭)」と比較される場合は、雇用の安定性や業務範囲に差があります。
この記事を読めば、学校現場での先生たちの立場の違いや、ニュースで耳にする「教員不足」と「講師登録」の関係がスッキリと理解でき、教育現場の実情を正しく捉えることができるようになります。
それでは、まず二つの言葉の核心的な違いを比較表で見ていきましょう。
結論:一覧表でわかる「講師」と「教員」の最も重要な違い
「教員」は学校で教育を行う職員の総称グループ。「講師」はそのグループに含まれるメンバーの一つで、主に非正規雇用の教員を指します。正規雇用のメンバーは「教諭」と呼ばれます。
まずは、結論からお伝えしますね。
この二つの言葉の最も重要な違いを、以下の表にまとめました。これさえ押さえれば、学校の先生の区分けはバッチリです。
| 項目 | 講師(こうし) | 教員(きょういん) |
|---|---|---|
| 中心的な意味 | 教諭に準ずる職務を行う非正規の教員。 | 学校で教育に従事する職員の総称。 |
| 関係性 | 教員というグループの一部(下位概念)。 | 全体を包む大きなグループ(上位概念)。 |
| 雇用形態 | 期限付き採用(常勤・非常勤)。 | 正規・非正規を問わず全て含む。 |
| 必要なもの | 教員免許状(※特別非常勤を除く)。 | 教員免許状(種類は職による)。 |
一番大切なポイントは、「教員」という言葉は「教諭(正規)」と「講師(非正規)」の両方を含んでいるということです。日常会話で区別する際は、「正規の先生(教諭)」と「講師の先生」という対比で使われることが多いです。
なぜ違う?言葉の定義と法的根拠からイメージを掴む
「教員」は学校教育法で定義された、教育に携わる職員の総称です。「講師」はその法の中で、教諭に準ずる職務、または特定の教科のみを教える職務として規定されています。
なぜこのような区別があるのか、法律上の定義を紐解くとその役割の違いが見えてきますよ。
「教員」の定義:学校で教える人の総称
「教員」とは、学校教育法において、学校に置かれる職員のうち、直接教育活動に携わる人々をまとめて指す言葉です。
具体的には、「校長、教頭、教諭、助教諭、養護教諭、栄養教諭、講師」などがこれに含まれます。
つまり、「私は教員です」と言う場合、それは「学校で教育の仕事をしている」という広い意味の職業紹介になります。
「講師」の定義:臨時的・非常勤のスペシャリスト
一方、学校現場における「講師」は、大きく二つに分かれます。
- 常勤講師(臨時的任用教員):産休や病休の教諭の代わりや、定数不足を補うためにフルタイムで働く教員。仕事内容は教諭とほぼ変わりませんが、任期(契約期間)があります。
- 非常勤講師:特定の教科や授業のコマ数だけを受け持つパートタイムの教員。担任業務や部活動顧問などは原則持ちません。
どちらも、正規採用の「教諭」とは異なり、有期雇用であるという点が最大の特徴です。
具体的な例文で使い方をマスターする
職業全体を指すなら「教員」、具体的な雇用形態や立場を説明するなら「講師」(または教諭)を使います。
言葉の違いは、具体的な例文で確認するのが一番ですよね。
シーン別の使い分けを見ていきましょう。
自己紹介・説明での使い分け
【OK例文:教員】
- 職業は公立中学校の教員です。(職業ジャンルの説明)
- 教員採用試験に向けて勉強中だ。
- 全国の教員不足が深刻な問題になっている。
【OK例文:講師】
- 今は常勤講師としてクラス担任を持っている。
- 週に3日、高校で英語の非常勤講師をしている。
- 産休代替の講師として採用された。
これはNG!間違えやすい使い方
意味は通じますが、正確ではない使い方です。
- 【NG】(正規採用の人に向かって)「あなたは講師ですか?」
- 【OK】(正規採用の人に向かって)「あなたは教諭(または先生)ですか?」
正規雇用の先生に対して「講師」と呼ぶのは、職階を間違えていることになるため失礼にあたります。相手の雇用形態がわからない場合は「先生」や「教員」と呼ぶのが無難です。
【応用編】似ている言葉「教諭(きょうゆ)」との違いは?
