「名所をめぐる」や「季節がめぐる」と書くとき、「巡る」と「廻る」のどちらを使えばいいのか迷ったことはありませんか?
パソコンで変換すると両方出てくるため、雰囲気で選んでしまっている方も多いかもしれません。
実は、順序よく各地を回る場合や公的な文章では「巡る」、回転や循環、あるいは宗教的なニュアンスを含む場合は「廻る」を使うのが正解です。
この記事を読めば、二つの言葉が持つ本来の意味や、公用文での扱い、さらには相手に与える印象の違いまでスッキリと理解でき、自信を持って正しい漢字を選べるようになります。
それでは、まず最も重要な違いから詳しく見ていきましょう。
結論:一覧表でわかる「廻る」と「巡る」の最も重要な違い
基本的にはすべて「巡る」を使えば間違いありません。「巡る」は常用漢字であり、移動や時間の経過に広く使えます。一方、「廻る」は常用外漢字で、仏教的な「輪廻」や詩的な表現など、特定のこだわりがある場合に使われます。
まず、結論からお伝えしますね。
この二つの言葉の最も重要な違いを、以下の表にまとめました。
これさえ押さえれば、基本的な使い分けはバッチリです。
| 項目 | 巡る(めぐる) | 廻る(めぐる/まわる) |
|---|---|---|
| 中心的な意味 | あちこちを順に移動する、周囲をまわる | 回転する、遠回りする、元の場所に戻る |
| 対象 | 観光地、聖地、季節、血行 | 輪廻、運命、時代、金回り |
| ニュアンス | 通過点をつないでいく移動(線的) | くるくると回る循環、繰り返し(円的) |
| 漢字の種別 | 常用漢字(一般的) | 表外漢字(公的な場では使わない) |
一番大切なポイントは、「巡る」は常用漢字なので、迷ったらこちらを使えばOKということです。
「温泉巡り」や「美術館巡り」のように、複数の場所を順番に訪れる場合は「巡る」が最適です。
一方、「廻る」は「回る」の旧字的な扱いであり、「輪廻(りんね)」のように「運命がめぐる」といった情緒的、あるいは宗教的な文脈であえて使われることが多いですね。
なぜ違う?漢字の成り立ち(語源)からイメージを掴む
「巡」は川の流れに沿って進む様子を表し、順序よく回るイメージです。「廻」は道を長く引いて歩く様子や渦巻きを表し、遠回りや回転して戻ってくるイメージを持つと、違いが明確になります。
なぜこの二つの言葉に使い分けが生まれるのか、漢字の成り立ちを紐解くと、その理由がよくわかりますよ。
「巡る」の成り立ち:「川」のように順序よく進むイメージ
「巡」という漢字は、「川(くいい・かわ)」と「しんにょう(進む)」から成り立っています。
これは、川の流れに沿ってくねくねと進む、あるいは川の中州をぐるりと回る様子を表しています。
そこから、決められたルートや地点を、順序よく回っていくという意味が生まれました。
「巡回(じゅんかい)」や「巡礼(じゅんれい)」という言葉があるように、パトロールや聖地訪問など、目的を持って各地を移動するイメージが強いのが特徴です。
「廻る」の成り立ち:「渦」のように回転して戻るイメージ
一方、「廻」という漢字は、「廴(えんにょう・長く引く)」と「回(うずまき)」を組み合わせた字です。
「回」がくるくると回転する様子を表し、「廴」が長く道を行くことを表します。
つまり、「廻」は遠回りをしながら、あるいは回転しながら元の場所に戻ってくるというニュアンスが含まれます。
「輪廻(りんね)」のように、生死が絶え間なく繰り返される様子や、「廻り道」のように迂回する様子に使われるのは、この「回転・循環・遠回り」のイメージがあるからです。
具体的な例文で使い方をマスターする
観光やビジネスで各地を回る場合は「巡る」、季節や時代、運命的なものが繰り返される場合は「廻る(または巡る)」を使います。公的な文章では全て「巡る」または「回る」に書き換えるのが基本ルールです。
