「まつわる」と「関する」の違いは、焦点が「周辺のエピソード」にあるか、「対象そのもの」にあるかという点にあります。
「まつわる」は、ある物事に付随する事情や物語など、少し情緒的なニュアンスを含んで使われることが多い言葉です。一方で、「関する」は、その物事や内容について客観的に指し示す際に使われ、ビジネスシーンではこちらが一般的ですね。
この記事を読めば、それぞれの言葉が持つ本来のイメージや適切な使用シーンが明確になり、レポート作成や日常会話で迷うことなく使い分けられるようになります。
それでは、まず二つの言葉の決定的な違いから詳しく見ていきましょう。
結論:一覧表でわかる「まつわる」と「関する」の最も重要な違い
基本的には、周辺の事情や物語なら「まつわる」、対象そのものや内容なら「関する」と覚えるのが簡単です。「まつわる」は情緒的、「関する」は客観的な響きを持ちます。
まず、結論からお伝えしますね。
この二つの言葉の最も重要な違いを、以下の表にまとめました。これさえ押さえれば、基本的な使い分けはバッチリです。
| 項目 | まつわる | 関する |
|---|---|---|
| 中心的な意味 | ある物事にくっついている、付随していること | ある物事と関係がある、その内容についてであること |
| 焦点 | 周辺の事情、エピソード、背景 | 対象そのもの、範囲、内容 |
| ニュアンス | 情緒的、物語的、柔らかい | 客観的、硬い、事務的 |
| よく使われる対象 | 伝説、噂、思い出、エピソード | 法律、データ、書類、事件 |
一番大切なポイントは、「まつわる」は中心から少し広がった「周辺」を指し、「関する」は「対象」と直線的に結びついているということです。
例えば、「この土地にまつわる話」と言えば、その土地に伝わる不思議な伝説や昔話のような雰囲気が漂いますよね。一方で、「この土地に関する話」と言うと、土地の面積や所有権、地価といった客観的な情報を指す場合にも使えます。
ビジネスの現場で「本件にまつわる資料です」と提出すると、「何か裏話でもあるのかな?」と勘違いされてしまうかもしれませんので、注意が必要ですよ。
なぜ違う?漢字の成り立ち(語源)からイメージを掴む
「まつわる」の漢字「纏わる」は糸が巻き付く様子を表し、離れがたい結びつきや周辺を意味します。「関する」の「関」は“関わり”を表し、対象との関係性を客観的に示します。
なぜこの二つの言葉にニュアンスの違いが生まれるのか、漢字の成り立ちや語源を紐解くと、その理由がよくわかりますよ。
「まつわる」の語源:「纏」が表す“絡みつく”イメージ
「まつわる」を漢字で書くと「纏わる」となります。「纏(てん・まと-う)」という字は、糸偏がついていることからも分かるように、本来は「糸が絡みつく」「巻き付く」という意味を持っています。
そこから転じて、「ある物事から離れずに付き従う」「付随する」という意味になりました。
何かにツル植物が絡みついている様子を想像してみてください。本体そのものではないけれど、その周りに密接にくっついているもの。それが「まつわる」のイメージです。
だからこそ、「まつわる」は、中心となる事柄に付随する「噂」や「伝説」、「エピソード」といった、少しウェットで情緒的な周辺情報に使われることが多いんですね。
「関する」の語源:「関」が表す“関係性”のイメージ
一方、「関する」の「関」という字は、「関所(せきしょ)」や「玄関」のように、出入りを閉ざすかんぬきを意味していましたが、そこから転じて「関わる」「関係する」という意味で広く使われるようになりました。
「関する」は、ある物事とつながりがあるという事実を客観的に述べるときに使われます。
こちらは、対象と対象の間に線が引かれているような、ドライで論理的な結びつきのイメージです。感情や物語性よりも、「関係の有無」や「対象の範囲」に焦点が当たっています。
そのため、事実関係を正確に伝える必要があるビジネス文書や論文、ニュースなどでは「関する」が好んで使われるわけです。
具体的な例文で使い方をマスターする
ビジネス文書や公的な場では客観的な「関する」を、物語やエピソードを紹介する文脈では情緒的な「まつわる」を選びましょう。状況に応じた使い分けが、文章の説得力を高めます。
