「くずきり」と「ところてん」の違いとは?原料・食感・味を解説

「くずきり」と「ところてん」、どちらも透明感のある麺状の涼しげな食べ物ですよね。

特に夏場になると見かける機会が増えますが、見た目が似ているため「この2つ、何が違うの?」と疑問に思ったことはありませんか。

結論から言うと、「くずきり」は「葛(くず)」の根から採れるデンプン(葛粉)を原料とする「和菓子」、「ところてん」は「天草(てんぐさ)」という海藻を原料とする「食品」。

原料が植物の根(陸)と海藻(海)とで全く異なるため、食感も風味も全くの別物なんです。

この記事を読めば、この二つの根本的な違いから、製法、食べ方、栄養価までスッキリと理解でき、自信を持って使い分けられるようになりますよ。

それでは、まず最も重要な違いから見ていきましょう。

結論|くずきりとところてんの違いを一言で

【要点】

最大の違いは「原材料」です。「くずきり」はマメ科の植物である「葛(くず)」の根から採れる葛粉(デンプン)が原料です。一方、「ところてん」はテングサなどの海藻(紅藻類)が原料です。原料が全く異なるため、食感や主な食べ方も異なります。

この原材料の違いが、食感や風味のすべての違いを生み出しています。

  • くずきり:原料は「葛粉」。なめらかで、ぷるん・もちもちした食感。主に黒蜜などをかけてスイーツとして食べる。
  • ところてん:原料は「海藻」。弾力があり、コリコリ・ぷりぷりした歯ごたえ。主に酢醤油や黒蜜で食べる。

「くずきり」と「ところてん」の違い 一覧比較表

項目くずきり(葛切り)ところてん(心太)
原材料葛粉(葛の根のデンプン)天草(テングサ)などの海藻
分類デンプン食品(和菓子)海藻加工品(食品)
主な製法葛粉を水で溶き、加熱し、冷やし固めて麺状に切る海藻を煮溶かし、漉して冷やし固め、「天突き」で押し出す
食感なめらか、ぷるん、もちもち弾力がある、コリコリ、ぷりぷり、歯切れが良い
主な食べ方甘味(黒蜜、きな粉など)が主流食事系(酢醤油、からし)が主流(関西では黒蜜も)
主な栄養素炭水化物(糖質)食物繊維(ほぼノンカロリー)

くずきりとところてんの決定的な違いは「原材料」

【要点】

くずきりは「葛(クズ)」という秋の七草にも数えられる植物の根から作られます。ところてんは「天草(テングサ)」という海で採れる海藻から作られます。陸の植物と海の植物、という根本的な違いがあります。

くずきりとは?【原料:葛(くず)】

「くずきり(葛切り)」は、その名の通り「葛(くず)」というマメ科のつる性植物の根を原料としています。

この葛の根から取り出したデンプンを精製したものが「葛粉(くずこ)」です。最高級のものは「本葛(ほんくず)」と呼ばれ、非常に手間がかかるため高価です。

くずきりは、この葛粉を水で溶いて加熱し、一度板状に固めたものを細長く切って麺のようにしたものです。

主成分がデンプンであるため、透明感がありながらも、もちもちとした弾力と、なめらかな口当たりが特徴です。

ところてんとは?【原料:天草(てんぐさ)】

「ところてん(心太)」は、テングサ(天草)やオゴノリといった紅藻類の海藻を原料としています。

この天草を水で洗い、天日干しする作業を繰り返した後、水と酢(海藻を柔らかくするため)と一緒に長時間煮込みます。

すると、海藻に含まれる多糖類(アガロース)が溶け出し、ドロドロの液体になります。この液体を布で漉して不純物を取り除き、型に流し入れて冷やし固めたものが「ところてん」のブロックです。

ちなみに、この「ところてん」を戸外で凍結・乾燥させたものが「寒天」になります。

製法・食感・味の違いを徹底比較

【要点】

食感の違いは「デンプン(葛粉)」と「多糖類(天草)」の違いから生まれます。くずきりは「もちもち・ぷるん」、ところてんは「コリコリ・ぷりぷり」です。また、食べ方も異なり、くずきりは黒蜜で甘く、ところてんは酢醤油でさっぱりと食べるのが一般的です。

製法と食感の違い

くずきり
葛粉を水で溶いたものをバット(流しカン)などに薄く流し入れ、沸騰したお湯で加熱して固めます。固まったものを氷水で冷やし、包丁で細長く「切る」ため、「葛切り」と呼ばれます。原料がデンプン質であるため、食感はなめらかで、コシがありながらも「もちもち」とした独特の弾力が特徴です。

ところてん
海藻を煮溶かして固めたブロックを、「天突き(てんつき)」と呼ばれる専用の器具に入れ、「突き出す」ことで麺状にします。原料が海藻の食物繊維であるため、食感は「コリコリ」「ぷりぷり」とした歯切れの良さと弾力が特徴です。くずきりのような「もちもち感」はありません。

味と食べ方の違い

くずきり(主に甘味)
くずきり自体にはほとんど味がありません。そのため、京都の料亭や甘味処で提供されるように、黒蜜やきな粉をかけて「和菓子・スイーツ」として食べるのが最も一般的です。なめらかな喉越しと黒蜜の濃厚な甘さの組み合わせが楽しまれます。ただし、その食感から鍋物やサラダ(中華風サラダなど)に使うレシピも存在します。