言葉の違いは、具体的な例文で確認するのが一番ですよね。
シーン別に、正しい使い分けと間違いやすいNG例を見ていきましょう。
「巡る」の例文:移動・順行
場所の移動や、時間の経過に広く使います。
【OK例文】
- 京都の神社仏閣を巡る旅に出る。
- 警備員が館内を巡って点検する。(巡回)
- 季節が巡り、また春が来た。
- 体内を血が巡る。
- ある事件を巡って、議論が巻き起こった。(※「〜について」の意味)
「廻る」の例文:循環・情緒
回転のイメージや、詩的な表現、特定の慣用句で使います。
【OK例文(こだわりの表現)】
- 因果は廻る糸車。(※運命的な繰り返し)
- 時代は廻る。(※歴史の繰り返しを強調)
- 六道輪廻の世界観。(※仏教用語)
- 金回りがいい。(※「金廻り」とも書くが、一般的には「金回り」)
- 急がば廻れ。(※遠回りの意味。ことわざでは「回れ」も多い)
これはNG!間違いやすい使い方
公的な文書やビジネスメールでの変換ミスに注意しましょう。
- 【NG】本日の議題を廻る議論。
- 【OK】本日の議題を巡る議論。
「〜に関して」という意味で使う「めぐる」は、「巡る」を使うのが一般的です。「廻る」を使うと、議題の周りをくるくる物理的に回っているような、奇妙な印象を与えかねません。
- 【NG】四国八十八ヶ所廻り。
- 【OK】四国八十八ヶ所巡り。
聖地や観光地を順に訪ねる場合は「巡る」が適切です。ただし、個人の旅行記などで「あえて」廻るを使うことは自由ですが、案内板やパンフレットなどでは「巡る」が正解です。
【応用編】似ている言葉「回る」「周る」との違いは?
「回る」は回転や機能すること(目が回る、仕事が回る)、「周る」は周囲を取り囲むこと(池の周りを周る)を指します。「巡る」は順序よく移動すること、「廻る」は遠回りや循環を指します。現代では「廻る」の代用として「回る」が使われることが多くあります。
「めぐる」や「まわる」と読む漢字には、他にも「回る」「周る」があります。
これらも合わせて整理しておくと、表現の精度がグッと上がりますよ。
「回る(まわる)」:回転・機能
最も一般的で、広い意味で使われます。
- 回転:扇風機が回る、地球が回る。
- 順送:回覧板が回る、ツケが回ってくる。
- 機能:仕事がうまく回る、呂律が回らない。
実は、「廻る」は常用外漢字であるため、公的な場ではこの「回る」に書き換えられることがほとんどです(例:輪廻→輪回、身の廻り→身の回り)。
「周る(まわる)」:周囲・一周
あるものの周りを囲む、一周するという意味に限定されます。
- 周囲:池の周りを散歩する(※動詞としては「回る」を使うことが多い)。
- 一周:グラウンドを一周する。
「めぐる」と読むことは稀ですが、意味としては「巡る」に近い部分もあります。
「廻る」と「巡る」の違いを学術的に解説
「巡」は常用漢字表に含まれており、「あちこちまわる」「めぐりあるく」という意味で定義されています。「廻」は表外漢字であり、同音の「回」に書き換えられるのが国の指針です。したがって、現代日本語の規範としては「巡る」または「回る」を使用し、「廻る」は文学的・歴史的表現として残されています。
ここでは少し視点を変えて、公的な指針や辞書の定義からこの二つの言葉を深掘りしてみましょう。
日本の漢字政策(常用漢字表)において、「巡」は「めぐ(る)」という訓読みが認められています。
一方、「廻」は常用漢字表に含まれていません。
これはどういうことかと言うと、新聞、公文書、教科書、放送など、社会的な基準となる文章では、「廻」という字は使わず、「回」や「巡」に置き換えるというルールがあるということです。
- 廻転 → 回転
- 廻送 → 回送
- 巡り廻る → 巡り回る
しかし、個人の表現や、固有名詞、仏教用語などの専門分野では、依然として「廻」が持つ「ぐるぐると回る」「遠回りする」「元の位置に還る」という独自のニュアンスが重宝されています。
