「執行役」と「執行役員」の違いは?会社法上の定義と役割を解説

「執行役」と「執行役員」、たった一文字違いで読み方もそっくりですが、ビジネスにおける立場や法的な重みは全く異なることをご存じですか?

実はこの2つ、「法律で定められた機関」か「会社が独自に決めた役職」かという点で、決定的に性質が違います。

この記事を読めば、名刺交換の際や人事情報の確認時、相手がどのような権限と責任を持っているのかがスッキリ分かります。

それでは、まず最も重要な違いから一覧表で詳しく見ていきましょう。

結論:一覧表でわかる「執行役」と「執行役員」の最も重要な違い

【要点】

「執行役」は会社法で定められた機関であり、指名委員会等設置会社にのみ存在します。一方、「執行役員」は法律上の定義がない任意の役職で、多くの会社で従業員のトップ層として設けられています。

まず、結論からお伝えしますね。

この二つの言葉の最も重要な違いを、以下の表にまとめました。これさえ押さえれば、基本的な使い分けはバッチリです。

項目執行役(しっこうやく)執行役員(しっこうやくいん)
法的定義会社法上の機関法律上の定義なし(任意の制度)
設置できる会社指名委員会等設置会社のみどの会社でも設置可能
登記氏名が登記される登記されない
役割業務執行の決定と実行取締役が決めた業務の実行
契約形態委任契約(会社法上の役員等)委任契約または雇用契約(従業員)

一番大切なポイントは、「執行役」は法律で決められた重い責任を持つポジション、「執行役員」は会社が自由に決めた現場のトップということですね。

「執行役員」は多くの企業で見かけますが、「執行役」はソニーやイオン、東芝など特定の形態(指名委員会等設置会社)をとる大企業にしか存在しません。

なぜ違う?制度の背景と会社法の定義からイメージを掴む

【要点】

「執行役」は監督と執行を分離する欧米型ガバナンスのために作られた法的な機関です。「執行役員」は、取締役が肥大化するのを防ぎ、業務執行に専念させるために多くの日本企業が導入した仕組みです。

なぜこれほど似た言葉が別の意味で存在するのか、制度が生まれた背景を紐解くと、その理由がよくわかりますよ。

「執行役」の背景:監督と執行の完全分離

「執行役」は、2003年の商法改正(現・会社法)で導入された「委員会等設置会社(現・指名委員会等設置会社)」というシステムの一部として誕生しました。

これは、「経営の監督(取締役)」と「業務の執行(執行役)」を明確に分ける欧米型のスタイルです。

取締役会は監督に専念し、実際のビジネスはプロの経営者である「執行役」に大幅に権限を委譲してスピーディーに行うという狙いがあります。

「執行役員」の背景:現場のトップとしての役割

一方、「執行役員」は1997年にソニーが導入したのが始まりと言われています。

当時、日本の多くの会社では「取締役」が増えすぎて、意思決定が遅くなったり、現場の業務に追われて経営の監督がおろそかになったりしていました。

そこで、法律を変えずにできる改革として、取締役から「業務執行」の役割だけを切り出して任せる「執行役員」というポストを作ったのです。

これにより、取締役は数を減らして経営判断に集中し、執行役員は現場の責任者としてバリバリ働くという分担が進みました。

具体的な例文で使い方をマスターする

【要点】

「執行役」は特定の企業形態における正式な役職として使われます。「執行役員」は一般的な企業の人事発令や肩書きとして広く使われます。

言葉の違いは、具体的なビジネスシーンで確認するのが一番ですよね。

それぞれの言葉が使われる文脈を見ていきましょう。

「執行役」が使われるシーン

指名委員会等設置会社を採用している企業(例:日立製作所、野村ホールディングスなど)でのみ登場します。

【OK例文】

  • 株主総会後の取締役会で、代表執行役社長が選定された。
  • 彼は執行役として、登記簿にも名前が載っている。
  • 指名委員会等設置会社では、取締役が執行役を兼務することが可能だ。

「執行役員」が使われるシーン

一般的な株式会社(取締役会設置会社など)で広く使われます。

【OK例文】

  • 来月から営業本部長が執行役員に昇格することが発表された。
  • 取締役会で決定された方針に基づき、執行役員が業務を遂行する。
  • 彼は執行役員制度の導入により、取締役を退任して業務に専念することになった。

これはNG!間違いやすい使い方

企業の形態を無視して使うと、事実と異なってしまいます。

  • 【NG】一般的な中小企業(監査役会設置会社)で、社長が「代表執行役」を名乗る。
  • 【OK】一般的な中小企業(監査役会設置会社)で、社長が「代表取締役」または「社長執行役員」を名乗る。

「代表執行役」は法律用語として厳密に定義されているため、指名委員会等設置会社以外で名乗ることはできません。「社長執行役員」なら、社内の職制としての名称なので問題ありません。

【応用編】似ている言葉「取締役」との違いは?

