「取る」と「採る」、どちらも「とる」と読みますが、メールや書類作成で変換する際に迷ったことはありませんか?
実は、この二つの言葉は「手に入れる」という広い意味か、「選ぶ・集める」という特定の意味かという点で明確に使い分けられます。
この記事を読めば、ビジネスシーンや日常会話で自信を持って正しい漢字を選べるようになり、意図を正確に伝える文章が書けるようになります。
それでは、まず二つの言葉の決定的な違いから詳しく見ていきましょう。
結論:一覧表でわかる「取る」と「採る」の最も重要な違い
基本的には、手に持つ・入手するなど広く一般的に使う場合は「取る」、数ある中から選び出す・採取する場合は「採る」と使い分けます。迷ったときは、最も広い意味を持つ「取る」を使っておけば間違いではありません。
まずは結論からお伝えしますね。
この二つの言葉の違いを整理すると、以下の表のようになります。
これさえ頭に入れておけば、迷うことはほとんどなくなるでしょう。
| 項目 | 取る | 採る |
|---|---|---|
| 中心的な意味 | 手に持つ、手に入れる、取り除く、広く一般的な動作 | 数ある中から選び出す、集める |
| 対象 | 物、資格、連絡、休み、汚れなど | 人材、方法、植物、決、血など |
| ニュアンス | 自分のものにする、除去する | 採用する、採取する |
| 迷ったとき | とりあえず「取る」を使う | 「採用」「採集」と言い換えられるか確認 |
一番大切なポイントは、「採る」は「採用」や「採集」と言い換えられる場合に使うということです。
たとえば、人を雇うときは「採用」するので「採る」ですね。
一方で、単に物を手に持ったり、一般的な動作の場合は「取る」を使います。
「取る」は守備範囲がとても広い言葉なので、他の特定の漢字(採・撮・捕など)に当てはまらない場合は、基本的に「取る」を選べば正解です。
なぜ違う?漢字の成り立ち(語源)からイメージを掴む
「取」は敵の耳を手で切り取る様子から「手に入れる」全般を意味します。「採」は木の実を手で摘み取る様子から「選び取る」「集める」という意味に特化しています。
言葉の根っこにあるイメージを知ると、もう暗記する必要はありませんよ。
それぞれの漢字が持つ本来の意味を紐解いてみましょう。
「取る」のイメージ:戦利品を手に入れる
「取」という字は、「耳」と「又(手)」から成り立っています。
これは古代中国で、戦場で討ち取った敵の左耳を手で切り取り、戦功の証としたことに由来すると言われています。
そこから転じて、自分の手で何かをつかみ取る、手に入れるという広い意味で使われるようになりました。
単に物を手に持つだけでなく、資格を得たり、時間や場所を確保したりする際にも使われる、非常に汎用性の高い漢字です。
「採る」のイメージ:木の実を選んで摘む
一方、「採」という字は、「手偏」に「采(さい)」と書きますね。
「采」は、木の上に実っている果実などを手で摘み取る様子を表しています。
木の実を摘むときは、熟しているものや良いものを「選んで」採りますよね。
そこから、数ある中から選び出す(採用)、自然の中から集める(採取)という意味に特化しました。
「採決」も、賛成か反対か意見を「選び取る」行為なので「採」を使います。
具体的な例文で使い方をマスターする
「連絡を取る」「資格を取る」のように広く使うのが「取る」。「新入社員を採る(採用)」「決を採る(採決)」のように選ぶ・集めるニュアンスが強いのが「採る」です。
では、実際のシーンを想像しながら例文を見ていきましょう。
文脈に合わせて使い分けることで、あなたの文章表現はより洗練されます。
「取る」を使うべきシーン(一般・入手・除去)
最も広く使われるパターンです。
- 机の上の塩を取ってください。
- 明日から夏休みを取る予定です。
- 彼は必死に勉強して資格を取った。
- 洋服についたシミを取る。
- 取引先と連絡を取る。
- 出前を取る。(注文して届けてもらう)
「採る」を使うべきシーン(選択・採集)
「選ぶ」「集める」という意味が強い場合です。
- 今年は新卒を5名採る予定だ。(採用)
- 会議で多数決を採る。(採決)
- 森に昆虫を採りに行く。(採集)
- 健康診断で血を採る。(採血)
- アンケートを採る。(意見を集める=採集)
※「昆虫をとる」は、標本にするために集めるなら「採る」、逃げ回る虫を捕まえるなら「捕る」を使います。
これはNG!間違いやすい使い分け
意味が変わってしまう、あるいは不自然な例です。
- 【NG】 休憩を採る。
- 【OK】 休憩を取る。
休憩は選び出したり集めたりするものではなく、時間を「確保する」ものなので「取る」が正解です。
- 【NG】 汚れを採る。
- 【OK】 汚れを取る。
汚れは「取り除く」ものなので「取る」を使います。「採る」だと、汚れをコレクションとして集めているような変な意味になってしまいますね。
【応用編】似ている言葉「撮る」「捕る」などとの違いは?
