「重役」と「役員」、どちらも会社の偉い人を指す言葉ですが、その使われ方には明確なルールの違いがあることをご存じでしょうか?
実は、「役員」は会社法などで定められた法的な職位の総称であるのに対し、「重役」は重要な役目を担う人を指す通称(俗称)であり、法律用語としては存在しないという決定的な違いがあります。
この記事を読めば、公式な文書で恥をかかないための使い分けや、それぞれの言葉が持つニュアンスの違いがスッキリと分かります。
それでは、まず最も重要な違いから詳しく見ていきましょう。
結論:一覧表でわかる「重役」と「役員」の最も重要な違い
基本的には公式な場や書類では「役員」、日常会話や慣用句では「重役」を使います。指している人物はほぼ同じ(取締役以上)ですが、「重役」はあくまで俗語的な呼び方です。
まず、結論からお伝えしますね。
この二つの言葉の最も重要な違いを、以下の表にまとめました。
これさえ押さえれば、基本的な使い分けはバッチリです。
| 項目 | 役員 | 重役 |
|---|---|---|
| 定義 | 会社法などの法律で定められた役職 | 重要な役目を担う人を指す通称・俗称 |
| 使用シーン | 契約書、登記、会社案内、組織図 | 日常会話、小説、比喩表現 |
| 対象範囲 | 取締役、監査役、会計参与など | 主に取締役以上の経営陣 |
| ニュアンス | フラット、公式、職務的 | 偉い人、権力者、重鎮 |
一番大切なポイントは、「重役」は名刺や契約書には書かない言葉だということです。
一方で「役員」は、会社のルール(定款)や法律に基づく正式な名称として使われます。
なぜ違う?漢字の成り立ち(語源)からイメージを掴む
「役員」は組織の“役”目を負う構“成”員を表し、役割に焦点が当たっています。一方、「重役」は“重”要な“役”目を表し、その重要性や地位の高さ(偉さ)に焦点が当たっています。
なぜこの二つの言葉にニュアンスの違いが生まれるのか、漢字の成り立ちを紐解くとその理由がよくわかりますよ。
「役員」の成り立ち:「役」を持つ「員」
「役員」は、「役(やくめ・つとめ)」と「員(かず・人)」から成り立っています。
これは、組織の中で特定の役割や任務を与えられたメンバーという意味です。
会社法における「取締役」や「監査役」などがこれに当たります。
非常にフラットで機能的な言葉であり、「偉いかどうか」よりも「その役職に就いているか」という事実を指します。
「重役」の成り立ち:「重」い「役」目
一方、「重役」は、「重(おもい・重要)」な「役(やくめ)」です。
文字通り、組織の中で特に責任が重く、重要な地位にある人を指します。
これは明治時代以降に使われ始めた言葉で、英語の「Director(取締役)」などの訳語として定着したとも言われています。
法律的な定義ではなく、「あの人は重鎮だ」「会社を動かしている」という、存在感や権威を強調するイメージが強い言葉です。
具体的な例文で使い方をマスターする
公式なアナウンスや組織の話なら「役員」、雰囲気や態度、慣用句として使うなら「重役」と使い分けるのが自然です。
言葉の違いは、具体的な例文で確認するのが一番ですよね。
ビジネスと日常、そして間違いやすいNG例を見ていきましょう。
ビジネスシーンでの使い分け
「フォーマルか」「カジュアルか」を意識すると、使い分けは簡単ですよ。
【OK例文:役員】
- 来月の株主総会で、新しい役員が選任される予定です。(法的手続き)
- 弊社の役員一覧をウェブサイトに掲載しました。(公式情報)
- 役員報酬の規定を見直す。(制度)
【OK例文:重役】
- 今日は本社から重役たちが視察に来るらしいぞ。(会話での「偉い人たち」)
- 彼は若くして重役クラスの待遇を受けている。(地位の比喩)
- 重役会議で決定された事項だ。(慣例的な呼び名 ※正式には取締役会や経営会議)
このように、書類や制度の話なら「役員」、会話の中で偉さを伝えるなら「重役」がしっくりきますね。
日常会話での使い分け
日常会話でも、ニュアンスの違いはあります。
【OK例文:役員】
- 父は小さな会社の役員をしています。
- マンションの管理組合の役員になったんだ。
【OK例文:重役】
- 毎日昼過ぎに来るなんて、まるで重役出勤だね。(慣用句)
- ふんぞり返って座るなんて、重役気取りかよ。(態度の形容)
これはNG!間違えやすい使い方
意味は通じることが多いですが、マナーとして適さない使い方を見てみましょう。
- 【NG】名刺の肩書き:株式会社〇〇 重役 田中太郎
- 【OK】名刺の肩書き:株式会社〇〇 専務取締役 田中太郎
名刺に「重役」と書くことはまずありません。具体的な役職名(取締役、執行役員など)を書くのがマナーです。
- 【NG】(取引先に向かって)弊社の重役を紹介します。
- 【OK】(取引先に向かって)弊社の役員を紹介します。(または具体的な役職名)
自社の人間を「重役(偉い人)」と呼ぶのは、手前味噌で尊大な印象を与えてしまうため避けた方が無難です。
【応用編】似ている言葉「幹部」との違いは?
