「障害」と「障がい」、文章を書く際にどちらの表記を選ぶべきか迷った経験はありませんか?
実はこの2つ、法律上の正式用語であるか、当事者への心理的配慮を優先するかで使い分けるのが現在の基本です。
この記事を読めば、漢字の成り立ちから公的な見解、そして意外と知られていない「音声読み上げソフトの罠」までスッキリと理解でき、ビジネスシーンでも自信を持って使い分けられるようになります。
それでは、まず最も重要な結論から見ていきましょう。
結論:一覧表でわかる「障害」と「障がい」の最も重要な違い
基本的には法令用語である「障害」が標準表記ですが、当事者の心情に配慮した「障がい」も広く普及しています。対象や組織のガイドラインに合わせて選択することが重要です。
まず、結論からお伝えしますね。
この二つの表記の最も重要な違いを、以下の表にまとめました。これさえ押さえれば、基本的な背景はバッチリです。
| 項目 | 障害 | 障がい |
|---|---|---|
| 中心的な意味 | 物事の進行を妨げるもの、心身の機能不全 | (意味は同上だが、ネガティブな印象を緩和したもの) |
| 表記の由来 | 当用漢字表の制定により「障碍」から書き換えられた | 「害」の字が持つ負のイメージを避けるために生まれた |
| ニュアンス | 公的、客観的、事務的 | 配慮、寄り添い、心情的 |
| 現代での使われ方 | 法令、国・一部自治体の公文書、標準的なビジネス文書 | 企業のCSR活動、一部の自治体の文書、支援団体の広報 |
一番大切なポイントは、法的な正式名称を記述する際は「障害」を選び、配慮を示す場面では「障がい」を選ぶという大きな傾向があることです。
ただし、一概にどちらが絶対に正しいと断言できるものではないのが、この言葉の難しいところでしょう。
なぜ違う?漢字の成り立ちと表記変更の複雑な歴史
本来は「障碍(しょうがい)」と表記されていましたが、戦後の漢字制限により「碍」が使えなくなり、「害」が当てられました。その後、「害」の持つネガティブな意味を避けるため、「障がい」という交ぜ書きが生まれました。
なぜこの二つの表記が存在し、議論の的になっているのか。
漢字の成り立ちと日本の国語施策の歴史を紐解くと、その深い理由がよくわかりますよ。
「障害」の成り立ち:元々は「障碍」だったという真実
実は、昔から「障害」という漢字が使われていたわけではありません。
戦前までは、主に「障碍(しょうがい)」または「障礙(しょうがい)」という漢字が使われていました。
「碍(礙)」という字には、「妨げる」「さえぎる」という意味があります。
しかし、戦後の1946年に制定された当用漢字表から「碍」の字が外されてしまいました。
その結果、発音が同じで意味が似ている「害」という字が、代用表記として当てはめられたという歴史があります。
つまり、国民の読み書きを簡単にするための国の施策が、現在の表記の出発点なのです。
「障がい」の成り立ち:ネガティブな印象を避けるための交ぜ書き
それでは、なぜ「障がい」というひらがな交じりの表記が生まれたのでしょうか。
それは、代用された「害」という漢字が持つ、本来の意味に原因があります。
「害」には「傷つける」「悪いことをする」「災い」といった、非常にネガティブな意味が含まれていますよね。
「公害」や「被害」といった言葉を思い浮かべると、そのイメージが掴みやすいでしょう。
人に対してこの字を使うことは適切ではないという声が当事者や支援者から上がり、「害」をひらがなに開いた「障がい」という表記が普及していったのです。
言葉の持つ暴力性を少しでも和らげようとする、社会的配慮から生まれた表記と言えますね。
具体的な例文で使い方をマスターする
法令や公的な制度を指す場合は「障害」、企業理念や個人の心情に寄り添うメッセージでは「障がい」を使う傾向があります。固有名詞は勝手に変更してはいけません。
言葉の違いと背景を踏まえた上で、具体的な例文で確認するのが一番ですよね。
ビジネスと日常、そして間違いやすいNG例を見ていきましょう。
ビジネスシーンや公的文書での正しい表記
ビジネスシーンでは、法律や制度に基づいた客観性が求められる場面が多々あります。
- 当社は障害者雇用促進法に基づき、法定雇用率を達成しています。
- 窓口にて、身体障害者手帳のご提示をお願いいたします。
- システムに通信障害が発生し、現在復旧作業にあたっております。
このように、法令名や制度名、あるいはシステムトラブルなどの物理的な現象を指す場合は、迷わず「障害」を用います。
日常会話や企業のCSR活動での使い分け
一方で、人の心に寄り添うメッセージを発信したい場面では、別の選択肢が選ばれることが多くなります。
- 私たちは、障がいのある方も働きやすい職場環境づくりを推進しています。
- 地域の障がい者支援施設と連携し、バザーを開催しました。
企業の社会貢献活動(CSR)や、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)を掲げる場面では、あえて「障がい」の表記を採用する企業が増えています。
文字から伝わる優しさや、企業としての配慮の姿勢を視覚的にアピールできるからですね。
これはNG!間違えやすい表記の混同
配慮の気持ちは大切ですが、厳密には注意が必要な使い方を見てみましょう。
- 【NG】弊社は「障がい者基本法」の理念に賛同しています。
- 【OK】弊社は「障害者基本法」の理念に賛同しています。
どれほど自社で「障がい」表記をルール化していても、法令名や制度名などの「固有名詞」を勝手にひらがなに変更してはいけません。
固有名詞はそのまま正確に記述するのが、ビジネス文書の絶対的なルールです。
【応用編】似ている言葉「障碍」との違いは?
