「無給」と「欠勤」、どちらも「お給料が出ない」という点では同じように思えますが、その発生原因や人事評価への影響には天と地ほどの差があることをご存じでしょうか?
実は、「無給」は給料が支払われない「状態」そのものを指し、「欠勤」は労働義務がある日に休む「行為」を指すという、原因と結果のような関係にあります。
この記事を読めば、給与明細の「欠勤控除」の意味を正しく理解でき、休む際に自分を守るための適切な選択ができるようになります。
それでは、まず最も重要な違いから詳しく見ていきましょう。
結論:一覧表でわかる「無給」と「欠勤」の最も重要な違い
基本的には給料がゼロの状態全般が「無給」、働く約束の日に休む行為が「欠勤」です。欠勤は原則として無給になりますが、無給のすべてが欠勤(マイナス評価)とは限りません。
まず、結論からお伝えしますね。
この二つの言葉の最も重要な違いを、以下の表にまとめました。
これさえ押さえれば、基本的な使い分けはバッチリです。
| 項目 | 無給(むきゅう) | 欠勤(けっきん) |
|---|---|---|
| 中心的な意味 | 賃金が支払われない「状態」 | 労働義務がある日に休む「行為」 |
| 評価への影響 | 理由による(産休等は不利益扱い禁止) | 原則マイナス評価(査定に響く) |
| 該当するケース | 欠勤、遅刻、早退、休職、産休など | 有給休暇を使わずに休むこと |
| 対義語 | 有給(給料あり) | 出勤(働くこと) |
一番大切なポイントは、「欠勤」は人事評価においてペナルティの対象になりやすいということです。
一方で「無給」は、ノーワーク・ノーペイの原則に基づく単なる給与計算上の結果であり、正当な権利(産休など)を行使した場合も含まれます。
なぜ違う?漢字の成り立ち(語源)からイメージを掴む
「無給」は“給(たまもの・給料)”が“無”い状態を表し、金銭的な結果に焦点を当てています。一方、「欠勤」は“勤(つとめ・勤務)”を“欠(かく)”行為を表し、果たすべき義務の不履行に焦点を当てています。
なぜこの二つの言葉にニュアンスの違いが生まれるのか、漢字の成り立ちを紐解くとその理由がよくわかりますよ。
「無給」の成り立ち:「給」が無いという金銭的結果
「無給」の「給(きゅう)」は、糸を合わせて供給する様子から、「あてがう」「たまう(与える)」という意味を持ちます。
現代では「給料」「賃金」を指します。
つまり、「無給」とは労働の対価としてのお金が発生していない状態をシンプルに表す言葉です。
ここには「良い・悪い」の判断は含まれず、単に「0円である」という事実だけが示されています。
ボランティア活動なども「無給」と言いますよね。
「欠勤」の成り立ち:「勤」めを「欠」くという義務違反
一方、「欠勤」の「勤(きん)」は、「力を尽くして仕事をする」という意味です。
「欠(けつ)」は、あくびをする姿から転じて「かける」「足りない」という意味になりました。
ここから、「欠勤」には、本来果たすべき勤務(労働義務)を欠いているという、ネガティブなニュアンスが含まれます。
「穴をあける」というイメージが強く、会社との契約(働く約束)を果たしていない状態を指すため、人事評価上の減点対象となるのです。
具体的な例文で使い方をマスターする
会社を休む理由や状況に応じて使い分けます。評価やルールの話なら「欠勤」、給与計算や待遇の話なら「無給」を使うのが一般的です。
言葉の違いは、具体的な例文で確認するのが一番ですよね。
ビジネスと日常、そして間違いやすいNG例を見ていきましょう。
ビジネスシーンでの使い分け
「お金の話か」「勤怠の話か」を意識すると、使い分けは簡単ですよ。
【OK例文:無給】
- 育児休業中は会社からは無給ですが、雇用保険から給付金が出ます。(給与の状態)
- 遅刻した分の時間は、ノーワーク・ノーペイの原則により無給となります。(計算上の扱い)
- 彼は無給でインターンシップに参加している。(報酬の有無)
【OK例文:欠勤】
- 有給休暇を使い切ってしまったので、明日は欠勤扱いで休みます。(勤怠の種類)
- 無断欠勤が続くと、懲戒解雇の対象になる可能性があります。(服務規律)
- インフルエンザで3日間欠勤した。(出勤しなかった事実)
このように、給与明細の話なら「無給」、出勤簿の話なら「欠勤」が自然ですね。
日常会話での使い分け
日常会話でも、考え方は同じです。
【OK例文:無給】
- 今月は休みすぎて、給料が減って無給に近い状態だよ。
- 家の手伝いは無給労働だなんて言わないでくれよ。
【OK例文:欠勤】
- 風邪で会社を欠勤しちゃった。
- 皆勤賞を狙っていたのに、1日だけ欠勤がついちゃった。
これはNG!間違えやすい使い方
意味は通じることが多いですが、厳密には正しくない使い方を見てみましょう。
- 【NG】有給休暇を取ったので、明日は欠勤します。
- 【OK】有給休暇を取ったので、明日は休みます(または休暇を取得します)。
「欠勤」は「労働義務を果たしていない」ことを指しますが、有給休暇は「労働義務を免除されている」状態なので、欠勤とは言いません。
有給休暇取得日を「欠勤」として扱うと、労働基準法違反になる可能性があるので注意が必要です。
【応用編】似ている言葉「休職」との違いは?
