「インセンティブ」と「ボーナス」、どちらも会社から支給される嬉しいお金ですが、その違いはズバリ「個人の成果に対する報奨」か「会社全体の業績や時期に基づく一時金」かという点にあります。
なぜなら、インセンティブは「やる気を引き出すための刺激」として個人の頑張りに直結するのに対し、ボーナスは「利益の分配」や「生活給」としての性格が強く、支給の目的が根本的に異なるから。
この記事を読めば、給与明細の見方が変わるだけでなく、転職や就職の際に求人票の「給与条件」を正しく読み解く力が身につき、自分に合った働き方を選べるようになりますよ。
それでは、まず最も重要な違いの全体像から詳しく見ていきましょう。
結論:一覧表でわかる「インセンティブ」と「ボーナス」の最も重要な違い
最大の違いは「支給の目的と基準」です。個人の特定の成果に対して随時支払われるのが「インセンティブ」、会社全体の業績や季節の節目に定期的・一律的に支払われるのが「ボーナス」です。
まず、結論からお伝えしますね。
「インセンティブ」と「ボーナス」の決定的な違いを、以下の表にまとめました。これさえ押さえれば、ビジネスにおける基本的な使い分けはバッチリです。
| 項目 | インセンティブ | ボーナス(賞与) |
|---|---|---|
| 中心的な意味 | 意欲を引き出すための刺激・報奨 | 定期的に支払われる一時金 |
| 支給の基準 | 個人の目標達成、契約件数など | 会社全体の業績、基本給×◯ヶ月分 |
| 支給のタイミング | 毎月、四半期ごと、達成直後など柔軟 | 夏・冬の年2回、決算期など定期的 |
| 対象 | 成果を出した特定の人やチーム | 従業員全体(正社員が中心) |
| 金銭以外 | あり(旅行、記念品、表彰など) | 基本的にはなし(金銭支給が原則) |
簡単に言うと、「頑張ったご褒美」として成果に応じてプラスされるのが「インセンティブ」、「夏と冬のお楽しみ」としてまとまった金額がもらえるのが「ボーナス」というイメージですね。
例えば、営業職で「契約1件につき1万円」もらえるのはインセンティブですが、夏休みの前に「基本給の2ヶ月分」が振り込まれるのはボーナスです。
この違いを理解しておくと、自分がどのような成果を求められているのか、会社が何を評価しているのかが見えてきます。
なぜ違う?言葉の成り立ち(語源)からイメージを掴む
「インセンティブ」はラテン語の“歌うように励ます”に由来し、行動を促す「刺激」を意味します。「ボーナス」はラテン語の“良い”に由来し、予期せぬ「贈り物」や「特別配当」というニュアンスを持ちます。
なぜこの二つの言葉にニュアンスの違いが生まれるのか、語源を紐解くと、その本来の目的がよくわかりますよ。
「インセンティブ」の語源:行動を促す「刺激」
「インセンティブ(incentive)」は、ラテン語の「incentivus(歌うように励ます、刺激する)」に由来します。
これは、人の意欲や行動を内側から突き動かすための「動機付け」や「誘因」という意味合いが強い言葉です。
つまり、単にお金を渡すこと自体が目的ではなく、「もっと頑張ろう」「目標を達成しよう」という気持ちにさせるための「仕掛け」なんですね。
だからこそ、金銭だけでなく、表彰や旅行といった「形」をとることも多いのです。
「ボーナス」の語源:予期せぬ「良いもの」
一方、「ボーナス(bonus)」は、ラテン語の「bonus(良い)」に由来します。
これは、本来の報酬に加えて与えられる「予期せぬ贈り物」「特別手当」という意味を持っています。
