「ほうとう」と「うどん」。
どちらも小麦粉から作られる太めの麺料理ですが、この二つ、実は似て非なるものであることをご存知でしたか?
「きしめんより太いのがほうとう?」といった「形」の違いだと思われがちですが、実は「原材料」と「調理法」に決定的な違いがあります。
この記事では、山梨県の郷土料理「ほうとう」と、国民食「うどん」の根本的な違いを、製法、食感、そして文化的な背景まで徹底的に比較解説します。これを読めば、ほうとうが「うどんの一種」ではない理由がスッキリと理解できますよ。
結論|ほうとうとうどんの決定的な違い
ほうとうとうどんの決定的な違いは、「麺に塩を使うか」と「調理法」です。「うどん」は、麺に塩を加えて打ち、強いコシを出すのが特徴で、麺を別に茹でてから食べます。一方、「ほうとう」は山梨県の郷土料理で、麺に塩を使わず、生の麺を打ち粉(小麦粉)がついたまま野菜(特にカボチャ)と一緒に味噌汁で煮込むのが特徴です。
この「塩なし」・「生煮込み」という製法が、ほうとう独特の「とろみ」と「柔らかい食感」を生み出す鍵となっています。
二つの料理の主な違いを、以下の比較表にまとめました。
| 項目 | うどん | ほうとう |
|---|---|---|
| 麺の塩 | あり(コシを出すため) | なし(伝統的な製法) |
| 麺のコシ | 強い(シコシコ、もちもち) | 弱い(柔らかい、もっちり) |
| 調理法 | 麺を別に茹で、水で締めるか温める | 生の麺を野菜と一緒に煮込む |
| スープ/つゆ | 多様(醤油、塩、カレーなど) | 味噌ベース(カボチャが溶け込む) |
| スープの粘度 | 透明、またはサラサラ | とろみがある(打ち粉が溶け出す) |
| 分類 | 麺類 | 郷土料理(煮込み料理、すいとんの一種) |
ほうとうとうどん、それぞれの定義と起源
「うどん」は、小麦粉と塩水で生地を作り、茹でて食べる日本の国民食です。「ほうとう」は、山梨県の郷土料理で、戦国武将・武田信玄の陣中食がルーツとも言われています。稲作が難しい山間部で、米の代わりの主食として発展しました。
二つの麺は、その文化的背景が異なります。
「うどん」とは?(塩でコシを出す国民食)
「うどん」は、小麦粉に塩水を加えてこね、生地を熟成させてから延ばし、切って麺にしたものです。塩を加えることでグルテンが引き締まり、うどん特有の強い「コシ(粘弾性)」が生まれます。
日本全国に様々な種類(讃岐うどん、稲庭うどんなど)が存在し、食べ方も「かけ」「つけ」「釜揚げ」など多様で、国民食として広く愛されています。
「ほうとう」とは?(塩を使わない山梨の郷土料理)
「ほうとう」は、山梨県全域(甲州)の郷土料理です。
稲作が難しい山間部で、米の代わりとなる主食として、また養蚕が盛んだった時代に桑畑の裏作で採れた小麦粉を使って作られるようになりました。
そのルーツは、平安時代の「餺飥(はくたく)」という言葉が転じたという説 や、戦国武将・武田信玄が、自らの「宝刀(ほうとう)」で具材を切って煮込んだ陣中食だったという伝説 も有名です。
農林水産省の「農山漁村の郷土料理百選」にも選ばれています。
【徹底比較】主な材料と調理法の違い
うどんは「塩」を加えて麺を打ち、食べる前に「下茹で」します。ほうとうは「塩」を加えず、生地を寝かさず、打ち粉がついたままの「生麺」をカボチャなどの野菜と一緒に味噌汁で「煮込み」ます。
二つの料理の個性を決定づける、製法と調理法の違いを見ていきましょう。
最大の違い①:麺の「塩」の有無(コシ vs 柔らかさ)
うどん
製麺時に「塩」を必須とします。塩は、うどんのコシ(弾力と粘り)を生み出すグルテンの働きを強め、生地を引き締めるために不可欠です。
ほうとう
