「この記事の筆者は誰だろう?」
「この本の著者は有名人だ」
どちらも「文章を書いた人」を指す言葉ですが、いざ自分が使うとなると「どっちを使えばいいの?」と迷うことはありませんか?
実はこの2つの言葉、書いたものが「一冊の本」としてまとまっているか、「短い文章や記事」かという点で明確に使い分けられます。
この記事を読めば、ビジネスメールでの紹介から、卒論やレポートでの一人称の選び方までスッキリと理解でき、もう言葉選びで迷うことはありません。
それでは、まず最も重要な違いから見ていきましょう。
結論:一覧表でわかる「筆者」と「著者」の最も重要な違い
「著者」は書籍(本)を書いた人、「筆者」は雑誌の記事や論文、Web記事などの文章を書いた人を指します。また、論文などで自分自身を指す一人称としては「筆者」を使うのが一般的です。
まず、結論からお伝えしますね。
この二つの言葉の最も重要な違いを、以下の表にまとめました。これさえ押さえれば、基本的な使い分けはバッチリです。
| 項目 | 筆者(ひっしゃ) | 著者(ちょしゃ) |
|---|---|---|
| 中心的な意味 | 文章や記事を書いた人 | 書物(本)を書いた人 |
| 対象となる作品 | 新聞記事、雑誌記事、Web記事、論文、エッセイ、コラム | 単行本、新書、文庫本、学術書、写真集などの書籍 |
| ニュアンス | 「書く」という行為に焦点 自分を指す言葉としても使う | 「著(あらわ)す」=世に出すことに焦点 社会的評価や権威性がやや強い |
| 英語 | Writer(ライター) | Author(オーサー) |
一番大切なポイントは、「本(書籍)」の形になっているなら「著者」、雑誌やWebの中の「いち記事」なら「筆者」という区別ですね。
なぜ違う?漢字の成り立ち(語源)からイメージを掴む
「筆者」の「筆」は道具を使って書く行為そのものを指し、「著者」の「著」は書物を書きあらわして世に出すことを意味します。「著」には「あきらかにする」「いちじるしい」という意味もあり、作品としてのまとまりや社会的認知のニュアンスが含まれます。
なぜこの二つの言葉に使い分けが必要なのか、漢字の成り立ちを紐解くと、その理由がよくわかりますよ。
「筆者」の成り立ち:「筆」をとって書く人
「筆」という字は、文字通り「ふで」や「書く道具」を指します。
つまり「筆者」とは、筆記具を使って文章を書いた当人という、物理的な「書く行為」に焦点を当てた言葉です。
そのため、媒体が紙であろうとWebであろうと、また文章の長さに関わらず、「そのテキストを書いた人」という意味で広く使えます。
「著者」の成り立ち:「著(あらわ)す」人
一方、「著」という字には、「書物を書きあらわす」という意味のほかに、「著名」「顕著」のように「あきらか」「目立つ」という意味があります。
ここから、「著者」は単に文字を書くだけでなく、まとまった思想や知識を一冊の本として世に送り出した人という、より社会的で重みのあるニュアンスを持ちます。
「著述業」という言葉があるように、本を書くことを職業的・専門的に行っている人というイメージも強くなります。
具体的な例文で使い方をマスターする
Web記事や雑誌のコラムについて話すときは「筆者」、書店に並んでいる本について話すときは「著者」を使います。また、論文やレポートの中で自分自身のことを指す場合は「筆者」を使います。
言葉の違いは、具体的な例文で確認するのが一番ですよね。
ビジネス、日常、そしてアカデミックな場面での使い分けを見ていきましょう。
ビジネス・日常会話での使い分け
対象物が「本」か「記事」かで判断します。
【OK例文:筆者】
- この記事の筆者に取材を申し込みたい。(Webニュースや雑誌記事の場合)
- コラムの筆者は、現場の医師だそうです。
- (記事の末尾で)筆者プロフィール:〇〇県出身のライター。
【OK例文:著者】
- ベストセラーの著者による講演会が開かれる。
- この本の著者は、長年この分野を研究してきた教授です。
- 著者近影(本のカバー袖にある顔写真のこと)。
論文・レポートでの使い分け
ここでは「一人称」としての使い方が重要になります。
【OK例文:筆者(一人称)】
- 以上の分析から、筆者は次のように結論づける。(「私」の代わりに使う)
- 筆者が実施したアンケート調査によると……。
【OK例文:著者(引用)】
- 先行研究として、鈴木(2020)の著書を挙げる。著者は同書の中で……。
これはNG!間違えやすい使い方
意味は通じても、少し違和感を与えてしまう使い方があります。
- 【NG】(単行本を指して)この本の筆者は夏目漱石です。
- 【OK】(単行本を指して)この本の著者は夏目漱石です。
本の場合は「著者」を使うのが基本です。「作者」でもOKですが、「筆者」だと少し軽い、あるいは「単に文字を書いた人(代筆者?)」のようなニュアンスが含まれてしまう可能性があります。
【応用編】似ている言葉「作者」との違いは?
