「身に付ける」と「身に着ける」、どちらの漢字を使えばいいか迷ったことはありませんか?
実はこの2つの言葉、「知識や技術などの内面的なもの」か「衣服やアクセサリーなどの物理的なもの」かで使い分けるのが基本です。
パソコンやスマホで変換する際、どちらも候補に出てくるため、うっかり間違った方を選んでしまうことも多いですよね。
この記事を読めば、それぞれの言葉の核心的なイメージから具体的な使い分け、さらには公的な指針に基づいたルールまでスッキリと理解でき、もう二度と変換ミスで悩むことはありません。それでは、まず最も重要な違いから見ていきましょう。
結論:一覧表でわかる「身に付ける」と「身に着ける」の最も重要な違い
「身に付ける」は知識や技術など内面的な習得に使い、「身に着ける」は衣服やアクセサリーなど物理的な着用に使います。迷ったときは「習得」か「着用」かで判断しましょう。
まず、結論からお伝えしますね。
この二つの言葉の最も重要な違いを、以下の表にまとめました。これさえ押さえれば、基本的な使い分けはバッチリです。
| 項目 | 身に付ける | 身に着ける |
|---|---|---|
| 中心的な意味 | 自分のものにする、習得する | 身体の表面にまとう、装着する |
| 対象 | 知識、技術、教養、習慣、実力 | 衣服、帽子、靴、アクセサリー、防具 |
| ニュアンス | 内面に取り込んで一体化する | 外面を覆う、取り付ける |
| 言い換え | マスターする、習得する | 着る、着用する、装着する |
一番大切なポイントは、それが「目に見えない能力」なのか、「目に見える装備」なのかということです。
スキルアップは「身に付ける」、ドレスアップは「身に着ける」と覚えておくと便利でしょう。
なぜ違う?漢字の成り立ち(語源)からイメージを掴む
「付」は「くっつく・加わる」という意味で能力が自分の一部になるイメージ、「着」は「衣服をきる」という意味で身体の表面にまとうイメージを持つと、違いが明確になります。
なぜこの二つの言葉にニュアンスの違いが生まれるのか、漢字の成り立ちを紐解くと、その理由がよくわかりますよ。
「身に付ける」の成り立ち:「付」が表す“一体化”のイメージ
「付」という漢字は、人に手渡す様子や、何かがぴたりとくっつく様子を表しています。
「付属」や「付着」といった言葉からもわかるように、主となるものに何かが加わって離れない状態を指します。
つまり、「身に付ける」とは、知識や技術が自分の体や心にぴたりとくっついて、自分の一部として一体化している状態を表しているんですね。
「身に着ける」の成り立ち:「着」が表す“衣服”のイメージ
一方、「着」という漢字は、「衣服をきる」ことや「到着する」ことを意味します。
「着用」や「着脱」という言葉があるように、衣服や装備品を身体の表面に置く、というニュアンスが強いです。
このことから、「身に着ける」には、物理的に身体の表面を覆ったり、飾ったりするという、外側からのアプローチの意味が含まれるのです。
具体的な例文で使い方をマスターする
ビジネススキルや習慣は「身に付ける」、スーツやネクタイは「身に着ける」を使います。防具や装飾品など身体に直接装着するものは「着ける」が基本です。
言葉の違いは、具体的な例文で確認するのが一番ですよね。
ビジネスと日常、そして間違いやすいNG例を見ていきましょう。
ビジネスシーンでの使い分け
対象が能力なのか装備なのかを意識すると、使い分けは簡単ですよ。
【OK例文:身に付ける】
- 新入社員研修で、基本的なビジネスマナーを身に付ける。
- 英語力を身に付けて、海外事業部への異動を目指す。
- 早起きの習慣を身に付けることで、仕事の効率が上がった。
【OK例文:身に着ける】
- 商談の際は、清潔感のあるスーツを身に着けるようにしている。
- セキュリティカードを常に身に着けておくことが義務付けられている。
- プレゼンに向けて、勝負ネクタイを身に着ける。
このように、内面的な成長には「付ける」、外見的な装いには「着ける」が適しています。
日常会話での使い分け
日常会話でも、考え方は同じです。
【OK例文:身に付ける】
- 子供の頃に身に付けたピアノの技術は、大人になっても忘れない。
- 一般常識を身に付けていないと、社会に出てから苦労する。
【OK例文:身に着ける】
- 寒くなってきたので、厚手のコートを身に着ける。
- お守りを肌身離さず身に着ける。
- パーティーのために、華やかなアクセサリーを身に着ける。
これはNG!間違えやすい使い方
意味は通じることが多いですが、漢字の使い分けとしては不適切な例を見てみましょう。
- 【NG】語学力を身に着けるために留学する。
- 【OK】語学力を身に付けるために留学する。
語学力は服のように着たり脱いだりできるものではなく、自分の中に蓄積されるものなので「付ける」が正解です。
- 【NG】新しい腕時計を身に付ける。
- 【OK】新しい腕時計を身に着ける。
腕時計は物理的に装着するものなので、「着ける」を使います。ただし、「時計を見る習慣を身に付ける」という場合は「付ける」になります。ややこしいですが、文脈が大事ですね。
【応用編】似ている言葉「身に纏う」との違いは?
