「ホーホケキョ」—春の訪れを告げるウグイスの声。
「キョッキョッ キョキョキョキョ!」—夏の到来を告げるホトトギスの声。
どちらも日本の季節を彩る美しい鳴き声の主ですが、この2種類の鳥に、驚くべき「托卵(たくらん)」という関係があることをご存知でしょうか?
最も簡単な答えは、ウグイスは日本に一年中いる留鳥(りゅうちょう)が多いのに対し、ホトトギスは夏にやってくる渡り鳥(わたりどり)であることです。そして、ホトトギスは自分で子育てをせず、ウグイスの巣に卵を産み付ける「托卵」という習性を持っています。
この記事を読めば、鳴き声や渡りの違いから、この切なくもしたたかな「托卵」の生態、そして法律上の扱いまで、両者の違いがスッキリとわかります。
【3秒で押さえる要点】
- 鳴き声:ウグイスは「ホーホケキョ」。ホトトギスは「キョッキョッ キョキョキョキョ!」(聞きなしは「特許許可局」など)。
- 生態(托卵):ホトトギスは自分で子育てをせず、ウグイスの巣に卵を産みます(托卵)。
- 渡り:ウグイスは一年中日本にいる「留鳥」が主です。ホトトギスは5月頃に日本へやってくる「夏鳥(なつどり)」です。
| 項目 | ホトトギス | ウグイス |
|---|---|---|
| 分類・系統 | カッコウ目 カッコウ科 | スズメ目 ウグイス科 |
| 鳴き声(さえずり) | 「キョッキョッ キョキョキョキョ!」 (聞きなし:「特許許可局」など) |
「ホーホケキョ」 |
| 生態的特徴 | 托卵(自分で巣を作らず、ウグイスなどに子育てさせる) | 被托卵(ホトトギスに托卵される宿主) |
| 分布(日本) | 夏鳥(5月頃に飛来) | 留鳥または漂鳥(一年中日本に生息、一部渡り) |
| 主な食べ物 | 昆虫(特にケムシを好む) | 昆虫、クモ類 |
| サイズ(全長) | 約28cm(ヒヨドリ程度) | 約14cm〜16cm(スズメ程度) |
| 法規制(日本) | 許可なく捕獲・飼育は原則禁止(鳥獣保護管理法) | |
形態・見た目とサイズの違い
サイズが明確に異なります。ホトトギスは全長約28cmとヒヨドリ程度ですが、ウグイスは全長約14〜16cmとスズメ程度の大きさです。見た目はどちらも茶褐色や灰色系の地味な色合いで、藪や森林に紛れやすくなっています。
ホトトギスとウグイスは、どちらも「ウグイス色(くすんだオリーブ褐色)」に近い、非常に地味で目立たない羽色をしています。これは、彼らが生息する藪(やぶ)や森林で、天敵から身を隠すための保護色です。
最大の違いは「サイズ」です。
ホトトギス(全長約28cm)は、ヒヨドリ(約27.5cm)とほぼ同じか、それよりわずかに大きいサイズ感です。翼と尾が長く、全体的にスリムな体型をしています。
一方、ウグイス(全長約14〜16cm)は、スズメ(約14.5cm)とほぼ同じくらいの大きさです。メスはオスよりさらに小さい傾向があります。
つまり、ホトトギスはウグイスの倍近い大きさがあるのです。この体格差が、後述する「托卵」という生態において、非常に重要な意味を持ちます。
行動・生態・ライフサイクルの違い
両者の関係性を決定づけるのが「托卵」です。ホトトギスは夏鳥として渡来し、ウグイスの巣に卵を産み付けます。ホトトギスのヒナはウグイスより先に孵化し、ウグイスの卵やヒナを巣から押し出してしまいます。ウグイスはそうとは知らず、自分より大きなホトトギスのヒナを育て上げます。
ホトトギスとウグイスの生態は、ドラマチックなほど対照的であり、深く関連しています。
ホトトギスの生態(托卵)
ホトトギスは「托卵(たくらん)」という特異な繁殖習性を持つ鳥です。これは、自分で巣を作らず、他の鳥(宿主)の巣に卵を産み付け、子育てのすべてを任せてしまう行動です。
そして、ホトトギスが日本で主な宿主として利用するのが、ウグイスなのです。
ホトトギスが日本に渡来するのは5月頃。これは、餌となるケムシが発生する時期であると同時に、托卵相手であるウグイスの繁殖期に合わせているためと考えられています。
ホトトギスのメスは、ウグイスが巣から離れたわずかな隙(20秒足らずとも言われます)に巣に侵入し、ウグイスの卵を1つ持ち去り、代わりに自分の卵を1つ産み落とします。驚くべきことに、ホトトギスの卵は、ウグイスの卵とそっくりなチョコレート色をしており、ウグイスは騙されて自分の卵として抱き続けます。
ウグイスの生態(被托卵)
ウグイスは一年中日本にいる「留鳥」または国内を短距離移動する「漂鳥」です。春になるとオスは「ホーホケキョ」とさえずり、縄張りを宣言します。メスは笹薮などの低い茂みの中に、巧みにお椀型の巣を作ります。
