「お勧め」と「お薦め」、どちらも「おすすめ」と読みますが、この二つの使い分けに迷ったことはありませんか？
「店員のお勧め商品」なのか、「店員のお薦め商品」なのか。あるいは、「保険への加入をお勧めする」のか、「お薦めする」のか。
実は、この二つは「行動を促す」か、「人や物を推す」かという点で明確に使い分けられます。
この記事を読めば、それぞれの漢字が持つ本来の意味や、ビジネス・公用文での適切な使い分けがスッキリと理解でき、もう変換候補で迷うことはありません。
それでは、まず最も重要な違いから詳しく見ていきましょう。
結論：一覧表でわかる「お勧め」と「お薦め」の最も重要な違い
「お勧め」は相手に行動を促す「勧誘」のニュアンス。「お薦め」は優れた人や物を紹介する「推薦」のニュアンス。迷ったら平仮名の「おすすめ」が最も無難です。
まず、結論からお伝えしますね。
この二つの言葉の決定的な違いを、以下の表にまとめました。
これさえ押さえれば、基本的な使い分けはバッチリです。
| 項目 | お勧め（すすめ） | お薦め（すすめ） |
|---|---|---|
| 中心的な意味 | ある行動をするよう促すこと | 良い人や物を採用するよう説くこと |
| キーワード | 勧誘、奨励 | 推薦、推挙 |
| 対象 | 行為、アクション | 人物、物品、作品 |
| ニュアンス | 「〜したほうがいいですよ」 | 「これがいいですよ」 |
一番大切なポイントは、「勧誘（かんゆう）」なら「勧」、「推薦（すいせん）」なら「薦」という漢字の使い分けです。
「読書（という行為）を勧める」けれど、「この本（という物）を薦める」という違いですね。
なぜ違う？漢字の成り立ち（語源）からイメージを掴む
「勧」は力を添えて励ます意味で、相手の背中を押すイメージ。「薦」は草を敷いて供え物を捧げる意味から、良いものを差し出すイメージ。どちらも「進める」と同語源で、前進させる意味を持ちます。
なぜこの二つの言葉にニュアンスの違いが生まれるのか、漢字の成り立ちや語源を紐解くと、その理由がよくわかりますよ。
「勧める」の成り立ち：「力」を添えて背中を押す
「勧」という漢字は、「力（ちから）」と「雚（かん）」から成り立っています。
「雚」はコウノトリのような鳥を表し、本来は「力」を添えて励ます、という意味があります。
つまり、「お勧め」とは相手の背中をグッと押して、ある行動をするように励ますイメージです。
「勉強を勧める」「入会を勧める」などがこれに当たりますね。
「薦める」の成り立ち：良いものを「差し出す」
一方、「薦」という漢字は、草かんむりが付いている通り、もともとは「草（こも）」を意味しました。
神前に供え物をするときに下に敷く草のことで、そこから転じて「良いものを差し出す」「捧げる」という意味を持つようになりました。
したがって、「お薦め」は「これ、すごく良いものですよ」と自分のイチオシを相手に差し出すイメージになります。
「ランチのお薦めメニュー」や「お薦めの映画」などがこれです。
具体的な例文で使い方をマスターする
「行動」を促すなら「勧め」、「人・物」を推すなら「薦め」を使います。迷ったら平仮名が安全ですが、ビジネスでは漢字の使い分けが信頼感に繋がります。
言葉の違いは、具体的な例文で確認するのが一番ですよね。
ビジネスと日常、そして間違いやすいNG例を見ていきましょう。
「お勧め」を使った例文（行動・勧誘）
相手に「何かをすること」を促す場面で使います。
【OK例文】
- 健康のために、毎日のウォーキングをお勧めします。（行動）
- 老後の備えとして、個人年金への加入をお勧めする。（勧誘）
- お客様に別室への移動をお勧めした。（案内・促し）
- 「まあ、一杯どうぞ」とお酒を勧める。（行為の促し）
「お薦め」を使った例文（人・物・推薦）
具体的な対象（人や物）をピックアップして紹介する場面で使います。
【OK例文】
- 今週のシェフのお薦めパスタはこちらです。（物品）
- プロジェクトリーダーには、彼をお薦めします。（人物）
- 初心者にお薦めのパソコンを教えてください。（物品）
- 私のお薦めスポットは京都の嵐山です。（場所）
これはNG！間違えやすい使い方
文脈によっては意味が通じることもありますが、漢字の持つ本来の意味からは外れてしまう例です。
- 【NG】ダイエットのために、野菜を食べることをお薦めする。
- 【OK】ダイエットのために、野菜を食べることをお勧めする。
「食べること（行為）」を促しているので、「勧め」が適切です。もし「この野菜（物）」が良いと紹介するなら「この野菜をお薦めする」となります。
【応用編】似ている言葉「お奨め」との違いは？
「お奨め」は「奨励」の意味で「お勧め」とほぼ同義ですが、常用漢字表にない読み方（表外読み）です。公用文や一般的なビジネス文書では「お勧め」を使うのがルールです。
「お勧め」や「お薦め」のほかに、「お奨め」という表記を見かけることもありますよね。
これも整理しておくと、より正確な使い分けができます。
