決算賞与とボーナスの違いとは?損金算入の要件や社会保険料の扱いまで

「決算賞与」と「ボーナス(通常賞与)」の違いは、支給のタイミングが「決算の後」か「夏と冬の定例」か、そして目的が「利益の臨時還元」か「給与の後払い的報酬」かという点にあります。

なぜなら、決算賞与はその年度の業績が確定した後に余剰利益を分配する性格が強いのに対し、ボーナスは生活給の一部としてあらかじめ予定されている性格が強いから。

この記事を読めば、支給時期や金額の決まり方の違いだけでなく、会社側の節税メリット(損金算入)や社会保険料の扱いまで、ビジネスパーソンとして知っておくべき知識が網羅的に分かります。

それでは、まず両者の決定的な違いから詳しく見ていきましょう。

結論:一覧表でわかる「決算賞与」と「ボーナス」の最も重要な違い

【要点】

「決算賞与」は業績が良い年にのみ決算後に支給される臨時の報酬であり、「ボーナス」は夏と冬に定例的に支給される報酬です。決算賞与は会社にとって節税対策になるという側面も持っています。

まず、結論からお伝えしますね。

この二つの言葉は、従業員にとっては「もらえるお金」ですが、会社にとっては「出す理由」が異なります。

最も重要な違いを以下の表にまとめましたので、まずはここを押さえておきましょう。

項目決算賞与(臨時賞与)ボーナス(通常賞与)
中心的な意味その年度の業績に応じて支給される臨時の賞与慣例として夏と冬に定期的に支給される賞与
支給時期決算月の翌月など(例:3月決算なら4月)一般的に夏(6〜7月)と冬(12月)
支給の確実性業績が悪ければゼロの可能性が高い(臨時的)就業規則等にあれば支給される可能性が高い(定例的)
金額の目安利益の分配(変動が大きい)基本給の〇ヶ月分(ある程度予測可能)
会社側の目的利益還元、節税(損金算入)、モチベーション向上生活給の補填、人材の定着、労務対価

簡単に言えば、決算賞与は「会社が儲かったからお裾分けするご褒美」、ボーナスは「毎月の給料の一部をまとめて渡す定期便」のようなイメージですね。

特に転職活動をする際は、年収例に「決算賞与」が含まれているかどうかを確認することが大切です。決算賞与は業績次第でゼロになるリスクがあるため、これを生活費のあてにしすぎると危険です。

なぜ違う?言葉の成り立ち(定義)からイメージを掴む

【要点】

「決算賞与」は会社の1年間の成績表である決算に基づいて決まる報酬、「ボーナス」はラテン語の「良いもの(Bonus)」に由来する定例的な特別報酬です。

言葉のルーツや定義を知ると、それぞれの役割がよりクリアに見えてきますよ。

「決算賞与」の定義:決算の数字がすべての基準

「決算」とは、会社の1年間の収支を計算し、利益や損失を確定させる手続きのことです。

つまり「決算賞与」とは、1年間の戦いが終わって、最終的に利益が残ったときにだけ配られる「勝利の分け前」です。

そのため、別名「臨時賞与」や「年度末手当」と呼ばれることもあります。会社の財布(内部留保)と直結しているため、経営者にとっては「税金で持っていかれるくらいなら従業員に還元しよう」という節税の動機も強く働きます。

「ボーナス」の語源:ラテン語の「Bonus(良いもの)」

一方、「ボーナス(Bonus)」の語源は、ラテン語で「良いもの」「財産」を意味する言葉です。

日本では江戸時代の「お仕着せ(盆暮れの着物)」や「餅代」などの習慣がルーツとなり、明治時代以降に現在のような「夏と冬の定例支給」の形が定着しました。

こちらは業績に関わらず(もちろん影響は受けますが)、生活を支えるための「給与の後払い」としての性格が色濃く残っています。

具体的な例文で使い方をマスターする

【要点】

日常会話では「ボーナス」が一般的ですが、経営や会計の話、または転職の条件交渉などでは「決算賞与」を明確に区別して使います。

ビジネスシーンや日常会話で、どのように使い分けるべきか具体例を見ていきましょう。

ここを区別できると、会社の経営状況に対する理解度がアピールできますよ。

ビジネスシーンでの使い分け

【OK例文:決算賞与】

  • 今期は過去最高益を達成したので、全社員に決算賞与が支給されることになった。
  • 決算賞与を損金に算入するために、期末までに支給通知を行う必要がある。
  • この会社の求人は、基本給は低めだが決算賞与の実績が高いのが特徴だ。

【OK例文:ボーナス】

  • 住宅ローンの返済プランを組む際、ボーナス払いの割合を慎重に検討した。
  • 夏のボーナス(夏季賞与)の査定面談が来週行われる。
  • 今年は業績不振のため、冬のボーナスが大幅にカットされた。

これはNG!間違えやすい使い方

  • 【NG】毎年夏と冬に必ず出るのが決算賞与だ。
  • 【OK】毎年夏と冬に必ず出るのがボーナス(通常賞与)だ。

決算賞与はあくまで「決算期(年1回)」に関連するものです。夏冬の年2回支給されるものは通常賞与です。

  • 【NG】ボーナスが出たので、経費(損金)にするために慌てて今月中に払った。
  • 【OK】決算賞与が出ることになったので、損金算入要件を満たすために決算後1ヶ月以内に支払った。

「税金対策のために急いで払う」という文脈で語られるのは、主に決算賞与の方です。ボーナスは支給日が就業規則であらかじめ決まっていることが大半です。

【応用編】似ている言葉「業績連動型賞与」との違いは?

