「追従」と「追随」、どちらも「後を追う」という意味合いで使われますが、ビジネスシーンや車の機能説明などで目にしたとき、どちらを使うべきか迷ったことはありませんか?
「前の車にツイジュウして走行する」
「他社のツイズイを許さない技術」
読み方も似ていて混乱しやすいですが、実は明確な使い分けのルールがあります。
結論から言うと、相手に従って行動する場合や物理的にぴったりとついていく場合は「追従」、後から追いかけて追いつこうとする場合は「追随」を使うのが基本です。
この記事を読めば、それぞれの言葉が持つ本来のニュアンスや、意外と知らない「媚びへつらう」という意味の違いまでスッキリと理解でき、自信を持って正しい言葉を選べるようになります。
それでは、まず最も重要な違いから詳しく見ていきましょう。
結論:一覧表でわかる「追従」と「追随」の最も重要な違い
基本的には服従や模倣、物理的な追跡なら「追従」、競争相手に追いつくことなら「追随」と覚えるのが簡単です。「追従」には「ついしょう」と読んで「おべっか」を意味する側面もありますが、技術用語では「ついじゅう」として「遅れなくついていく」意味で使われます。
まず、結論からお伝えしますね。
この二つの言葉の最も重要な違いを、以下の表にまとめました。
これさえ押さえれば、基本的な使い分けはバッチリです。
| 項目 | 追従(ついじゅう) | 追随(ついずい) |
|---|---|---|
| 中心的な意味 | 後につき従う、他人の意見に従う、動きに合わせて動く | 後からあとを追う、先行するものに追いつく |
| 対象 | 権力者、前の車、目標値、流行 | 競合他社、先行者、リーダー |
| ニュアンス | 主従関係、模倣、機械的な反応、媚び(ついしょう) | 競争、キャッチアップ、能力的な接近 |
| よくあるフレーズ | 追従走行、権力に追従する | 他社の追随を許さない |
一番大切なポイントは、「追いつく」という意味が含まれるのは「追随」だけということです。
例えば、「他社の追随を許さない」という表現は、「他社が追いついてくるのを許さないほど圧倒的だ」という意味なので、「追従」を使うのは間違いです。
一方、前の車の速度に合わせて自分の車の速度を自動調整する機能などは、相手の動きに「従っている」ので「追従(機能)」と言います。
なぜ違う?漢字の成り立ち(語源)からイメージを掴む
「従」は人の後ろについていく「主従関係」や「服従」を表し、相手の意志や動きに合わせるイメージです。「随」は「成り行きにまかせる」や「あとを追う」という意味を持ち、先行する背中を追いかけて距離を縮めるイメージを持つと、違いが明確になります。
なぜこの二つの言葉に使い分けが生まれるのか、漢字の成り立ちを紐解くと、その理由がよくわかりますよ。
「追従」の成り立ち:「従」が表す“服従と模倣”のイメージ
「従」という漢字は、「したがう」と読みますよね。
「主従関係」や「服従」という言葉があるように、前の人や強いものに、逆らわずにそのままついていくという意味合いが強い漢字です。
ここから、「追従(ついじゅう)」は、相手の言う通りにする、あるいは相手の動きに対して遅れずにピタリとついていく、というニュアンスになります。
自分の意志で追いつこうとするよりも、「相手ありき」で動くイメージですね。
「追随」の成り立ち:「随」が表す“追跡と到達”のイメージ
一方、「随」という漢字も「したがう」と読みますが、こちらは「随行(ずいこう)」や「付随(ふずい)」のように、くっついていく、あとを追うという意味が中心です。
また、「随」には「やりたいようにする(随意)」という意味もありますが、「追随」という熟語においては「先行するものの後を追って、同じ場所(レベル)に行こうとする」という動的なニュアンスが強くなります。
単についていくだけでなく、「追いつく」「並ぶ」というゴールを目指しているイメージを持つと分かりやすいでしょう。
具体的な例文で使い方をマスターする