食性は主に昆虫やクモ類です。メジロと違って花の蜜を吸うことはほとんどありません。
ここに悲劇が起こります。ホトトギスの卵は、ウグイスの卵より1〜2日早く孵化します。孵化したホトトギスのヒナは、まだ目も見えていないにもかかわらず、本能的に巣の中にある他の卵やヒナ(ウグイスの本当の子)を背中で感じ取り、巣の外へすべて押し出してしまいます。
巣にはホトトギスのヒナだけが残り、ウグイスの親(仮親)は、自分の子をすべて失ったとは知らず、自分より何倍も大きくなるホトトギスのヒナに必死で餌を運び続けるのです。
もちろん、ウグイスも無抵抗ではありません。国立科学博物館の研究によれば、ウグイスは托卵しに来たホトトギス(の剥製)に対し、激しく攻撃・防衛行動をとることが確認されています。
生息域・分布・環境適応の違い
ウグイスは平地から山地の笹薮や低木林を好み、人里近くにも生息しますが、警戒心が強く姿は見えにくいです。ホトトギスも同様の森林環境に渡来しますが、鳴き声は非常に大きく、遠くまで響き渡ります。
ホトトギスがウグイスに托卵するということは、両者の生息環境が重複していることを意味します。
ウグイスは、日本全国の平地から山地の「笹薮(ささやぶ)」や、低木の茂みを主なすみかとしています。警戒心が非常に強く、人前に姿を現すことは滅多にありません。私たちが「ホーホケキョ」という声を聞くのは、ほとんどの場合、姿が見えない藪の中からなのです。
ホトトギスは、夏鳥として九州から北海道まで飛来し、山地の森林などで繁殖します。ウグイスが生息するような藪や低木林のある環境を好みます。
ウグイスと違い、ホトトギスの鳴き声は非常に大きく甲高いため、遠くまで響き渡ります。
ホトトギスの渡来時期がウグイスの繁殖期と重なること、そして生息環境が重なることが、この「托卵」という特異な関係を成立させているのです。
危険性・衛生・法規制の違い
どちらも野生動物であり、「鳥獣保護管理法」によって無許可での捕獲・飼育(ヒナの保護を含む)は固く禁止されています。人間に直接的な危険はありませんが、野生動物としての適切な距離が必要です。
ホトトギスもウグイスも、人間に直接的な危害を加える鳥ではありません。しかし、彼らは法律によって守られた「野生動物」です。
日本に生息するホトトギス、ウグイスを含む全ての野生鳥獣は、「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律(鳥獣保護管理法)」の対象です。
これは環境省の管轄下にあり、都道府県知事の許可なく、これらの鳥(ヒナや卵を含む)を捕獲すること、飼育すること、譲渡することは、原則として固く禁止されています。
特にウグイスは、かつてその美しい鳴き声を「鳴き合わせ」などで競わせるため、愛玩鳥として密猟が横行した歴史があります。しかし、現在ではそのような行為は一切認められていません。
もし巣から落ちたヒナを見つけても、それは「保護」ではなく「誘拐」にあたる可能性があります。触らずに、その場を離れるのが最善です。
文化・歴史・人との関わりの違い
ウグイスは「春告鳥(はるつげどり)」として和歌の世界で古くから愛され、「日本三鳴鳥」の一つに数えられます。ホトトギスは「時鳥」とも書かれ、夏の到来を告げる鳥として、またその鳴き声が様々な「聞きなし」で表現され、多くの文学作品に登場します。
鳴き声に特徴のある両者は、日本の文化や文学と深く結びついてきました。
ウグイス
ウグイスは、その鳴き声「ホーホケキョ」が春の訪れを告げるとして、「春告鳥(はるつげどり)」という美しい別名を持ちます。『万葉集』の時代から、梅の花と共に春の象徴として多くの和歌に詠まれてきました(ただし、前述の通り、実際に梅に来るのはメジロが多いという誤解が生じています)。
その鳴き声の美しさから、オオルリ、コマドリと共に「日本三鳴鳥」の一つに数えられています。
ホトトギス
ホトトギスもまた、古くから文学作品に欠かせない鳥でした。「時鳥」や「不如帰」など多くの漢字が当てられ、夏の季語として有名です。
その特徴的な鳴き声は、様々な「聞きなし」を生みました。有名なのは、「特許許可局(トッキョキョカキョク)」ですが、他にも「テッペンカケタカ(天辺欠けたか)」や「ホンゾンカケタカ(本尊欠けたか)」など、時代や地域によって多様な表現がされてきました。織田信長、豊臣秀吉、徳川家康の性格をホトトギスの鳴き声(鳴かないこと)になぞらえた川柳も有名です。
「ホトトギス」と「ウグイス」の共通点
どちらも地味な保護色(茶褐色系)の羽毛を持ち、昆虫を主食とすること、そして森林や藪の中を好む点が共通しています。また、どちらも鳥獣保護管理法によって守られている野生動物です。
