文字は似てても別系統?「ペルシャ語」と「アラビア語」の決定的な違い

「ペルシャ語」と「アラビア語」の最も大きな違いは、使用している文字は似ていますが、言語のルーツ(語族)が全く異なるという点です。

なぜなら、ペルシャ語は「インド・ヨーロッパ語族」に属し英語やドイツ語の遠い親戚であるのに対し、アラビア語は「アフロ・アジア語族」でヘブライ語などに近い言語だからです。

この記事を読めば、文字の見分け方や文法の違い、それぞれの言語が話されている地域など、ビジネスや教養として知っておくべき具体的な知識が分かります。

それでは、まず両者の決定的な違いを一覧表で詳しく見ていきましょう。

結論:一覧表でわかる「ペルシャ語」と「アラビア語」の最も重要な違い

【要点】

最大の違いは「語族」です。ペルシャ語は英語の親戚で、アラビア語は全く別系統の言語です。文字はアラビア語由来のものをペルシャ語も使いますが、文法や発音体系は大きく異なります。

まず、結論からお伝えしますね。

この二つの言語の最も重要な違いを、以下の表にまとめました。

これさえ押さえれば、基本的な区別はバッチリでしょう。

項目ペルシャ語(Farsi)アラビア語(Arabic)
言語のルーツ(語族)インド・ヨーロッパ語族
(英語や仏語の遠い親戚)
アフロ・アジア語族
(ヘブライ語に近い)
文字ペルシャ文字
(アラビア文字+独自の4文字)
アラビア文字
主な使用国イラン、アフガニスタン、タジキスタンなどサウジアラビア、エジプト、UAEなど中東・北アフリカ諸国
文法構造SOV型(主語-目的語-動詞)
日本語に似た語順
VSO型(動詞-主語-目的語)
またはSVO型
関係性のイメージ日本語
(漢字を借りて独自の言葉を話す)
中国語
(漢字を生み出した本家)

一番大切なポイントは、文字は借りているけれど、中身のシステムは別物だということです。

日本人が中国から「漢字」を借りて日本語を話しているのと状況が似ている、と考えるとイメージしやすいですね。

なぜ違う?言語の系統(語族)からイメージを掴む

【要点】

ペルシャ語は「インド・ヨーロッパ語族」で、文法的に英語やヨーロッパ諸語と共通点を持ちます。一方、アラビア語は「セム語派」で、語根システムという独特な構造を持つため、根本的な仕組みが異なります。

なぜこの二つの言語は、見た目が似ているのに「別物」と言われるのでしょうか。

その理由を、言語の家系図である「語族」から紐解いてみましょう。

ペルシャ語のルーツ:実は英語の親戚

驚かれることが多いのですが、ペルシャ語は「インド・ヨーロッパ語族」というグループに属しています。

つまり、英語、ドイツ語、フランス語、ロシア語などと同じ祖先を持つ言語なのです。

そのため、基本的な単語において、ヨーロッパの言語と似ている音が残っていることがあります。

例えば、「母」はペルシャ語で「マータル(Madar)」と言いますが、英語の「Mother」やドイツ語の「Mutter」と似ていますよね。

「父」は「ペダル(Pedar)」で、英語の「Father」やラテン語の「Pater」に通じます。

このように、単語の響きや文法の基礎に、ヨーロッパ言語との共通点が見隠れするのがペルシャ語の特徴です。

アラビア語のルーツ:独自のシステムを持つセム語派

一方、アラビア語は「アフロ・アジア語族」のセム語派に属しています。

これは、ヘブライ語やアムハラ語(エチオピアの言語)などが含まれるグループです。

アラビア語の最大の特徴は、「語根(ルート)」と呼ばれる3つの子音を組み合わせて単語を作るシステムです。

例えば、「k-t-b」という3つの音(書くことに関連する意味)をベースに、母音などを変化させて「kitab(本)」「katib(作家)」「maktab(事務所)」といった単語を派生させます。