伝統的な製法では、麺に「塩」を一切加えません(または、ごく少量)。これは、コシを出すためではなく、あえて柔らかく煮崩れやすくし、汁と一体化させるためです。また、塩を入れないことで、下茹で(塩抜き)が不要になり、生麺のまま煮込めるという利点もあります。
最大の違い②:調理法(「茹でる」か「生から煮込む」か)
うどん
必ず、食べる前に麺を別の鍋で下茹でし、水で洗います。これにより、麺の表面の余分な小麦粉(ぬめり)が取れ、シコシコとした食感が際立ちます。スープ(つゆ)は、茹で上がった麺に後からかけるか、麺をつけて食べます。
ほうとう
生の麺を、打ち粉(小麦粉)が付いたままの状態で、具材を煮込んでいる味噌汁の鍋に直接投入します。麺から溶け出した小麦粉がスープに混ざり合い、ほうとう独特の「とろみ」を生み出します。
主な具材の違い(カボチャの役割)
うどん
具材(トッピング)は非常に多様です。ネギ、天ぷら、油揚げ(きつね)、卵(月見)など、麺とは別に調理されたものが乗ることが多いです。
ほうとう
具材は「カボチャ」がほぼ必須とされます。カボチャが煮崩れてスープに溶け込むことで、味噌の塩味とカボチャの甘みが融合し、ほうとう独特のまろやかで濃厚な味わいが完成します。他にも、白菜、ニンジン、ゴボウ、キノコ類、油揚げなど、野菜をたっぷり入れて煮込みます。
味付け・食感・見た目の違い
うどんは、別茹でした麺の「コシ」と、醤油やだし汁ベースの「透明感のあるつゆ」が特徴です。ほうとうは、生麺とカボチャを煮込むことで生まれる「とろみのある味噌スープ」と、塩を使わない「柔らかくもっちりした麺」との一体感が特徴です。
製法が全く異なるため、仕上がりの味や食感も正反対と言えます。
味付けと見た目(多様なつゆ vs 味噌ベースのとろみ)
うどん
関西風の昆布だし(薄口醤油)、関東風のカツオだし(濃口醤油)、讃岐風のイリコだしなど、つゆは透明感があり、すっきりとした味わいのものが多いです。
ほうとう
味噌ベースの不透明な汁が特徴です。麺の打ち粉とカボチャが溶け出し、シチューやポタージュのような強い「とろみ」がつきます。このとろみのおかげで、非常に冷めにくいのも特徴です。
食感(コシ vs もっちり・とろとろ)
うどん
塩と熟成、茹で方によって生まれる「コシ(弾力・歯ごたえ)」が命です。シコシコ、もちもちとした麺そのものの食感を楽しみます。
ほうとう
塩を使わず、生から煮込むため、うどんのような強いコシはありません。食感は「柔らかく、もっちり」としています。麺がスープの旨味をたっぷりと吸い込み、具材やスープと一体化した「とろとろ」の食感を楽しむ料理です。
栄養・カロリー・健康面の違い
どちらも主食(炭水化物)ですが、栄養バランスの面では、野菜を大量に煮込む「ほうとう」の方が優れています。「ほうとう」は麺(炭水化物)、野菜(ビタミン・食物繊維)、味噌(タンパク質)が一度に摂れる「完全食」に近い料理として知られています。
うどん
「かけうどん」のように単品で食べると、栄養は炭水化物に偏りがちです。天ぷらや肉、卵などのトッピングでタンパク質や脂質を補う形になります。
ほうとう
「ほうとう」は、それ自体が「野菜たっぷりの煮込み料理」です。カボチャ、白菜、ニンジン、ゴボウ、キノコ類など、多種多様な野菜を麺と一緒に煮込むため、ビタミン、ミネラル、食物繊維を豊富に摂取できます。味噌も発酵食品であり、栄養価が高いです。
地域・文化・人気度の違い
「うどん」は日本全国で愛される国民食であり、日常食から専門店まで幅広く存在します。一方、「ほうとう」は山梨県に強く根付いた「郷土料理(ソウルフード)」です。地元では家庭料理として、観光客には名物料理として、特に寒い季節に愛されています。
全国区の「うどん」文化
