「今月の広告運用、ROIは300%を超えました!大成功です!」
自信満々に報告した僕に、CFO(最高財務責任者)は冷ややかな視線を向けてこう言いました。「でも君の部署、在庫が山積みでキャッシュフローが悪化しているよね? 事業部全体のROICは目標未達だよ」と。
この記事を読めば、現場が追うべき「ROI」と経営層が見ている「ROIC」の決定的な視点のズレを理解し、ビジネスの会話で恥をかかないための正確な使い分けができるようになります。
それでは、まず最も重要な違いの一覧表から詳しく見ていきましょう。
結論:一覧表でわかる「ROI」と「ROIC」の最も重要な違い
まず、結論からお伝えしますね。
この二つの言葉の最も重要な違いを、以下の表にまとめました。これさえ押さえれば、基本的な使い分けはバッチリです。
| 項目 | ROI(アールオーアイ) | ROIC(ロイック) |
|---|---|---|
| 日本語訳 | 投資利益率 | 投下資本利益率 |
| 中心的な意味 | 特定の施策や投資案件に対する利益率 | 事業や企業全体の資本効率 |
| 分母(投資) | 個別の投資額(広告費、設備費など) | 投下資本(有利子負債 + 株主資本) |
| 分子(利益) | その施策から得られた利益 | 税引後営業利益(NOPAT) |
| 評価の視点 | 点(この施策は儲かったか?) | 面(この事業は資本コストに見合うか?) |
| 主な利用者 | マーケター、現場担当者、投資家 | 経営者、経営企画、機関投資家 |
基本的には、個別のプロジェクトや施策の成果を見るなら「ROI」、事業全体の稼ぐ力を評価するなら「ROIC」と覚えるのが簡単です。
マーケティング担当者であるあなたは、日々の施策改善のためにROIを追いかけることが多いでしょう。しかし、経営陣は銀行から借りたお金や株主から預かったお金(資本)を使って、会社全体でどれだけ効率よく利益を生み出したか、つまりROICを重視しているのです。
なぜ違う?漢字の成り立ち(語源)からイメージを掴む
アルファベットの略語は、元の英語を展開して意味を理解すると、その違いが鮮明にイメージできるようになります。
ROI:Return On Investment
ROIは「Return On Investment」の略です。
- Return(リターン):利益、見返り
- On:~に対する
- Investment(インベストメント):投資
ここでの「Investment」は、広告費や特定のツール導入費など、「個別の投資アクション」を指すニュアンスが強いです。「その1万円の投資で、いくら儲かったの?」というシンプルな問いかけですね。
ROIC:Return On Invested Capital
一方、ROICは「Return On Invested Capital」の略です。
- Invested Capital(インベステッド・キャピタル):投下資本
ここが最大のポイントです。「投下資本」とは、単なる経費ではありません。銀行からの借入金(有利子負債)と、株主からの出資金(株主資本)を合計した、「事業を行うために調達した元手すべて」を指します。
つまりROICは、「人様から預かった大切なお金を使って、どれだけ効率よくリターンを出したか?」という、より重みのある経営責任を問う指標なのです。
具体的な例文で使い方をマスターする
定義がわかったところで、実際のビジネスシーンでどう使われているかを見てみましょう。視点の違いに注目してください。
ROIを使うシーン:現場の改善
ROIは、特定の施策が成功したかどうかを判断するために使われます。
- 「今回のWeb広告キャンペーン、ROIは200%を超えたから継続しよう。」
- 「新システム導入のROIを試算して、決裁を通さないといけない。」
- 「この展示会への出展は費用対効果が悪く、ROIが低いので見送ろう。」
このように、「やるかやらないか」「どの施策が優秀か」を比較検討する場面で活躍します。
ROICを使うシーン:経営判断と事業評価
ROICは、事業の存続や構造改革を議論するような、より高い視座で使われます。
- 「A事業部は利益額は大きいが、設備投資がかさみROICが低下している。」
- 「中期経営計画では、全社ROICを8%以上に引き上げることを目標とする。」
- 「在庫を削減して投下資本を圧縮し、ROICを改善しよう。」
ここでは、単に売上が上がれば良いわけではなく、「資産(在庫や設備)を減らして効率よく稼ぐ」という視点が含まれていることに気づきましたか? これがROIC経営の真髄です。
【応用編】似ている言葉「ROE」「ROA」との違いは?
