「以後」と「今後」、どちらも「これから先」という意味で使われますが、ビジネス、特に「謝罪」や「契約」の場面では、その「始点」と「重み」に決定的な違いがあります。
一言で言えば、「以後」は今この瞬間(または特定の時点)を含んでそれより後、「今後」は今から先の未来全般を指します。
もし、重大なミスをして始末書を書く時に「今後は気をつけます」と書いてしまうと、「今は反省していないのか?」と揚げ足を取られたり、言葉が軽すぎると判断されたりするリスクがあるのです。
この記事を読めば、反省の意を示す時と、未来の展望を語る時で、どちらの言葉を選ぶべきかがスッキリと分かり、誠意と知性が伝わる大人の表現ができるようになりますよ。
それでは、まず最も重要な違いの一覧表から詳しく見ていきましょう。
結論:一覧表でわかる「以後」と「今後」の最も重要な違い
「以後」は基準となる時点(過去・現在・未来)を含み、それより後の期間を指します。謝罪や決意表明でよく使われます。「今後」は「今(現時点)」を基準とし、それより先の未来を指します。予定や展望を語る際によく使われます。
まず、結論からお伝えしますね。
この二つの言葉の最も重要な違いを、以下の表にまとめました。
これさえ押さえれば、基本的な使い分けはバッチリです。
| 項目 | 以後(いご) | 今後(こんご) |
|---|---|---|
| 中心的な意味 | ある時点を含んでそれより後 | 今この時から先、将来 |
| 基準点 | 可変(過去・現在・未来どこでも可) | 固定(常に「現在」が起点) |
| 基準点の扱い | 含む(From now / From then) | 含む(From now on) |
| ニュアンス | 改まった、固い、区切りをつける | 前向き、継続的、広い未来 |
| よく使う場面 | 謝罪、警告、契約、歴史記述 | 挨拶、抱負、予想、予定 |
一番大切なポイントは、「以後」は「これっきり二度としない」という断絶や区切りのニュアンスが強く、「今後」は「これからも続いていく」という継続や広がりのニュアンスが強いということです。
なぜ違う?漢字の成り立ち(語源)からイメージを掴む
「以後」の「以(もっ)て」は起点を含むことを示し、基準点が移動可能です。「今後」の「今」は「いま」そのものを指し、起点が現在に固定されています。
なぜこの二つの言葉に使い分けが生まれるのか、漢字の構成を紐解くと、その理由がよくわかりますよ。
「以後」の成り立ち:「以(もっ)て」後ろとなす
「以後」は、「~より」や「~をもって」を意味する「以」と、「のち」を意味する「後」で構成されています。
「以」という漢字は、「以上」「以下」のように、その基準点を含むというルールを持っています。
そして重要なのは、その基準点は「今」に限らないということです。
「明治維新以後」と言えば過去が起点ですし、「来月1日以後」と言えば未来が起点になります。
「ここを境目にするぞ」という、明確なライン引きのイメージがありますね。
「今後」の成り立ち:「今(いま)」より後
一方、「今後」は、「今」と「後」です。
文字通り、「たった今から後」という意味です。
起点は常に「現在(発言しているその時)」に固定されています。
「今からのち」という時間の流れや広がりに焦点が当たっており、過去の話をする時には使えません。
「明治維新今後」とは言いませんよね。
具体的な例文で使い方をマスターする
謝罪や反省文では「以後気をつけます」が定型句として最も適切です。挨拶や未来の抱負を語る際は「今後ともよろしくお願いいたします」が自然です。
言葉の違いは、具体的な例文で確認するのが一番ですよね。
ビジネスと日常、そして間違いやすいNG例を見ていきましょう。
ビジネスシーンでの使い分け
「反省」か「展望」かで使い分けるとスムーズですよ。
【OK例文:以後(反省・契約・過去)】
- 今回のミスを深く反省し、以後、同様のことがないよう徹底いたします。(今この瞬間から絶対に)
