「進呈(しんてい)」と「贈呈(ぞうてい)」、どちらも物を差し上げるという意味ですが、使う相手や場面によって使い分ける必要があること、ご存知でしたか?
実は、相手との関係性や、渡す物の種類、状況によって適切な言葉が違うんです。
この記事を読めば、「進呈」と「贈呈」の核心的な意味の違いから、具体的な使い分け、さらには似た言葉「寄贈」との違いまでスッキリ理解でき、ビジネスシーンでも日常会話でも、もう迷うことはありません。
それでは、まず最も重要な違いから見ていきましょう。
結論:一覧表でわかる「進呈」と「贈呈」の最も重要な違い
基本的には目下へ軽い気持ちなら「進呈」、改まった場で目上へも使えるのが「贈呈」と覚えるのが簡単です。「進呈」はややへりくだったニュアンス、「贈呈」は丁寧で公式な響きを持ちます。
まず、結論からお伝えしますね。
この二つの言葉の最も重要な違いを、以下の表にまとめました。これさえ押さえれば、基本的な使い分けはバッチリです。
項目 | 進呈 | 贈呈 |
---|---|---|
中心的な意味 | 物を差し上げること | 物を謹んで差し上げること |
対象 | 主に目下の人へ | 目上・目下を問わない |
ニュアンス | ややへりくだった響き、自発的、気軽な感じ | 丁寧、改まった感じ、公式な場面 |
渡す物 | 比較的軽い物(記念品、粗品など) | 記念品、賞状、感謝状など改まった物 |
使う場面 | キャンペーン、おまけ、個人的な贈り物など | 式典、表彰式、公式な場での贈り物など |
一番大切なポイントは、贈る相手との関係性と場面のフォーマルさですね。
「進呈」は少しカジュアルな響きがあるので、目上の方に対してや、かしこまった場面では「贈呈」を使うのが無難でしょう。
なぜ違う?漢字の成り立ち(語源)からイメージを掴む
「進呈」の「進」は自ら進んで差し出すイメージ、「呈」は目の前に差し出すイメージです。一方、「贈呈」の「贈」はお金や物を相手に“おくる”意味が強く、より改まった印象を与えます。
なぜこの二つの言葉にニュアンスの違いが生まれるのか、漢字の成り立ちを紐解くと、その理由がよくわかりますよ。
言葉の背景を知ると、より深く理解できるようになりますよね。
「進呈」の成り立ち:「進」と「呈」が示す自発的な差し出し
「進」という漢字は、「すすむ」「すすめる」という意味の他に、「自分から進んで差し出す」という意味合いを持っています。
一方、「呈」は「差し出す」「目の前に現す」といった意味です。「呈上(ていじょう)」という言葉もありますね。
つまり、「進呈」とは自らの意志で、相手の目の前に物を差し出すという、能動的で少しへりくだったイメージを持つと分かりやすいでしょう。
「贈呈」の成り立ち:「贈」と「呈」が示す改まった場での授与
「贈」という漢字は、「おくる」と読みますね。
単に物を渡すだけでなく、「金品などを相手に与える」という、少し改まった意味合いを含んでいます。「贈与(ぞうよ)」や「贈り物(おくりもの)」といった言葉からも、その丁寧さが感じられます。
「呈」は「進呈」と同じく「差し出す」意味です。
このことから、「贈呈」には、敬意をもって、謹んで物を差し出すという、より丁寧で公式なニュアンスが含まれるんですね。
具体的な例文で使い方をマスターする
アンケート回答者への謝礼は「進呈」、功労者への記念品授与は「贈呈」と使い分けます。相手への敬意や場面のフォーマル度合いで判断しましょう。
言葉の違いは、具体的な例文で確認するのが一番ですよね。
ビジネスと日常、そして間違いやすいNG例を見ていきましょう。