ROICとセットでよく出てくるのが「ROE」と「ROA」です。これらも「稼ぐ力」を見る指標ですが、分母が異なります。
| 指標 | 名称 | 分母(何に対して?) | 特徴 |
|---|---|---|---|
| ROIC | 投下資本利益率 | 有利子負債 + 株主資本 | 事業そのものの稼ぐ力を見る。資金調達構成に左右されにくい。 |
| ROE | 自己資本利益率 | 自己資本(株主資本) | 株主から見た効率。借金を増やせば数値が上がるため、財務リスクが見えにくい場合がある。 |
| ROA | 総資産利益率 | 総資産 | 会社にある全資産の効率。買掛金などの負債もすべて含むため、事業の実態がぼやけることがある。 |
ROEは投資家(株主)にとって最も重要ですが、現場の事業部長がコントロールできない「財務レバレッジ(借金の割合)」の影響を受けます。そのため、事業現場の努力目標としては、事業活動に直結する資産のみを対象としたROICの方が適切とされるケースが増えているのです。
「ROI」と「ROIC」の違いを学術的に解説
ここからは少し専門的な視点、特に「資本コスト」との関係から解説します。
なぜ今、日本企業で「ROIC経営」が叫ばれているのでしょうか? そのきっかけの一つが、2014年に経済産業省が発表した通称「伊藤レポート」です。このレポートでは、日本企業が持続的に成長するために、資本コストを上回る利益率(ROE 8%以上)を目指すべきだと提言されました。
学術的・実務的なコンセンサスとして、ROICは以下の式で評価されます。
- ROIC > WACC(加重平均資本コスト)
WACC(ワック)とは、株主への配当期待や銀行への利息など、資金調達にかかるコストのことです。ROICがWACCを上回っている状態(ROICスプレッドがプラス)こそが、企業価値を創造していると見なされます。
逆に、いくら黒字でもROICがWACCを下回っていれば、投資家から見れば「価値を破壊している」と判断されかねません。ROIが高い施策を積み上げても、過剰な設備投資や在庫でバランスシートが膨らみ、結果としてROICがWACCを割ってしまう……これが多くの日本企業が抱える課題なのです。
参考:経済産業省 これまでの議論を踏まえた整理(ROICについて言及あり)
部分最適の罠にハマった僕の「ROI」と「ROIC」体験談
僕がまだWebマーケティングのマネージャーになりたての頃の失敗談です。
当時、僕はECサイトの売上を伸ばすために、広告運用の最適化に没頭していました。「CPA(獲得単価)を下げろ! ROIを上げろ!」とチームに檄を飛ばし、実際に広告のROIは前年比で150%という驚異的な数値を叩き出したんです。
「これでボーナスアップ間違いなしだ」
そう確信して臨んだ経営会議で、社長から返ってきたのは意外な言葉でした。「神宮寺くん、君の部署、商品の在庫回転率が過去最低だよ。倉庫代と在庫金利で利益が食いつぶされている。ROICで見たら赤字ギリギリだぞ」
頭をガツンと殴られたような衝撃でした。
僕はROI(広告費対効果)を高めるために、欠品による機会損失を極端に恐れ、商品部に「絶対に売り逃すな」と圧力をかけて大量に在庫を積ませていたのです。結果、売上と広告効率は上がりましたが、会社全体の資金(投下資本)を在庫として寝かせてしまい、資本効率(ROIC)を悪化させていたのでした。
この経験から僕は学びました。「ROIは局地戦の武器、ROICは総力戦の羅針盤」なのだと。自分の担当範囲のROIだけを見ていても、会社全体が勝てなければ意味がありません。それ以来、僕はマーケティング施策を考える際も、「これは在庫リスクに見合うか?」「キャッシュフローを圧迫しないか?」と、ROICの視点を持つようになりました。
あなたも、目の前の数字(ROI)だけでなく、その背後にある資本の重み(ROIC)を少しだけ意識してみてください。それだけで、経営陣との会話がスムーズになり、あなたの提案の説得力は格段に増すはずです。
「ROI」と「ROIC」に関するよくある質問
最後に、ROIとROICについてよく聞かれる疑問に、一問一答形式でお答えします。
Q. 小規模な会社でもROICは導入すべきですか?
A. 必須ではありませんが、意識する価値はあります。計算が複雑なので、まずは簡易的に「営業利益 ÷ (借入金+純資産)」で計算し、無駄な資産がないかチェックするだけでも経営体質が強化されますよ。
Q. ROIが高ければ、ROICも高くなりますか?
A. 必ずしもそうなりません。僕の失敗談のように、ROI(PL面の利益率)が高くても、それを生むために莫大な在庫や設備(BS面の資産)を使っていれば、ROICは低くなります。
Q. 現場の社員にROICを意識させるにはどうすればいいですか?
A. 「ROIC」という言葉を使わず、「在庫を減らそう」「遊休資産を売ろう」「回収サイトを早めよう」といった具体的な行動目標(ROICツリーの末端指標)に落とし込んで伝えるのが効果的です。
「ROI」と「ROIC」の違いのまとめ
今回は「ROI」と「ROIC」の違いについて解説しました。
重要なポイントをもう一度振り返ってみましょう。
- ROI(投資利益率):個別の施策に対する「点」の評価。現場の改善に使われる。
- ROIC(投下資本利益率):事業全体の投下資本に対する「面」の評価。経営の効率性を測る。
- 使い分け:施策の良し悪しはROI、事業の存続や全社評価はROIC。
マーケティング用語には、似て非なる言葉がたくさんあります。ROIとROICの違いを理解することは、単なる用語知識を超えて、「現場視点」から「経営視点」へとあなたの視座を引き上げる大きな一歩になります。
もし、他にもマーケティング用語やビジネス用語で迷うことがあれば、ぜひ以下の記事も参考にしてみてくださいね。
言葉の意味を正しく理解して、自信を持ってビジネスを進めていきましょう。
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