一般的に、迷ったら「驕る」を使えば間違いありません。
なぜなら、「驕る」は「思い上がる」という意味で広く使われる一方、「傲る」は常用漢字表にはなく、「相手を見下す」というニュアンスがより強い、少し特殊な表現だからです。
この記事を読めば、「平家物語」の一節からビジネスシーンでの態度の戒めまで、二つの漢字が持つ微妙なニュアンスの違いを理解し、教養ある大人の使い分けができるようになります。
それでは、まず二つの決定的な違いから詳しく見ていきましょう。
結論:一覧表でわかる「驕る」と「傲る」の最も重要な違い
基本的には「驕る」を使います。「驕る」は地位や権力を誇ってわがままに振る舞うこと。「傲る」は相手を侮って見下すことですが、常用漢字ではないため、一般的には「驕る」で代用されることが多いです。
まず、結論からお伝えしますね。
この二つの言葉の最も重要な違いを、以下の表にまとめました。
| 項目 | 驕る(おごる) | 傲る(おごる) |
|---|---|---|
| 中心的な意味 | 地位や力を頼んで、わがままに振る舞うこと。 | 相手を軽く見て、見下す、あなどること。 |
| ニュアンス | 「増長する」「いい気になる」 | 「バカにする」「踏んぞり返る」 |
| 漢字の種別 | 常用漢字(平成22年追加) | 表外漢字(常用漢字ではない) |
| 代表的な熟語 | 驕慢(きょうまん)、驕奢(きょうしゃ) | 傲慢(ごうまん)、傲岸(ごうがん) |
| 有名な用例 | 「驕れる人も久しからず」(平家物語) | (単独の動詞としては稀) |
一番大切なポイントは、「傲る」は常用漢字ではないため、公用文やメディアではあまり使われないということですね。
「おごり高ぶる」と言いたいときは、「驕る」を使うのが一般的で安全です。
なぜ違う?漢字の成り立ち(語源)からイメージを掴む
「驕」は「馬」が制御できずに暴れる様子から「わがまま」を意味し、「傲」は「人」が背伸びをして相手を見下す様子から「あなどる」を意味します。
なぜこの二つの言葉にニュアンスの違いが生まれるのか、漢字の成り立ちを紐解くと、その理由がよくわかりますよ。
「驕る」の成り立ち:「馬」が表す“制御不能な勢い”
「驕」という字は、「馬(うまへん)」に「喬(きょう)」と書きますね。
「喬」には「高い」という意味があります。
もともとは、馬が背を高くして勢いづき、御しがたいほど元気でたけだけしい様子を表していました。
そこから転じて、人が自分の力や地位を頼みにして、わがまま勝手に振る舞うこと、増長することを意味するようになりました。
エネルギーが有り余って、調子に乗っているイメージですね。
「傲る」の成り立ち:「人」が表す“他者への見下し”
一方、「傲」という字は、「人(にんべん)」に「敖(ごう)」と書きます。
「敖」は「遊びほうける」といった意味を持ちますが、ここでは「背伸びをする」というイメージも含みます。
つまり、人が背を反らせて相手を見下ろす、ふんぞり返るという態度を表しているのです。
「驕る」が自分自身の状態(増長)に焦点があるのに対し、「傲る」は他者に対する態度(侮蔑)に焦点がある点が特徴的です。
具体的な例文で使い方をマスターする
自分の成功に酔いしれて態度が大きくなる場合は「驕る」、相手をバカにして偉そうな態度を取る場合は「傲る」のニュアンスですが、日常的にはどちらも「驕る」で表現するのが自然です。
言葉の違いは、具体的な例文で確認するのが一番ですよね。
ビジネスと日常、それぞれのシーンでの使い分けを見ていきましょう。
ビジネスシーンでの使い分け
ビジネスでは、成功したときこそ謙虚さが求められます。
【OK例文:驕る】
- 彼はプロジェクトの成功に驕ることなく、次の課題に取り組んだ。
- 「勝って兜の緒を締めよ」と言うが、勝利に驕ると足元をすくわれるぞ。
- 自社の技術力に驕り、顧客のニーズを見落としてしまった。
これらは「調子に乗っている」「油断している」という文脈なので、「驕る」がぴったりです。
【OK例文:傲る(※あえて使う場合)】
- 部下に対して傲った態度を取ると、信頼を失うことになる。(※「傲慢な」と言い換える方が一般的)
- 才能に傲り、努力を怠る者は大成しない。
「傲る」は単独の動詞として使うよりも、「傲慢(ごうまん)」や「傲岸不遜(ごうがんふそん)」といった熟語で使われることが多いですね。
日常会話での使い分け
日常でも、自分を戒める言葉として使われます。
【OK例文:驕る】
- 「平家物語」の冒頭、「驕れる人も久しからず」は無常観を表している。
- 少し褒められたからといって、驕ってはいけないよ。
これはNG!間違えやすい使い方
最も注意すべきは、「食事をごちそうする」という意味で使ってしまうことです。
- 【NG】今日は給料日だから、焼肉を驕ってやるよ。
- 【OK】今日は給料日だから、焼肉を奢ってやるよ。
「おごる」という読みは同じでも、意味が全く異なります。詳しくは次で解説しますね。
【応用編】似ている言葉「奢る」との違いは?