- 契約締結日以後に発生した損害については補償します。(特定の日時を含んでそれより後)
- 1990年以後、急速に普及した。(過去の時点を基準に)
【OK例文:今後(展望・挨拶・予定)】
- 今後の方針についてご説明します。(これからの未来)
- 今後とも変わらぬご愛顧をお願い申し上げます。(これからもずっと)
- 今後の活躍を期待しています。(将来)
「以後お見知り置きを」という挨拶もありますが、これは「この出会いをきっかけ(起点)として、これからはずっと」という古風で丁寧な表現です。
日常会話での使い分け
日常でも、厳格さか、緩やかかで使い分けます。
【OK例文:以後】
- 以後、気をつけます。(親や先生に怒られた時の真剣な謝罪)
- このラインから先は、関係者以後(以外)立入禁止。(※「以外」の誤用として注意されがちですが、時間的な区切りとして「3時以後」のように使います)
【OK例文:今後】
- 今後どうするつもり?(将来のプラン)
- 今後は気をつけるね。(軽い反省や心がけ)
これはNG!間違えやすい使い方
意味は通じますが、ビジネスマンとしての品格を疑われるかもしれない使い方を見てみましょう。
- 【NG】(始末書で)今後は二度とこのような不始末を起こしません。
- 【OK】(始末書で)以後、二度とこのような不始末を起こしません。
「今後」は「これから先」という広い未来を指すため、少し漠然とした印象を与えます。
始末書のような改まった文書では、「この件を境にきっぱりと」という強い区切りの意思を示す「以後」を使うのがマナーであり、反省の深さが伝わります。
- 【NG】(メールの結びで)以後ともよろしくお願いいたします。
- 【OK】(メールの結びで)今後ともよろしくお願いいたします。
「以後」は少し堅苦しく、断絶のニュアンス(ここから先は別世界)を含むことがあるため、円滑な関係継続を願う挨拶では「今後」の方が自然で柔らかいです。
【応用編】似ている言葉「以降」や「以来」との違いは?
「以降」は「以後」とほぼ同じですが、より「日時」や「順番」の起点に使われる傾向があります。「以来」は「ある過去の時点から現在までずっと続いている」という継続の状態を指します。
「以後」や「今後」の周辺には、他にも似た言葉があります。
これらも整理しておくと、時系列の説明がより正確になりますよ。
日時を指す「以降(いこう)」
「以降」も「基準点を含んでそれより後」という意味で、「以後」とほぼ同義です。
ただし、現代語では「来週以降」「3時以降」のように、具体的な日時や順番の後ろにつくことが非常に多いです。
「以後」は単独で「(今)以後」として使えますが、「以降」を単独で「(今)以降、気をつけます」とはあまり言いません。
過去からの継続「以来(いらい)」
「以来」は、「あれからずっと」という意味です。
「卒業以来、会っていない」のように、過去のある時点から現在まで状態が継続していることを強調します。
「以後」や「今後」が未来に向かっているのに対し、「以来」は過去から現在までの期間(実績)に焦点があります。
「以後」と「今後」の違いを時間概念の視点から解説
「以後」は時間軸上にピンを打ち、「ここから右側すべて」と範囲を指定する言葉です。そのピンは過去・現在・未来のどこにでも打てます。「今後」は常に「現在位置」から未来を見渡す言葉です。視点の位置が自由か固定かの違いです。
少し専門的な視点から、この二つの違いを深掘りしてみましょう。
時間表現において、基準点(Reference Point)の扱いは重要です。
以後の柔軟性(Relative Time)
「以後」は、文脈によって基準点が移動します。
- 「明治維新以後」(過去基準)
- 「以後気をつけます」(現在基準)
- 「契約終了日以後」(未来基準)
このように、「ある出来事」とセットになって、その出来事を含む「後の期間」を定義します。
