「オーナー」と「社長」、どちらも会社のトップというイメージがありますが、その役割や権限の源泉には決定的な違いがあることをご存じでしょうか?
実は、「オーナー」は会社にお金を出して所有している人(株主)であり、「社長」は会社を経営する実務の最高責任者という、全く異なる立場を指す言葉なのです。
この記事を読めば、ニュースで聞く「オーナー社長」や「雇われ社長」の意味がスッキリと理解でき、会社の支配構造や意思決定の仕組みが手に取るように分かるようになります。
それでは、まず最も重要な違いから詳しく見ていきましょう。
結論:一覧表でわかる「オーナー」と「社長」の最も重要な違い
基本的には会社の持ち主が「オーナー」、経営のトップが「社長」です。オーナーは資金を出資して利益(配当)を得る権利を持ち、社長は経営手腕を振るって報酬(役員報酬)を得ます。両者を兼ねるのが「オーナー社長」です。
まず、結論からお伝えしますね。
この二つの言葉の最も重要な違いを、以下の表にまとめました。
これさえ押さえれば、基本的な関係性はバッチリです。
| 項目 | オーナー | 社長 |
|---|---|---|
| 中心的な意味 | 会社の所有者(出資者) | 会社の経営責任者 |
| 権限の源泉 | 株式の保有(株主総会での議決権) | 取締役会などでの選任(業務執行権) |
| 主な収入 | 配当金、株価の値上がり益 | 役員報酬(給与) |
| 立場 | 会社そのものの持ち主 | 会社に雇われた(委任された)経営者 |
| 誰が偉い? | 社長を解任できる権限を持つ | 現場のトップだがオーナーには逆らえない |
一番大切なポイントは、「オーナー」は社長をクビにする権限を持っているということです。
会社の所有権(株式)を誰が持っているかが、最終的な力関係を決定づけるのですね。
なぜ違う?言葉の成り立ちと「所有と経営」の関係
「オーナー(Owner)」は所有する人を意味し、資本主義における出資者(株主)を指します。「社長」は“社の長”であり、組織を統率する役割名です。株式会社の仕組みでは「所有(オーナー)」と「経営(社長)」が分離しているのが本来の形です。
なぜこの二つの言葉に権限の違いが生まれるのか、言葉の成り立ちとビジネスの仕組みを紐解くとよくわかりますよ。
「オーナー」の意味:所有権を持つ支配者
「オーナー(Owner)」は英語の「Own(所有する)」から来ています。
ビジネスにおいて「所有する」とは、その会社の株式を持っている(出資している)ことを意味します。
株式会社の仕組みでは、株主こそが会社の持ち主です。
家で例えるなら、家の権利書を持っている「大家さん」のような存在ですね。
住んでいる人(社員)や管理人(社長)に対して、最終的な決定権を持っています。
「社長」の意味:組織を率いるリーダー
一方、「社長」は「社(会社組織)」の「長(おさ)」です。
これは職務上のポジション名であり、法律用語ではありません。
株主(オーナー)から「経営のプロとして、会社の運営を任された人」という位置付けです。
家で例えるなら、大家さんから管理を任された「管理会社の担当者」や、実際にそこに住んで家を切り盛りする「世帯主」のようなイメージでしょうか。
日々の生活(業務)については権限を持ちますが、家そのものを売ったり壊したりする権限は大家さん(オーナー)にあります。
具体的な例文で使い方をマスターする
中小企業では「オーナー=社長」のケースが多く、大企業では「オーナー(株主)≠社長(サラリーマン社長)」のケースが一般的です。文脈によって、出資者としての側面か、経営者としての側面かを使い分けます。
言葉の違いは、具体的なシチュエーションで確認するのが一番ですよね。
ビジネスシーンでの使い分けを見ていきましょう。
1. オーナー社長(所有と経営が一致)
日本の中小企業の多くはこれに当たります。
創業者が自分で資金を出し、自分で社長も務めるケースです。
- 「彼はあの会社のオーナー社長だから、決定が早いね」
- 「オーナーの一存で、新規事業への参入が決まった」
この場合、実質的に「オーナー」と「社長」は同一人物なので、文脈によって呼び名が変わりますが、最強の権力者であることは間違いありません。
2. 雇われ社長(所有と経営の分離)
大企業や、オーナーが引退して経営をプロに任せたケースです。
- 「彼はプロ経営者として招かれた社長だが、株は持っていない」
- 「業績不振の責任を問われ、オーナー(大株主)によって社長が解任された」
ここでは、社長はあくまで「経営の委託を受けた人」であり、オーナー(株主)に対して責任を負う立場になります。
3. 店舗ビジネスの場合
飲食店や美容室などでも使い分けられます。
- 「私はこの店の店長(社長的な役割)ですが、オーナーは別にいます」
- 「オーナーが複数店舗を経営していて、各店に店長を置いている」
現場を仕切るのが店長、資金を出して権利を持っているのがオーナーですね。
【応用編】似ている言葉「代表取締役」「CEO」との違いは?
