山梨県の郷土料理といえば、真っ先に「ほうとう」を思い浮かべる方が多いですよね。
ですが、山梨には「おざら」という、もう一つの名物麺料理があるのをご存知でしたか?
「ほうとう」がカボチャなどと煮込んだ熱々の鍋料理であるのに対し、「おざら」は同じような平たい麺を冷たくして「ざる」で食べます。
この記事では、山梨県の二大巨頭「おざら」と「ほうとう」の決定的な違いを、調理法、食べ方、そして文化的な背景から徹底的に解説します。
結論|おざらとほうとうの決定的な違い
おざらとほうとうの決定的な違いは「食べ方(温かいか冷たいか)」と「調理法」です。「ほうとう」は、カボチャなどの野菜と共に、生の平打ち麺を味噌ベースの汁で「煮込む」温かい鍋料理です。一方、「おざら」は、同じ平打ち麺 を茹でてから冷水で締め、ざるに乗せて「冷たい状態」で提供し、温かい醤油ベースの「つけ汁」で食べる料理です。
簡単に言えば、「ほうとう」は冬の「煮込みうどん(味噌味)」、「おざら」は夏の「ざるうどん(平麺)」に近いスタイルと言えますね。この食べ方の違いが、食感や味わいのすべてを決定づけています。
| 項目 | ほうとう | おざら |
|---|---|---|
| 食べ方 | 温かい鍋(煮込み) | 冷たい麺のつけ麺(ざる) |
| 麺の調理 | 生麺のまま野菜と煮込む | 茹でてから冷水で締める |
| スープ/つゆ | 味噌ベース(カボチャが溶け込む) | 醤油ベース(温かいつけ汁) |
| 麺の食感 | 柔らかい、とろとろ(コシは弱い) | シコシコ、なめらか(コシがある) |
| 主な季節 | 冬の料理 | 夏の料理 |
| 発祥・地域 | 【共通】山梨県の郷土料理 | |
おざらとほうとう、それぞれの定義と起源
どちらも山梨県(甲州)を代表する郷土料理です。「ほうとう」は、武田信玄の陣中食がルーツとも言われる 煮込み料理です。「おざら」は、「ほうとう」を夏場でも美味しく食べられるように工夫された「冷たい」食べ方として発展しました。
同じ山梨県で生まれた二つの麺料理には、深い関係性があります。
「ほうとう」とは?(山梨の煮込み郷土料理)
「ほうとう」は、山梨県全域で古くから親しまれてきた郷土料理です。農林水産省選定の「農山漁村の郷土料理百選」にも選ばれています。
平たく太い麺を、打ち粉(うちこ)がついたままの生麺の状態から、カボチャ、キノコ、白菜、ネギなどの野菜と共に、味噌仕立ての汁で煮込むのが最大の特徴です。
麺から溶け出したデンプン(打ち粉)が汁に溶け込み、カボチャの甘みと相まって、独特の「とろみ」が生まれます。
その起源は、武田信玄が陣中食(戦場での食事)として、野菜と麺を一緒に煮込んで食べたのが始まりという説が有名です。
「おざら」とは?(ほうとう麺の冷たいつけ麺)
「おざら」は、主に甲府盆地周辺で食べられる、もう一つの郷土料理です。「ほうとう」が冬の料理であるのに対し、「おざら」は「夏のほうとう」とも言うべき存在です。
「ほうとう」と同じ、あるいは少し細めの平打ち麺を使い、一度茹で上げた後に冷水で締めます。
これを「ざる」に盛り、野菜やキノコ、油揚げなどが入った温かい「つけ汁」につけて食べます。まさに「ざるそば」や「ざるうどん」の「ほうとう麺バージョン」ですね。
【徹底比較】調理法と材料の決定的な違い
調理法が正反対です。「ほうとう」は麺を塩水でこねず(コシを出さない)、打ち粉がついたまま生で煮込むことで、スープに「とろみ」を出すのが特徴です。一方「おざら」は、麺を茹でた後に冷水で締めるため、打ち粉が落ち、麺に「コシ(シコシコ感)」が生まれます。