ビジネスシーンでの使い分け
社内と社外、相手との関係性を意識すると、使い分けは簡単ですよ。
【OK例文:進呈】
- アンケートにご協力いただいた方全員に、粗品を進呈いたします。
- キャンペーン期間中にご契約のお客様には、特典としてポイントを進呈します。
- (社内で)永年勤続の社員へ記念品を進呈する。(※会社から社員へ、という文脈)
【OK例文:贈呈】
- 長年のご功労に対し、感謝状と記念品を贈呈いたします。(表彰式など)
- 〇〇株式会社様より、創立記念のお祝いとして絵画を贈呈されました。(相手からの行為)
- 優勝チームには、賞状とトロフィーが贈呈されます。(公式な授与)
- 取引先の社長へ、感謝の意を込めて記念品を贈呈する。
このように、相手への敬意が特に必要な場合や、式典など公式な場面では「贈呈」が適切ですね。
日常会話での使い分け
日常会話では少し堅い表現かもしれませんが、考え方は同じです。
【OK例文:進呈】
- くじ引きの参加賞として、お菓子を進呈します。
- 会員様限定で、次回使える割引券を進呈中です。
【OK例文:贈呈】
- 卒業生から母校へ、記念の品が贈呈された。
- 地域への貢献が認められ、市長から感謝状が贈呈された。
日常的なプレゼント交換のような場面では、もっとくだけた「あげる」「プレゼントする」といった言葉を使うのが一般的でしょう。
これはNG!間違えやすい使い方
意味は通じることが多いですが、厳密には少し不自然に聞こえる使い方を見てみましょう。
- 【NG】お客様アンケートにご回答の方に、謝礼を贈呈します。
- 【OK】お客様アンケートにご回答の方に、謝礼を進呈します。
アンケートの謝礼のような場合は、一般的に「進呈」の方が自然です。「贈呈」を使うと、少し大げさに聞こえてしまうかもしれませんね。
- 【NG】社長から新入社員へ、記念品を贈呈する。
- 【OK】社長から新入社員へ、記念品を進呈する。
社内で目上から目下へ渡す場合は、「進呈」がより一般的です。ただし、入社式のような非常にフォーマルな場であれば「贈呈」も使えます。
【応用編】似ている言葉「寄贈」との違いは?
「寄贈(きぞう)」は、主に学校や図書館、公共団体など、公共性の高い相手に対して物品を贈る場合に使われます。「贈呈」と似ていますが、贈る相手が限定されるのが特徴です。
「進呈」「贈呈」と似た言葉に「寄贈(きぞう)」があります。これも押さえておくと、言葉の理解がさらに深まりますよ。
「寄贈」は「物品をおくり与えること」という意味で、「贈呈」と非常に似ています。
しかし、決定的な違いは、贈る相手が主に公共の団体や施設であるという点です。
例えば、学校に図書を贈ったり、博物館に美術品を贈ったりする場合に使われます。
【OK例文:寄贈】
- 卒業生一同より、母校へピアノが寄贈された。
- 企業が地域の図書館へ児童書を寄贈した。
- 〇〇氏のコレクションが美術館に寄贈されることになった。
個人に対して使うことは通常ありません。「贈呈」よりも対象が限定される言葉だと覚えておきましょう。
「進呈」と「贈呈」の違いを公的な視点から解説
公用文(役所の文書など)では、言葉の分かりやすさを重視し、意味が似ていて使い分けが紛らわしい言葉は、一方に統一する傾向があります。「進呈」と「贈呈」については、文化庁の指針などで明確な統一ルールは示されていませんが、文脈に応じてより適切な方を選ぶことが推奨されています。
「配布」と「配付」のように、公用文ではどちらか一方に統一する、といったルールはあるのでしょうか?