「お奨め（おすすめ）」は、「奨励（しょうれい）」という言葉があるように、ある事柄を「良いことだとして、強めるように励ます」という意味です。
意味としては「お勧め」とほぼ同じで、相手に行動を促す際に使われます。
- お勧め：一般的な勧誘、行動の促し。常用漢字。
- お奨め：奨励。意味は「勧め」と同じだが、常用漢字表にない読み方。
実は、「奨」という漢字は常用漢字ですが、「すす（める）」という読み方は常用漢字表に含まれていません。
そのため、新聞や公文書では「奨める」とは書かず、「勧める」に統一するのが決まりとなっています。
個人的なメールや手紙で「こだわり」を持って使う分には構いませんが、ビジネス文書では「お勧め」を使うのが無難でしょう。
「お勧め」と「お薦め」の違いを学術的に解説
公用文では「勧める」は「勧誘・奨励」、「薦める」は「推薦・推挙」と使い分けられます。ただし「奨める」は使いません。迷った場合やどちらの意味も含む場合は、平仮名の「おすすめ」が許容されます。
ここでは少し視点を変えて、公用文や学術的な定義から深掘りしてみましょう。
公用文（役所の文書など）における使い分けの基準は非常に明確です。
- 勧める：人がその事を行うように誘いかけること。勧誘。奨励。
- 薦める：ある人や物をほめて、採用するように説くこと。推薦。推挙。
「奨める」については、先ほど触れたように常用漢字表の読みではないため、公用文では「勧める」に書き換えられます。
また、両方のニュアンスを含む場合や、どちらか判別しにくいグレーゾーンの場合はどうするのでしょうか？
例えば「この本を読むことをすすめる」場合、行為を促す（勧め）とも言えますし、本という物を推す（薦め）とも言えます。
このような場合、現代の慣習では平仮名の「おすすめ」と書くことが広く許容されています。
無理に漢字を当てて間違えるよりは、平仮名で柔らかく表現する方が、読み手にとっても親切かもしれませんね。
僕が「お勧め」と書いて赤っ恥をかいた体験談
僕も新入社員の頃、この使い分けで失敗し、上司に苦笑いされた経験があります。
社内報の「社員紹介コーナー」を担当していたときのことです。「先輩社員のイチオシ映画」を紹介する欄の見出しに、大きくこう書きました。
「週末に見たい！ 先輩のお勧め映画ベスト3」
原稿チェックで戻ってきた紙には、赤ペンで「ここは『お薦め』の方がいいな」と修正が入っていました。
僕は「えっ、映画を見ることを勧めてるんだから、勧誘の『勧』で合ってるんじゃないですか？」と反論（生意気ですね…）したのですが、上司は優しく教えてくれました。
「確かに『見ること』を勧めてはいるけど、ここでは『映画そのもの』を推薦してるんだよ。『この映画が良いよ』って差し出してる感じだろ？ だから『薦める』なんだ」
なるほど！ と目からウロコでした。
「行動」をプッシュしているのか、「モノ」をプッシュしているのか。
この視点を持ってからは、迷わずに使い分けられるようになりました。
たった一文字の違いですが、言葉の解像度が上がると、伝えたいニュアンスもより正確になりますよ。
「お勧め」と「お薦め」に関するよくある質問
Q. 飲食店で「本日のおすすめ」と書く場合、漢字はどれが良いですか？
A. メニュー（料理＝物）を推薦しているので、漢字なら「お薦め」が正解です。しかし、堅苦しさを避けるために平仮名で「おすすめ」としたり、カタカナで「オススメ」とするお店も多いです。どれも間違いではありません。
Q. 友達に「これオススメ！」とLINEで送るときは？
A. カジュアルな場面ならカタカナの「オススメ」が便利です。「お勧め」や「お薦め」よりもポップで親しみやすい印象を与えます。もちろん、平仮名の「おすすめ」でもOKです。
Q. 「お奨め」は絶対に使ってはいけませんか？
A. いいえ、間違いではありません。個人のブログや手紙などで、相手を強く励ますニュアンス（奨励）を込めたい場合に「お奨め」を使うことは可能です。ただし、公的な文書やビジネスメールでは、常用漢字である「お勧め」を使う方がマナーとして無難です。
「お勧め」と「お薦め」の違いのまとめ
「お勧め」と「お薦め」の違い、スッキリご理解いただけたでしょうか。
最後に、この記事のポイントをまとめておきますね。
- 基本の使い分け：行動を促すなら「お勧め」、人や物を推すなら「お薦め」。
- 漢字のイメージ：「勧」は背中を押す（勧誘）、「薦」は差し出す（推薦）。
- 公的なルール：「お奨め」は使わず「お勧め」に統一する。
- 迷ったら：平仮名の「おすすめ」が万能で安心。
「これは良いものだよ」と物を差し出すときは「薦」、「やってみたら？」と行動を促すときは「勧」。
このイメージを持っておけば、もう迷うことはありません。
これからは自信を持って、的確な言葉を選んでいきましょう。さらに言葉の使い分けについて知りたい方は、漢字の使い分けの違いまとめの記事も参考にしてみてください。
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