機械の動作や人の意見に盲目的に従う場合は「追従」、ビジネスや競争で相手に追いつこうとする場合は「追随」を使います。「追従」には「ついしょう」と読んで「お世辞」を意味する特別な用法もあるため注意が必要です。
言葉の違いは、具体的な例文で確認するのが一番ですよね。
シーン別に、正しい使い分けと間違いやすいNG例を見ていきましょう。
「追従(ついじゅう)」の例文:従う・合わせる
相手の動きや意見に合わせる場合に使います。技術用語としても頻出します。
【OK例文】
- 前の車との車間距離を保ちながら追従して走行する。(追従クルーズコントロール)
- カメラのオートフォーカスが被写体の動きに追従する。
- 上司の意見に盲目的に追従するだけのイエスマンにはなりたくない。
- 流行に追従するだけのファッションは個性がない。
- (※読み注意)上役に追従(ついしょう)を言って気に入られようとする。(=お世辞、媚び)
「追随(ついずい)」の例文:追う・追いつく
先行するライバルや目標を追いかける場合に使います。
【OK例文】
- 圧倒的な技術力で、他社の追随を許さない。
- 世界的な株安に追随して、日本株も値下がりした。
- 先輩の業績に少しでも追随できるよう努力する。
- 先行するトップランナーに追随する動きを見せる。
これはNG!間違いやすい使い方
特にビジネスの決まり文句での誤用に注意しましょう。
- 【NG】他社の追従を許さない独創的な製品。
- 【OK】他社の追随を許さない独創的な製品。
「追従を許さない」だと、「他社が自社の意見に従うことを許さない」あるいは「他社が自社に媚びることを許さない」という変な意味になってしまいます。「追いつかせない」という意味なので「追随」が正解です。
- 【NG】前の車に追随して走る機能。
- 【OK】前の車に追従して走る機能。
間違いとまでは言えませんが、自動車などの機能説明では、相手の動きに合わせて制御するという意味で「追従(ついじゅう)」が定着しています。「追随」だと、レースで追い抜こうとしているような競争のニュアンスが出てしまいます。
【応用編】似ている言葉「追尾」「随伴」との違いは?
「追尾(ついび)」は対象を見失わないように後をつけることで、主に軍事や警察、追跡調査などで使われます。「随伴(ずいはん)」は高貴な人や主要なものに付き従っていくことで、お供や副作用などに使われます。「追従」や「追随」よりも用途が限定的です。
「追従」や「追随」と似た言葉に「追尾」や「随伴」があります。
これらも合わせて整理しておくと、表現の幅が広がりますよ。
「追尾(ついび)」:あとをつける
相手のあとからついていくことですが、「見張る」「逃がさないようにする」というニュアンスが強くなります。
- 犯人の車をパトカーで追尾する。
- 追尾ミサイル。(ターゲットを追いかけて飛ぶ)
「随伴(ずいはん)」:ともなう
主となるものに付き従っていくことです。「お供」のイメージや、ある事象に伴って別の事象が起こる場合に使います。
- 社長の海外視察に随伴する。
- 経済成長に随伴して環境問題が発生する。
「追従」と「追随」の違いを学術的に解説
国語辞典などの定義では、「追従」は「人のあとにつき従うこと」「人の意向に従うこと」「媚びへつらうこと(ついしょう)」とされ、主体性のなさが強調されます。一方、「追随」は「後からついていくこと」「先行するものに追いつくこと」とされ、距離を縮めるプロセスや到達の意味が含まれます。
ここでは少し視点を変えて、辞書の定義や学術的なニュアンスからこの二つの言葉を深掘りしてみましょう。
広辞苑などの定義を見ると、以下のようになっています。
- 追従(ついじゅう):
1. 人のあとにつき従うこと。
2. 人の説や行いを見て、その通りにすること。(例:流行に追従する)
3. (「ついしょう」とも読む)人の機嫌をとってへつらうこと。 - 追随(ついずい):
1. あとからついていくこと。
2. 先に行くものに追いつくこと。(例:他の追随を許さない)
ポイントは、「追従」には「模倣(真似)」や「服従」の要素が強く、「追随」には「到達(追いつく)」の要素が強いという点です。