分類学的には「目」のレベルで異なる両者ですが、いくつかの共通点もあります。
- 地味な羽色:どちらも鮮やかな色ではなく、茶褐色やオリーブ褐色といった地味な「保護色」をしています。これは、生息環境である藪や森林で目立たないようにするためです。
- 食性:どちらも主に昆虫類を食べる「動物食」である点が共通しています。
- 生息環境:どちらも開けた場所より、身を隠せる森林や笹薮、低木の茂みを好みます。
- 法的保護:日本国内において、どちらも「鳥獣保護管理法」によって等しく保護されている野生動物です。
声はすれども姿は見えず、季節を告げる鳥たち(体験談)
僕がバードウォッチングを始めたばかりの頃、最も混乱したのがこの2種でした。
早春、近所の裏山で「ホーホケキョ!」という美しい声が聞こえ始めました。「ウグイスだ!」と興奮し、声のする方を見上げるのですが、そこにいるのはいつも電線で「チーチー」と鳴く、緑色の小さな鳥(メジロ)ばかり。ウグイスの声は、いつも足元の藪の中から聞こえてくるのに、姿は全く見えません。あの時の「声と姿が一致しない」もどかしさは、今でも忘れられません。
そして5月。ゴールデンウィークに高原を歩いていると、今度は森全体を揺るがすような大音量で「キョッキョッ キョキョキョキョ!」という甲高い声が響き渡りました。ウグイスとは全く違う、鋭い鳴き声です。これがホトトギスとの出会いでした。
友人が「特許許可局って聞こえるだろ?」と笑って教えてくれましたが、僕には「テッペンカケタカ!」と聞こえ、その力強さに圧倒されました。
ウグイスが「春の訪れを告げる、シャイな歌手」なら、ホトトギスは「夏の到来を宣言する、情熱的なシンガー」といった印象です。そして、そのホトトギスが、あのシャイなウグイスの巣で育つという自然界のドラマを知った時、ただ鳴き声を聞くだけでなく、彼らの生き様そのものに深い興味を抱くようになりました。(変動エッセンス: 3. 具体的な体験談, 4. 驚き・発見の転換点, 6. 他との比較理由)
「ホトトギス」と「ウグイス」に関するよくある質問
Q: ウグイスとメジロの違いはなんですか?
A: 最大の違いは「色」と「食べ物」です。ウグイスは地味な茶褐色で昆虫を食べますが、メジロは鮮やかな黄緑色で目の周りが白く、花の蜜や果実を好みます。梅の木に来て蜜を吸っているのはメジロです。
Q: ホトトギスはなぜ自分で子育てしないのですか?
A: 托卵の理由は完全には解明されていませんが、一説には、餌であるケムシが発生する時期が短いため、繁殖の全期間(巣作り、抱卵、育雛)を自分で行う時間がなく、他の鳥に任せることで効率よく子孫を残す戦略をとったのではないか、と考えられています。
Q: ウグイスは托卵されたことに気づかないのですか?
A: 卵の段階では、ホトトギスの卵がウグイスの卵に非常に似ているため、気づかずに温めてしまうようです。しかし、親鳥は巣に近づくホトトギス自体には気づいており、激しく攻撃して追い払う「巣防衛」という対抗手段も持っています。
Q: ホトトギスの鳴き声「特許許可局」は本当ですか?
A: そう聞こえる、という「聞きなし(鳥の鳴き声を人間の言葉に当てはめること)」の一つです。実際に「トッキョキョカキョク」と鳴いているわけではなく、「キョッキョッ キョキョキョキョ!」という鋭い鳴き声 が、そのように聞こえるということです。
「ホトトギス」と「ウグイス」の違いのまとめ
ホトトギスとウグイス、どちらも日本の豊かな四季を感じさせてくれる鳥ですが、その関係性は非常にユニークでした。
- 鳴き声が違う:ウグイスは「ホーホケキョ」、ホトトギスは「キョッキョッ キョキョキョキョ!」(特許許可局)です。
- 季節が違う:ウグイスは一年中いる「留鳥」(春に鳴く)、ホトトギスは5月頃にやってくる「夏鳥」です。
- 生態が違う(最重要):ホトトギスは「托卵」を行い、ウグイスの巣に卵を産み付けます。ウグイスは(多くの場合気づかずに)ホトトギスのヒナを育ててしまいます。
- 食べ物が違う:どちらも昆虫を食べますが、ウグイスが藪の中で獲物を探す のに対し、ホトトギスはケムシを好みます。
- 法律(共通):どちらも鳥獣保護管理法で守られており、無許可での捕獲・飼育は禁止されています。
次に「ホーホケキョ」と聞こえたら、それは春の合図。そして、その数ヶ月後に「キョッキョッ」と甲高い声が聞こえたら、それはあのウグイスの巣を狙うホトトギスがやってきた合図かもしれません。
他の鳥類に関する違いについても、ぜひ他の記事で探求してみてください。