「代表取締役」は日本の会社法に基づく法的な名称で、対外的に会社を代表する権限を持つ人です。「CEO」は米国型の呼称で、経営の最高責任者を指します。「社長」は社内的な職位の呼び名です。これらは兼任されることが多いです。
「社長」「オーナー」と合わせてよく聞く肩書きについても整理しておきましょう。
- 代表取締役:法律(会社法)で定められた正式な名称。契約書にサインしたり、印鑑登録したりする権限を持つ人です。社長が兼任することが多いですが、「会長」や「副社長」が代表権を持つこともあります。
- CEO(最高経営責任者):Chief Executive Officerの略。業務執行のトップであることを示す米国流の肩書きです。日本における「社長」とほぼ同義で使われます。
- 創業者(ファウンダー):会社を作った人。創業者が引退して株だけ持っている場合は「オーナー」、経営も続けていれば「オーナー社長」となります。
名刺には「代表取締役社長」と書かれることが多いですが、これは「法律上は代表取締役であり、社内職位としては社長である」という意味なんですね。
「オーナー」と「社長」の違いをビジネス視点で解説
ビジネスの構造上、オーナー(株主)は「資金の提供とリスク負担」を行い、その対価として利益(配当)と経営への介入権を得ます。社長は「経営手腕」を提供し、対価として報酬を得ます。オーナーは船の持ち主、社長は船長という関係性です。
会社の仕組みを「船」に例えると、その違いがより鮮明になります。
オーナーは「船主(船の持ち主)」
船を買うお金を出した人です。
船が沈没したら、出したお金がパーになるリスクを負っています。
その代わり、船が貿易で儲けたら、その利益の多くを受け取る権利があります。
また、「どこの港へ向かうか(経営方針)」や「誰を船長にするか(人事権)」を決める最終決定権を持っています。
社長は「船長(キャプテン)」
船主から雇われて、実際に船を操縦し、クルー(社員)を指揮する人です。
航海のプロとして、安全かつ効率的に目的地へたどり着く責任を負います。
その働きに対して給料をもらいます。
もし操縦ミスで損害を出せば、船主から「船長交代(解任)」を言い渡されることもあります。
詳しくは法務省の会社法関連ページなどで株式会社の仕組みを確認してみると、株主と取締役の関係性がより深く理解できるでしょう。
(「鶴の一声」で決定が覆る!雇われ社長とオーナーの力関係を見た日)
僕が以前勤めていた会社は、創業者が会長(オーナー)で、社長は銀行出身のプロ経営者という体制でした。
ある時、社運を賭けた新規プロジェクトの企画会議がありました。
社長は緻密なデータと論理的な戦略に基づいて、「A案で行く」と決断しました。
現場の僕たちも「さすが社長、鋭い分析だ」と納得し、A案に向けて準備を進めていました。
ところが数日後、事態は急変します。
会長(オーナー)がふらりと会議室に現れ、資料をパラパラと見た後、一言だけ放ちました。
「これ、面白くないね。B案の方が夢があるじゃないか。B案でやりなさい」
その瞬間、あれほど論理的だった社長が直立不動で「は、はい! 承知いたしました!」と答えたのです。
結局、プロジェクトはB案で進むことになりました。
僕はその時、痛感しました。
「社長は会社のトップだが、オーナーは社長のさらに上にいる“神”のような存在なんだ」と。
会社というものは、理屈だけでなく「誰がお金を出しているか(誰のものか)」という資本の論理で動いている。
それを目の当たりにした、忘れられない出来事でした。
(ちなみにB案のプロジェクトは、会長の勘が当たって大成功しました。オーナーの嗅覚、恐るべしです…)
「オーナー」と「社長」に関するよくある質問
社長は必ず株を持っていますか?
いいえ、持っていない場合も多いです。特に大企業(上場企業)の社長は、自社株を少しは持っていることが多いですが、保有比率は数%未満であることがほとんどで、「オーナー」とは呼べないケースが大半です。これを「サラリーマン社長」と呼ぶこともあります。
オーナー社長の会社で働くメリット・デメリットは?
メリットは、意思決定が速く、長期的な視点で大胆な経営ができることです。デメリットは、オーナーの意向が絶対であるためワンマン経営になりやすく、公私混同が起きたり、後継者問題で揺れたりするリスクがあることです。
CEOと社長はどちらが偉いですか?
基本的には同じ「トップ」を指す言葉ですが、使い分けられる場合は「CEO」の方が上位概念として使われます。例えば、グループ全体を統括する持ち株会社のトップをCEO、各事業会社のトップを社長と呼ぶようなケースです。
「オーナー」と「社長」の違いのまとめ
「オーナー」と「社長」の違い、スッキリご理解いただけたでしょうか。
最後に、この記事のポイントをまとめておきますね。
- 基本は所有か経営か:株を持つのがオーナー、経営するのが社長。
- 権限の違い:オーナーは社長の任命・解任権を持つ最強の存在。
- 兼任も多い:日本の中小企業では「オーナー社長」が一般的。
言葉の背景にある「資本と経営」の関係を理解すると、会社のニュースや人事の動きが、今までとは違った深さで見えてくるはずです。
これからは、企業のトップを見る時に「この人は雇われ社長かな? それともオーナーかな?」という視点を持ってみてくださいね。
さらに詳しいビジネス用語の使い分けについては、ビジネス用語の違いまとめの記事もぜひ参考にしてみてください。