このシステムは、英語やペルシャ語のようなインド・ヨーロッパ語族には見られない、非常に論理的かつ数学的な構造なんですね。

具体的な例文と文字で違いをマスターする

【要点】

ペルシャ語はアラビア文字に「パ・チェ・ジェ・ガ」という独自の4文字を加えて表記します。挨拶の言葉も異なり、アラビア語の「アッサラーム・アライクム」はイスラム圏共通ですが、日常会話ではそれぞれの固有の表現が使われます。

言葉の違いは、実際の文字やフレーズで確認するのが一番ですよね。

文字の見た目と、代表的な挨拶の違いを見ていきましょう。

文字の違い:ペルシャ語だけの「4文字」

ペルシャ語は、アラビア語の文字(アラビア文字28文字)を借用して書かれます。

しかし、ペルシャ語の発音を表記するために、アラビア語にはない独自の4文字を追加しています。

以下の4つが、ペルシャ語特有の文字です。

  • ペ(Pe):下点3つ
  • チェ(Che):下点3つ(ハ行のような形)
  • ジェ(Zhe):上点3つ
  • ガ(Gaf):上棒が2本

もし、文章の中にこれらの文字(特に点が3つある文字や、棒が2本ある文字)を見つけたら、それはアラビア語ではなくペルシャ語である可能性が高いでしょう。

挨拶の違い:日常会話の響き

イスラム教の影響で、どちらの地域でも「アッサラーム・アライクム(平安があなたの上にありますように)」という挨拶は通じます。

しかし、それ以外の日常的な言葉は全く異なります。

【ありがとう】

  • ペルシャ語:メルシー(Merci)
    ※フランス語からの借用が定着しています。または「モタシャッケラム」。
  • アラビア語:シュクラン(Shukran)

【こんにちは/元気ですか】

  • ペルシャ語:サラーム、ハーレ・ショマー・チェトール・アスト?
  • アラビア語:マルハバン、カイファ・ハールク?

ペルシャ語圏(イランなど)では、フランス語由来の「メルシー」が日常的に使われているのが面白いですよね。

これは近代におけるフランス文化の影響を受けた結果であり、アラビア語圏とは異なる文化的背景を感じさせます。

【応用編】似ている言葉「ウルドゥー語」との違いは?

【要点】

ウルドゥー語(パキスタン等の公用語)もアラビア文字を使いますが、文法はヒンディー語とほぼ同じです。ペルシャ語やアラビア語からの借用語が多いものの、インド・アーリア語派に属し、さらに独自の文字を追加して表記されます。

「ペルシャ語」や「アラビア語」とよく似た文字を使う言語に「ウルドゥー語」があります。

パキスタンの国語であり、インドの一部でも話されていますね。

ウルドゥー語は、歴史的にペルシャ語の影響を強く受けており、アラビア文字(ナスタアリーク体という書体で書かれることが多い)を使用します。

しかし、文法のベースはヒンディー語と同じです。

つまり、文字はアラビア語・ペルシャ語風ですが、話している言葉の構造はインドの言葉、というハイブリッドな言語なんですね。

見分けるポイントとしては、ウルドゥー語には反り舌音(舌を巻く音)を表すための小さな「ト」のような記号(テやダルの上に付く)が頻繁に登場します。

「ペルシャ語」と「アラビア語」の違いを言語学的に解説

【要点】

ペルシャ語はアラビア語から大量の語彙を借用していますが、インド・ヨーロッパ語族の文法構造を維持しています。日本語が漢語を取り入れつつ日本語の文法を保ったのと同様の「言語接触」の典型例として、学術的にも興味深い関係性を持っています。

専門的な視点から見ると、この二つの言語の関係は「言語接触」と「借用」の素晴らしい事例です。

7世紀以降、イスラム帝国の拡大に伴い、アラビア語が行政や学問の言語として広まりました。

この過程で、ペルシャ語(当時はパフラヴィー語などが変化していく時期)は、アラビア語から膨大な量の語彙を取り入れました

一説には、現代ペルシャ語の語彙の約半分近くがアラビア語由来とも言われています。

しかし、興味深いことに、ペルシャ語は文法の骨格までは変えませんでした

語順はSOV(主語-目的語-動詞)を保ち、動詞の活用や名詞の修飾関係(イザーフェ構造など)といった独自のシステムを維持し続けました。

これは、日本語が中国語から大量の「漢語」を取り入れながらも、「てにをは」や語順といった大和言葉の文法を維持した歴史と非常に似ています。

外務省の各国データなどを見ると、イランの公用語はペルシャ語、サウジアラビアはアラビア語と明記されており、外交やビジネスの場では明確に区別して対応する必要があります。