うどんは、讃岐うどん、稲庭うどん、水沢うどん、伊勢うどん、博多うどんなど、全国各地に独自のスタイルが存在する、非常にポピュラーな麺料理です。日常の食事としても、専門店の味としても楽しまれています。
山梨のソウルフード「ほうとう」文化
「ほうとう」は、山梨県のアイデンティティとも言える郷土料理です。かつては「ほうとうが打てないと嫁に行けない」 と言われるほど、各家庭に根付いた日常食でした。
現在では、地元の家庭料理としてだけでなく、観光客が山梨を訪れた際に食べる代表的な名物料理 となっており、多くの専門店が鉄鍋で熱々のほうとうを提供しています。
【体験談】讃岐の「うどん」と甲州の「ほうとう」、別格の麺体験
僕が「うどん」と「ほうとう」が全く別の食べ物だと悟ったのは、それぞれの本場で食べた時の体験がきっかけでした。
香川で食べた讃岐うどん(釜玉)は、「コシ」の塊でした。箸で持ち上げるとしなるのに、噛み切ろうとすると押し返してくるような強い弾力。これぞ「麺を味わう」文化なのだと感動しました。
一方、冬の山梨・河口湖で食べた「ほうとう」は、「汁を味わう」文化の衝撃でした。運ばれてきたのは、小さな鉄鍋でグツグツと煮立った、オレンジ色のスープ。スープはカボチャが溶けてドロリとしており、麺はうどんのような角がなく、柔らかく煮えています。
一口食べると、味噌の塩気とカボチャの甘みが一体となった、濃厚な「とろみ」が口に広がります。麺はコシ(弾力)こそありませんが、スープの旨味を吸い込んで「もっちり」としており、白菜やキノコと一緒にハフハフと食べ進めると、体の芯から温まりました。
「コシ」を追求するために塩を入れ、別に茹でる「うどん」。
「とろみ」を出すために塩を抜いて、生から煮込む「ほうとう」。
同じ小麦粉の麺なのに、製法と思想が正反対。どちらもそれぞれの土地の気候と文化が生んだ、究極の麺料理だと感じ入りました。
ほうとうとうどんに関するFAQ(よくある質問)
ここでは、ほうとうとうどんに関してよくある疑問にお答えします。
ほうとうはうどんの一種ですか?
分類上は「うどんの仲間」とされることもありますが、山梨県では「ほうとう」という独立した料理として強く認識されています。製法(塩なし・生煮込み)がうどんと根本的に異なるため、うどんとは別物、あるいは「すいとん(団子汁)」 に近い料理と考えるのが一般的です。
ほうとうと「きしめん」の違いは何ですか?
どちらも平たい麺ですが、「きしめん」(名古屋)は「うどん」の一種です。きしめんは麺に塩を加えて打ち、コシがあり、別に茹でてから醤油ベースのつゆで食べます。ほうとうは塩を使わず、生麺を味噌汁で煮込みます。
ほうとうの麺はなぜ塩を入れないのですか?
麺をわざと柔らかく仕上げ、煮込んだ際に麺の小麦粉(打ち粉)が汁に溶け出し、独特の「とろみ」を出すためです。塩を入れるとうどんのようにコシが強くなり、汁にとろみが出にくくなってしまいます。
まとめ|ほうとうとうどん、似て非なる麺料理
ほうとうとうどんの違い、スッキリしましたでしょうか。
見た目は似ていても、その製法と思想は全く異なるものでした。
- うどん:麺に「塩」を加え、強い「コシ」を出す。別に茹でて、多様なつゆで食べる国民食。
- ほうとう:麺に「塩」を使わず、「生麺」のままカボチャや野菜と味噌で煮込む。汁の「とろみ」と麺の「柔らかさ」を楽しむ山梨の郷土料理。
麺のコシとのどごしを楽しみたい時は「うどん」、野菜たっぷりの濃厚な味噌煮込みで温まりたい時は「ほうとう」。
ぜひ、この違いを理解して、二つの偉大な麺文化を味わってみてくださいね。
「食べ物の違い」カテゴリでは、他にも「きしめんとうどんの違い」など、様々な料理・メニューの違いについて解説しています。