「ストックオプション」と「持株会」、どちらも自社の株式を通じて資産形成をする制度ですが、その性質は「宝くじ的な夢」と「定期預金的な積み立て」ほど違うことをご存じでしょうか?
実は、「ストックオプション」は株を安く買う“権利”をもらい、株価上昇時に大きな利益を狙うものであり、「持株会」は給与から一定額を天引きして、コツコツと自社株を“購入”し続けるものという、決定的な違いがあります。
この記事を読めば、入社時や福利厚生の説明で迷うことなく、自分のキャリアプランや資産形成の方針に合った選択ができるようになります。
それでは、まず最も重要な違いから詳しく見ていきましょう。
結論:一覧表でわかる「ストックオプション」と「持株会」の最も重要な違い
基本的には将来の値上がり益を狙う権利が「ストックオプション」、給与天引きで堅実に株を買い貯めるのが「持株会」です。ストックオプションは会社が選んだ人が対象ですが、持株会は希望する全社員が加入できるのが一般的です。
まず、結論からお伝えしますね。
この二つの制度の最も重要な違いを、以下の表にまとめました。
これさえ押さえれば、基本的な仕組みの違いはバッチリです。
| 項目 | ストックオプション(SO) | 従業員持株会 |
|---|---|---|
| 何を得るか | 株式を購入する「権利」 | 「株式」そのもの(積立購入) |
| コスト(取得時) | 原則不要(権利をもらうだけ) ※行使時に購入代金が必要 | 毎月の給与から天引き (自分の給料で買う) |
| 会社からの補助 | なし(利益自体が報酬) | 奨励金(購入額の5〜10%程度) |
| 株価下落時のリスク | 権利放棄すれば損はしない (価値がゼロになるだけ) | 購入額より資産価値が減る(元本割れ) |
| 対象者 | 役員や成果を期待される従業員 (選抜制) | 希望する全従業員 (福利厚生) |
一番大切なポイントは、「ストックオプション」はハイリスク・ハイリターン(一獲千金)の側面が強く、「持株会」はミドルリスク・ミドルリターン(資産形成)の側面が強いということです。
なぜ違う?仕組みの成り立ちからイメージを掴む
「ストックオプション」は“Option(選択権)”であり、買うか買わないかを選べる「予約券」のイメージ。「持株会」は“持ち株(Stock Ownership)”の会であり、みんなでお金を出し合って株を買い続ける「共同購入」のイメージです。
なぜこの二つの制度にこれほどのリスクとリターンの差が生まれるのか、言葉の成り立ちや仕組みを紐解くとよくわかりますよ。
「ストックオプション」のイメージ:未来の「予約チケット」
「ストックオプション(Stock Option)」は、「自社株(Stock)」をあらかじめ決められた価格で買う「選択権(Option)」です。
例えば、「将来株価がどうなっても、1株1,000円で買えるチケット」をもらったとしましょう。
会社が成長して株価が10,000円になれば、チケットを使って1,000円で買い、すぐに市場で売れば9,000円の利益が出ます。
逆に株価が500円に下がったら? チケットを使わなければ良いだけなので、損はしません(ただしチケットは紙切れになります)。
成功報酬としての意味合いが強い仕組みですね。
「持株会」のイメージ:会社の「定期積立貯金」
一方、「持株会」は、従業員がお金を出し合って、定期的に自社株を共同購入する仕組みです。
毎月給料から1万円なら1万円と決まった額を天引きし、その時の株価で買える分だけ株を買っていきます。
これは投資でいう「ドル・コスト平均法」と同じ効果があり、株価が高い時は少なく、安い時は多く買うことで、平均購入単価を平準化できます。
さらに、会社から「奨励金(おまけ)」が出るのが最大の特徴。
「1万円積み立てると、会社が1,000円プラスして、1万1,000円分の株を買ってくれる」といった具合です。
社員の資産形成を支援する福利厚生の意味合いが強い仕組みです。
具体的なシチュエーションで理解するメリット・デメリット
一発逆転の資産を築きたいなら「ストックオプション」が魅力ですが、付与されるかどうかは会社次第。コツコツ資産を増やしたいなら「持株会」が確実ですが、会社の業績悪化で給与と資産が共倒れになるリスクもあります。
それぞれの制度がどのような場面でメリット・デメリットを発揮するのか、具体的に見ていきましょう。
上場を目指す「スタートアップ」の場合(ストックオプション)
まだ株価が低い、あるいは値段がついていない段階で入社し、ストックオプションをもらうケースです。
メリット:上場(IPO)して株価が数十倍、数百倍になれば、億単位の資産を築ける可能性があります。「夢」がある制度です。
デメリット:上場できなければ、価値はほぼゼロです。また、上場しても株価が公募価格を割れれば利益が出ないこともあります。
安定した「大企業」の場合(持株会)
毎月の給与から無理のない範囲で積み立てるケースです。
メリット:奨励金(5〜10%程度が一般的)が出るため、市場で普通に株を買うより断然有利です。少額から始められ、手間もかかりません。
デメリット:株価が下がり続けると、奨励金分を含めても元本割れするリスクがあります。また、会社が倒産すると「職(給与)」と「資産(株)」を同時に失うリスク(集中投資のリスク)があります。
【応用編】似ている言葉「RSU(譲渡制限付株式ユニット)」との違いは?
