「RSU」と「ストックオプション」、どちらも会社から提供される株式報酬の一種ですが、実際に受け取る側にとってのメリットやリスクには天と地ほどの差があることをご存じでしょうか?
実は、「RSU」は条件を満たせば株式そのものを“無償”でもらえる制度であり、「ストックオプション」は株式を決められた価格で“購入する権利”をもらえる制度という、決定的な違いがあります。
この記事を読めば、外資系企業への転職やスタートアップへの参画を考える際に、提示された報酬パッケージが自分にとってどれくらい有利なのか、あるいはリスクがあるのかがスッキリと分かります。
それでは、まず最も重要な違いから詳しく見ていきましょう。
結論:一覧表でわかる「RSU」と「ストックオプション」の最も重要な違い
基本的には株そのものが手に入るのが「RSU」、株を買う権利が手に入るのが「ストックオプション」です。株価が下がった場合、RSUは価値が残りますが、ストックオプションは価値がゼロになるリスクがあります。
まず、結論からお伝えしますね。
この二つの言葉の最も重要な違いを、以下の表にまとめました。
これさえ押さえれば、基本的な使い分けや理解はバッチリです。
| 項目 | RSU(譲渡制限付株式ユニット) | ストックオプション(SO) |
|---|---|---|
| 何がもらえる? | 株式そのもの | 株式を購入する「権利」 |
| コスト(取得時) | 原則不要(無償付与) | 権利行使価格(購入代金)が必要 |
| 株価下落時の価値 | 価値は減るがゼロにはならない (株価=価値) | 価値がゼロになる可能性がある (行使価格を割ると無意味) |
| 主な目的 | 従業員の定着(リテンション)、安定的な報酬 | 業績向上への強い動機づけ、ハイリターン狙い |
一番大切なポイントは、「RSU」はボーナスのように確実に資産になる一方で、「ストックオプション」は株価が上がらなければただの紙切れになるということです。
なぜ違う?仕組みの成り立ちからイメージを掴む
「RSU」は“Unit(単位・引換券)”として付与され、後日株に変わる「ご褒美」のイメージ。「ストックオプション」は“Option(選択権)”であり、買うか買わないかを選べる「予約チケット」のイメージです。
なぜこの二つの制度にこれほどのリスク差が生まれるのか、言葉の成り立ちや仕組みを紐解くとよくわかりますよ。
「RSU」のイメージ:約束された「引換券」
「RSU」は「Restricted Stock Unit」の略で、日本語では「譲渡制限付株式ユニット」と呼ばれます。
これは、会社が「3年働いたら100株あげるね」といった条件(Vesting)付きで、将来株式を受け取れる「引換券(Unit)」を渡してくれるイメージです。
条件をクリアすれば、その時点の株価の価値を持つ株式が自動的に手に入ります。
たとえ株価が下がっていても、「株そのもの」がもらえるため、価値がゼロになることは(倒産しない限り)ありません。
確実に受け取れる「現物支給のボーナス」に近い感覚ですね。
「ストックオプション」のイメージ:未来の「予約チケット」
一方、「ストックオプション(Stock Option)」は、「自社株をあらかじめ決められた価格(行使価格)で買うことができる権利」です。
例えば、「将来株価がどうなっても、1株1,000円で買えるチケット」をもらったとしましょう。
もし株価が2,000円になれば、1,000円で買って市場で売れば1,000円の利益が出ます。
しかし、株価が500円に下がってしまったらどうでしょう?
市場で500円で買えるものを、わざわざチケットを使って1,000円で買う人はいませんよね。
つまり、このチケット(権利)は使われないまま無価値になります。
「勝てば大儲け、負ければゼロ」という、投資的な性質が強いのが特徴です。
具体的なシチュエーションで理解するメリット・デメリット
安定した資産形成を目指すなら「RSU」が有利。一獲千金を狙うスタートアップ初期なら「ストックオプション」が魅力的。企業のステージによって価値が変わります。
それぞれの制度がどのような場面で光るのか、具体的なシチュエーションで見ていきましょう。
GoogleやAmazonなど「成熟した企業」の場合
すでに株価が高く、急激な数倍の上昇が見込みにくい大企業(Big Techなど)では、「RSU」が主流です。
株価が安定して推移、あるいは緩やかに上昇する場合、無償でもらえるRSUは確実に資産を増やしてくれます。
「入社時に4年分で2,000万円分のRSUを付与」といったオファーがあれば、それは実質的に年収の一部として計算できます。
創業間もない「スタートアップ企業」の場合
これから上場(IPO)を目指すような企業では、「ストックオプション」が強力な武器になります。
現在の株価が数十円、数百円だとしても、上場時に数千円、数万円になる可能性があるからです。
この「夢(アップサイド)」を共有し、社員一丸となって株価を上げようというモチベーションには、ストックオプションが最適です。
逆に、スタートアップでRSUを出しても、今の株価が低すぎて魅力的な金額に見えないことが多いのです。
【応用編】似ている言葉「RS(譲渡制限付株式)」との違いは?