【要点】

「取締役」は会社の経営方針を決定し、監督する立場です。「執行役」や「執行役員」は、その決定に従って実際に業務を動かす立場です。ただし、会社形態によって権限の範囲や兼務の可否が異なります。

「執行役」「執行役員」と切っても切れない関係にあるのが「取締役」です。

本来の役割分担を図にすると、以下のようになります。

  • 取締役:経営の「監督」と「重要事項の決定」を行う(舵取り役)
  • 執行役・執行役員:決定されたことを「実行」する(現場の指揮官)

ただし、多くの日本企業(監査役会設置会社)では、取締役が現場のトップも兼ねている(業務執行取締役)ケースが一般的でした。

「執行役員」制度は、この「取締役」から現場の仕事を切り離すために作られた仕組みです。

一方、「執行役」がいる指名委員会等設置会社では、取締役会は基本的には監督に徹し、業務執行の決定権限の多くを執行役に渡しています。これにより、経営のスピードアップと透明性の確保を目指しているのです。

「執行役」と「執行役員」の違いを法的に解説

【要点】

会社法において「執行役」は第402条に基づき選任される機関であり、役員等(第423条)としての重い損害賠償責任を負います。「執行役員」は会社法上の機関ではなく、従業員(雇用)または受任者(委任)としての立場にとどまります。

少し専門的な視点から、この二つを深掘りしてみましょう。

法務省が管轄する会社法では、「執行役」は明確に定義された機関です。

会社法第402条により、指名委員会等設置会社には1人または2人以上の執行役を置かなければなりません。彼らは取締役会で選任され、会社に対して善管注意義務や忠実義務を負い、任務を怠れば株主代表訴訟の対象にもなり得ます。また、氏名は登記事項証明書(登記簿)に記載されます。

一方、「執行役員」という言葉は会社法の中には出てきません。

法的には「従業員」の延長(雇用契約)である場合もあれば、経営に近い「委任契約」の場合もありますが、あくまで社内規定に基づく役職です。

そのため、会社法上の「役員(取締役・会計参与・監査役)」には含まれませんし、登記もされません。

詳しくは法務省のウェブサイトなどで会社法の条文を確認してみると、その扱いの差が歴然としていることが分かりますよ。

「執行役員」への昇進を「役員就任」と勘違いした同僚の話

僕の友人が大手メーカーに勤めていた頃の実話です。

ある日、同僚のAさんが「ついに念願の執行役員に昇進が決まった!これで俺も経営陣の仲間入りだ、会社法上の役員だ!」と大喜びしていました。彼は、執行役員になれば登記もされ、名実ともに「役員」になれると信じ込んでいたのです。

お祝いの飲み会で、彼は意気揚々と「これからは労働基準法の枠も外れるし、責任重大だよ」と語っていました。

しかし数ヶ月後、彼に会うと少し元気がありません。

「どうしたの?」と聞くと、「いや、実は執行役員って、法律上の役員じゃないんだってね…。登記もされないし、雇用契約のままの“みなし役員”みたいな扱いだったんだ」とがっかりしていました。

彼の会社では、執行役員はあくまで「従業員のトップ」という位置づけで、取締役のような経営決定権までは持っていなかったのです。

「名前が“役員”だから勘違いしてたよ。でも、現場の最高責任者であることには変わりないから、成果で示すしかないね」

そう語る彼は、肩書きの響きと法的実態のギャップに戸惑いつつも、プロフェッショナルとして前を向いていました。

この一件で、僕は「名前だけで判断せず、その定義や契約内容をしっかり確認すること」の大切さを学びました。

「執行役」と「執行役員」に関するよくある質問

Q. 執行役員は英語でどう表記しますか?

A. 一般的には「Executive Officer」や「Operating Officer」などが使われます。一方、会社法上の執行役は「Corporate Executive Officer」と訳されることが多いですが、各社の定款や規定によります。

Q. 取締役と執行役員は兼務できますか?

A. はい、多くの会社で兼務が行われています。「取締役 兼 執行役員」という肩書きですね。これは「経営決定(取締役)」と「業務遂行(執行役員)」の両方の役割を持っていることを示しています。

Q. 執行役員の報酬は給与ですか?役員報酬ですか?

A. 契約形態によります。雇用契約が継続している場合は「給与」として支払われ、残業代が出ることもあります。委任契約の場合は「役員報酬」のような扱いになりますが、税務上の扱いは会社法上の役員とは異なる点もあるため注意が必要です。

「執行役」と「執行役員」の違いのまとめ

「執行役」と「執行役員」の違い、スッキリご理解いただけたでしょうか。

最後に、この記事のポイントをまとめておきますね。

  1. 法的根拠の違い:「執行役」は会社法上の機関、「執行役員」は任意の社内制度。
  2. 設置会社の限定:「執行役」は指名委員会等設置会社のみ。「執行役員」は制限なし。
  3. 登記の有無:「執行役」は登記される。「執行役員」は登記されない。
  4. 役割の共通点:どちらも「業務執行(現場を動かす)」の責任者である点は同じ。

これからはニュースで企業の人事情報を見る時や、取引先の名刺を見た時に、「この会社は指名委員会等設置会社なんだな」とか「この人は現場のトップなんだな」と、解像度高く理解できるようになりますよ。

言葉の背景にある仕組みを知ることは、ビジネス構造を理解する第一歩です。ビジネス用語についてさらに知りたい方は、ビジネス用語の違いまとめもぜひご覧ください。