お蕎麦屋さんに入ってメニューを眺めると、必ずと言っていいほど並んでいる「せいろそば」と「ざるそば」。
どちらも冷たいそばを「つけ汁」で食べるスタイルですが、この二つの違い、正確に説明できますか?「海苔(のり)が乗っているかどうかだけ?」と思っている方も多いかもしれません。
まさにその通り! 現代の多くのお店では、その「刻み海苔」の有無が唯一の違いです。
しかし、なぜ海苔だけで名前が変わり、値段まで違うのでしょうか?そこには、江戸時代から続く、器や「つゆ」に関するちょっとした歴史とこだわりが隠されています。
この記事を読めば、「せいろ」「ざる」、そして「もりそば」という、冷たいお蕎麦のややこしい関係がスッキリ整理できますよ。
まずは、両者の核心的な違いを一覧表で比較してみましょう。
結論|「せいろそば」と「ざるそば」の違いを一言でまとめる
現代の蕎麦屋において、「せいろそば」と「ざるそば」の最も一般的かつ明確な違いは「刻み海苔(きざみのり)が乗っているかどうか」です。「せいろそば(または、もりそば)」は海苔がなく、「ざるそば」には海苔が乗っています。歴史的には器や「つゆ」が異なりましたが、現在は海苔の有無で区別されることがほとんどです。
つまり、「ざるそば」は「もりそば(せいろそば)」の豪華版(海苔トッピング付き)という位置づけなんですね。そのため、「ざるそば」の方が「せいろそば」よりも50円~100円程度、価格が(海苔の分だけ)高く設定されているのが一般的です。
| 項目 | せいろそば(もりそば) | ざるそば |
|---|---|---|
| 刻み海苔 | 無い | 有る |
| 現代の器 | せいろ(蒸し器)または ざる | せいろ または ざる(器での区別はほぼ無い) |
| 歴史的な器 | せいろ(蒸し器) | 竹製の「ざる」 |
| つゆ(歴史的) | もり汁(醤油と出汁のシンプルなつゆ) | ざる汁(みりんなどを加えた上等なつゆ) |
| 価格(傾向) | 基本価格 | せいろそば + 海苔代(数十円~100円程度高い) |
「せいろ」と「ざる」それぞれの定義と語源
「せいろ(蒸籠)」も「ざる(笊)」も、元々は調理器具や食器の名前です。「せいろ」は蒸し器、「ざる」は水切り用の竹かごを指します。これらをお皿の代わりに使って蕎麦を提供したことから、そのまま料理名として定着しました。
せいろ(蒸籠):蒸し器から来た「もりそば」の別名
「せいろ(蒸籠)」とは、竹や木を編んで作られた「蒸し器」のことです。
江戸時代、もともと蕎麦は温かい「かけそば」や、どんぶりに冷たい汁をかけた「ぶっかけそば」が主流でした。その後、つゆにつけて食べるスタイル(もりそば)が登場した際、茹でたそばを水切りしてそのまま提供できる器として、この「せいろ」が使われるようになりました。
蒸し器なので水はけが良く、食べ終わるまでそばが水っぽくならないという利点があったんですね。この器(せいろ)に盛った「もりそば」を、区別して「せいろそば」と呼ぶようになったのです。
ざる(笊):水切りかごから来た「海苔そば」
「ざる(笊)」は、竹で編まれた水切り用の「かご」のことです。今でもご家庭の台所にありますよね。
江戸時代後期、深川(現在の東京都江東区)にあった「伊勢屋」という蕎麦屋が、茹でたそばをそのまま竹製の「ざる」に盛って提供したのが「ざるそば」の始まりとされています。
この時、それまでの「もりそば」と差別化を図るため、上等なつゆを使い、刻み海苔を振りかけたと言われています。この「海苔をかける」というスタイルが、現代の「ざるそば」の定義として定着しました。
