「this」と「the」の違いとは?距離感と共通認識で使い分ける

「this」と「the」、どちらを使えばいいのか迷った経験はありませんか?

実はこの2つの言葉、指し示す対象との「距離感」と「共通認識」の有無で使い分けるのが基本です。

「this」は手元にあるものを指すときに使い、「the」はお互いが知っている特定のものを指すときに使います。

この記事を読めば、それぞれの言葉が持つ核心的なイメージから具体的な使い分け、さらにはネイティブスピーカーの感覚までスッキリと理解でき、もう英語を話すときに迷うことはありません。それでは、まず最も重要な違いから見ていきましょう。

結論:一覧表でわかる「this」と「the」の最も重要な違い

【要点】

基本的には手元にある特定のものなら「this」、お互いに分かっている特定のものなら「the」と覚えるのが簡単です。「this」は物理的・心理的な近さを強調し、「the」は共通認識を強調します。

まず、結論からお伝えしますね。

この二つの言葉の最も重要な違いを、以下の表にまとめました。これさえ押さえれば、基本的な使い分けはバッチリです。

項目thisthe
中心的な意味これ、この(手元にあるもの)その、例の(特定されたもの)
品詞指示代名詞、指示形容詞定冠詞
焦点距離の近さ(物理的・心理的)共通認識(どれか分かっていること)
指す動作のイメージ指で「これ!」と指し示す頭の中で「ああ、あれね」と特定する
初出の扱い初めて話題に出すものにも使える(紹介など)既に出た話題や、常識的に特定できるものに使う

一番大切なポイントは、「this」は対象を引き寄せる感覚、「the」は対象を特定する感覚ということですね。

「this」は「ほら、これだよ」と相手の注目を自分に近い場所に集めるイメージですが、「the」は「言わなくても分かるよね、そのことだよ」とお互いの認識を合わせるイメージです。

なぜ違う?基本イメージ(語源・役割)からニュアンスを掴む

【要点】

「this」は「指示詞」として物理的に近いものを強く指し示します。一方、「the」は「定冠詞」として名詞を特定する役割を持ち、距離に関係なく「その」と限定する機能があります。

なぜこの二つの言葉にニュアンスの違いが生まれるのか、その役割とイメージを紐解くと、理由がよくわかりますよ。

「this」のイメージ:スポットライトを当てる「これ」

「this」は「指示詞」と呼ばれるグループに属します。

この言葉には、話し手のすぐ近くにあるものを「これ」と指さすような、強い指示の力があります。

たとえば、手に持っているペンを見せながら話すときや、今まさに話している内容そのものを指すときに使います。

つまり、「this」とは話し手のテリトリー内にあるものにスポットライトを当てる言葉だと考えると分かりやすいですね。

「the」のイメージ:共通の枠で囲む「その」

一方、「the」は「定冠詞」というグループです。

この言葉は、「他でもない、その」と名詞を特定する役割を持っています。

「that(あれ)」や「this(これ)」から派生した言葉とも言われていますが、現代英語では距離感よりも「特定できるかどうか」が重要です。

話し手と聞き手の間で、「ああ、あのことね」と共通の認識がある場合に、その名詞に「the」という枠をはめて特定するイメージですね。

このことから、「the」には、お互いにどれを指しているか分かっている安心感が含まれるんです。

具体的な例文で使い方をマスターする

【要点】

手に持っている本を紹介するなら「this book」、昨日話題に出た本の話をするなら「the book」と使い分けます。「this」は紹介や導入、「the」は既知情報の再確認に適しています。

言葉の違いは、具体的な例文で確認するのが一番ですよね。

日常会話やビジネスシーン、そして間違いやすいNG例を見ていきましょう。

日常会話での使い分け

目の前にあるかどうか、話題に出ているかどうかがポイントです。

【OK例文:this】

  • This is my favorite pen.(これが私のお気に入りのペンです。)
    ※実際に手に持っているか、すぐそばにある場合。
  • I like this cafe.(このカフェ、気に入ったよ。)
    ※今そのカフェに居る場合。