「障碍(しょうがい)」は、本来の漢字表記であり、元々は仏教用語として「悪魔が悟りへの道を妨げること」を意味していました。現在でも強いこだわりを持ってこの表記を使用する人もいます。
先ほど少し触れた「障碍(しょうがい)」という表記。
実は、一部の作家や研究者、あるいは特定の団体では、現在でもあえてこの漢字を使用することがあります。
元々「障碍」は仏教用語で、「悪魔が修行者の邪魔をして、悟りに至るのを妨げること」を意味していました。
そこから転じて、「物事の進行を妨げるもの」という意味になったのです。
「害(傷つける)」ではなく、「碍(妨げとなる壁があるだけ)」という意味合いを正確に伝えるため、本来の表記に立ち返るべきだという強い主張を持つ人々もいます。
あえて「障碍」と書かれている文章に出会った時は、書き手の強い意志と歴史的背景への造詣が込められていると読み取れるでしょう。
「障害」と「障がい」の違いを公的・学術的な視点から解説
内閣府の検討会などでも表記の見直しが議論されましたが、法的・事務的な一貫性の観点から、国としては公文書において「障害」の表記を維持する方針をとっています。
この表記の揺れについて、国はどのような見解を持っているのでしょうか。
実は2010年頃、内閣府に「障害に関する基本法制における『障害』の表記に関する検討会」が設置され、国レベルでの本格的な議論が行われました。
当事者団体や有識者から様々な意見がヒアリングされ、「障がい」や「障碍」への変更も真剣に検討されたのです。
しかし、最終的な結論として、法令や国の公文書における表記は、引き続き「障害」を用いることとなりました。
その主な理由は、漢字の「交ぜ書き(障がい)」は国語施策上好ましくないこと、そして「碍」の字を常用漢字に追加するにはハードルが高いことなどです。
さらに、社会モデル(障害は個人の心身にあるのではなく、社会の環境側にあるとする考え方)の観点からは、「社会の側にある『障害』を取り除く」という意味で、むしろ「障害」としっかり表記すべきだという意見も根強くありました。
詳しくは内閣府の障害者施策のページなどで、その議論の軌跡を確認することができます。
僕が「障がい」と書いて視覚障害の方に指摘された体験談
僕自身、この表記の使い分けで、ハッとさせられる強烈な体験をしたことがあります。
Webメディアの編集者として働き始めて数年が経った頃、僕は「多様性のある社会づくり」をテーマにした特集記事を担当しました。
もちろん、全ての原稿において表記を「障がい」に統一しました。当事者への配慮が行き届いた、現代的で素晴らしいメディアだと思われたかったからです。
記事の公開後、取材にご協力いただいた視覚障害を持つNPO法人の代表の方にお礼のメールをお送りしました。
すると、温かい労いの言葉と共に、追伸としてこう書かれていたのです。
「記事の公開ありがとうございます。ただ一つお伝えしておきたいのですが、私たち視覚障害者が使う『音声読み上げソフト(スクリーンリーダー)』では、『障がい』という交ぜ書き表記が『さわりがい』と誤読されてしまうことが頻繁にあるのです」
僕は言葉を失いました。
配慮のつもりで使っていた「障がい」という表記が、当事者の情報アクセシビリティ(情報への到達しやすさ)を物理的に妨げていたのです。
「見た目の優しさだけを追い求め、実際にそれを利用する人の利便性を想像できていなかった」
自分の独りよがりな偽善に気づき、猛烈に恥ずかしくなりました。
この経験から、本当の配慮とは、表面的な言葉狩りではなく、相手が最も情報を正確に受け取れる形を想像して提供することだと深く学びました。
それ以来、Web媒体で記事を制作する際は、音声読み上げソフトの挙動まで考慮し、基本的には「障害」という漢字表記を採用するよう方針を転換しました。
「障害」と「障がい」に関するよくある質問
履歴書や職務経歴書にはどちらを書くべきですか?
履歴書などの公的なビジネス文書においては、法令用語に準じた「障害」と表記するのが無難です。ただし、応募先の企業がWebサイトなどで一貫して「障がい」という表記を用いている場合は、相手の企業文化に合わせて「障がい」と記述するのも一つの気配りと言えます。
新聞やテレビなどのメディアではどちらが使われていますか?
日本の主要な新聞社や放送局の多くは、日本新聞協会の用語懇談会の取り決めに従い、原則として「障害」という漢字表記を使用しています。ただし、インタビュー対象者の発言や、特定の団体名を引用する場合は例外的に「障がい」が使われることもあります。
自治体によって表記が違うのはなぜですか?
国の公文書は「障害」で統一されていますが、地方自治体には独自の裁量があるためです。「害」のネガティブな印象を払拭する独自の取り組みとして、条例で公文書における表記を「障がい」に改めた自治体も多数存在します。そのため、住んでいる地域によって目にする頻度が異なります。
「障害」と「障がい」の違いのまとめ
二つの表記の違いと、その裏にある深い背景をご理解いただけたでしょうか。
最後に、この記事のポイントをまとめておきますね。
- 「障害」は法令用語:国の公文書や標準的なビジネス文書で使われる。
- 「障がい」は配慮の表現:ネガティブな印象を避けるため、企業CSRなどで普及。
- 音声読み上げの罠:「障がい」は視覚障害者のソフトで誤読されるリスクがある。
言葉の背景にある歴史的な変遷や、アクセシビリティの観点を知ると、単なるルール暗記ではなく、深い納得感を持って使い分けられるようになります。
これからは状況に合わせて、最も的確で思いやりのある言葉を選んでいきましょう。
さらに詳しく知りたい方は、漢字・仮名交じり表記における「障害」と「障がい」の違いなど関連用語のまとめもぜひチェックしてみてください。
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