「奢る(おごる)」は、金品を気前よく振る舞うこと、または贅沢をすることを意味します。「驕る・傲る」が「態度」の問題であるのに対し、「奢る」は「行為(金銭)」の問題です。
「おごる」と聞いて、一番身近なのは「ランチをおごる」の「奢る」ではないでしょうか。
この「奢」という字は、「大」きな「者」と書きますが、本来は「贅沢(ぜいたく)」という意味です。
「奢侈(しゃし)禁止令」などの歴史用語で見たことがあるかもしれませんね。
贅沢をする、身分不相応な派手なことをする、という意味から転じて、「他人に気前よく金品を振る舞う」という意味で使われるようになりました。
「態度が大きい(驕る・傲る)」のと、「気前が良い(奢る)」のは、全く別物ですので、漢字変換の際は特に注意しましょう。
「驕る」と「傲る」の違いを学術的に解説
「驕」は平成22年の改定で常用漢字入りしましたが、「傲」は表外漢字のままです。公用文等の基準では、常用漢字である「驕」を使用するか、あるいは平仮名で表記することが推奨されます。
言葉の専門的な視点から、この二つの漢字の扱いについて解説します。
文化庁が告示している「常用漢字表」において、「驕」は平成22年(2010年)に追加されました。
これにより、公用文や新聞などでも「驕る」という表記が堂々と使えるようになりました。
一方、「傲」は常用漢字表には含まれていません。
「傲慢」などの熟語は広く認知されていますが、「おごる」という訓読みで「傲る」と書くことは、公的な文書作成の基準(「公用文作成の考え方」等)に照らすと、一般的ではないとされます。
したがって、レポートや論文、ビジネス文書など、正確さが求められる場面では、「驕る」と書くか、あるいは読みやすさを考慮して「おごる」と平仮名にするのが適切です。
言葉の正しさや基準についてより深く知りたい方は、文化庁の国語施策情報などを参照することをおすすめします。
(歴史小説に影響されすぎて報告書で大失敗した話)
あれは入社3年目の頃、少し仕事に慣れてきた私が犯した、恥ずかしいミスの話です。
当時、私は北方謙三氏の歴史小説「三国志」にドハマりしていました。英雄たちの生き様や、重厚な文体にすっかり魅了されていたのです。
そんなある日、競合他社の動向分析レポートを上司に提出することになりました。
競合A社は業界トップの座にあぐらをかき、サービスの質が低下しているように見えました。私は小説で覚えたての言葉を使いたくてたまらず、レポートの結びにこう書いたのです。
「A社は長年の首位独走に傲り、顧客の声に耳を傾けていない。これぞまさに傲岸不遜の極みであり、我々に勝機がある」
「傲」という字を使うことで、A社の鼻持ちならない態度を強調し、かつ自分の文章力をアピールできると本気で思っていました。
提出後、上司に呼び出されました。
「君さ、小説家志望なら応援するけど、これビジネス文書だよね? 『傲る』なんて常用漢字じゃないし、そもそも感情的すぎるよ。『現状に満足し(あるいは驕り)、改善を怠っている』くらいでいいんじゃないの?」
顔から火が出るかと思いました。
自分の知識をひけらかしたいという「驕り」が、独りよがりな文章を生んでしまったのです。
それ以来、言葉選びは「かっこよさ」ではなく、「読み手にとっての分かりやすさと適切さ」を最優先にするよう心がけています。
もちろん、今でも歴史小説は大好きですが、レポートに「傲る」と書くことは二度とありません。
「驕る」と「傲る」に関するよくある質問
「平家物語」の「おごれる人」はどっちの漢字ですか?
「驕れる」を使います。「驕れる人も久しからず」は、権力や地位を誇ってわがままに振る舞う人は、長くその栄華を保つことはできないという意味です。「驕」の字が持つ「勢いに乗って増長する」イメージがぴったりですね。
「傲る」は「あなどる」とも読みますか?
はい、読みます。「傲」という漢字には「あなどる(侮る)」という意味も含まれており、相手を見下すニュアンスが強いです。ただ、現代では「あなどる」と書くのが一般的で、「傲る」と書いて「あなどる」と読ませるケースは稀です。
「奢る」と間違えない良い覚え方はありますか?
「奢る」の下には「者(もの)」という字がありますよね。「者」にお金をあげる(おごる)とイメージしてみてはどうでしょう。一方、「驕る」は「馬」が暴れるイメージ、「傲る」は「人」がふんぞり返るイメージで覚えると区別しやすいですよ。
「驕る」と「傲る」の違いのまとめ
「驕る」と「傲る」の違い、スッキリご理解いただけたでしょうか。
最後に、この記事のポイントをまとめておきますね。
- 基本は「驕る」:思い上がる、わがままに振る舞うという意味で、常用漢字として一般的に使われます。
- 「傲る」は「見下す」:相手を侮るニュアンスが強いですが、常用漢字外なので使用頻度は低めです。
- 「奢る」は別物:食事をごちそうしたり、贅沢をしたりする行為を指します。
- ビジネスでは平易に:難しい漢字を使うより、「驕る」や平仮名を使う方が親切です。
言葉の背景にある漢字のイメージを掴むと、機械的な暗記ではなく、感覚的に使い分けられるようになります。
これからは自信を持って、的確な言葉を選んでいきましょう。漢字の使い分けについてさらに知りたい方は、漢字の使い分けの違いをまとめたページもぜひご覧ください。
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