一般的に、迷ったら「恐れる」を使えば間違いありません。
なぜなら、「恐れる」は常用漢字として広く認められている正しい表記ですが、「怖れる」という読み方は常用漢字表には含まれておらず、公的な場では使われない表現だからです。
この記事を読めば、ビジネス文書での正しい使い分けから、小説などで見かける「怖れる」の持つ独特なニュアンスまで、言葉のプロとして自信を持って使いこなせるようになりますよ。
それでは、まず二つの決定的な違いから詳しく見ていきましょう。
結論:一覧表でわかる「恐れる」と「怖れる」の最も重要な違い
基本的には「恐れる」を使います。「恐れる」は心配や懸念を含む広い意味で使われ、常用漢字表にある正しい読み方です。「怖れる」はビクビクする恐怖心を表しますが、常用漢字表外の読み方であるため、公的な文章では使用しません。
まず、結論からお伝えしますね。
この二つの言葉の最も重要な違いを、以下の表にまとめました。
| 項目 | 恐れる(おそれる) | 怖れる(おそれる) |
|---|---|---|
| 中心的な意味 | 失敗や悪い事態を心配する。威厳にうたる。 | 身に危険を感じてビクビクする。 |
| 漢字の種別 | 常用漢字(正しい読み) | 表外読み(常用漢字表にない読み) |
| 使われる場面 | 公用文、ビジネス、新聞、日常全般。 | 小説、個人の表現、主観的な恐怖。 |
| 対象 | 失敗、将来、神、権力、天災など幅広い。 | お化け、猛獣など「怖い」と感じるもの。 |
| ニュアンス | 「懸念する」「敬う」も含む理知的な側面あり。 | 「恐怖する」「おびえる」という感情的側面。 |
一番大切なポイントは、公用文やビジネス文書では「恐れる」一択であるということですね。
「怖」という漢字は「怖い(こわい)」と読む場合は常用漢字ですが、「おそれる」と読む場合は常用外となります。
なぜ違う?漢字の成り立ち(語源)からイメージを掴む
「恐」は心が突き動かされるような不安や懸念を表し、客観的な脅威や抽象的な対象にも使われます。「怖」は心が布のように広がる、つまり恐怖で張り裂けそうなビクビクした心理状態を表し、より直接的な恐怖感に結びついています。
なぜこの二つの言葉にニュアンスの違いが生まれるのか、漢字の成り立ちを紐解くと、その理由がよくわかりますよ。
「恐れる」の成り立ち:「恐」が表す“内面的な不安と懸念”
「恐」という字は、「心」に「工(つらぬく)」と「凡(とりもつ)」を組み合わせた形から来ています。
これは、心が突き動かされるような強い衝撃や、内面から湧き上がる不安を表しています。
そこから、「悪い結果になるのではないか」という将来への懸念や心配、あるいは「恐縮する」のように相手の力に圧倒される気持ちを意味するようになりました。
単なる恐怖だけでなく、理知的な判断としての「リスクへの警戒」も含まれるのが特徴です。
「怖れる」の成り立ち:「怖」が表す“生理的なおびえ”
一方、「怖」という字は、「心(りっしんべん)」に「布」と書きますね。
「布」は広く行き渡ることを意味します。
ここから、恐怖心が心全体に広がる様子や、脅かされてビクビクする状態を表します。
「怖い(こわい)」と読むことからも分かるように、生理的、感覚的に「こわい」と感じておびえるニュアンスが強い漢字です。
理屈抜きに体がすくむような恐怖、それが「怖」のイメージですね。
具体的な例文で使い方をマスターする
失敗や変化など抽象的な対象には「恐れる」、お化けや猛獣など感覚的に怖い対象には「怖れる(小説など)」を使いますが、ビジネスでは全て「恐れる」で統一します。
言葉の違いは、具体的な例文で確認するのが一番ですよね。
ビジネスや公的な場と、心情を表現する場での使い分けを見ていきましょう。
ビジネス・公用文での使い分け(すべて「恐れる」)
仕事やニュースでは、基本的に「恐れる」を使います。
【OK例文:恐れる】
- 企業は、風評被害を恐れて情報の公開をためらった。
- 失敗を恐れずに、新しいことにチャレンジしよう。
- 大型台風の接近により、甚大な被害が恐れられている。
これらは「心配する」「懸念する」という意味合いが強いため、「恐」が最適です。
心情的・文学的な表現での使い分け(あえて「怖れる」)
小説やエッセイなどで、ビクビクする感情を強調したい場合は「怖れる」が使われることがあります。
【OK例文:怖れる(※個人的な表現として)】
- 子供の頃、私は暗闇に潜む怪物をひどく怖れていた。
- 死を怖れるあまり、彼は部屋から一歩も出られなくなった。
「怖い(こわい)」と言い換えられる文脈では、「怖れる」の字をあてることがありますが、あくまで常用外の表現であることを理解しておきましょう。
これはNG!間違えやすい使い方
意味は通じますが、表記として不適切な例です。
- 【NG】社長は、株価の暴落を怖れている。
- 【OK】社長は、株価の暴落を恐れている。
「株価の暴落」は「心配・懸念」の対象であり、お化けのようにビクビクする対象ではないため、ビジネス文書としても常用漢字の観点からも「恐れる」が正解です。
【応用編】似ている言葉「畏れる」との違いは?
