「許す」と「赦す」の違いとは?許可と免罪で変わる重みと使い分け

「許す」と「赦す」、どちらも「ゆるす」と読みますが、その漢字が持つ意味の重さに違いを感じたことはありませんか?

実はこの2つの言葉、「許可や容認といった広い意味」か「罪や過ちを免除するという特定の深い意味」かで使い分けるのが基本です。

普段のメールやチャットでは「許す」を使うのが一般的ですが、小説や映画、あるいは心からの謝罪の場面では「赦す」という表現に出会うこともありますよね。

この記事を読めば、それぞれの言葉の核心的なイメージから具体的な使い分け、さらには公的なルールまでスッキリと理解でき、言葉に込める想いを正しく選べるようになります。それでは、まず最も重要な違いから見ていきましょう。

結論:一覧表でわかる「許す」と「赦す」の最も重要な違い

【要点】

「許す」は許可や承認など広い意味で使われる一般的な表記で、「赦す」は罪や過ちを責めずに免除するという限定的で重い意味を持ちます。迷ったときは常用漢字である「許す」を使えば間違いありません。

まず、結論からお伝えしますね。

この二つの言葉の最も重要な違いを、以下の表にまとめました。これさえ押さえれば、基本的な使い分けはバッチリです。

項目許す赦す
中心的な意味認める、許可する、大目に見る罪や過ちを免除する、責めない
対象行為、願い、機会、ミス、心罪人、重い過失、負債、敵
ニュアンス制限を解く、受け入れる(広い)解き放つ、救済する(深い・重い)
使用頻度極めて高い(常用漢字)低い(文語的・宗教的)

一番大切なポイントは、それが日常的な「許可・容認」なのか、罪に対する「免除・救済」なのかということです。

一般的には「許す」を使っておけば間違いありませんが、深い慈愛や免罪のニュアンスを込めたいときに「赦す」が使われます。

なぜ違う?漢字の成り立ち(語源)からイメージを掴む

【要点】

「許」は言葉を聞き入れて認めるイメージ、「赦」は罪をあきらかにして手放す(放免する)イメージを持つと、対象の違いが明確になります。

なぜこの二つの言葉にニュアンスの違いが生まれるのか、漢字の成り立ちを紐解くと、その理由がよくわかりますよ。

「許す」の成り立ち:「言」+「午」で“聞き入れる”イメージ

「許」という字は、「言(ことば)」と「午(杵の形、上下運動)」から成り立っています。

これは、相手の言葉(願い)を聞き入れて、うなずく(上下に動く)様子を表していると言われています。

つまり、「許す」とは、相手の願いを聞き届けて、行動を認めたり、制限を解除したりするという、コミュニケーションに基づいた許可のイメージなんですね。

「赦す」の成り立ち:「赤」+「攵」で“解き放つ”イメージ

一方、「赦」という字は、「赤(大きくあきらか)」と「攵(動作を表す)」から成り立っています。

これは、罪をあきらかにした上で、それを突き詰めずに放免することを意味します。

「恩赦(おんしゃ)」や「容赦(ようしゃ)」という言葉からもわかるように、本来なら罰せられるべきものを、あえて責めずに解き放つという、権力や慈悲による免除のイメージが強いのです。

具体的な例文で使い方をマスターする

【要点】

「外出を許す」「ミスを許す」など日常的な場面では「許す」を使い、「罪を赦す」「捕虜を赦す」など罪や責任を問わない場面では「赦す」を使います。

言葉の違いは、具体的な例文で確認するのが一番ですよね。

ビジネスや日常、そして少し重いシチュエーションでの使い分けを見ていきましょう。

ビジネスシーン・日常での「許す」

「許す」は、許可、承認、あるいは軽微なミスを大目に見る場合に使います。

【OK例文:許す】

  • 上司に休暇の申請をしてもらう。(許可)
  • スケジュールの都合がす限り参加します。(可能・容認)
  • 部下の小さな失敗をすのも度量の一つだ。(大目に見る)
  • 心をせる同僚と飲みに行く。(警戒を解く)

このように、ビジネスや生活の中での「OKを出す」「認める」という場面はすべて「許す」ですね。

特別な場面での「赦す」

「赦す」は、罪、背信、大きな過ちを、本来なら罰するところをあえて罰しない場合に使います。

【OK例文:赦す】

  • 彼はかつての敵をし、和解の手を差し伸べた。(免罪)
  • 自らの犯した罪がされる日を待ちわびている。(宗教的・法的免除)
  • 神は悔い改める者をし給う。(宗教的救済)

「赦す」を使うと、そこには「罪の意識」と「それを超える慈悲」というドラマチックな背景が浮かび上がります。

これはNG!間違えやすい使い方

意味が通じなくはないですが、漢字の持つニュアンスとして不適切な例を見てみましょう。

  • 【NG】門限に遅れたが、母は笑ってしてくれた。
  • 【OK】門限に遅れたが、母は笑ってしてくれた。

門限遅れは「罪」というほど重いものではなく、家庭内のルールの話なので「許す」が自然です。「赦す」だと、まるで犯罪を犯したかのような大げさな表現になってしまいます。

  • 【NG】予算の範囲内でされる贅沢をする。
  • 【OK】予算の範囲内でされる贅沢をする。

ここでの「ゆるされる」は「可能である」「認められる」という意味なので、「許す」を使います。

【応用編】似ている言葉「恕す」との違いは?