「温かい」と「冷たい」という食べ方の違いは、麺の調理法そのものの違いにつながっています。
最大の違い:「煮込む(温)」か「冷やす(冷)」か
ほうとう(煮込み)
ほうとうは「鍋料理」です。生麺を、カボチャや野菜が入った味噌のスープ(煮汁)に直接投入して、そのまま煮込みます。麺を別茹でしないため、麺に含まれるデンプン(打ち粉)がスープに溶け出し、独特の「とろみ」を生み出します。
おざら(つけ麺)
おざらは「つけ麺」です。麺とつけ汁は完全に別々に調理されます。麺はたっぷりの湯で茹でた後、冷水で洗い、締めます。これにより、麺の表面のぬめり(デンプン)が洗い流され、麺そのものの食感が際立ちます。
麺の違い(塩の有無とコシ)
「ほうとう」の麺は、うどん(きしめん含む)と異なり、生地をこねる際に「塩」を加えないのが伝統的な作り方です。
塩を加えない理由は、塩を入れると麺にコシが出すぎてしまい、スープと馴染まなくなるため、そして、打ち粉がスープに溶け出しやすくするためだと言われています。
一方、「おざら」は、冷水で締めて「コシ」を楽しむ食べ方です。そのため、「ほうとう麺」をそのまま流用する店 もあれば、「おざら」専用に塩を加えてコシを強くした麺を使う店もあります。
味付け・食感・食べ方の違い
ほうとうは、カボチャが溶け込んだ「味噌ベース」の濃厚でとろみのあるスープと、柔らかく煮えた麺の「一体感」を楽しみます。おざらは、「醤油ベース」の温かいつけ汁 に、冷たく締めた「シコシコ」とした麺 をつけて食べ、麺の「のどごし」を楽しみます。
調理法と麺の特性が違うため、味わいと食感は正反対と言ってもいいでしょう。
味付け(味噌煮込み vs 温かい醤油つけ汁)
ほうとう
味付けは、甲州味噌(米味噌)がベースです。カボチャが煮溶けることで、味噌の塩味とカボチャの甘みが融合した、非常に濃厚で甘みのある「とろとろ」のスープになります。
おざら
つけ汁は、醤油ベース(カツオ出汁など)が基本です。この温かいつけ汁に、油揚げ、椎茸、ニンジン、ネギなどの具材が入っているのが一般的です。
食感(とろとろ vs シコシコ)
ほうとう
塩を使わず、生麺から煮込むため、うどんのような強いコシはありません。麺はスープを吸って柔らかく、モチモチとしており、とろみのついたスープと一体化した食感です。
おざら
麺を一度茹でてから冷水で締めるため、「シコシコ」とした歯ごたえとコシが生まれます。平麺特有の「つるつる」としたなめらかな舌触りとのどごしを楽しむことができます。
栄養・カロリー・健康面の違い
どちらも小麦粉ベースの炭水化物ですが、栄養バランスの面では「ほうとう」に軍配が上がります。ほうとうは、麺と一緒にカボチャ、白菜、キノコ、ネギといった野菜類を大量に煮込むため、ビタミンや食物繊維をバランス良く摂取できる「完全食」に近い料理です。
「ほうとう」は、麺(炭水化物)、野菜(ビタミン・食物繊維)、味噌(タンパク質・発酵食品)が一度に摂れる、非常に栄養バランスの取れた料理です。
一方、「おざら」は、ざるそばやざるうどんに近いです。つけ汁にも野菜は入っていますが、ほうとうのように大量の野菜を煮込んで食べるスタイルではないため、単体での栄養バランスはほうとうに劣るかもしれません。
カロリーは、どちらも麺の量やつゆ(汁)の飲み干し方、具材(ほうとうに肉を入れるかなど)によって大きく変動します。
地域・文化・季節感の違い
山梨県において、二つの料理は「季節」によって明確に食べ分けられています。「ほうとう」は、体が温まる煮込み料理であるため、「冬」の代表的な料理とされています。一方、「おざら」は、冷たい麺でさっぱりと食べられるため、「夏」の定番として親しまれています。