「休職」は、病気や留学などで長期間働けない場合に、労働義務を免除されつつ社員としての籍を残す制度です。「欠勤」が日単位の不履行であるのに対し、「休職」は会社が認めた長期的なお休みです。
「欠勤」が続いた先にあるのが「休職」です。
この流れを押さえておくと、長期療養の際の不安が減りますよ。
多くの会社の就業規則では、以下のようなステップになっています。
- 有給休暇:給料をもらいながら休む(権利)。
- 欠勤:有給がなくなり、給料なしで休む(労働義務の不履行)。
- 休職:欠勤が一定期間(例:1ヶ月)続いた場合、会社が命令または承認して、長期的に休ませる(籍はあるが労働義務なし)。
「休職」期間中は原則として「無給」ですが、「欠勤」とは違い、解雇を猶予されている期間という意味合いがあります。
いきなりクビにせず、治るのを待ってくれる制度と言えますね。
「無給」と「欠勤」の違いを学術的に解説
労働法学において、賃金は労働の対価(ノーワーク・ノーペイの原則)であるため、労働していない「欠勤」時間は当然に「無給」となります。ただし、就業規則により欠勤でも賃金を払うことは可能であり、逆に遅刻・早退なども労働していない時間は「無給」として扱われます。
法律や人事労務の専門的な視点から見ると、この二つは「原則」と「事実」の関係にあります。
1. ノーワーク・ノーペイの原則(無給の根拠)
労働基準法では明文化されていませんが、民法や判例により確立されている大原則です。
「働いていない時間に対しては、賃金を支払う義務はない」というルールです。
これにより、欠勤、遅刻、早退、私用外出、ストライキ参加などの時間は、会社は給与からその分を差し引く(控除する)ことができます。
これが「無給」の状態です。
2. 債務不履行としての欠勤
労働契約は「労働者が労働力を提供し、使用者が対価を払う」契約です。
「欠勤」は、労働者がこの「労働力の提供」という債務を果たしていない状態です。
そのため、賃金が支払われない(無給)だけでなく、ボーナスの査定期間における出勤率の低下や、退職金の算定期間からの除外など、人事評価上の不利益を受ける正当な理由となります。
詳しくは厚生労働省のウェブサイトなどで労働条件や賃金に関するガイドラインを確認してみると、より深い理解が得られるでしょう。
(「たかが1日の欠勤」でボーナスが激減!僕が味わった評価の落とし穴)
僕が新人の頃、有給休暇が付与されるまでの半年間に、どうしても外せない用事で1日だけ会社を休んだことがありました。
「有給がないから『欠勤』扱いになるけど、1日分の給料が引かれるだけでしょ? まあ、仕方ないか」
そんな軽い気持ちで欠勤届を出しました。
翌月の給与明細を見ると、確かに1万円ちょっとが「欠勤控除」として引かれていました。
「まあ、こんなもんだよね」と思っていたのですが、本当の悲劇は冬のボーナスでやってきました。
同期と比べて、僕のボーナス査定が明らかに低かったのです。
上司に恐る恐る理由を聞くと、こんな答えが返ってきました。
「ああ、君は査定期間中に『欠勤』があっただろう? うちの会社は皆勤手当みたいな要素が評価に含まれているから、1日でも欠勤があると評価ランクが一つ下がっちゃうんだよ」
顔から血の気が引きました。
たった1日の欠勤、たった1万円の給与カットだと思っていたものが、評価全体に響いて数万円、いや十数万円の損失に繋がっていたのです。
「無給」はただの計算結果ですが、「欠勤」は「約束を破った」という重い事実として記録に残る。
その怖さを身を持って知った僕は、それ以来、体調管理を徹底し、有給休暇を大切に使うようになりました。
「休む」という行為にも、色々な重みがあるんですね。
「無給」と「欠勤」に関するよくある質問
台風で電車が止まって休んだ場合は「欠勤」ですか?
会社のルールによりますが、不可抗力による休みでも、有給休暇を使わなければ「欠勤(無給)」扱いになるのが一般的です。ただし、会社によっては「特別休暇(有給)」を認めたり、出勤免除(給与は出る)としたりする温情措置をとる場合もあります。
「無給休暇」という言葉を聞きますが、これは何ですか?
これは「休んでもペナルティ(欠勤扱い)にはしないが、給料は出さない」という休みです。例えば、法定の「生理休暇」や「子の看護休暇」などは、制度として休む権利はありますが、給料を出すかどうかは会社に任されているため、「無給の休暇」となることが多いです。
遅刻や早退は「欠勤」に含まれますか?
評価上は別枠で管理されることが多いですが、給与計算上は「時間単位の欠勤」と同じ扱い(ノーワーク・ノーペイ)になります。また、「遅刻3回で欠勤1日とみなす」といった就業規則を定めている会社もあり、その場合は評価上の欠勤日数にカウントされます。
「無給」と「欠勤」の違いのまとめ
「無給」と「欠勤」の違い、スッキリご理解いただけたでしょうか。
最後に、この記事のポイントをまとめておきますね。
- 基本は視点で使い分け:お金の話なら「無給」、勤怠・評価の話なら「欠勤」。
- 評価への影響:「欠勤」は原則マイナス評価、「無給」には産休など正当なものも含まれる。
- 漢字のイメージが鍵:「給」がない金銭的結果、「勤」めを欠く義務違反。
言葉の背景にある「お金」と「評価」の仕組みを理解すると、ただ休むだけでなく、どのように休めば自分を守れるかが見えてきます。
これからは、有給休暇の残日数を確認しながら、賢く働き、賢く休むことができるはずです。
さらに詳しいビジネス用語の使い分けについては、ビジネス用語の違いまとめの記事もぜひ参考にしてみてください。