学術論文や技術文書などでは、「目標値(ターゲット)」に対して出力値がどれだけ正確についていくかを評価する指標として「追従性(ついじゅうせい)」という言葉が使われます。
これは、目標の動きを「模倣」して遅れを出さないことが重要だからです。
一方、経済学や経営学で「フォロワー戦略(追随戦略)」と言う場合は、トップ企業(リーダー)の成功事例を真似て、市場シェアなどで「追いつこう」とする戦略を指します。
このように、分野によっても使われ方に傾向があるのが面白いところですね。
僕が企画書で「他社の追従を許さない」と書いて指摘された体験談
僕も新入社員の頃、この「追従」と「追随」の違いで、顔から火が出るような恥ずかしい思いをしたことがあります。
自社の新製品のプロモーション企画書を作成していた時のことです。
圧倒的なスペックをアピールしたくて、キャッチコピー案に自信満々でこう書きました。
「業界最高峰! 他社の追従を許さないスピードを実現」
「追従(ついじゅう)」という響きが、なんとなく専門的でカッコいいと思っていたんです。それに、前の車についていく機能を「追従機能」と言うから、ついてこさせないという意味で合っているだろうと。
意気揚々と上司に提出したところ、返ってきた企画書には赤ペンで修正が入っていました。
「意気込みはいいけど、ここは『追随(ついずい)』だね。『追従を許さない』だと、他社がウチの言うことを聞くのを許さない、みたいになっちゃうよ(笑)」
その瞬間、自分の勘違いに気づき、冷や汗が止まりませんでした。
「追従」は「従う」こと。「追随」は「追いつく」こと。
僕が言いたかったのは、「他社に追いつかせない」ということだったので、「追随」が正解だったのです。
もしそのまま社外プレゼンに出していたら、「この会社は日本語も正しく使えないのか」と思われていたかもしれません。
この失敗から、「追随を許さない」はセットで覚える慣用句として、僕の辞書に深く刻み込まれました。
言葉の響きだけで選ばず、漢字の意味をしっかり考えることの大切さを痛感した出来事でした。
「追従」と「追随」に関するよくある質問
Q. 「お世辞を言う」という意味で使うのはどっち?
A. 「追従」です。ただし、この場合は「ついじゅう」ではなく「ついしょう」と読みます。「追従笑い(ついしょうわらい)」のように使われ、相手に媚びへつらうことを指します。「追随」にはこの意味はありません。
Q. 「追随」を「ついじゅう」と読むのは間違いですか?
A. はい、間違いです。「随」は「ずい」と読みます。「随筆(ずいひつ)」や「随分(ずいぶん)」と同じ読み方です。「ついじゅう」と読むのは「追従」だけです。
Q. 技術的な文章で「ターゲットに追随する」と書くのはあり?
A. 文脈によりますが、制御工学やカメラなどの分野では、目標の動きに合わせて動くことを「追従(ついじゅう)」と表現するのが一般的です。「追随」を使うと、遅れていたものが追いつくという意味合いが強くなるため、リアルタイムでぴったり合わせるニュアンスなら「追従」の方が適切です。
「追従」と「追随」の違いのまとめ
「追従」と「追随」の違い、スッキリご理解いただけたでしょうか。
最後に、この記事のポイントをまとめておきますね。
- 基本は「従う」か「追いつく」か:相手に従う・合わせるなら「追従」、追いかける・並ぶなら「追随」。
- ビジネスの定型句:「他社の追随を許さない」が正解。「追従」は誤り。
- 技術・機械用語:動きに合わせて制御する場合は「追従(機能・性)」を使う。
- 読み方の注意:媚びる意味の「追従」は「ついしょう」と読む。
言葉の背景にある「服従」と「追跡」のイメージを掴んでおけば、もう迷うことはありません。
これからは自信を持って、状況にぴったりの言葉を選んでみてくださいね。
漢字の使い分けについてさらに詳しく知りたい方は、漢字の使い分けの違いまとめの記事もぜひ参考にしてみてくださいね。
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