【OK例文:the】

  • Open the door, please.(ドアを開けてください。)
    ※その部屋にある特定のドア(どのドアかお互い分かっている)場合。
  • Where is the cat?(猫はどこ?)
    ※飼っている「その猫」がお互い分かっている場合。

ビジネスシーンでの使い分け

プレゼンやメールでも、距離感と共通認識を意識しましょう。

【OK例文:this】

  • This is our new product.(こちらが弊社の新製品です。)
    ※実物やスライドを見せながら紹介する場合。
  • This project is very important.(このプロジェクトは非常に重要です。)
    ※今取り組んでいる、または話題にしているプロジェクトについて話す場合。

【OK例文:the】

  • Let’s discuss the plan.(その計画について話し合いましょう。)
    ※以前から話題に出ていて、どの計画か共有できている場合。
  • I sent the file yesterday.(昨日、そのファイルを送りました。)
    ※相手も待っていた特定のファイルのこと。

これはNG!間違えやすい使い方

意味は通じることが多いですが、ニュアンスが不自然になる使い方を見てみましょう。

  • 【NG】(電話で自分を名乗るとき)Hello, I am the Tanaka.
  • 【OK】(電話で自分を名乗るとき)Hello, this is Tanaka speaking.

電話では、相手に見えない自分を「こちら側にいる自分」として指し示すため、「this」を使います。「I am」や「the」は使いません。

  • 【NG】(初めて話題に出す不特定の犬を見て)Look at the dog!
  • 【OK】(初めて話題に出す不特定の犬を見て)Look at that dog! / Look at this dog!

唐突に「the dog」と言うと、相手は「え?どの犬のこと?前から話してた犬?」と混乱してしまいます。指さすなら「that」や「this」、単に一匹の犬なら「a dog」を使います。

【応用編】似ている言葉「that」や「it」との違いは?

【要点】

「that」は物理的・心理的に遠いものを指す「あれ・それ」。「it」は既に話題に出たものを受ける「それ」。「this」は近さ、「that」は遠さ、「it」は単なる代用、「the」は特定という役割の違いがあります。

「this」と「the」に関連して、「that」や「it」との違いも整理しておくと、英語の感覚がより研ぎ澄まされますよ。

「that」との違い:距離感が遠い

「this」が「これ(近い)」なら、「that」は「あれ・それ(遠い)」です。

物理的な距離だけでなく、心理的な距離(自分とは関係が薄い、相手の話など)も表します。

「I don’t like this idea.(この考えは好きじゃない)」と言うと、自分の手元にある案や、直近の話題を指しますが、「I don’t like that idea.(その考えは好きじゃない)」と言うと、相手が出した案や、少し前の話題を指すニュアンスになります。

「it」との違い:特定の名詞の代わり

「it」は代名詞で、前に出た名詞を繰り返し避けるために使われます。

「this」や「that」のような「指さす」感覚は弱く、単に「それ」と受けるだけです。

たとえば、「I bought a pen. This is good.(ペンを買ったんだ。これ、いいよ)」と言うと、実物を見せている感じがしますが、「I bought a pen. It is good.(ペンを買ったんだ。それ、いいよ)」と言うと、ペンの性質について淡々と述べている感じになります。

「this」と「the」の違いを言語学的に解説

【要点】

言語学的には「this」は直示性(Deixis)を持ち、文脈や場面に依存して対象を特定します。「the」は定性(Definiteness)を持ち、既知情報や一意に定まる対象であることを示します。「this」は新しい情報の導入にも使われる一方、「the」は旧情報の参照に使われる傾向があります。

少し専門的な視点から、この二つの違いを深掘りしてみましょう。

言語学において、「this」は「直示(ダイクシス)」という機能を強く持っています。

これは、発話の現場における物理的な位置関係や、文脈の中での近接性に基づいて対象を特定する機能です。「this」を使うとき、話し手は対象を自分の領域(近位)にあるものとして扱い、聞き手の注意をそこに誘導しようとする意図が働きます。