「畏れる(おそれる)」は、神仏や偉人など、自分より優れた存在に対して敬いの気持ちを持って接することを意味します。「畏敬の念」などの言葉に使われ、単なる恐怖や心配とは異なります。
「おそれる」には、もう一つ「畏れる」という漢字があります。
これも常用漢字(平成22年に追加)ですので、公用文で使うことができます。
「畏れる」は、偉大なものや尊いものに対して、敬意を払い、自分の身を引き締めるという意味です。
「神を畏れる」「自然の力を畏れる」といった使い方が代表的です。
「恐れる」が「悪いことが起きないか心配する」というネガティブな感情を含むのに対し、「畏れる」はポジティブな「敬意」を含んでいる点が大きな違いですね。
「恐れる」と「怖れる」の違いを学術的に解説
「恐」は常用漢字表で「おそれる」の訓読みが認められていますが、「怖」は「こわい」のみで「おそれる」は認められていません。したがって、公的な基準では「おそれる」と読む場合は「恐」を使用するのが正則です。
言葉の専門的な視点から、この二つの漢字の扱いについて解説します。
内閣告示の「常用漢字表」を見ると、それぞれの漢字の読み方は次のように定められています。
- 恐:音読み=キョウ、訓読み=おそ(れる)・おそ(ろしい)
- 怖:音読み=フ、訓読み=こわ(い)
ご覧の通り、「怖」には「おそれる」という訓読みが記載されていません。
これを「表外読み(ひょうがいよみ)」と言います。
学校教育や公用文、新聞・テレビなどのメディアでは、原則として常用漢字表の音訓に従うというルールがあります。
そのため、教科書やニュースで「おそれる」と書く場合は、必ず「恐れる」が使われます。
「怖れる」と書いても間違いではありませんが、公的な基準からは外れた、個人的または文学的な表現技法の一つという位置づけになります。
詳しく知りたい方は、文化庁の常用漢字表などで確認することができます。
(ホラー映画の感想文で「怖れる」を連発して赤っ恥をかいた話)
僕は映画が好きで、特にホラー映画には目がありません。
学生時代、映画サークルの会報誌に自信満々で新作ホラーのレビューを寄稿したときのことです。
「観客は得体の知れない怪物を怖れ、その場から逃げ出そうとする」
「主人公は死を怖れながらも、果敢に立ち向かっていく」
「とにかく映像が怖ろしい」
僕は「怖い映画なのだから、『怖』という字を使うのが最も適切で、臨場感が出るはずだ」と信じて疑いませんでした。
しかし、サークルの先輩(国文学専攻)から原稿が返ってきて愕然としました。
赤ペンで真っ赤に修正されていたのです。
「君の言いたいことは分かるけど、『怖れる』って常用漢字の読み方じゃないんだよね。小説ならいいけど、会報誌みたいな公的な読み物で連発すると、単に漢字を知らない人だと思われちゃうよ。あと『怖ろしい』も『恐ろしい』が正解だからね」
顔から火が出るほど恥ずかしかったのを覚えています。
「怖い」という感情に引きずられて、漢字のルールを完全に無視していたのです。
それ以来、僕は「おそれる」と書くときは、どんなに怖くても「恐れる」と書くようにしています。
感情を表現したいなら、「おそれ」という言葉ではなく、「恐怖におののく」や「身の毛もよだつ」といった別の表現を使うべきだったのだと、その時学びました。
「恐れる」と「怖れる」に関するよくある質問
どちらを使えばいいか迷ったら?
迷ったら「恐れる」を使いましょう。「恐れる」は常用漢字であり、心配、懸念、恐怖、畏怖など、あらゆる「おそれ」の意味をカバーできる万能な言葉です。間違いになることはまずありません。
「怖れる」を使うのは間違いですか?
間違いではありませんが、一般的ではありません。小説や詩などで、ビクビクする恐怖感を視覚的に強調したい場合に作家があえて使う表現です。ビジネスや学校のテストでは避けるべきです。
「恐い」と「怖い」の違いは何ですか?
「こわい」と読む場合、常用漢字表にあるのは「怖い」だけです。「恐い」は常用外の読み方になります。したがって、「こわい」と書きたいときは「怖い」を、「おそろしい」と書きたいときは「恐ろしい」を使うのが正しい使い分けです。
「恐れる」と「怖れる」の違いのまとめ
「恐れる」と「怖れる」の違い、スッキリご理解いただけたでしょうか。
最後に、この記事のポイントをまとめておきますね。
- 基本は「恐れる」:常用漢字であり、心配・懸念・恐怖のすべてに使えます。
- 「怖れる」は常用外:ビクビクする感情を表しますが、公用文では使いません。
- ビジネスでは統一:文書作成時は「恐れる」を使用し、誤字を防ぎましょう。
- 「畏れる」は敬意:神仏や偉人への敬いの気持ちを表す場合はこちらを使います。
言葉の背景にある漢字のイメージを掴むと、機械的な暗記ではなく、感覚的に使い分けられるようになります。
これからは自信を持って、的確な言葉を選んでいきましょう。漢字の使い分けについてさらに知りたい方は、漢字の使い分けの違いをまとめたページもぜひご覧ください。
スポンサーリンク