人事異動の時期や名刺を作成する際、「兼任」と「兼務」、どちらを使うべきか迷ったことはありませんか?
どちらも「二つ以上の役割を持つ」という意味では同じですが、実は「兼任」は役職やポスト(地位)を兼ねる場合に使われ、「兼務」は具体的な業務や部署(仕事)を掛け持ちする場合に使われるというニュアンスの違いがあります。
この記事を読めば、ビジネス文書や挨拶回りでの正しい使い分けが理解でき、自信を持って肩書きを名乗れるようになります。
それでは、まず最も重要な違いから詳しく見ていきましょう。
結論:一覧表でわかる「兼任」と「兼務」の最も重要な違い
基本的には役職や地位を複数持つなら「兼任」、実務や所属部署を複数持つなら「兼務」です。「任(役目)」と「務(つとめ)」という漢字の意味の違いが、そのまま使い分けのポイントになります。
まず、結論からお伝えしますね。
この二つの言葉の最も重要な違いを、以下の表にまとめました。
これさえ押さえれば、基本的な使い分けはバッチリです。
| 項目 | 兼任 | 兼務 |
|---|---|---|
| 中心的な意味 | 一人で二つ以上の任務・職務(役職)を兼ねること | 本務のほかに他の事務・業務(仕事)を行うこと |
| 焦点 | 地位、ポスト、責任の所在 | 実働、作業、所属部署 |
| よくある対象 | 社長とCEO、部長と課長、理事と評議員 | 営業と人事、総務部と経理部、プロジェクトAとB |
| ニュアンス | 「役」を兼ねている状態 | 「仕事」を行っている状態 |
一番大切なポイントは、「役職(ポジション)」に重きを置くのが「兼任」だということです。
一方で「兼務」は、実際に手を動かす「業務内容」や所属する「部署」を掛け持ちしている状態を指す際に多く使われます。
なぜ違う?漢字の成り立ち(語源)からイメージを掴む
「兼任」の“任”は「任せる・役目」を意味し、地位やポストを表します。一方、「兼務」の“務”は「務める・精力を尽くして行う」を意味し、具体的な労働やタスクを表します。
なぜこの二つの言葉にニュアンスの違いが生まれるのか、漢字の成り立ちを紐解くとその理由がよくわかりますよ。
「兼任」の成り立ち:「任」が表す“役目”のイメージ
「兼任」の「任(にん)」は、「任せる」「任務」「責任」という意味を持ちます。
これは、単なる作業ではなく、あるまとまった役割や権限を与えられた状態(ポスト)を指します。
「任命」「就任」といった言葉からも分かるように、人に対して与えられる「地位」や「タイトル」のイメージが強い漢字です。
つまり、「兼任」とは、複数の「椅子(ポスト)」に座っている状態を表していると言えます。
「兼務」の成り立ち:「務」が表す“つとめ”のイメージ
一方、「兼務」の「務(む)」は、「務める」「事務」「業務」という意味を持ちます。
「力」という字が含まれていることからも分かるように、力を尽くして行う具体的な活動や仕事を指します。
「勤務」「執務」といった言葉に使われるように、日々行うタスクや労働実態に焦点が当たっています。
このことから、「兼務」は、本業の他にもこなすべき「仕事(タスク)」や所属すべき「現場」を持っている状態を表す言葉なのです。
具体的な例文で使い方をマスターする
役員や管理職としての肩書きを並べる際は「兼任」、一般社員が複数の部署やプロジェクトにまたがって働く際は「兼務」を使うのが一般的です。
言葉の違いは、具体的な例文で確認するのが一番ですよね。
ビジネスシーンでの使い分けと、間違いやすいNG例を見ていきましょう。
ビジネスシーンでの使い分け
「ポストの話か」「実務の話か」を意識すると、使い分けは簡単ですよ。
【OK例文:兼任】
- 弊社の田中は、代表取締役社長と最高執行責任者(COO)を兼任しております。(役職の兼務)
- 親会社の取締役と、子会社の監査役を兼任する。(地位の兼務)
- 野球部の監督と、日本代表のコーチを兼任することになった。(役割・ポストの兼務)
【OK例文:兼務】
- 現在は営業部を本務とし、人事部の採用担当も兼務しています。(業務・部署の掛け持ち)
- 新規プロジェクトの立ち上げに伴い、開発チームとの兼務を命じられた。(実務の増加)
- 総務課と経理課を兼務しているので、繁忙期は目が回る忙しさだ。(所属の掛け持ち)
このように、名刺に載せるような肩書きなら「兼任」、実働の内容を説明するなら「兼務」がしっくりきますね。
これはNG!間違えやすい使い方
意味は通じることが多いですが、少し違和感のある使い方を見てみましょう。
- 【△】私は営業部のリーダーと、宴会部長を兼務しています。
- 【OK】私は営業部のリーダーと、宴会部長を兼任しています。
「宴会部長」というのも一つの役割(ポスト)としてのニュアンスが強いため、「兼任」の方がユーモアも含めて自然に響きます。「兼務」だと、宴会の手配という「作業」をさせられている感が強くなってしまいますね。
- 【△】事務作業と接客を兼任しています。
- 【OK】事務作業と接客を兼務しています。
「作業」と「接客」は具体的な仕事内容(アクション)なので、「役職」を指す「兼任」を使うのは少し大げさです。「兼務」あるいは単に「兼ねています」と言うのが自然でしょう。
【応用編】似ている言葉「兼職」との違いは?