【要点】

「業績連動型賞与」は計算式があらかじめ明確に決まっている仕組みそのものを指し、決算賞与はその仕組みを使って(あるいは経営者の裁量で)支払われる「具体的なお金」を指すことが多いです。

最近よく耳にする「業績連動型賞与」についても整理しておきましょう。

これは「営業利益の〇〇%を賞与原資にする」といった計算式をあらかじめルール化している賞与制度のことです。

ボーナス(通常賞与)の一部として導入されることもあれば、決算賞与の算定基準として使われることもあります。

つまり、以下のような関係性になります。

  • 決算賞与:時期や目的による分類(いつ、何のために?)
  • 業績連動型賞与:計算方法による分類(どうやって金額を決める?)

「今期の決算賞与は、業績連動型で計算されます」といった使い方が正しいですね。

「決算賞与」と「ボーナス」の違いを専門的な視点から解説

【要点】

決算賞与の最大の特徴は「未払い計上による損金算入」が可能な点です。期末までに全従業員に通知し、翌月から1ヶ月以内に支払うことで、今期の利益を圧縮して節税できます。

経営者や経理担当者にとって最も重要なのは、税務上の扱いです。

通常のボーナスは支給した日の属する年度の経費になりますが、決算賞与は「来期に支払う予定のお金」を「今期の経費」として計上できる特例があります(損金算入)。

ただし、これには厳しい3つの要件があります。

  1. 通知:事業年度終了の日までに、支給額を全従業員に通知すること。
  2. 支給:事業年度終了の日の翌日から1ヶ月以内に、通知した全従業員に支払うこと。
  3. 経理:通知した事業年度において損金経理(未払計上)をすること。

もし一人でも通知後に退職して支払われなかったり、通知額と支給額が違っていたりすると、全額が損金として認められなくなるリスクがあるため、実務上は非常に神経を使います。

一方、社会保険料については、決算賞与もボーナスも基本的に扱いは同じです。「標準賞与額」に対して保険料率をかけて計算されます。ただし、年4回以上賞与が支給される場合は「賞与」ではなく「給与」とみなされ、標準報酬月額の計算に含まれるという例外ルールもあります。

僕が「決算賞与」をアテにして住宅ローンで冷や汗をかいた体験談

これは僕が中堅のIT企業に転職して2年目のときの話です。

その会社は「基本給は抑えめだけど、利益は決算賞与でドカンと還元する」という方針でした。実際、入社1年目の決算賞与は100万円を超えていて、「この会社すげえ!」と舞い上がっていたんです。

その勢いで、僕は念願のマイホームを購入しました。住宅ローンの返済計画を立てる際、銀行の担当者に「ボーナス払いはどうしますか?」と聞かれ、僕は迷わず「決算賞与があるから大丈夫です、多めに設定してください」と答えました。

ところが、翌年。

主力事業で大きなトラブルが発生し、会社の業績が急悪化しました。

3月の決算発表の日、社長から告げられたのは「今期の決算賞与はゼロ」という非情な通告でした。

「えっ、ゼロ? 半分とかじゃなくて?」

頭が真っ白になりました。通常のボーナスなら多少減額されても出るものだと思っていましたが、決算賞与は「利益が出たときのご褒美」なので、利益がなければ本当に出ないのです。

結局、その年の住宅ローン・ボーナス払い分は、貯金を切り崩してなんとか凌ぎました。

この経験から、「決算賞与はあくまで臨時収入であり、固定費の支払いに組み込んではいけない」ということを痛いほど学びました。

皆さんには、同じ失敗をしてほしくないですね。

「決算賞与」と「ボーナス」に関するよくある質問

退職予定でも決算賞与はもらえますか?

基本的には「支給日に在籍していること」が条件のケースが多いですが、損金算入の要件を満たすために「決算期末(通知時点)に在籍していれば支給する」としている会社もあります。ただし、通知後に退職した人への支払いをしない規定があると損金算入が否認されるリスクがあるため、会社側は慎重になります。就業規則を確認しましょう。

決算賞与の支給時期はいつですか?

決算月の翌月が一般的です。例えば3月決算の会社なら4月末までに支給されることが多いです。これは税務上の「決算日の翌日から1ヶ月以内の支給」という損金算入要件に合わせているためです。

決算賞与の平均額はどれくらいですか?

企業規模やその年の業績に完全に依存するため、一概には言えません。数万円の寸志程度の場合もあれば、通常のボーナスを超える数百万円が出る場合もあります。あくまで「余剰利益の分配」なので、通常のボーナスのような「給与の〇ヶ月分」という相場観は当てはまりにくいです。

「決算賞与」と「ボーナス」の違いのまとめ

「決算賞与」と「ボーナス」の違い、スッキリご理解いただけたでしょうか。

最後に、この記事のポイントをまとめておきますね。

  1. 決算賞与は「臨時」:業績が良いときだけ、決算後に支給されるご褒美。
  2. ボーナスは「定例」:夏と冬に支給される、給与の後払い的性格が強い報酬。
  3. 会社側のメリット:決算賞与は「未払い計上」による節税効果が大きい。
  4. 家計の注意点:決算賞与は変動が激しいため、ローンのあてにするのは危険。

言葉の定義を正しく理解することは、自分の生活を守り、会社の仕組みを深く知る第一歩です。

今、目の前にある支給明細が「決算賞与」なのか「ボーナス」なのか。

その意味を理解すれば、受け取ったときの喜びだけでなく、使い道や貯蓄の計画も、より賢いものになるはずです。

さらに詳しいビジネス用語の違いについては、ビジネス用語の違いまとめもぜひ参考にしてくださいね。