「店主」と「店長」、どちらもお店のトップを指す言葉ですが、その立場や責任の範囲には大きな違いがあることをご存じでしょうか?
実は、「店主」はその店の持ち主(所有者)であり経営者を指すのに対し、「店長」は店の運営を任された現場責任者(雇用者)を指すという、決定的な違いがあります。
この記事を読めば、個人経営のお店とチェーン店での呼び方の違いや、ビジネスにおける権限の差がスッキリと分かります。
それでは、まず最も重要な違いから詳しく見ていきましょう。
結論:一覧表でわかる「店主」と「店長」の最も重要な違い
基本的には店を所有しているのが「店主」、運営を任されているのが「店長」です。店主は自分の城の主(あるじ)ですが、店長は会社やオーナーから雇われた管理者という側面が強くなります。
まず、結論からお伝えしますね。
この二つの言葉の最も重要な違いを、以下の表にまとめました。
これさえ押さえれば、基本的な使い分けはバッチリです。
| 項目 | 店主 | 店長 |
|---|---|---|
| 中心的な意味 | 店の主な(所有者) | 店の長(責任者) |
| 立場 | 経営者、オーナー、個人事業主 | 従業員、管理者、雇われ |
| 権限 | 経営方針や資金繰りまで全権限を持つ | 売上管理やスタッフ指導など現場の権限を持つ |
| よくある業態 | 個人経営の飲食店、専門店 | チェーン店、コンビニ、スーパー |
一番大切なポイントは、「店主」はその店自体が自分の資産であるのに対し、「店長」は組織の中の役割名であるということです。
もちろん、店主が自分で店長業務を兼ねている(オーナー店長)場合もありますが、言葉のニュアンスとしてはこの区別が基本です。
なぜ違う?漢字の成り立ち(語源)からイメージを掴む
「店主」の“主”は「あるじ・持ち主」を意味し、所有権を強調します。一方、「店長」の“長”は「おさ・リーダー」を意味し、組織の統率者としての役割を強調します。
なぜこの二つの言葉に立場の違いが生まれるのか、漢字の成り立ちを紐解くとその理由がよくわかりますよ。
「店主」の成り立ち:「主(あるじ)」としての存在
「店主」の「主(しゅ・ぬし)」は、文字通り「持ち主」「主人」を意味します。
これは、その店が誰のものかという「所有権」に焦点が当たった言葉です。
「一国一城の主」という言葉があるように、店主はその店における絶対的な権限者であり、店の存続や経営責任を一身に背負っています。
そのため、個人経営のラーメン屋や喫茶店、伝統工芸の店など、個人の裁量が大きい業態で好んで使われます。
「店長」の成り立ち:「長(おさ)」としての役割
一方、「店長」の「長(ちょう)」は、「組織のトップ」「リーダー」を意味します。
「部長」や「課長」と同じく、組織図の中での「役職名」というニュアンスが強い言葉です。
店長の上には「エリアマネージャー」や「社長」がいることが多く、彼らから「この店を頼むよ」と任された現場監督という位置づけになります。
そのため、チェーン店や大規模な小売店など、組織的に運営されている店で使われるのが一般的です。
具体的な例文で使い方をマスターする
こだわりや独自性を出したい個人店では「店主」、組織の一員として機能する店舗では「店長」と使い分けるのが自然です。
言葉の違いは、具体的な例文で確認するのが一番ですよね。
ビジネスと日常、そして間違いやすいNG例を見ていきましょう。
ビジネス・店舗シーンでの使い分け
「誰が経営しているか」を意識すると、使い分けは簡単ですよ。
【OK例文:店主】
- この喫茶店の店主が淹れるコーヒーは絶品だ。(オーナーのこだわり)
- 創業50年、三代目店主として暖簾(のれん)を守る。(家業・継承)
- 店主の体調不良により、当面の間休業いたします。(個人の事情=店の事情)
【OK例文:店長】
- コンビニの店長として、アルバイトのシフト管理を行う。(管理業務)
- 来月の人事異動で、新宿店の店長に昇進が決まった。(組織人事)
- 「店長を出せ!」とクレームが入ったので対応する。(現場責任者)
このように、個人の顔が見えるのが「店主」、役職としての機能が見えるのが「店長」ですね。
日常会話での使い分け
日常会話でも、ニュアンスの違いはあります。
【OK例文:店主】
- 頑固オヤジが店主をやっているラーメン屋。(独自のルールがありそう)
- 個人商店の店主たちは、商店街の活性化に熱心だ。
【OK例文:店長】
- アパレルショップの店長さんがコーディネートしてくれた。
- 学生時代、居酒屋の店長には随分お世話になったよ。
これはNG!間違えやすい使い方
意味は通じることが多いですが、違和感のある使い方を見てみましょう。
- 【△】(大手ファミレスチェーンで)こちらの店主さんをお願いします。
- 【OK】(大手ファミレスチェーンで)こちらの店長さんをお願いします。
チェーン店の現場責任者を「店主」と呼ぶのは、あまり一般的ではありません。そこには「所有者」はいない(会社が所有している)からです。
逆に、個人経営の店主に「店長さん」と呼びかけるのは失礼にはなりませんが、こだわりを持っている店主からは「俺はただの雇われ店長じゃないぞ」と内心思われるかもしれません。
【応用編】似ている言葉「オーナー」との違いは?