「作者」は、文章に限らず絵画・彫刻・工作など「作品を作った人」全般を指します。文章の場合、小説や詩歌などの「創作物(フィクションや芸術作品)」を書いた人を「作者」と呼ぶ傾向があります。
「筆者」「著者」と似た言葉に「作者」があります。これも整理しておきましょう。
「作者(さくしゃ)」は、「作る人」と書く通り、創作活動全般に使われます。
文章の世界では、事実を伝える記事や論理的な学術書よりも、小説、詩、脚本、物語などの「創作物(芸術作品)」を書いた人に対して使われることが多いです。
- 『源氏物語』の作者は紫式部です。
- この絵画の作者は不明です。
一方、ビジネス書や実用書、ドキュメンタリーなどは「著者」と呼ばれることが一般的です。
「筆者」と「著者」の違いを学術的に解説
学術論文において「筆者」は、客観性を保つために書き手自身(自分)を指す一人称として定着しています。一方、「著者」は引用する書籍の執筆者を指す場合や、論文誌の目録(Author List)などで使われます。著作権法上は「著作者」という用語が定義されており、創作的表現を行った者が権利の主体となります。
少し専門的な視点から、この二つの言葉の役割を深掘りしてみましょう。
論文における「一人称」としての筆者
大学のレポートや学術論文では、基本的に「私」や「僕」という一人称を使いません。
これは、論文が「個人の感想」ではなく、「客観的な事実と論理」に基づいて書かれるべきものだからです。
そこで、「この文章を書いている人間(客観的な存在としての私)」を指すために「筆者」という言葉を使います。
「私はこう思う」ではなく、「筆者はこう考える」と書くことで、主観的な響きを消し、論理の主体としての立場を明確にする効果があります。
著作権法における「著作者」
法律の世界、特に著作権法では、「筆者」や「著者」ではなく「著作者」という言葉が定義されています。
第2条第1項第2号において、著作者は「著作物を創作する者」と定義されています。
文章に限らず、音楽、絵画、映画、プログラムなど、思想や感情を創作的に表現した人すべてが「著作者」となります。
したがって、法的な権利関係を語る場合は、本を書いた人も記事を書いた人も、等しく「著作者」として扱われます。
詳しくは文化庁の著作権制度に関するページなどで確認できます。
大学のレポートで「私」と書いて減点された体験談
僕が大学に入って最初のレポート課題が出た時のことです。
テーマは「現代社会におけるSNSの影響」。自信満々で書き上げたレポートには、自分の体験談を交えながら、こう書きました。
「私は、SNSは承認欲求を満たすツールだと考えます。なぜなら、私自身も『いいね』がつくと嬉しいからです」
提出後、返ってきたレポートを見て愕然としました。赤ペンで大きく修正が入っていたのです。
「『私』の多用は避けること。学術的な文章では『筆者』を用いるのが適切です。個人の感情ではなく、論理で語りなさい」
顔から火が出るほど恥ずかしかったのを覚えています。
「私」と書くと、どうしても「個人の感想文」に見えてしまうんですよね。
それ以来、レポートや論文を書くときは、自分を「筆者」と呼ぶように徹底しました。
「筆者は、〇〇のデータに基づき考察する」と書くだけで、なんだか自分が少し賢くなったような、客観的な視点を持てたような気がしたものです。
言葉一つで、文章の信頼性やスタンスがガラリと変わることを痛感した出来事でした。
「筆者」と「著者」に関するよくある質問
Webライターは「著者」ですか「筆者」ですか?
Web記事単体であれば「筆者」や「ライター」と呼ぶのが一般的です。ただし、その記事が電子書籍として出版されたり、まとまった連載として権威性を持つ場合は「著者」と表記されることもあります。Googleの検索品質評価などでは「Author(著者・作成者)」という言葉が使われますが、日本語の感覚としては「筆者」が自然です。
共著の本の場合、全員を「著者」と呼びますか?
はい、呼びます。複数人で書いた本の場合、「共著者」と呼ぶこともあります。論文の場合は、一番貢献度が高い人を「筆頭著者(First Author)」、全体を統括する人を「責任著者(Corresponding Author)」と呼び分けることがあります。
「作者」と「筆者」の使い分けに迷います。
その文章が「フィクション(創作)」なら「作者」、「ノンフィクション(論説・報道)」なら「筆者」と使い分けるとスムーズです。小説家は「作者」や「作家」、新聞記者は「筆者」のイメージですね。
「筆者」と「著者」の違いのまとめ
「筆者」と「著者」の違い、スッキリご理解いただけたでしょうか。
最後に、この記事のポイントをまとめておきますね。
- 基本の使い分け:本なら「著者」、記事や論文なら「筆者」。
- 一人称として:論文やレポートで自分を指すときは「筆者」を使う。
- ニュアンス:「著者」は世に出した実績、「筆者」は書く行為そのものを指す。
言葉の背景にある「本という形になっているかどうか」の違いを掴むと、機械的な暗記ではなく、感覚的に使い分けられるようになります。
これからは自信を持って、適切な言葉を選んで文章作成や紹介を行ってくださいね。
言葉の使い分けについてさらに知りたい方は、社会・関係の言葉の違いをまとめたページもぜひご覧ください。
スポンサーリンク