株式市場などで使われる「特別配当」というニュアンスもここから来ています。
現代の日本では「生活給」の一部として定着していますが、語源的には「会社が良い状態だから、みんなにも良いものを分け与えるよ」という、利益還元の意味合いが根底にあるのです。
具体的な例文で使い方をマスターする
個人の成果を強調したいときは「インセンティブ」、会社全体の支給制度を指すときは「ボーナス」を使います。求人票や社内規定で言葉が使い分けられている点に注目しましょう。
言葉の違いは、具体的な例文で確認するのが一番ですよね。
ビジネスシーンでの正しい使い方と、間違えやすい例を見ていきましょう。
個人の成果・動機付けでの使い分け(インセンティブ)
特定の成果に対して支払われる報酬や、意欲向上のための施策には「インセンティブ」を使います。
【OK例文:インセンティブ】
- 今月は営業目標を達成したので、来月の給与にインセンティブが上乗せされる。
- 新規プロジェクトの成功報酬として、特別インセンティブが支給された。
- 社員のモチベーションを高めるために、新しいインセンティブ制度を導入する。
- このキャンペーンでは、契約数に応じたインセンティブをご用意しています。
「報奨金」や「歩合」と言い換えることもできますが、カタカナ語の「インセンティブ」はより広い意味で「動機付け全般」を指すことができます。
定期的・全体的な支給での使い分け(ボーナス)
季節ごとの一時金や、会社全体の業績配分には「ボーナス(賞与)」を使います。
【OK例文:ボーナス】
- 今年の冬のボーナスは、業績好調のため昨年より増額される見込みだ。
- 住宅ローンの返済計画を、ボーナス併用払いで組んでいる。
- 弊社では、年2回の賞与(ボーナス)とは別に、決算賞与が支給されることがあります。
- ボーナス商戦に向けて、各社が新商品を投入している。
ビジネス文書や就業規則では「賞与」と表記されることが一般的ですね。
これはNG!間違えやすい使い方
文脈に合わない使い方は違和感を与えます。
- 【NG】毎年6月と12月に、全社員一律のインセンティブが支給されます。
- 【OK】毎年6月と12月に、全社員一律のボーナス(賞与)が支給されます。
定期的かつ一律に支給されるものは、動機付けの意味合いが薄いため「インセンティブ」とは呼びません。
- 【NG】個人の営業成績に応じて、毎月ボーナスが変動します。
- 【OK】個人の営業成績に応じて、毎月インセンティブが変動します。
毎月の変動給を「ボーナス」と呼ぶことは稀です。「歩合給」や「コミッション」、「インセンティブ」と呼ぶのが適切です。
【応用編】似ている言葉「歩合給」「手当」との違いは?
「歩合給」は売上高に比例して機械的に計算される賃金。「手当」は特定の条件や役割に対して支払われる固定的な賃金。インセンティブはそれらを含みつつ、より「意欲向上」の目的にフォーカスした言葉です。
「インセンティブ」と「ボーナス」以外にも、給与に関わる似たような言葉があります。ここで整理しておきましょう。
「歩合給(ぶあいきゅう)」とは?
「歩合給」は、「売上高 × ◯%」のように、成果に対して機械的に計算される賃金のことです。「フルコミッション(完全歩合制)」などの言葉でも使われます。
インセンティブの一種と言えますが、インセンティブが「目標達成したら10万円」のように「点」での報酬も含むのに対し、歩合給は「売れれば売れるほど増える」という「線」のイメージが強いですね。
「手当(てあて)」とは?