学術的にも、「巡」はポイントごとの移動(線的な移動)、「廻」は円環的な運動(円的な移動)というイメージの違いで語られることがあります。
詳しくは漢字の使い分けの違いまとめなどで、他の同訓異字についても確認してみると、日本語の奥深さがより理解できますよ。
僕が観光パンフレットで「温泉廻り」と書いて修正された体験談
僕も新人のライター時代、この「廻る」と「巡る」の使い分けで恥ずかしい思いをしたことがあります。
ある温泉地の観光パンフレットのキャッチコピーを考えていた時のことです。
僕は少しカッコつけて、レトロで情緒ある雰囲気を出そうと思い、「湯けむり旅情、秘湯を廻る旅」と提案書に書きました。
「巡る」よりも「廻る」の方が、なんとなく画数が多くて重厚感があり、温泉地をぐるぐると深く味わうような、通好みの響きがすると思ったんです。
しかし、ベテランの編集者から返ってきた赤字には、バッサリと修正が入っていました。
「これ、観光協会に出す公的なパンフレットだから。『廻』は常用外だし、温泉地を順番に訪れるんだから『巡る』が正解。お遍路さんだって『巡礼』でしょ? 迷路じゃないんだから、温泉地でグルグル回っちゃダメだよ(笑)」
顔から火が出るほど恥ずかしかったです。
自分の勝手なイメージで「廻」を使っていましたが、読者である観光客にとっては「順序よく名所を回る(巡る)」という情報が重要であり、僕の自己満足な「雰囲気」は求められていなかったのです。
それ以来、僕は「あちこち移動するなら『巡る』」「目が回るような回転なら『回る』」と、基本に忠実な言葉選びを心がけるようになりました。
「廻る」という字を見るたびに、あの時の「迷路じゃないんだから」という言葉を思い出して、苦笑いしてしまいます。
「廻る」と「巡る」に関するよくある質問
Q. 「めぐる」とひらがなで書くのは逃げですか?
A. いいえ、決して逃げではありません。むしろ、「巡る」だと堅苦しい、「廻る」だと読めない人がいる、といった場合に、あえてひらがなで「めぐる」と書くのは、読み手への配慮として非常に有効です。特に「季節がめぐる」や「想いをめぐる」など、情緒的な文脈ではひらがなが好まれることも多いです。
Q. 「お寿司がまわる」は「回転」「廻転」どっち?
A. 一般的には「回転寿司」と書きます。「回る」が常用漢字だからです。しかし、お店の屋号や看板などで、あえてこだわりや高級感、あるいは昔ながらの雰囲気を出すために「廻転寿司」と表記している店も多くあります。どちらも間違いではありませんが、記事などで紹介する場合は「回転寿司」とするのが無難です。
Q. 「知恵がまわる」はどの漢字?
A. 「知恵が回る」と書きます。頭の働きが機能するという意味なので、「回る」が適切です。「巡る」を使うと、思考があちこちに飛んでいくようなニュアンスになってしまいます。
「廻る」と「巡る」の違いのまとめ
「廻る」と「巡る」の違い、スッキリご理解いただけたでしょうか。
最後に、この記事のポイントをまとめておきますね。
- 基本は「巡る」一択:観光、季節、順序よく回る場合は「巡る」を使えば間違いなし。
- 公用文のルール:「廻る」は常用外なので、公的な文書では「回る」か「巡る」に書き換える。
- ニュアンスの違い:「巡る」は移動の旅、「廻る」は回転や輪廻の円環。
- 迷ったらひらがな:情緒を出したい時や、読みやすさを優先する時は「めぐる」も正解。
漢字の背景にある「川の流れ」と「渦の回転」のイメージを掴んでおけば、もう変換候補の前で迷うことはありません。
これからは自信を持って、状況にぴったりの言葉を選んでみてくださいね。
漢字の使い分けについてさらに詳しく知りたい方は、漢字の使い分けの違いまとめの記事もぜひ参考にしてみてくださいね。
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