「エンゲージメント」と「モチベーション」の違い!働き方改革の必須知識

「エンゲージメント」と「モチベーション」、ビジネスの現場でどちらも「やる気」のような意味で使われていませんか?

実はこの2つ、エネルギーの向かう先が「自分」なのか「組織」なのかという点で、決定的に意味が異なります。

この記事を読めば、単なる個人の頑張りだけでなく、組織全体の成果を高めるためにどちらのアプローチが必要なのかが明確になります。

それでは、まず最も重要な違いから一覧表で詳しく見ていきましょう。

結論:一覧表でわかる「エンゲージメント」と「モチベーション」の最も重要な違い

【要点】

「モチベーション」は「個人のやる気」を指し、行動の動機が自分の中にあります。「エンゲージメント」は「組織との絆・貢献意欲」を指し、会社と社員の双方向の信頼関係に基づいています。

まず、結論からお伝えしますね。

この二つの言葉の最も重要な違いを、以下の表にまとめました。これさえ押さえれば、基本的な使い分けはバッチリです。

項目エンゲージメントモチベーション
中心的な意味組織に対する愛着心、貢献意欲人が行動を起こすための動機づけ、やる気
対象(ベクトル)組織と自分(双方向)自分自身(一方向)
ニュアンス会社と社員の信頼関係、絆、一体感個人の目標達成に向けた内なるエネルギー
目的組織全体の成長、定着率の向上個人のパフォーマンス向上、行動の開始

一番大切なポイントは、「モチベーション」は個人の内面の問題であり、「エンゲージメント」は組織との関係性の問題であるということですね。

モチベーションが高くても、会社へのエンゲージメントが低いと、「スキルだけ身につけてすぐに転職する」ということが起こり得ます。

なぜ違う?語源と概念からイメージを掴む

【要点】

「Motivation」は「動かすもの」を意味し、行動のきっかけを表します。「Engagement」は「約束・契約」を意味し、結婚指輪(エンゲージリング)のように深い結びつきや絆を表します。

なぜこの二つの言葉に使い分けが生まれるのか、語源を紐解くと、その理由がよくわかりますよ。

「モチベーション」の語源:「動く」ためのエンジン

モチベーション(Motivation)の語源は、ラテン語の「movere(動かす)」に由来します。

「Motive(動機)」という言葉からも分かる通り、人が何か行動を起こすための「きっかけ」や「理由」を指します。

つまり、モチベーションとは自分自身を突き動かすためのエンジンのようなものです。

「給料が欲しい」「褒められたい」「成長したい」といった、個人的な欲求がエネルギー源になります。

「エンゲージメント」の語源:「約束」による深い絆

一方、エンゲージメント(Engagement)は、「Engage(約束する、従事する)」から来ています。

「エンゲージリング(婚約指輪)」という言葉があるように、元々は「誓約」や「深い結びつき」を意味する言葉です。

ビジネスにおいては、単なる雇用契約を超えた企業と従業員の間の信頼関係や思い入れを指します。

「この会社のために頑張りたい」「会社のビジョンに共感している」という、双方向の矢印が向いている状態ですね。

具体的な例文で使い方をマスターする

【要点】

個人の意欲を高める施策には「モチベーション」、組織としての一体感や離職防止には「エンゲージメント」を使います。「エンゲージメントが下がる」は組織への不信感を、「モチベーションが下がる」はやる気の低下を意味します。

言葉の違いは、具体的な例文で確認するのが一番ですよね。

ビジネスシーンでの使い分けと、間違いやすいNG例を見ていきましょう。

「モチベーション」を使うシーン

個人のやる気や、行動の原動力に焦点を当てる場合に使います。

【OK例文】

  • 成果報酬制度を導入して、社員のモチベーションアップを図る。
  • 上司に褒められて、仕事へのモチベーションが上がった。
  • 彼は高いモチベーションを持ってプロジェクトに取り組んでいる。

「エンゲージメント」を使うシーン

会社への愛着や、組織との一体感に焦点を当てる場合に使います。

【OK例文】

  • 社内コミュニケーションを活性化させ、従業員エンゲージメントを高める。
  • 企業のビジョンを共有することで、社員のエンゲージメントが向上した。
  • エンゲージメントスコアの低下は、離職率の増加につながるリスクがある。

これはNG!間違いやすい使い方

意味が通じないことはありませんが、ビジネス用語としては不正確な使い方です。

  • 【NG】給料が上がったので、会社へのエンゲージメントが上がった。
  • 【OK】給料が上がったので、仕事へのモチベーションが上がった。

給料アップは一時的な「やる気(モチベーション)」にはつながりますが、それだけで会社への「信頼や愛着(エンゲージメント)」が深まるとは限りません。お金の切れ目が縁の切れ目になることもあるからです。

【応用編】似ている言葉「ロイヤリティ」との違いは?