契約書などで多用されるのは、いつその契約が終了するか(未来のいつか)が現時点では確定していなくても、「その時が来たら、それより後はこうする」と定義できるからです。
今後の固定性(Absolute Time)
「今後」は、発話時点(Speech Time)が基準です。
「今」という絶対的な位置から、未来という方向を指し示します。
そのため、歴史の話や条件付きの契約条項で使うには不向きですが、挨拶や抱負など「今の気持ち」を伝えるには最適なのです。
始末書で「今後」と書いて上司に書き直しを命じられた体験談
僕も昔、この言葉の選び方で痛い目を見た経験があります。
入社2年目、発注ミスで会社に損害を与えてしまい、人生初の始末書を書くことになりました。
反省の気持ちを込めて、結びの言葉をこう書きました。
「本件を深く反省し、今後は確認作業を徹底し、再発防止に努めます」
提出後、上司に呼び出されました。
「気持ちは分かるが、始末書の書き方としては甘いな。『今後』じゃなくて『以後』に書き直してくれ」
僕はキョトンとしました。
「えっ、意味は同じじゃないんですか?」
上司は諭すように言いました。
「日常会話なら同じだ。でもな、始末書っていうのは『けじめ』の文書なんだ。『今後』だと、なんとなく『これから先の未来』という漠然とした感じがするだろう? 『以後』と言うと、『このミスをした瞬間から、以前とは違う自分になる』という強い断絶と決意のニュアンスが出るんだよ」
ハッとしました。
たしかに「以後」という言葉には、過去の自分と決別するような鋭い響きがあります。
「今後」は「これからも(ゆるやかに)」という継続のイメージに近く、不祥事の再発防止を誓うには少し弱かったのです。
この経験から、本気の反省や契約上の厳格な約束には「以後」、前向きな関係継続や展望には「今後」という使い分けを心に刻みました。
言葉一つで「覚悟の量」が違って見える。ビジネス文書の奥深さを知った出来事でした。
「以後」と「今後」に関するよくある質問
「以後」と「以降」の使い分けは?
意味はほぼ同じですが、「以降」は日時を示す場合によく使われます。「4月1日以降」と言うと、カレンダー上の日付を指す感じが強くなります。「以後」は「卒業以後」のように、出来事や状態の変化を指す場合にもなじみます。また、単独で「以後、気をつけます」と言う場合は「以降」は使えません。
「今後」は目上の人に使っても大丈夫ですか?
はい、大丈夫です。「今後ともご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたします」は、ビジネスの定型句として非常に丁寧で適切な表現です。この場合は「以後とも」とは言いません。
「以後」は「いご」以外の読み方はありますか?
通常は「いご」と読みます。稀に「もちて・のち」と訓読することもありますが、現代文ではまずありません。「以後」と同じ意味で「爾後(じご)」という言葉もありますが、これは軍隊用語や非常に硬い公文書などでしか使われない特殊な表現です。
「以後」と「今後」の違いのまとめ
「以後」と「今後」の違い、スッキリご理解いただけたでしょうか。
最後に、この記事のポイントをまとめておきますね。
- 以後:基準点を含むそれより後。謝罪・反省・契約で使う。「区切り」のニュアンス。
- 今後:今から先の未来。挨拶・抱負・予定で使う。「継続・広がり」のニュアンス。
- 使い分け:始末書なら「以後」、メールの結びなら「今後」。
- 視点:「以後」は基準点が動かせるが、「今後」は常に現在が基準。
言葉の背景にある「覚悟の重さ」と「時間の捉え方」を理解すると、機械的な暗記ではなく、感覚的に使い分けられるようになります。
これからは自信を持って、その場にふさわしい言葉を選んでいきましょう。
ビジネスシーンでの言葉遣いについてさらに詳しく知りたい方は、ビジネス敬語の使い分けまとめページもぜひ参考にしてみてくださいね。
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