「RSU」は、一定期間勤務するなどの条件を満たせば、株式そのものを“無償”でもらえる制度です。ストックオプションは“買う権利”ですが、RSUは“株そのもの”なので、株価が下がっても価値がゼロにならないのが大きな違いです。
最近、外資系企業や日本のIT企業を中心に増えているのが「RSU(Restricted Stock Unit)」です。
これも押さえておくと、最新の報酬トレンドが理解できますよ。
ストックオプションは「買う権利」なので、株価が権利行使価格より下がると無価値になります。
しかし、RSUは「株そのもの」をもらえるため、株価が下がっても「株価×株数」分の価値は残ります。
従業員にとっては、ストックオプションよりも確実性が高い「ボーナス」のような感覚に近い株式報酬制度と言えるでしょう。
「ストックオプション」と「持株会」の税金とリスクを専門的に解説
ストックオプションは「税制適格」か否かで税率が大きく変わり、最大55%の税金がかかる場合もあります。持株会は、奨励金は「給与所得」、売却益は「譲渡所得(約20%)」として課税されます。インサイダー取引規制にも注意が必要です。
お金の話で避けて通れないのが「税金」と「法律」です。
ここでも両者には違いがあります。
ストックオプションの税金
ストックオプションには「税制適格」と「税制非適格」があります。
- 税制適格SO:一定の条件を満たすと、権利行使時には課税されず、株を売った時にだけ約20%の税金がかかります。有利です。
- 税制非適格SO:権利行使した時点で、利益が「給与所得」とみなされ、最大約55%の税金がかかる可能性があります(株を売っていなくても税金が発生します)。
持株会の税金とインサイダー取引
持株会で会社からもらう「奨励金」は、給与の一部とみなされ課税対象になります。
また、持株会で購入した株を個人の証券口座に引き出して売却する場合、インサイダー取引規制に注意が必要です。
持株会での「定時定額購入」はインサイダー取引の対象外ですが、個人の判断で「売却」や「随時購入」を行う際は、未公表の重要事実を知っていると規制に抵触する恐れがあります。
詳しくは金融庁のウェブサイトや証券会社のガイドラインを確認することをお勧めします。
(「奨励金」に釣られて持株会に入った私が、退職時に感じた“意外な重み”)
僕が新卒で入社した会社には、従業員持株会がありました。
「奨励金が10%も出るから、銀行に預けるより得だよ」
先輩にそう言われ、深く考えずに毎月1万円の積立を始めました。
正直、毎月の給与明細を見ても「天引きされてるな」くらいにしか思っていませんでした。
しかし、5年後に転職することになり、持株会を退会(引き出し)する手続きをした時のことです。
積み上がっていた金額を見て驚きました。
毎月の積立額に加え、ボーナス時の増額、そして何より10%の奨励金と配当金の再投資が効いて、自分が拠出した元本よりも数十万円も増えていたのです。
当時の自社の株価が堅調だったこともありますが、「知らぬ間に資産が育っている」という持株会のパワーを実感しました。
一方で、もし会社の業績が悪化していたら、退職金代わりのこの資産も減っていたかもしれないと思うと、少しゾッとしました。
「会社の成長が自分の資産に直結する」
それはモチベーションになる反面、運命共同体になるリスクでもあるのだと、通帳の数字を見ながら深く感じた経験でした。
「ストックオプション」と「持株会」に関するよくある質問
ストックオプションと持株会、両方やるべきですか?
資金に余裕があり、会社の将来性に期待するなら両方やるのも手です。ただし、資産が「自社株」に偏りすぎると、会社が傾いた時にリスクが大きくなるため、適度なバランス(分散投資)を心がけることが大切です。
持株会はいつでもやめられますか?
基本的にはいつでも退会や積立の中断が可能です。ただし、積み立てた株を単元株(通常100株)として引き出すには手続きが必要で、売却できるタイミングもインサイダー取引防止の観点から制限される場合があります。
パートやアルバイトでも持株会に入れますか?
会社の規定によりますが、近年はパートやアルバイトの方でも加入できるように対象を広げている企業が増えています。就業規則や持株会規約を確認してみてください。
「ストックオプション」と「持株会」の違いのまとめ
「ストックオプション」と「持株会」の違い、スッキリご理解いただけたでしょうか。
最後に、この記事のポイントをまとめておきますね。
- 基本は「権利」か「積立」か:SOは買う権利、持株会は毎月の積立購入。
- リターンの違い:SOは一獲千金狙い、持株会は奨励金+配当の堅実運用。
- 対象の違い:SOは選抜された人、持株会は希望者全員が一般的。
言葉の背景にある仕組みを理解すると、自分のお金とキャリアをどう守り、増やしていくかの戦略が見えてきます。
これからは、会社の制度を賢く利用して、自分らしい資産形成を進めていってくださいね。
さらに詳しいビジネス用語の使い分けについては、ビジネス用語の違いまとめの記事もぜひ参考にしてみてください。