現代の決定的違い:「刻み海苔」の有無
歴史的な経緯はあれど、現代のほとんどの蕎麦屋では、「せいろそば」と「ざるそば」を分ける唯一の違いは「刻み海苔」です。「せいろ」を頼めば海苔なし、「ざる」を頼めば海苔ありのそばが出てきます。
現在、お蕎麦屋さんで「せいろそば」を注文しても、必ずしも「せいろ」で出てくるとは限りません。水切りができるお皿や、場合によっては「ざる」に乗って出てくることもあります。
同様に、「ざるそば」を注文しても、「ざる」ではなく「せいろ」に乗って出てくることがほとんどです。
このように、器による区別はほぼ無くなりました。両者を区別する唯一のアイデンティティは「刻み海苔」になったのです。
- 海苔なし = せいろそば(または もりそば)
- 海苔あり = ざるそば
これは、蕎麦屋にとって「海苔を乗せる」という一手間と原価が加わるため、ざるそばを「せいろそばの上位メニュー」として明確に区別する必要があるためですね。
歴史的な違い:器と「つゆ」の差
かつては明確な違いがありました。「せいろそば」は「せいろ」に盛り、「もり汁(醤油と出汁の辛口つゆ)」で提供されました。一方、「ざるそば」は「ざる」に盛り、「ざる汁(もり汁に “みりん” などを加えた、まろやかで上質なつゆ)」で提供され、より高級なメニューでした。
現代では「海苔」だけが違いになりましたが、本来はもう少し複雑な差がありました。
器の違い:「せいろ」か「ざる」か
前述の通り、元々は器が違いました。
- せいろそば:四角い、または丸い「せいろ(蒸し器)」
- ざるそば:丸い「竹ざる」
「ざる」で出すスタイルは、見た目にも涼しげで高級感があったため、付加価値がつきました。
つゆの違い:「もり汁」と「ざる汁」
これが歴史的には大きな違いでした。当時、「もりそば」が一番安い基本メニューだったのに対し、「ざるそば」は高級メニューでした。
そのため、つゆ(汁)にも差がつけられていました。
- もり汁(もりそば用):醤油、出汁、かえし(醤油・砂糖・みりんを煮詰めたもの)で作る、キリッとした辛口のシンプルなつゆ。
- ざる汁(ざるそば用):もり汁をベースに、さらに「みりん」などを加えて、まろやかさやコク(甘み)を出した、ワンランク上の上等なつゆ。
現代では、つゆを使い分ける店は非常に稀(まれ)になり、どちらも同じつゆ(もり汁)で提供されることがほとんどです。
「もりそば」との違いは?(呼び名の整理)
「もりそば」と「せいろそば」は、現代ではほぼ同じもの(海苔なしの冷たいそば)を指します。「もりそば」が料理のスタイル(盛り付けたそば)を指し、「せいろそば」がそれを入れる器(せいろ)を指している、という由来の違いがあるだけです。
ここで「もりそば」という言葉が出てきて混乱するかもしれません。冷たいそばの呼び名を整理しましょう。
- もりそば:冷たいそばをつゆにつけて食べるスタイルの「元祖」。海苔は無い。
- せいろそば:もりそばを「せいろ」という器に盛ったもの。海苔は無い。
- ざるそば:もりそば(または、せいろそば)に「刻み海苔」をかけたもの。
つまり、「もりそば」と「せいろそば」は、ほぼ同義語として使われています。お店によって「もりそば」と呼ぶか、「せいろそば」と呼ぶかが違うだけ、と考えて問題ありません。
【結論の整理】
もりそば = せいろそば (海苔なし)
ざるそば = もりそば + 刻み海苔
価格やカロリーの違い
価格は、「ざるそば」の方が「せいろそば」よりも海苔の分だけ高いです。カロリーについては、海苔自体のカロリーはごく僅かであるため、両者に実質的な差はありません。