言葉の違いは、具体的な例文で確認するのが一番ですよね。
ビジネスと日常、そして間違いやすいNG例を見ていきましょう。
ビジネスシーンでの使い分け
ビジネスでは客観性が重視されるため、「関する」の出番が圧倒的に多いです。
【OK例文:関する】
- 来年度の予算編成に関する会議を行います。
- 個人情報の取り扱いに関する規定を改定しました。
- 本プロジェクトに関するご質問は、担当者までお願いします。
【OK例文:まつわる(限定的)】
- 創業時にまつわる苦労話が、社長の口から語られた。(※エピソードとして語る場合)
- 業界の裏側にまつわる事情通の話を聞く。(※公にはできない周辺事情の場合)
ビジネスの場であっても、雑談やスピーチなどで「ちょっとしたエピソード」を披露する際には「まつわる」を使うと、聞き手の興味を惹きやすくなるでしょう。
日常会話・創作での使い分け
日常会話や文章を書く際には、表現したいニュアンスに合わせて使い分けます。
【OK例文:まつわる】
- この神社には、悲恋にまつわる伝説が残されている。
- 祖母から、この着物にまつわる思い出話を聞いた。
- 映画の撮影秘話にまつわるインタビュー記事を読んだ。
【OK例文:関する】
- 健康に関するテレビ番組をよく見ている。
- 昨日の事件に関するニュースが流れていた。
- 旅行の手続きに関するメールが届いた。
これはNG!間違えやすい使い方
意味は通じることもありますが、違和感を与える使い方を見てみましょう。
- 【NG】来週の営業会議にまつわる資料を作成してください。
- 【OK】来週の営業会議に関する資料を作成してください。
会議の資料は、会議そのものの内容やデータを指すはずです。「まつわる資料」と言うと、会議の裏話や、会議室の幽霊話のような「周辺のエピソード」を集めた資料のように聞こえてしまい、上司を困惑させてしまうかもしれません。
- 【NG】宇宙の起源にまつわる科学的な論文を読む。
- 【OK】宇宙の起源に関する科学的な論文を読む。
科学的な論文は客観的な事実や理論を扱うものなので、「関する」が適切です。「まつわる」を使うと、神話や伝承のようなニュアンスが強くなってしまいます。
【応用編】似ている言葉「巡る」との違いは?
「巡る(めぐる)」は、一つの事柄を中心にして、その周囲で議論や対立などが起こる場合に使います。複数の意見や動きが取り巻いている動的なイメージを持つ言葉です。
「まつわる」や「関する」と似た言葉に「巡る(めぐる)」があります。ニュースなどでよく耳にしますよね。
「巡る」は、ある物事を中心点・争点として、その周りで複数の人や意見が動いている場合に使われます。
【例文:巡る】
- 消費税の増税を巡る議論が国会で続いている。
- 遺産相続を巡って親族が争っている。
- その事件の解釈を巡り、専門家の意見が分かれた。
「関する」が静的で一対一の関係性を示すのに対し、「巡る」はもっと動的で、周囲をぐるりと取り囲んでいるようなイメージです。「まつわる」とも似ていますが、「巡る」には「対立」や「議論」といったニュアンスが含まれることが多いのが特徴ですね。
「まつわる」と「関する」の違いを学術的に解説
コーパス(言語データベース)を用いた分析でも、「関する」は法律・制度・調査などの硬い名詞と共起しやすく、「まつわる」は話・噂・伝説などの物語性のある名詞と結びつきやすい傾向が明らかです。
専門的な視点から、この二つの言葉の違いをもう少し深掘りしてみましょう。
国立国語研究所などが提供している大規模な言語コーパス(実際に使われている言葉のデータベース)を分析すると、それぞれの言葉が「どのような名詞と一緒に使われているか(共起語)」に明確な傾向が見られます。
「~に関する」の前に来る名詞としては、以下のようなものが上位に挙がります。
- 法律、条例、規定
- 調査、研究、データ
- 事項、問題、件
これらはすべて、客観的な事実や制度、体系的な知識を指す言葉です。つまり、「関する」は論理的・客観的な情報の結合に使われる機能語としての側面が強いと言えます。
一方、「~にまつわる」の前に来る名詞はどうでしょうか。
- 話、噂、エピソード
- 伝説、神話、因縁
- お金、男と女、事件