「手当」は、特定の条件や役割に対して支払われる賃金です。
- 役職手当:部長や課長などの役割に対して。
- 家族手当:扶養家族がいることに対して。
- 住宅手当:家賃補助として。
これらは成果によって毎月変動するものではなく、条件を満たしている限り固定的に支払われる点が、インセンティブとは異なります。
「インセンティブ」と「ボーナス」の違いを制度的に解説
法律上、「ボーナス(賞与)」は支給義務がありませんが、就業規則に規定されれば支払い義務が生じます。「インセンティブ」も賃金の一部とみなされ、労働基準法の規制を受けます。どちらも原則として課税対象です。
ここからは少し専門的な視点で、制度や法律の面から「インセンティブ」と「ボーナス」を深掘りしてみましょう。
労働基準法における扱いの違い
労働基準法では、「賃金」とは労働の対償として支払われるすべてのものを指します。
したがって、名称が「ボーナス」であろうと「インセンティブ」であろうと、労働の対価として支払われる金銭はすべて賃金として扱われます。
ただし、「賞与(ボーナス)」については、毎月払いの原則の例外として扱われ、就業規則などに定めがない限り、会社に支給義務はありません。
一方、インセンティブも、あらかじめ支給基準が明確に定められている場合(例:契約1件につき1万円など)は、確定した賃金として支払いの義務が発生します。
参考:賃金 |厚生労働省
社会保険料と税金のポイント
お金をもらう時に気になるのが「引かれるもの」ですよね。
- ボーナス:支給されるたびに「賞与支払届」を提出し、健康保険料や厚生年金保険料が天引きされます。源泉所得税も、前月の給与額を基準に計算された税率で引かれます。
- インセンティブ:毎月の給与に上乗せして支給される場合、通常の月給として社会保険料や所得税の計算対象になります。つまり、インセンティブが増えれば、その月の手取りは増えますが、翌年の住民税なども増えることになります。
どちらも「給与所得」として課税される点では同じですが、計算のタイミングや手続きに若干の違いがあるのです。
(初めてインセンティブを手にした時の震えるような興奮)
僕が新卒で入った会社は、完全な年功序列の固定給でした。どれだけ頑張っても、サボっている同期と同じ給料。「ボーナス」は嬉しかったけれど、それは「我慢料」のようなもので、個人の成果とは無縁でした。
転職して営業職に就いた時、初めて「インセンティブ制度」のある環境に身を置きました。
「契約を取れば取るほど、給料が増える?」
半信半疑でがむしゃらに働いた最初の月。給与明細を見て、手が震えました。基本給の横に記載された「歩合給」の欄に、新卒時代の月給に近い金額が印字されていたからです。
「これが、自分の力で稼いだお金か…」
ボーナスをもらった時の「会社ありがとう」という感謝とは全く違う、「俺がやったんだ!」という強烈な達成感と自己肯定感。それがインセンティブの正体でした。
その夜、少し高い焼肉屋で食べた肉の味は、単なる贅沢ではなく、勝利の味でした。
しかし同時に、翌月契約が取れなかった時の給与明細の薄さを見て、「インセンティブは麻薬だ」とも気付きました。安定のボーナス、刺激のインセンティブ。どちらが良い悪いではなく、自分の働き方に合っているかどうかが大切なのだと、身を持って学んだ経験です。
「インセンティブ」と「ボーナス」に関するよくある質問
インセンティブとボーナス、両方もらえることはありますか?
はい、あります。多くの企業では、基本給+年2回の賞与(ボーナス)という体系に加え、営業職など特定の職種に対して毎月または四半期ごとのインセンティブ制度を設けています。この場合、安定したボーナスと成果連動のインセンティブの両方を受け取ることができます。
インセンティブは残業代の計算に含まれますか?
原則として含まれます。インセンティブ(歩合給)も賃金の一部なので、残業代(割増賃金)を計算する際の基礎となる賃金に含める必要があります。ただし、計算方法は固定給部分とは異なり、少し複雑になる場合があります。
「決算賞与」はインセンティブですか?ボーナスですか?
性質としては「ボーナス」に近いです。会社の決算時期に、業績が良かった場合に利益を従業員に分配するものです。個人の成果というよりは、会社全体の目標達成に対する報酬という意味合いが強いため、臨時ボーナスの一種と言えます。
「インセンティブ」と「ボーナス」の違いのまとめ
「インセンティブ」と「ボーナス」の違い、スッキリ整理できたでしょうか。
最後に、この記事のポイントをまとめておきますね。
- 目的が違う:「インセンティブ」は動機付け、「ボーナス」は利益配分・生活保障。
- 基準が違う:「インセンティブ」は個人の成果、「ボーナス」は会社業績と勤続。
- 時期が違う:「インセンティブ」は随時・短期、「ボーナス」は定期・長期。
- 対象が違う:「インセンティブ」は特定の人、「ボーナス」は全従業員。
この二つの言葉の違いを理解することは、単に給与の仕組みを知るだけでなく、自分がどのような評価軸で働きたいかを見つめ直すきっかけになります。
安定を求めるのか、成果によるリターンを求めるのか。企業選びや働き方のスタイルを考える際に、ぜひこの違いを思い出してみてくださいね。ビジネス用語についてさらに詳しく知りたい方は、ビジネス用語の違いまとめもぜひ参考にしてみてください。