ところてん(主に食事系、地域差あり)
ところてんも自体に味はなく、磯の香りがかすかにする程度です。最大の特徴は、地域によって食べ方が全く異なることです。

  • 関東・全国一般:酢醤油(二杯酢)や三杯酢をかけ、からしや青のりを添えて「食事・おかず」としてさっぱりと食べます。
  • 関西地方:くずきりと同様に、黒蜜をかけて「デザート・甘味」として食べます。
  • 四国地方:だし汁やめんつゆで食べる地域もあります。

「ところてん=酸っぱいもの」というイメージは、主に関東地方の食文化に基づいているのですね。

栄養・カロリー・価格の違い

【要点】

くずきりは主成分が「炭水化物(デンプン)」であり、カロリーも糖質もあります。一方、ところてんは主成分が「食物繊維」であり、ほぼノンカロリー(ゼロカロリー)の健康食品です。

栄養とカロリー

くずきり
原料が葛粉(デンプン)であるため、主成分は炭水化物(糖質)です。乾燥状態のくずきりは、はるさめ(緑豆)と比較してもカロリーや糖質に大きな差はありませんが、ゆでると水分を含むため、はるさめよりはカロリー・糖質ともに高くなる傾向があります。もちろん、黒蜜をかければその分カロリーはさらに高くなります。

ところてん
原料が海藻であるため、主成分は食物繊維(アガロース)です。糖質はほぼ含まれず、カロリーもほとんどありません。そのため、ダイエット食品としても人気があります。栄養面では、くずきりとは正反対の食品と言えますね。

価格と入手性

くずきり
本物の葛粉(本葛)は製造に非常に手間がかかるため、葛粉100%のくずきりは高価です。スーパーなどで安価に売られているものは、葛粉の代わりにジャガイモなどのデンプン質を主原料にしている場合が多いです。甘味処で食べるデザートとしても、比較的高級な部類に入ります。

ところてん
スーパーなどでパック詰めのものが非常に安価に手に入ります。夏場になると、酢醤油や黒蜜のタレとセットで売られているのが一般的です。

【体験談】黒蜜の「くずきり」と酢醤油の「ところてん」

僕は京都の甘味処で「くずきり」を食べるのが大好きです。注文すると、氷水に浸かった半透明の美しい麺と、濃厚な黒蜜が別々に出てきます。それを箸でつまみ、黒蜜にたっぷりと絡めてすする瞬間は最高ですね。

「もちっ」とした弾力と、なめらかな「ぷるん」とした喉越し。デンプンならではのコシと、黒蜜の深い甘さが一体となって、これ以上ない贅沢な和スイーツだと感じます。

一方で、「ところてん」は、僕にとっては夏の食卓のおかずです。特に食欲がない暑い日に、冷蔵庫でキンキンに冷やしたところてんを器にあけ、付属の酢醤油とからしをかけて食べます。

こちらは「コリコリ」「ぷりぷり」とした歯ごたえが命。箸で持ち上げようとすると切れてしまうほどの歯切れの良さと、酢醤油の酸味が、寝ぼけた頭と体をシャキッとさせてくれます。

同じ麺状の透明な食べ物でも、片や「もっちりとしたご馳走スイーツ」、片や「コリコリとした夏のさっぱりおかず」。原料が葛と海藻というだけで、ここまで食感も食べ方も変わるのかと、日本の食文化の奥深さを感じずにはいられません。

くずきりとところてんに関するよくある質問(FAQ)

くずきりとところてん、どっちがヘルシーですか?

圧倒的に「ところてん」です。ところてんは海藻が原料で、ほぼノンカロリーかつ食物繊維が豊富です。一方、くずきりは葛粉(デンプン)が原料なので、主成分は炭水化物(糖質)です。ダイエット中のおやつなら、ところてん(黒蜜かけすぎ注意ですが)を選ぶと良いでしょう。

関西ではところてんを黒蜜で食べるって本当ですか?

本当です。関西地方では、ところてんをデザートとして捉え、黒蜜をかけて食べるのが主流です。関東地方などで一般的な酢醤油で食べる文化圏の人にとっては驚きですが、関西ではごく当たり前の食べ方です。

くずきりと春雨(はるさめ)の違いは何ですか?

原料が異なります。くずきりは「葛粉」が原料ですが、春雨は一般的に「緑豆」や「ジャガイモ」「さつまいも」のデンプンから作られます。食感も、くずきりの方がより「もちもち・ぷるん」としているのに対し、春雨は「ツルツル・シコシコ」とした食感が特徴です。

まとめ|くずきりとところてん、どちらを選ぶべき?

「くずきり」と「ところてん」の違い、これで完璧ですね。

  • くずきり葛(植物の根)が原料。もちもち・ぷるん食感。主に黒蜜で食べるスイーツ。炭水化物。
  • ところてん天草(海藻)が原料。コリコリ・ぷりぷり食感。主に酢醤油で食べる(関西は黒蜜)。食物繊維。

「なめらかで、もちもちした甘いデザート」が食べたい時は「くずきり」を。

「コリコリした食感で、さっぱりと涼みたい(またはダイエット中)」の時は「ところてん」を選ぶのが正解です。

見た目が似ていても、原料も製法も、そして日本の食文化における立ち位置も全く異なる二つの伝統食。ぜひ、その違いを意識して味わってみてください。他のスイーツ・お菓子の違いを知ることも、和の甘味を選ぶ楽しみを広げてくれるはずです。