「兼職」は、本業とは別に他の職業を持つこと、いわゆる「副業」や「公職との掛け持ち」を指す場合に使われます。公務員の「兼職禁止」など、法的な文脈で登場することが多い言葉です。
「兼任」「兼務」と似た言葉に「兼職(けんしょく)」があります。
これも押さえておくと、より正確な使い分けができますよ。
「兼職」は、本業を持っている人が、さらに別の職業や職務を持つことを指します。
「兼任」や「兼務」が主に「同一組織内や関連グループ内」での役割分担を指すのに対し、「兼職」は組織をまたいだ「副業」や「二足のわらじ」のニュアンスが強くなります。
特によく使われるのが、公務員の規定です。「公務員は営利企業への兼職が原則禁止されている」といった文脈ですね。
社内での掛け持ちなら「兼務」、社外での副業的な活動なら「兼職」とイメージしておくと良いでしょう。
「兼任」と「兼務」の違いをビジネス視点で解説
人事発令や社内規定では、企業ごとに「兼務辞令」などの定義が決まっている場合があります。一般的には、主たる所属(本務)があり、従たる所属を持つ場合に「兼務」が使われ、対等な立場の役職を複数持つ場合に「兼任」が使われる傾向があります。
ビジネスの現場、特に人事制度の視点から見ると、この二つは「主従関係」の有無で使い分けられることがあります。
1. 本務と兼務(主従関係)
多くの企業では、社員は必ず一つの「本務部署(所属部署)」を持っています。
その上で、他の部署の仕事も手伝う場合、「〇〇部兼務を命ず」という辞令が出ます。
ここでは、「本務(メイン)」と「兼務(サブ)」という主従関係が明確です。
「兼務」は、あくまで「籍を置きつつ、他の仕事もする」という状態を指すことが多いのです。
2. 兼任(対等な関係、または役職の並列)
一方、「兼任」は、「取締役 兼 営業本部長」のように、それぞれの役職が独立して存在し、一人の人間がその両方の責任を負っている状態を指します。
ここでは必ずしも主従関係があるわけではなく、「二つの帽子を被っている」というイメージになります。
ただし、企業によっては「兼務役員」という言葉を使うこともあり、社内用語としての定義(辞令の文言など)に従うのが最も確実です。
もし迷ったら、就業規則や過去の辞令を確認してみると良いでしょう。
(名刺の肩書きで冷や汗!「兼任」か「兼務」か迷ったあの日の教訓)
僕が以前、ベンチャー企業で働いていた頃の話です。
人数が少ない会社だったので、一人が何役もこなすのが当たり前。僕も「マーケティング部」に所属しながら、「広報」の仕事も任されることになりました。
新しい名刺を作ることになり、僕は意気揚々と肩書きを考えました。
「かっこよく見せたいな…よし、『マーケティングマネージャー 兼任 広報マネージャー』にしよう!」
出来上がった名刺を上司に見せると、苦笑いされました。
「おいおい、君はいつからマネージャー職を二つも持てるほど偉くなったんだ? 君の本職はマーケティングだろ? 広報はあくまで手伝いなんだから、『マーケティング部(広報兼務)』くらいが妥当だよ」
顔から火が出るほど恥ずかしかったです。
僕は「兼任」という言葉の響きにかっこよさを感じて使いたがっていましたが、それは「責任あるポストを二つ持っている」という重みのある言葉だったのです。
一方、当時の僕の実態は、部署をまたいで実務をこなす「兼務」でした。
「言葉選び一つで、自分の立ち位置や組織への理解度がバレてしまう」
そう痛感した出来事でした。それ以来、肩書きや役割を説明する際は、実態に即した言葉を慎重に選ぶようにしています。
背伸びをした言葉を使っても、実力が伴っていなければすぐに見透かされてしまいますからね。
「兼任」と「兼務」に関するよくある質問
名刺には「兼任」と「兼務」どちらを書くべきですか?
一般的には「兼」という文字を使って「〇〇部長 兼 △△課長」のように表記するのが無難でスマートです。「兼任」「兼務」という言葉自体を名刺に入れることは少なく、口頭で説明する際や履歴書、社内文書などで使い分けることが多いです。
給料は「兼務」すると増えますか?
基本的には増えないケースが多いです。日本の多くの企業では「職能給」や「役割給」がベースであり、兼務によって業務量が増えても、それは「残業代」などで調整されることが一般的です。ただし、管理職ポストを「兼任」する場合などは、役職手当が考慮されることもあります。
履歴書にはどう書けばいいですか?
履歴書では、辞令通りに書くのが原則です。辞令に「〇〇課との兼務を命ず」とあれば「〇〇課兼務」と書き、「〇〇部長を兼任」とあればその通りに記載します。不明な場合は、「〇〇部(△△部兼務)」のように、カッコ書きで補足すると分かりやすいでしょう。
「兼任」と「兼務」の違いのまとめ
「兼任」と「兼務」の違い、スッキリご理解いただけたでしょうか。
最後に、この記事のポイントをまとめておきますね。
- 基本は対象で使い分け:役職やポストなら「兼任」、実務や部署なら「兼務」。
- 漢字のイメージが鍵:「任」は“役目・地位”、「務」は“つとめ・仕事”。
- 名刺や辞令の確認を:基本的には「兼」で済ませることも多いが、社内規定や文脈に合わせて使い分けるとプロフェッショナル。
言葉の背景にある意味を理解すると、自分の置かれている立場や役割をより正確に相手に伝えることができます。
ビジネスシーンでは、こうした細かな使い分けが信頼感に繋がることもあります。
これからは自信を持って、自分の役割を表現していってくださいね。
さらに詳しい言葉の使い分けについては、ビジネス用語の違いまとめの記事もぜひ参考にしてみてください。