一方、「the」は「定性(デフィニットネス)」のマーカーとして機能します。

これは、対象が聞き手にとって同定可能(どれのことか分かる)であることを示します。物理的な距離は関係なく、文脈や常識(太陽は一つだからthe sunなど)によって「唯一に定まる」ことが条件となります。

興味深い点として、口語的な物語り(ナラティブ)では、初めて登場する人物に「There was this guy…(ある男がいてさ…)」のように「this」を使うことがあります。これは「a guy」とするよりも、話し手にとってその人物が心理的に近く、これから重要な役割を果たすことを聞き手に予感させる効果があるからです。

このように、「this」は主観的な近さや重要性を、「the」は客観的な特定性や既知性を表す傾向があると言えるでしょう。

さらに詳しく学びたい方は、国立国語研究所などの言語学に関する資料を参照するのも面白いかもしれません。

「this」と「the」で赤っ恥をかいた僕の英会話体験談

僕も英語を勉強し始めた頃、この「this」と「the」の違いが分からず、恥ずかしい思いをしたことがあります。

初めての海外出張で、現地の同僚とカフェで打ち合わせをしていたときのことです。テーブルの上に、誰かが忘れていったであろう書類がポツンと置かれていました。

僕は気を利かせて、店員さんに「すみません、その書類、忘れ物みたいです」と伝えようとしました。その時、僕は学校で習った「その=the」という知識をフル活用して、自信満々にこう言ったんです。

「Excuse me, the paper is left here.」

すると店員さんはキョトンとした顔で、「Which paper?(どの書類?)」と聞き返してきました。僕は「えっ、目の前にあるこれだよ!」と焦りながら指をさしました。

あとで英語が得意な上司に聞くと、「the paper」と言うと、お互いが既に話題にしていたり、特定されている「例の書類」というニュアンスになるそうです。店員さんにとっては初耳の、しかも目の前にある特定の物体を指すなら、「This paper」と言うべきだったんですね。

「the」を使えば丁寧で正しいと思い込んでいた僕は、顔から火が出る思いでした。「目の前にあるものを指すときは、素直に『this』を使えばいいんだ」と痛感した出来事です。

それ以来、僕は「物理的な距離」と「相手との共有度」を意識して、指さす感覚があるときは迷わず「this」を使うようにしています。

「this」と「the」に関するよくある質問

「this」と「the」、迷ったらどっちを使えばいいですか?

もし目の前に実物があるなら「this」を使って指し示すのが無難です。文章中で前に出てきた言葉を受けるなら「the」が自然です。迷ったときは、指でさせる距離なら「this」、それ以外で特定できるなら「the」と考えてみてください。

「in this morning」と言わないのはなぜですか?

「this morning(今朝)」のように、「this」が時を表す語につくと副詞的な働きをするため、前置詞「in」は不要になります。「in the morning(午前中に)」の場合は、「the morning」が名詞の塊として扱われるため、前置詞「in」が必要になります。

「this」を人の紹介に使うのは失礼ですか?

いいえ、失礼ではありません。パーティーなどで「This is my friend, Ken.(こちらは友人のケンです)」と紹介するのは非常に一般的で丁寧な表現です。ただし、本人に向かって「He is Ken.」と言うよりは、「This is Ken.」と言う方が、その場にいる人を紹介するニュアンスとして適切です。

「this」と「the」の違いのまとめ

「this」と「the」の違い、スッキリご理解いただけたでしょうか。

最後に、この記事のポイントをまとめておきますね。

  1. 距離感の違い:「this」は手元(近い)、「the」は距離に関係なく特定。
  2. 指す動作:「this」は指さすイメージ、「the」は共通認識の枠にはめるイメージ。
  3. 使い分け:実物を見せるなら「this」、既知の話題なら「the」。

言葉の背景にある「距離感」と「共通認識」のイメージを掴むと、機械的な暗記ではなく、感覚的に使い分けられるようになります。

これからは自信を持って、的確な言葉を選んで英語を話していきましょう。英語の微妙なニュアンスについてさらに知りたい方は、英語由来語の違いのページもぜひ参考にしてみてくださいね。

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