こちらには、人間臭さや物語性、あるいは少しドロドロした事情を含んだ言葉が並びます。「まつわる」は、単なる関係性だけでなく、そこに付随する情緒や背景事情を含意する言葉だということが、データからも裏付けられています。
このように、言葉の選び方は単なる好みの問題ではなく、伝えたい情報の「質」を定義する重要な要素なんですね。
「まつわる」を使って上司にキョトンとされた体験談
僕も新人ライターの頃、この言葉の選び方でちょっとした恥をかいたことがあります。
ある企業のPR案件で、新製品の発売に合わせたプレスリリースを作成していたときのことです。少しでも読者の興味を引こうと、言葉に凝りすぎてしまったんですね。
見出しに「新技術にまつわるデータ公開!」と大きく書いて提出しました。
すると、チェックをしてくれた編集長が、その部分を指差して不思議そうな顔で言いました。
「ねえ、これ、『まつわるデータ』って書いてあるけど……このデータには何かドラマチックな裏話でもあるの? 開発室の幽霊話とか、涙なしでは語れない秘話とか」
「えっ、いえ、ただの性能比較データですが……」と僕が答えると、編集長は苦笑い。
「だったら素直に『関するデータ』でいいじゃない。これだと、読み手は『どんな面白い話が書いてあるんだろう』って期待してクリックするけど、中身が無機質なグラフだけだったらガッカリするよ。『釣り』だと思われちゃう」
ハッとしました。僕はただ「関する」という言葉が堅苦しいから、少し柔らかくしようとして「まつわる」を選んだだけでした。しかし、その選択が、読み手に対して誤った期待(物語性があるという予感)を抱かせてしまっていたのです。
言葉にはそれぞれが持つ「温度感」や「匂い」のようなものがあります。「まつわる」には物語の匂いが、「関する」には事実の冷徹さがあります。
それ以来、僕は言葉を選ぶとき、「自分が伝えたいのは『物語(まつわる)』なのか、『事実(関する)』なのか」を自問するようになりました。たった一語の違いですが、それが読者に与える印象を決定づけるのだと痛感した出来事でした。
「まつわる」と「関する」に関するよくある質問
Q. 迷ったときはどちらを使えばいいですか?
A. ビジネスや公的な文書であれば、迷わず「関する」を選んでください。それが最も無難で正確です。逆に、ブログやエッセイで、読者に親しみを持ってほしい場合や、裏話を紹介したい場合は「まつわる」を使うと効果的ですよ。
Q. 「係わる(かかわる)」との違いは何ですか?
A. 「係わる」は、関係するという意味もありますが、「従事する」というニュアンスが強くなります。「教育に係わる仕事」のように使います。「関する」は対象について述べる際に使い、従事するという意味はありません。
Q. 英語ではどう使い分けますか?
A. 「関する」は “about”, “regarding”, “concerning”, “related to” などが使われます。「まつわる」のニュアンスを出したい場合は、”associated with”(関連した)や、文脈によっては “story behind”(~の裏話)のような表現を使うとしっくりくることが多いですね。
「まつわる」と「関する」の違いのまとめ
「まつわる」と「関する」の違い、スッキリご理解いただけたでしょうか。
最後に、この記事のポイントをまとめておきますね。
- 基本のイメージ:「まつわる」は周辺に絡みつく糸、「関する」は対象をつなぐ線。
- 使い分けの基準:物語やエピソードなら「まつわる」、客観的な事実や内容なら「関する」。
- ビジネスでは:誤解を避けるため、原則として「関する」を使用する。
- 応用:「巡る」は中心にあるものを囲んで議論などが動いている状態。
言葉の選び方一つで、あなたの文章が「情緒的」にも「知的」にもなります。
「この話は、事実を伝えたいのかな? それとも背景にある物語を伝えたいのかな?」と一瞬考えるだけで、あなたの表現力は格段に上がりますよ。これからは自信を持って、場面に合った言葉を選んでいってくださいね。
言葉の使い分けについてさらに知りたい方は、漢字の使い分けの違いまとめ記事もぜひご覧ください。
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