「とる」と読む漢字は他にもあります。「撮る」は写真や映画を撮影すること、「捕る」は動いているものを捕まえること、「執る」は事務や政務を扱うこと、「摂る」は栄養などを体に取り入れることを指します。
「とる」という読みの漢字は本当に多いですよね。
「取る」「採る」以外にもよく使われる漢字との違いも整理しておきましょう。
| 漢字 | 意味 | 例文 |
|---|---|---|
| 撮る | 写真や動画を写す | 記念写真を撮る、映画を撮る |
| 捕る | 動くものを捕まえる | 魚を捕る、ボールを捕る、犯人を捕る |
| 執る | 事務や政務を行う、指揮する | 指揮を執る、政務を執る、筆を執る |
| 摂る | 体内に取り入れる | 食事を摂る、栄養を摂る |
特に「食事をとる」は、「取る」でも「摂る」でも間違いではありませんが、栄養摂取のニュアンスを強めたいときは「摂る」が好まれます。
ただし、「摂る」は常用漢字表には読みとして掲載されていない(表外読み)ため、公用文などでは「取る」と書くのが一般的です。
「取る」と「採る」の違いを学術的に解説
公用文の基準では、「取る」は最も広い意味で使われ、他の特定の「とる(採・撮・捕・執・摂)」に当てはまらない場合のデフォルトとして機能します。「採る」は「採用」「採集」の意味に限定して使用されます。
ここで少し専門的な視点から、公用文における使い分けの基準について解説します。
公用文では、原則として常用漢字表に基づいて表記を行います。
「取る」は、その中でも最も広い意味範囲を持つ言葉として位置づけられています。
文化庁の指針や記者ハンドブックなどでも、以下のような区分けが一般的です。
- 採る:選びとる(採用)、採取する(採集・採光)、採決する
- 撮る:撮影する(写真・映画)
- 捕る:捕獲する(魚・小鳥・虫)
- 執る:執行する(事務・指揮)
- 取る:上記以外すべて
つまり、「採・撮・捕・執」の意味に明確に当てはまらないものは、すべて「取る」で表記するというのが基本ルールなのです。
例えば、「栄養をとる」は医学的・専門的な文脈では「摂る」も使われますが、一般的な公用文では「取る」が推奨されます。
「相撲をとる」や「陣地をとる」なども、特定の漢字がないため「取る」となります。
迷ったときは、消去法で「他の特定の漢字の意味に当てはまるか?」と考え、当てはまらなければ「取る」を選ぶのが最も安全で正しいアプローチと言えるでしょう。
僕が「アンケートをとる」の変換で迷った新人時代の体験談
僕も新人マーケター時代、この「とる」の使い分けで上司に指摘されたことがあります。
ある新商品の市場調査のために、街頭でアンケートを実施することになりました。
張り切って企画書を作成し、「駅前で100人にアンケートを取ります」と書いて提出しました。
すると、上司から赤ペンで修正が入ったんです。
「ここは『採る』の方がいいんじゃないか? 意見を『集める(採集)』わけだし、統計を『採る』とも言うだろう」
なるほど、と思い「採る」に直して提出しました。
しかしその後、別の先輩に見せたところ、今度はこう言われました。
「いや、単純に行動としてアンケート用紙を受け取るなら『取る』だし、広く一般的に行うなら『取る』でいいんだよ。そこまで厳密に『採集』の意味を持たせる必要あるかな?」
正直、混乱しました。
結局、辞書や記者ハンドブックを調べまくりました。
結論としては、「アンケート」に関しては「取る」も「採る」もどちらも使われるということでした。
ただ、「意見を集める」というニュアンスを強調したい場合は「採る」、「アンケートを実施する」という行為全体を指す場合は「取る」が自然だという自分なりの解釈に辿り着きました。
「言葉一つで、その行動の目的やニュアンスが変わって見える」
その時の経験から、僕は単に変換候補の先頭を選ぶのではなく、「自分が何を伝えたいのか」を意識して漢字を選ぶようになりました。
今では、文脈に応じてあえて使い分けることもありますが、迷ったときは基本の「取る」を使うようにしています。
あなたも、もし迷ったら「どういう意図でその行動をするのか」を一度考えてみてくださいね。
「取る」と「採る」に関するよくある質問
Q. 「アンケートをとる」はどちらが正解ですか?
A. 一般的には「アンケートを取る」と表記されることが多いです。しかし、「意見を採集する」という意味を込めて「アンケートを採る」と書くことも間違いではありません。ビジネス文書などでは、平易な「取る」を使うか、より具体的に「アンケートを実施する」と表現するのもおすすめです。
Q. 「手段をとる」はどっち?
A. これは「採る」が適切です。「手段を採る」は、数ある方法の中から一つの手段を「選び出す(採用する)」という意味合いが強いためです。「措置を採る」「対策を採る」なども同様に「採る」を使います。
Q. 「歳をとる」は?
A. 「年を取る」と書きます。年齢を重ねることは、選び取ったり集めたりすることではなく、自然と積み重なっていく(手に入れる)ものなので「取る」が使われます。
「取る」と「採る」の違いのまとめ
「取る」と「採る」の違い、スッキリと整理できたでしょうか。
最後に、この記事のポイントをまとめておきますね。
- 基本は「取る」:手に入れる、持つ、取り除くなど、最も広い意味で使われる。迷ったらこれ。
- 選ぶ・集めるは「採る」:採用、採集、採決など、選び出す・集める意味が強い場合。
- 応用:写真は「撮る」、捕獲は「捕る」、事務は「執る」。
言葉は、あなたの思考を映す鏡です。
正しい漢字を選べるようになると、文章に説得力が生まれ、読み手にも「しっかりした人だ」という印象を与えられます。
これからは自信を持って、的確な「とる」を使い分けていってくださいね。
さらに詳しい言葉の知識を深めたい方は、漢字の使い分けまとめ記事もぜひチェックしてみてください。
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