「幹部」は組織の中心となって指揮をとる人たちの総称です。役員だけでなく、部長や本部長などの「管理職」も含まれる広い意味の言葉です。「経営幹部」と言えば役員クラスを指すことが多いです。
「重役」「役員」と似た言葉に「幹部(かんぶ)」があります。
これも押さえておくと、組織の階層がよりクリアに見えてきますよ。
「幹部」は、組織の「幹(みき)」となる部分、つまりリーダー層全体を指す言葉です。
「役員」が法律で定められたトップ層であるのに対し、「幹部」はそこに至る手前の「上級管理職(部長クラス)」までを含んで使われることが多いです。
・役員:経営の責任者(取締役など)。
・幹部:組織運営のリーダー(役員+部長クラス)。
・重役:役員の俗称。
「幹部候補生」という言葉があるように、将来リーダーになる人を指す場合にも使われますね。
「重役」と「役員」の違いをビジネス視点で解説
会社法上の「役員」は、取締役、会計参与、監査役の3つを指します。執行役員は従業員のトップであり、厳密には役員ではありませんが、ビジネス実務上は「役員(経営陣)」として扱われることが一般的です。「重役」はこれらをひっくるめた古い呼び方です。
ビジネスの現場、特に法律(会社法)の視点から見ると、この定義は非常に厳密です。
1. 会社法上の「役員」
会社法第329条などで定義されている「役員」は以下の3つだけです。
- 取締役:経営方針を決める人。
- 会計参与:計算書類を作成する専門家(税理士など)。
- 監査役:経営が正しく行われているかチェックする人。
これらは株主総会で選任され、会社と「委任契約」を結びます。
2. 執行役員(Officer)
最近よく聞く「執行役員」は、実は会社法上の役員ではありません。
彼らは取締役会が決めた方針に従って業務を実行する「従業員のトップ」という位置付けです。
しかし、実際のビジネスシーンでは、「役員一覧」に名前が載っていたり、「経営メンバー」として扱われたりするため、広い意味での「役員(経営陣)」に含まれることが多いです。
3. 重役の位置付け
「重役」は、こうした法的な区別がまだ曖昧だった時代や、慣習的に使われてきた言葉です。
現代のビジネス文書や規定で「重役」という言葉が使われることはほとんどありません。
詳しくは法務省の会社法関連ページなどで会社機関の設計について確認してみると、役員の法的責任がより深く理解できるでしょう。
「重役出勤」を真に受けて大恥!新人の僕が勘違いしていた役員のリアル
僕が社会人になりたての頃、「重役」という言葉に勝手な憧れを抱いていました。
ドラマや漫画の影響で、「重役=社長室でふんぞり返って、昼から出社して葉巻を吸っている人」みたいなイメージを持っていたんです。
ある日、配属された部署の歓迎会で、たまたま隣の席になった専務(役員)に、お酒の勢いもあってこう聞いてしまいました。
「専務ともなると、やっぱり毎日『重役出勤』なんですか? 朝はゆっくりできて羨ましいです!」
その瞬間、周りの空気が凍りつきました。
専務は苦笑いしながら、静かにこう言いました。
「君ね、今の時代の役員は、社員の誰よりも早く来て、誰よりも遅く帰るのが仕事なんだよ。責任が『重い』からこそ、休んでる暇なんてないんだ」
後で先輩に聞いたところ、その専務は毎朝7時には出社して、海外拠点との会議や新聞のチェックを欠かさない超ハードワーカーでした。
「重役」という言葉の響きにある優雅さと、実際の「役員」の激務。
そのギャップを痛感し、顔から火が出るほど恥ずかしかったのを覚えています。
言葉のイメージだけで知ったかぶりをするのは危険ですね。
「重役」と「役員」に関するよくある質問
「重役」は死語ですか?
完全に死語というわけではありませんが、公式な場では使われない「古い言葉」という認識が広まっています。「重役出勤」や「重役待遇」といった慣用句の中では生きていますが、肩書きとして使うことはまずありません。
英語で言うとどうなりますか?
「役員」は一般的に「Director(取締役)」や「Officer(執行役員)」と訳されます。「重役」のニュアンスに近いのは「Executive(エグゼクティブ)」や「Top Management」などが使われます。
平取締役は「重役」ですか?
言葉の定義としては「重役(重要な役目)」に含まれますが、一般的に「重役」と言うと、社長、副社長、専務、常務といった「役付取締役(ランクの高い役員)」をイメージすることが多いです。
「重役」と「役員」の違いのまとめ
「重役」と「役員」の違い、スッキリご理解いただけたでしょうか。
最後に、この記事のポイントをまとめておきますね。
- 基本は公式か通称か:法律・公式なら「役員」、通称・俗語なら「重役」。
- 対象はほぼ同じ:どちらも経営を担う取締役などを指す。
- 使い分け:名刺や契約書には「役員(具体的な役職名)」を使うのが鉄則。
言葉の背景にある「公」と「俗」の違いを理解すると、ビジネスシーンでの振る舞いがよりスマートになります。
これからは、ニュースで「役員人事」を見ても、ドラマで「重役」という言葉を聞いても、その裏にある意味を正しく捉えられるはずです。
さらに詳しいビジネス用語の使い分けについては、ビジネス用語の違いまとめの記事もぜひ参考にしてみてください。