【要点】

「ロイヤリティ」は「忠誠心」を意味し、主従関係のニュアンスを含みます。「エンゲージメント」は対等なパートナーとしての「双方向の絆」を重視する点が異なります。

「エンゲージメント」とよく比較される言葉に「ロイヤリティ(Loyalty)」があります。これも整理しておくと、組織マネジメントの理解が深まりますよ。

「ロイヤリティ」は「忠誠心」と訳されます。

これは、社員が会社に対して「尽くす」「従う」という、やや上下関係や主従関係に基づいた帰属意識を指すことが多い言葉です。

一方、「エンゲージメント」は、会社と社員が対等な関係で、お互いに貢献し合う「パートナーシップ」のニュアンスが強いですね。

「会社が成長すれば自分も嬉しい、自分が成長すれば会社も助かる」という、Win-Winの関係性がエンゲージメントの本質と言えるでしょう。

「エンゲージメント」と「モチベーション」の違いを学術的に解説

【要点】

モチベーション理論では「動因(Drive)」が重視され、ハーズバーグの二要因理論などが有名です。エンゲージメントは「ワーク・エンゲイジメント」として定義され、「活力」「熱意」「没頭」の3要素で構成される肯定的で充実した心理状態を指します。

少し専門的な視点から、この二つの概念を深掘りしてみましょう。

モチベーションに関しては、心理学者のフレデリック・ハーズバーグが提唱した「二要因理論」が有名です。

彼は、不満を解消する「衛生要因(給与や労働条件)」と、満足感を高める「動機づけ要因(達成感や承認)」は別物であるとし、モチベーション向上には後者へのアプローチが必要だと説きました。

一方、エンゲージメントは、オランダのユトレヒト大学のウィルマー・シャウフェリ教授らによって「ワーク・エンゲイジメント」として定義されています。

これは、仕事に対して「活力(Vigor)」「熱意(Dedication)」「没頭(Absorption)」の3つが揃った、ポジティブで充実した心理状態を指します。

単にやる気があるだけでなく、仕事そのものに誇りを持ち、生き生きと取り組んでいる状態こそが、高いエンゲージメントと言えるのです。

厚生労働省の「働きがい」に関する資料などでも、このワーク・エンゲイジメントの向上が推奨されていますよ。

「やる気」はあるのに退職してしまった部下の話

僕がマネージャーになりたての頃、忘れられない苦い経験をしました。

当時、チームにとても優秀な若手社員のB君がいました。彼は個人のスキルアップに非常に熱心で、新しい技術の習得や資格試験の勉強を欠かさない、まさに「モチベーションが高い」社員でした。

僕は彼を見て、「これだけやる気があるなら安心だ」と思い込み、特にケアをしていませんでした。

ところが、ある日突然、B君から退職届を突きつけられたのです。

「えっ、なんで? あんなに頑張っていたじゃないか」と驚く僕に、彼は淡々と言いました。

「自分のスキルは上がりましたが、この会社の向かう方向性には共感できないんです。ここでは自分が貢献したいと思える未来が見えません」

その言葉を聞いて、僕はハッとしました。

彼のモチベーション(個人のやる気)は高かったけれど、エンゲージメント(組織への共感・愛着)はボロボロだったのです。

会社がどこを目指しているのか、彼の仕事がどう社会に役立っているのかを共有せず、ただ個人の頑張りだけに任せていた僕のミスでした。

「モチベーション」だけで人は繋ぎ止められない、「エンゲージメント」がなければ組織は脆いということを、身をもって痛感した出来事です。

「エンゲージメント」と「モチベーション」に関するよくある質問

Q. エンゲージメントを高めるにはどうすればいいですか?

A. 会社のビジョンや理念を共有し、社員が「自分の仕事が役に立っている」と実感できる環境を作ることが大切です。また、上司との信頼関係や、心理的安全性の確保も重要な要素になります。

Q. 給料を上げればエンゲージメントは上がりますか?

A. 必ずしもそうとは限りません。給与アップは一時的な不満解消(モチベーション維持)にはなりますが、組織への愛着や信頼といった本質的なエンゲージメント向上には、やりがいや共感が不可欠です。

Q. モチベーションが高ければエンゲージメントも高いですか?

A. いいえ、比例しません。僕の失敗談のように「自分のキャリアのためだけに頑張る」というモチベーションが高い社員でも、会社への愛着(エンゲージメント)が低い場合は、より良い条件があればすぐに転職してしまう可能性があります。

「エンゲージメント」と「モチベーション」の違いのまとめ

「エンゲージメント」と「モチベーション」の違い、スッキリご理解いただけたでしょうか。

最後に、この記事のポイントをまとめておきますね。

  1. 対象の違い:モチベーションは「自分自身」、エンゲージメントは「組織と自分」。
  2. 関係性の違い:モチベーションは個人の動機、エンゲージメントは双方向の絆。
  3. 目的の違い:モチベーションは行動の開始、エンゲージメントは定着と貢献。
  4. 語源のイメージ:モチベーションは「動くエンジン」、エンゲージメントは「約束(婚約)」。

この二つはどちらか一方が大事なわけではなく、車の両輪のようなものです。

個人のモチベーションを大切にしながら、組織とのエンゲージメントも育んでいく。それが、強いチームを作るための秘訣でしょう。言葉の使い分けについてさらに知りたい方は、ビジネス用語の違いまとめもぜひご覧ください。