同じ山梨の郷土料理ですが、食卓に登場する季節が異なります。
山梨の冬の風物詩「ほうとう」
「ほうとう」は、カボチャが旬を迎え、寒さが厳しくなる秋から冬にかけてが本番です。大きな鉄鍋でグツグツと煮込み、家族全員で囲む。まさに山梨の「冬の風物詩」であり、体を芯から温めるごちそうとして愛されています。
山梨の夏の定番「おざら」
「おざら」は、ほうとうが食べられなくなる暑い夏場に、「ほうとう麺を冷たくして食べたい」という需要から生まれたと言われています。
冷水で締められた平打ち麺のつるつるとしたのどごしは、夏の食欲がない時でも食べやすく、山梨県民にとっては「夏といえばおざら」というほど定番のメニューとなっています。
【体験談】甲府で出会った「夏のおざら」と「冬のほうとう」
僕がこの二つの違いを初めて知ったのは、山梨県の甲府を訪れた時でした。
一度目は真冬の出張でした。冷え切った体で地元の食堂に入り、「ほうとう」を注文しました。出てきたのは、カボチャが溶けて黄色くなった、湯気がもうもうと立つ鉄鍋。麺をすすると、うどんとは違う柔らかくもっちりとした食感と、スープのとろみが体に染み渡り、一瞬で汗だくになりました。「これが山梨の冬か」と感動したのを覚えています。
二度目は真夏の観光でした。あの感動をもう一度と「ほうとう」を探したのですが、多くの店が「ほうとう(温)」の隣に「おざら(冷)」をプッシュしていました。
好奇心で「おざら」を注文すると、出てきたのは「ざる」に乗った冷たい平打ち麺と、キノコや油揚げが入った温かい醤油ベースのつけ汁。冬に食べたほうとう麺と同じ形なのに、食感が全く違いました。冷水で締められた麺はシコシコとしたコシがあり、温かいつけ汁との相性も抜群。「冬は煮込み、夏はざる」と、同じ麺を季節によって全く別の料理として楽しむ山梨の食文化に、深く感銘を受けましたね。
おざらとほうとうに関するFAQ(よくある質問)
ここでは、おざらとほうとうに関してよくある疑問にお答えします。
おざらとほうとうは、麺は同じですか?
基本的には同じ「平打ち麺(ほうとう麺)」を使います。ただし、「おざら」用は冷やして食べるため、塩を加えてコシを強くした専用麺を使うお店もあります。
きしめんとの違いは何ですか?
ほうとう・おざらは山梨の料理で、麺に塩を使わない(ほうとう)のが特徴で、味噌で煮込みます。きしめんは名古屋の料理で、JAS規格で幅と厚さが定義されており、塩を使って打つためコシがあり、醤油ベースのつゆで食べます。
ほうとうの汁がとろとろなのはなぜですか?
麺を打つ際に塩を使わず、打ち粉(うちこ)が付いたままの生麺をそのままスープで煮込むためです。麺から溶け出したデンプンが、味噌スープにとろみ(とろみ)をつけます。
まとめ|おざらとほうとう 目的別おすすめ
おざらとほうとうの違い、スッキリしましたでしょうか。
どちらも山梨県が誇る郷土料理ですが、その楽しみ方は「夏」と「冬」で正反対でした。
- ほうとう:「温かい煮込み」料理。味噌味で、カボチャと麺が溶け合ったとろとろの食感。冬におすすめ。
- おざら:「冷たいつけ麺」料理。醤油味の温かいつけ汁で、シコシコとした麺ののどごしを楽しむ。夏におすすめ。
同じ平打ち麺を使いながら、季節によって全く異なる調理法で楽しむ山梨の食文化。ぜひ現地を訪れた際は、季節に合った一杯を味わってみてくださいね。
「食べ物の違い」カテゴリでは、他にも「きしめんとうどんの違い」など、様々な料理・メニューの違いについて解説しています。