「教諭」は教員免許を持ち、正規雇用で採用された教員の職名です。期間の定めがなく(定年まで)、フルタイムで全ての校務を分掌します。「教員」の中のメインプレイヤーと言えます。
「講師」と最も対比されるのが「教諭(きょうゆ)」です。
学校教育法では、「教諭は、児童(生徒)の教育をつかさどる」と定義され、正規の教員を指します。
一方、「講師は、教諭又は助教諭に準ずる職務に従事する」とされており、あくまで教諭の補完、あるいは代替という位置づけです。
現場では「教諭」も「講師」も生徒からは同じ「先生」と呼ばれますが、給与体系、昇進、研修の機会、身分保障(雇用の安定性)において、行政上の扱いは大きく異なります。
「講師」と「教員」の違いを学校教育法・行政の視点から解説
行政的には「教員」は予算や定数の枠組み全体を指し、「講師」はその調整弁として機能しています。「教員免許状」は講師であっても必須ですが、社会人枠などの「特別非常勤講師」は免許不要です。
少し専門的な視点から、この言葉の背景を深掘りしてみましょう。
地方公務員法や学校教育法の観点では、学校の先生は以下のように分類されます。
- 正規教員(教諭):地方公務員採用試験(教採)に合格し、定年まで雇用される。
- 臨時的任用教員(常勤講師):欠員補充などのために、期限付きでフルタイム採用される。待遇は教諭に準じるが、ボーナスなどで差がある場合も。
- 会計年度任用職員(非常勤講師):授業のコマ数に応じて報酬が支払われるパートタイム職。
行政文書で「教員数」という場合、これら全てを含みますが、「教員採用試験」と言う場合は、主に「正規の教諭(および養護教諭など)」を採用するための試験を指します。
一方、「講師登録」とは、教採に受からなかった人や、教職免許を持ちながら教職に就いていない人が、欠員が出た際に講師として働けるよう教育委員会に登録する制度のことです。
僕が「常勤講師」として働きながら「教員」の壁を感じた話
僕は大学卒業後、教員採用試験に受からず、公立中学校で「常勤講師」として働いていました。
仕事内容は正規の先生(教諭)と全く同じです。朝から晩まで働き、クラス担任も持ち、部活の顧問もし、生徒指導にも駆け回りました。生徒たちからは「先生」と呼ばれ、保護者からも頼りにされました。
しかし、職員室の机の上にある書類を見るたびに、現実を突きつけられました。辞令には「任期は〇月〇日から翌年3月31日まで」と書かれています。
ある日、同僚の教諭が「来年のカリキュラム、こう変えようか」と話している輪に入ろうとした時、ふと気づいたんです。「あ、俺、来年ここにいるかわからないんだ」と。
僕は広い意味では「教員」でしたが、身分はあくまで1年契約の「講師」。どれだけ熱心に働いても、次年度の保証はない。その不安定さと、正規の先生たちとの見えない壁を感じて、少し寂しい気持ちになりました。
この経験から、「教員」という言葉は職業への誇りを表すが、「講師」という言葉は制度上の現実(非正規という立場)を突きつけるものだと痛感しました。その後、必死に勉強して正規採用された時の喜びはひとしおでした。
「講師」と「教員」に関するよくある質問
塾の先生は「教員」ですか?「講師」ですか?
塾や予備校の先生は、学校教育法上の学校の職員ではないため、「教員(教諭)」とは呼びません。一般的に「(塾)講師」という職名が使われます。ただし、生徒からは「先生」と呼ばれます。
大学の先生の「講師」と「教授」の違いは?
大学における「講師」は、教授・准教授に次ぐ職階の一つです。「専任講師(常勤)」と「非常勤講師」があり、専任講師は研究・教育を行う正規の教員であることが多いです。小中高の講師とは少し位置づけが異なり、研究者としてのキャリアのステップの一つでもあります。
教員免許がなくても「講師」になれますか?
通常の学校講師(常勤・非常勤)になるには教員免許が必須です。ただし、「特別非常勤講師」という制度があり、専門的な知識や技能を持つ社会人(英語、プログラミング、伝統芸能など)は、免許がなくても都道府県教育委員会の届出により授業を担当することができます。
「講師」と「教員」の違いのまとめ
「講師」と「教員」の違い、スッキリご理解いただけたでしょうか。
最後に、この記事のポイントをまとめておきますね。
- 包含関係:「教員」は先生全体の総称、「講師」はその中の一つの職名。
- 雇用形態:「講師」は主に期限付きの非正規雇用、「教諭」が正規雇用。
- 仕事内容:常勤講師は教諭とほぼ同じだが、身分保障に違いがある。
生徒や保護者から見れば、どちらも等しく「先生」であり、教育にかける情熱に変わりはありません。
これからはニュースで「教員不足」や「講師未配置」という言葉を聞いた時、その裏にある雇用構造や先生たちの働き方に思いを馳せてみてください。さらに詳しい学校や社会の言葉については、社会・関係の言葉の違いまとめもぜひご覧ください。
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