「オーナー」は出資者・所有者を指すカタカナ語で、「店主」とほぼ同義ですが、現場に出ずに経営だけを行う場合にも使われます。「店主」は現場に立っているイメージが強く、「オーナー」は権利を持っているイメージが強いです。
「店主」「店長」と合わせてよく聞くのが「オーナー」です。
これも押さえておくと、関係性がよりクリアになりますよ。
- 店主:店の持ち主であり、かつ現場で働いていることが多い。「大将」「マスター」とも呼ばれる。
- オーナー:店の持ち主(出資者)。現場は「雇われ店長」に任せて、自分は店にいないこともある。
- オーナー店長:持ち主であり、かつ店長として現場も仕切っている人。「店主」を現代風または組織的に言った表現。
美容室や飲食店などで「オーナー」と言うと、複数の店舗を経営している実力者、という響きがありますね。
「店主」と「店長」の違いをビジネス視点で解説
経営資源(ヒト・モノ・カネ)の決定権を持つのが「店主」、与えられた資源を運用して成果を出すのが「店長」です。店主は赤字のリスクを自ら負いますが、店長は基本的に給与所得者であり、経営リスクは負いません。
ビジネスの構造から見ると、この二つは「リスクと権限」の大きさが全く違います。
1. 最終決定権の有無
「店主」は、店のコンセプト、メニュー、価格、営業時間、そしていつ店を畳むかまで、すべてを自分で決める権利があります。
一方、「店長」は、本部や会社の方針(マニュアルや戦略)に従って店を運営する義務があります。
勝手にメニューを変えたり、定休日を作ったりすることは、通常は許されません。
2. お金の出所とリスク
「店主」は、自分の資金で店を開いています。
店が儲かれば利益はすべて自分のものですが、赤字になれば借金を背負うのも自分です。
「店長」は、会社から給料をもらって働いています。
店が赤字でも給料は保証されますが(ボーナスには響くかもしれませんが)、店の借金を背負うことはありません。
詳しくは中小機構(J-Net21)などで起業や店舗運営の記事を見ると、経営者(店主)としての責任の重さがよく分かります。
「店長」と呼ばれて違和感?頑固オヤジが「店主」にこだわる理由
僕がよく通う、カウンターだけの小さな蕎麦屋があります。
そこのオヤジさんは、毎朝自分で蕎麦を打ち、出汁を取り、一人で店を切り盛りしています。
ある日、若いお客さんが入ってきて、こう言いました。
「すいません、店長さん。注文いいですか?」
オヤジさんは注文を取りながら、少し苦笑いをしていました。
後で常連の僕が「店長って呼ばれるの、嫌なんですか?」と聞くと、オヤジさんはタオルで額を拭きながら答えました。
「嫌ってわけじゃねえけどよ。俺は誰かに雇われてるわけじゃねえし、この味も店も、全部俺の責任でやってるんだ。『店長』って呼ばれると、どこかのチェーン店と一緒にされた気がして、少し尻がむず痒くなるんだよな」
その言葉を聞いて、ハッとしました。
「店主」という言葉には、自分の城を守る覚悟と誇りが詰まっているんだ。
誰かの指示ではなく、自分の信じる味を出す。
その責任を一身に背負っているからこそ、彼らは「店主」と呼ばれることに誇りを持っているのかもしれません。
それ以来、僕はそのオヤジさんを呼ぶときは、敬意を込めて「ご主人」と呼ぶようにしています。
「店主」と「店長」に関するよくある質問
フランチャイズ(FC)のオーナーは「店主」ですか「店長」ですか?
立場としては独立した事業主なので「店主(オーナー)」です。しかし、フランチャイズ本部の看板を掲げてマニュアル通りに運営する現場責任者という側面もあるため、名刺や呼び名では「店長(オーナ店長)」と名乗るケースも多いです。
名刺にはどちらを書くべきですか?
個人事業主として独立しているなら「店主」や「代表」と書くのが一般的です。法人化しているなら「代表取締役」と書くこともあります。会社組織の一店舗を任されているなら「店長」です。
「マスター」や「ママ」との違いは?
これらはバーやスナック、喫茶店などでの「店主」の通称です。親しみやすさを込めた呼び方であり、職務上の立場としては「店主(経営者)」であることがほとんどです。
「店主」と「店長」の違いのまとめ
「店主」と「店長」の違い、スッキリご理解いただけたでしょうか。
最後に、この記事のポイントをまとめておきますね。
- 基本は所有か管理か:持ち主なら「店主」、責任者なら「店長」。
- 立場の違い:店主は経営者(リスクを負う)、店長は従業員(給料をもらう)。
- こだわりの有無:個人の裁量と想いが強い店では「店主」が好まれる。
言葉の背景にある「責任の所在」を理解すると、お店に入った時にその人がどういう立場で働いているのかが見えてきます。
これからは、個人店では「ご主人(店主)」、チェーン店では「店長さん」と、状況に合わせてスマートに使い分けられるはずです。
さらに詳しいビジネス用語の使い分けについては、ビジネス用語の違いまとめの記事もぜひ参考にしてみてください。