文化庁が示す「公用文における漢字使用等について」などの指針を確認しましたが、「進呈」と「贈呈」に関して、どちらか一方に統一するという明確なルールは見当たりませんでした。
これは、「進呈」と「贈呈」が持つニュアンスの違い(相手との関係性、場面のフォーマル度など)が、コミュニケーションにおいて重要な意味を持つため、単純に統一することが難しいからだと考えられます。
したがって、公的な文書においても、文脈に応じてより適切な言葉を選ぶことが基本となります。
迷った場合は、より丁寧で適用範囲の広い「贈呈」を使う方が無難なケースが多いと言えるかもしれませんね。
公用文の書き方についてさらに詳しく知りたい方は、文化庁の国語施策のページなどを参考にされると良いでしょう。
僕が「進呈」と書いてしまった、新入社員時代の小さな失敗談
僕も新入社員の頃、この「進呈」と「贈呈」でちょっとしたヒヤリ体験をしたことがあるんです。
当時、営業部に配属されたばかりの僕は、ある大きな契約を決めてくれた取引先の部長へのお礼状を書くことになりました。
感謝の気持ちを込めて、ささやかながら会社からお菓子折りを「お礼のしるし」として送ることに。そのお礼状に、僕はこう書いてしまったんです。
「つきましては、心ばかりの品ではございますが、〇〇を進呈させていただきます。」
自分としては「謙譲の気持ちで『進呈』を使った方が丁寧かな?」なんて浅はかにも考えてしまったんですね。
提出前に先輩にチェックしてもらったところ、すぐに赤ペンが入りました。
「衣田くん、この場合は『贈呈』の方がいいね。相手は取引先の部長さんだし、会社として正式にお礼を伝えるんだから、『進呈』だと少し軽すぎる印象を与えかねないよ。『進む』より『贈る』気持ちでね。」
先輩は笑いながら教えてくれましたが、僕は自分の言葉選びの甘さに顔から火が出る思いでした。
たった一文字の違いですが、相手に与える印象が大きく変わってしまう。
この経験から、言葉を使うときは、相手との関係性や状況をしっかり考慮すること、そして迷ったらより丁寧な表現を選ぶことの大切さを痛感しました。それ以来、特にビジネス文書では、言葉のニュアンスに細心の注意を払うようになりましたね。
「進呈」と「贈呈」に関するよくある質問
Q1. 目上の人に「進呈します」と言うのは失礼ですか?
一般的には、「進呈」は目下の人に対して使う言葉とされているため、目上の方に使うのは避けた方が無難です。目上の方には「贈呈いたします」や、より丁寧に「謹呈(きんてい)いたします」などを使うのが適切でしょう。
Q2. プレゼントキャンペーンの景品を渡すときはどちらを使いますか?
不特定多数の応募者の中から当選者へ渡すような場合は、「進呈」を使うのが一般的です。「景品を進呈します」のように使います。ただし、非常に高価な景品で、授賞式のような形で行う場合は「贈呈」も使えます。
Q3. 「謹呈(きんてい)」という言葉もありますが、どう違いますか?
「謹呈」は「謹んで差し上げる」という意味で、「贈呈」よりもさらに敬意の高い表現です。特に目上の方へ本や品物を差し上げる際に使われます。「拙著を謹呈いたします」のように使われることが多いですね。
「進呈」と「贈呈」の違いのまとめ
「進呈」と「贈呈」の違い、スッキリご理解いただけたでしょうか。
最後に、この記事のポイントをまとめておきますね。
- 相手と場面で使い分け:目下へ気軽に「進呈」、目上へも使える改まった「贈呈」。
- 迷ったら「贈呈」が無難:特にビジネスシーンでは、丁寧さを優先するのが良いでしょう。
- 漢字のイメージが鍵:「進」は自発的、「贈」は敬意を込めておくるイメージ。
- 「寄贈」との違い:「寄贈」は学校や公共団体など、公共性の高い相手に使う。
言葉の背景にある漢字のイメージや、使われる場面を具体的に想像することで、自然と適切な言葉が選べるようになります。
これからは自信を持って、「進呈」と「贈呈」を使い分けて、あなたのコミュニケーションをより豊かにしていきましょう。