【要点】

「恕(ゆる)す」は、相手の事情を汲み取り、思いやりの心で許すことを指します。「仁愛」や「同情」のニュアンスが強く、孔子の教えなど倫理的な文脈で使われることが多い言葉です。

「許す」「赦す」のほかに、「恕(ゆる)す」という漢字があるのをご存知でしょうか?

「恕」は、「その如(ごと)く心」と書くように、自分の心と同じように相手の心を思いやることを意味します。

孔子の『論語』にも登場する言葉で、「自分がされたくないことは人にもしない」という思いやりの精神を表します。

つまり、「恕す」とは、単に許可したり罪を免じたりするだけでなく、「相手の立場や事情を深く理解し、広い心で受け入れる」という、精神的な・道徳的な許しを指すのです。

「許す」や「赦す」よりもさらに内面的で、人格の高さを示すような美しい日本語ですね。

「許す」と「赦す」の違いを学術的に解説

【要点】

「赦」は常用漢字表にない読み方(表外読み)あるいは常用漢字外のため、公用文や新聞などのメディアでは原則として「許す」に統一されています。「赦す」は小説や宗教的な文章など、特定のニュアンスを表現したい場合に限定して使われます。

実は、公的な文書や一般的なメディアにおいて、「赦す」という表記を目にすることはほとんどありません。

なぜなら、「赦」という漢字は常用漢字表には含まれているものの、「ゆるす」という訓読みは表外読み(常用漢字表に記載されていない読み方)だからです。(※あるいは「赦」自体が常用漢字に含まれない場合もありますが、現在の常用漢字表では「赦(シャ)」は含まれていますが、「赦(ゆる)す」は表外訓です。)

そのため、公用文、新聞、教科書などでは、意味に関わらず「許す」と表記するのがルールとなっています。

たとえば、「恩赦」という言葉はあっても、「罪を赦す」とは書かずに「罪を許す」と書くのが一般的です。

「赦す」を使うのは、個人の表現として、あえて「罪を免じる」というニュアンスを強調したい小説や詩、あるいは聖書などの宗教的なテキストに限られます。

詳しくは文化庁の常用漢字表などで確認することができます。

僕が「赦す」という字幕に震えた映画館での体験談

言葉の仕事をしている僕ですが、かつて「許す」と「赦す」の違いに心を揺さぶられた経験があります。

ある日、映画館で重厚なヒューマンドラマを観ていたときのことです。主人公は、自分の家族を奪った犯人と対峙し、長い葛藤の末に、復讐ではなく和解を選ぶというシーンでした。

そのクライマックスで、字幕にたった一言、「あなたを赦す」と表示されたのです。

もしこれが「あなたを許す」だったら、僕はそこまで感動しなかったかもしれません。「許す」だと、どこか上から目線の「許可」や、単なる「容認」のように感じられたでしょう。

しかし、「赦す」という文字を見た瞬間、主人公が抱えてきた憎しみ、悲しみ、そしてそれを手放すという血の滲むような決断の重みが、ズシリと伝わってきたのです。それは単なる「OK」ではなく、相手の罪をあきらかにした上で、それでもなお、罰を与えずに解き放つという、魂の救済の物語でした。

「たった一文字の漢字が、これほどまでに感情の深さを表現できるのか」と、暗闇の中で鳥肌が立ったのを覚えています。

それ以来、僕は「許す」と書くたびに、それが単なる許可なのか、それとも心の底からの救済なのかを意識するようになりました。言葉には、辞書の意味を超えた「温度」があるのだと学んだ出来事です。

「許す」と「赦す」に関するよくある質問

キリスト教などの宗教的な話ではどちらを使いますか?

宗教的な文脈、特にキリスト教における「神のゆるし」や「罪のゆるし」については、「赦す」が使われることが一般的です。これは、人間の力による許可ではなく、神による罪の免除や救済を意味するためです。

「心をゆるす」はどちらの漢字ですか?

「心を許す」と書きます。これは相手に対する警戒心を解き、信頼して受け入れる(許可・容認する)という意味合いだからです。「心を赦す」とは書きません。

手紙やメールで「赦す」を使ってもいいですか?

相手に深刻な迷惑をかけられ、謝罪を受けた際などに、あえて「赦す」を使うことで「あなたの罪を水に流します」という深いニュアンスを伝えることは可能です。しかし、文脈によっては大げさに感じられたり、気取っていると思われたりする可能性もあるため、日常的なやり取りでは「許す」が無難でしょう。

「許す」と「赦す」の違いのまとめ

「許す」と「赦す」の違い、スッキリご理解いただけたでしょうか。

最後に、この記事のポイントをまとめておきますね。

  1. 基本の使い分け:日常的な許可・容認なら「許す」、罪や過ちの免除なら「赦す」。
  2. 漢字のイメージ:「許」は聞き入れる、「赦」は罪を解き放つ。
  3. 公的なルール:「赦す」は常用漢字表外の読み方なので、公用文では「許す」に統一する。
  4. 言葉の重み:「赦す」には、深い慈悲や救済のニュアンスが込められている。

言葉の背景にある漢字のイメージを掴むと、機械的な暗記ではなく、感覚的に使い分けられるようになります。

これからは自信を持って、あなたの想いにぴったりの言葉を選んでいきましょう。漢字の使い分けについてさらに知りたい方は、漢字の使い分けの違いをまとめたページもぜひご覧ください。

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