参考:外務省 イラン基礎データ

僕がイラン旅行で「アラビア語」を使ってしまった体験談

僕も学生時代、中東の文化に憧れてイランを一人旅したときに、言葉の違いで冷や汗をかいた経験があります。

当時、僕は「中東=アラビア語」という浅はかな知識しか持っていませんでした。

ガイドブックに載っていた「サラーム(こんにちは)」は通じたので、調子に乗って、アラビア語の「シュクラン(ありがとう)」を連発していたんです。

テヘランのバザールで、親切にしてくれた店主に笑顔で「シュクラン!」と言いました。

すると、店主は苦笑いをしながら、優しくこう言ったのです。

「君、それはアラブの言葉だよ。ここでは『メルシー』か『モタシャッケラム』と言うんだ。私たちはペルシャ人だからね」

その瞬間、顔から火が出るほど恥ずかしくなりました。

文字が似ているからといって、文化やアイデンティティまで一緒くたにしていた自分の無知を痛感しました。

「言葉を知ることは、相手の誇りを尊重することだ」

この教訓は、その後の僕の異文化理解の根幹になっています。

それ以来、現地の言葉が何語なのか、どんな背景があるのかを必ず調べてから訪れるようになりました。

ちなみに、「メルシー」が通じることに驚きましたが、これも歴史的な交流の証だと知って、ますますペルシャ語に興味が湧いたのを覚えています。

「ペルシャ語」と「アラビア語」に関するよくある質問

Q. イラン人はアラビア語が話せますか?

A. 一般的なイラン人は、母国語としてアラビア語を話すわけではありません。ただし、学校教育でコーラン(イスラム教の聖典)を学ぶためにアラビア語を勉強するため、読み書きや宗教的なフレーズはある程度理解できる人が多いです。日常会話が流暢かどうかは人によります。

Q. アラビア語ができればペルシャ語も読めますか?

A. 文字がほぼ同じなので、音読することはある程度可能です。しかし、単語の意味や文法が異なるため、内容を理解することは難しいでしょう。日本語話者が中国語の文章を見て、漢字の意味からなんとなく推測できても、正確には読めないのと同じような感覚です。

Q. ビジネスで中東に行くならどちらを学ぶべきですか?

A. 渡航先によります。サウジアラビア、UAE、エジプトなどアラブ諸国が対象なら「アラビア語」が必須です。イランやアフガニスタンなどとの取引なら「ペルシャ語」です。使用人口や国の数で言えばアラビア語の方が圧倒的に多いですが、ペルシャ語圏も独自の巨大な市場を持っています。

「ペルシャ語」と「アラビア語」の違いのまとめ

「ペルシャ語」と「アラビア語」の違い、スッキリご理解いただけたでしょうか。

最後に、この記事のポイントをまとめておきますね。

  1. 語族が違う:ペルシャ語はインド・ヨーロッパ語族(英語の親戚)、アラビア語はアフロ・アジア語族。
  2. 文字は似ているが違う:ペルシャ語はアラビア文字に独自の4文字を加えて使用している。
  3. 関係性は日中と同じ:日本語が漢字を借りているように、ペルシャ語はアラビア文字を借りている。
  4. 文化圏の違い:イランを中心とするペルシャ文化圏と、アラブ諸国のアラブ文化圏という違いがある。

文字の見た目に惑わされず、その背後にある歴史や系統の違いを知ることで、中東の世界がより立体的に見えてくるはずです。

これからニュースや街中でこれらの文字を見かけたら、「あ、これは点が3つあるからペルシャ語かも?」なんて視点で見てみてくださいね。

言葉のルーツや使い分けについてさらに知りたい方は、メディア・文化系外来語の違いまとめの記事もぜひご覧ください。

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