「身に纏う」は衣服などをゆったりと着る、または雰囲気や光などを帯びる際に使います。「身に着ける」より文学的で、全身を包み込むようなニュアンスが強い表現です。
「身に付ける」「身に着ける」と似た表現に、「身に纏う(まとう)」があります。これも知っておくと、表現の幅が広がりますよ。
「纏う」は、衣服などを体にからませるように着ることを意味しますが、「身に着ける」よりも優雅で、全体を包み込むようなイメージがあります。
また、物理的な衣服だけでなく、「悲しみを身に纏う」や「妖気を身に纏う」のように、雰囲気やオーラを帯びる場合にも使われます。
「身に着ける」が実用的な装着を表すのに対し、「身に纏う」は少し文学的で、情緒的なシーンに適していると言えるでしょう。
「身に付ける」と「身に着ける」の違いを学術的に解説
文化庁の「異字同訓の漢字の使い分け例」では、技術・知識・習慣は「付」、衣服・装身具は「着」と明示されています。公用文やビジネス文書ではこの基準に従うのが最も確実で信頼性と説得力が高い方法です。
実は、この「身に付ける」と「身に着ける」の使い分けについては、国が明確な指針を出しています。
文化庁の文化審議会国語分科会が作成した「異字同訓の漢字の使い分け例」をご存知でしょうか?これは、公用文や学校教育などで、同音異義語をどのように書き分けるかの基準を示したものです。
この資料によると、以下のように分類されています。
- 付ける:技術・知識・習慣・実力などを自分のものとする。(例:技術を身に付ける)
- 着ける:衣服・装身具などを身につける。(例:袴(はかま)を身に着ける)
つまり、公的な文書やビジネス文書においては、この基準に従って書き分けることが「正解」とされているのです。
個人のブログやSNSであれば多少の揺らぎは許容されますが、仕事でのメールや報告書では、この公的な基準を意識することで、「しっかりと言葉を知っている人だ」という信頼感に繋がりますよ。
詳しくは文化庁のウェブサイトなどで実際の資料を確認してみるのも面白いかもしれませんね。
僕が「身に付ける」の変換ミスで恥をかいた体験談
僕も新人ライター時代、この使い分けで顔から火が出るような思いをしたことがあります。
あるファッション誌のWeb記事を担当していた時のこと。「この秋、大人の女性が身に付けるべきアクセサリー特集」というタイトルで記事を執筆し、納品しました。
記事の内容自体は好評だったのですが、公開直前に編集長から一本の連絡が入りました。
「君、アクセサリーは『知識』や『教養』じゃないんだから、『身に付ける』じゃなくて『身に着ける』だよ。これだと、アクセサリーの製造技術を習得する記事みたいに見えちゃうよ」
言われてみればその通りです。僕はパソコンの変換候補の最初に出てきた「身に付ける」を、何も考えずに確定してしまっていたのです。華やかなジュエリーを紹介する記事なのに、漢字一つでなんだか堅苦しい「修行」のようなニュアンスが含まれてしまっていたんですね。
修正は間に合いましたが、「たった一文字の違いが、記事全体の雰囲気を壊しかねない」という怖さを痛感しました。
それ以来、僕は「付ける」と変換するたびに、「これは習得か?装着か?」と自問自答するクセがつきました。失敗は痛いものですが、言葉への感度を高める良いきっかけになったと今では思っています。
「身に付ける」と「身に着ける」に関するよくある質問
時計や眼鏡は「身に付ける」と「身に着ける」のどっちですか?
物理的に装着するものなので、本来は「身に着ける」が適切です。しかし、慣用的に「身に付ける」と表記されることも多く、間違いとは言い切れません。ただし、厳密な書き分けが求められる場面では「着ける」を選ぶのが無難でしょう。
「自信を身につける」は漢字でどう書きますか?
自信は内面的なものなので、「身に付ける」と書きます。ただ、この場合は「身につける」とひらがなで表記することも多く、柔らかい印象を与えたい場合はひらがなもおすすめです。
公用文ではどちらに統一されていますか?
公用文では、知識や技術には「付ける」、衣服や装身具には「着ける」と明確に使い分けられています。どちらか一方に統一されているわけではなく、文脈に応じた適切な漢字を使用することが求められています。
「身に付ける」と「身に着ける」の違いのまとめ
「身に付ける」と「身に着ける」の違い、スッキリご理解いただけたでしょうか。
最後に、この記事のポイントをまとめておきますね。
- 基本の区別:内面的な習得なら「付ける」、物理的な着用なら「着ける」。
- 漢字のイメージ:「付」は一体化、「着」は衣服の着用。
- 公的な基準:文化庁の指針でも明確に区別されている。
- 迷ったら:「習得する」と言い換えられるなら「付ける」、「装着する」と言い換えられるなら「着ける」。
言葉の背景にある漢字のイメージを掴むと、機械的な暗記ではなく、感覚的に使い分けられるようになります。
これからは自信を持って、的確な言葉を選んでいきましょう。漢字の使い分けについてさらに知りたい方は、漢字の使い分けの違いをまとめたページもぜひご覧ください。
スポンサーリンク