価格の違い
これは明確に「ざるそば」の方が高いです。先述の通り、刻み海苔の原価と手間が上乗せされるため、50円から100円程度の価格差がつけられています。
カロリーの違い
刻み海苔のカロリーは、一人前の量では数キロカロリー程度です。したがって、「せいろそば」と「ざるそば」のカロリー差は、ほぼゼロと考えてよいでしょう。
どちらも「かけそば」など温かいそばと比べて、つゆを飲む量が少ないため、塩分摂取量をコントロールしやすいという健康的な側面がありますね。
体験談|僕が蕎麦屋で「せいろ」を頼む理由
僕は蕎麦が大好きで、色々な店を巡るのですが、初めてのお店では必ず「せいろ」(もしくは「もり」)を注文します。「ざる」は、まず頼みません。
なぜなら、僕は蕎麦本来の香りを楽しみたいからです。
手打ちの良い蕎麦屋ほど、そば粉の持つ穀物らしい甘く、清々しい香りが立ち上ります。僕は、まずつゆをつけずに蕎麦だけを数本手繰り(たぐり)、その香りや甘みを確かめるのが好きなんです。
「ざるそば」の海苔は、確かに磯の風味豊かで美味しいアクセントになります。しかし、僕にとっては、その海苔の強い香りが、蕎麦の繊細な香りを覆い隠してしまうように感じることがあります。
もちろん、これは完全に好みの問題です。海苔のパリパリ感とそばの喉越しが大好きだという友人もいます。
ただ、もしあなたが「その店の蕎麦の実力を知りたい」とか「そば粉の香りを楽しみたい」と思うなら、まずは海苔のない「せいろ(もり)」を試してみることをおすすめします。その上で、海苔の風味が欲しくなったら「ざる」を選ぶのが、蕎麦の楽しみ方の一つではないかと思っています。
「せいろ」と「ざる」に関するよくある質問
最後に、この二つのそばに関するよくある疑問にお答えしますね。
Q: 結局、「もりそば」「せいろそば」「ざるそば」の違いは何ですか?
A: 現代では非常にシンプルです。
・もりそば・せいろそば = 海苔が乗っていない、基本の冷たいそば。
・ざるそば = もりそば(せいろそば)に、刻み海苔が乗っているもの。
「もり」と「せいろ」は、お店によって呼び名が違うだけで、ほぼ同じものを指します。
Q: なぜ「ざるそば」の方が「せいろそば」より高いのですか?
A: 刻み海苔の材料費と手間代が上乗せされているためです。歴史的につゆ(ざる汁)が上等だったことの名残でもありますが、現代の価格差の理由は、ほぼ「海苔代」と考えて間違いありません。
Q: そば湯はどちらにも付いてきますか?
A: はい、どちらも「つけ汁」で食べるスタイルなので、食後には「そば湯(そばゆ)」が提供されます。残ったつけ汁をそば湯で割って、そばの栄養(ルチンなど)とだしの風味を最後まで楽しむことができます。
まとめ|「せいろ」と「ざる」の違いと選び方
「せいろそば」と「ざるそば」の違い、スッキリ整理できたでしょうか。
江戸時代の器や「つゆ」の違いといった歴史的な背景はありつつも、現代の使い分けは非常にシンプルです。
- せいろそば(もりそば):海苔なし。そば本来の味と香りを楽しむための、基本のスタイル。
- ざるそば:海苔あり。「せいろそば」に刻み海苔をトッピングした、風味豊かなスタイル。
この違いを知れば、その日の気分で自信を持って注文できますね。
「そば粉の繊細な香りをじっくり楽しみたい」日は「せいろ(もり)」を、「海苔の磯の風味とそばの喉越しを一緒に楽しみたい」日は「ざる」を選ぶのがおすすめです。
当サイト「違いラボ」では、他にも様々な料理・メニューの違いについて詳しく解説しています。ぜひ他の記事も参考にしてみてください。