「RS(Restricted Stock)」は株を“最初”にもらえますが、一定期間売れない制限がかかります。「RSU」は条件達成“後”に株がもらえます。日本企業ではRS、外資系ではRSUが一般的でしたが、法改正により日本でもRSUの導入が進んでいます。
「RSU」とよく似た言葉に「RS(Restricted Stock)」があります。
これも押さえておくと、日本企業の役員報酬などのニュースがより深く理解できますよ。
「RS(譲渡制限付株式)」は、RSUの「U(Unit)」がない形です。
最大の違いは、「いつ株が手元に来るか」です。
- RS(事前交付型):入社時や付与時にいきなり「株」を渡されます。ただし、「3年は売っちゃダメ」という制限(譲渡制限)がかかっています。議決権や配当金がすぐにもらえるのがメリットです。
- RSU(事後交付型):最初は「権利(ポイントのようなもの)」だけ渡され、3年経ったら初めて「株」が交付されます。
これまでは日本の会社法の手続き上、RS(事前交付)の方が導入しやすかったのですが、最近の法改正や規制緩和により、RSU(事後交付)を導入する日本企業も増えてきています(メルカリや楽天など)。
「RSU」と「ストックオプション」の税金の違いを解説
RSUは株をもらった時点で「給与所得」として最大約55%の課税対象になります。一方、税制適格ストックオプションは、株を売った時まで課税が繰り延べられ、税率も約20%で済むという大きな税制メリットがあります。
ビジネスパーソンにとって避けて通れないのが「税金」の話です。
ここでも両者には大きな違いがあります。
RSUの税金:給与としてガッツリ引かれる
RSUは、条件を満たして株式が交付された時点(Vesting)で、その時の株価分の利益を得たとみなされ、「給与所得」として課税されます。
給与所得は累進課税なので、年収が高い人は所得税・住民税合わせて最大約55%もの税金がかかる可能性があります。
「株は手に入ったけど、現金がないから納税できない!」とならないよう、交付時に自動的に一部の株を売却して納税に充てる仕組み(Sell-to-Cover)を採用している企業も多いです。
ストックオプションの税金:条件次第で天国と地獄
ストックオプションには「税制適格」と「税制非適格」の2種類があります。
- 税制適格SO:一定の厳しい条件(行使価格や期間など)を満たすと、権利行使時には課税されず、株を売却した時にだけ「譲渡所得(約20%)」として課税されます。税率が低く、非常に有利です。
- 税制非適格SO:条件を満たさない場合、権利行使した時点(株を買った時点)で含み益が「給与所得」として課税されます。株を売って現金化していないのに税金を払う必要があり、キャッシュフローが厳しくなることがあります。
詳しくは国税庁のウェブサイトなどでストックオプション税制の要件を確認することをお勧めします。
(「紙切れ」になったストックオプションと、救いになったRSUの記憶)
僕がかつて、上場を目指すITベンチャーに転職した時のことです。
オファーレターには「ストックオプション付与」の文字。「これで上場したら億り人かも…」と胸を躍らせました。
入社後、会社は順調に成長しているように見えましたが、市場環境の変化で上場は延期に次ぐ延期。
結局、会社は他社に買収されることになり、僕が持っていたストックオプションの行使価格よりも低い価格で株価が算定されました。
つまり、僕のストックオプションは価値ゼロ、ただの紙切れになってしまったのです。
「あの時の残業代代わりの夢はなんだったんだ…」と落ち込みました。
その後、外資系の大手テック企業に転職しました。そこで提示されたのは「RSU」。
正直、前のトラウマがあって「株なんてどうせ…」と思っていました。
しかし、入社して1年後、最初のRSUが確定(Vesting)し、証券口座に実際の株式が入庫されました。
当時の株価は入社時より少し下がっていましたが、それでも数百万円相当の価値がありました。
「下がってもゼロにはならない。確実に資産になる」
その安心感と、ボーナスとして受け取った時の喜びは格別でした。
一獲千金の夢を見るならストックオプション、堅実な資産形成ならRSU。
身をもってその違いを痛感した経験でした。
「RSU」と「ストックオプション」に関するよくある質問
RSUをもらったら確定申告は必要ですか?
はい、原則必要です。日本居住者が海外企業からRSUを受け取った場合、それは日本国内での給与所得とみなされますが、源泉徴収されていないケースが多いため、自分で確定申告をして納税する必要があります。
転職する時、まだ確定していないRSUはどうなりますか?
基本的には権利放棄となり、消滅します。ただし、転職先の企業が、放棄することになるRSU相当額を「サインオンボーナス(入社一時金)」や自社のRSUで補填(Buyout)してくれるケースもありますので、交渉の余地はあります。
ストックオプションは退職後も使えますか?
一般的には、退職すると権利が消滅する契約になっていることが多いです。ただし、上場後の一定期間内であれば行使可能など、契約内容によって異なりますので、付与契約書をよく確認する必要があります。
「RSU」と「ストックオプション」の違いのまとめ
「RSU」と「ストックオプション」の違い、スッキリご理解いただけたでしょうか。
最後に、この記事のポイントをまとめておきますね。
- 基本は「現物」か「権利」か:RSUは株そのもの、ストックオプションは買う権利。
- リスクの違い:RSUは価値が残るが、ストックオプションは価値ゼロのリスクがある。
- 税金の違い:RSUは給与課税、適格ストックオプションは売却時の譲渡課税(約20%)が基本。
言葉の背景にある仕組みを理解すると、提示された年収パッケージの本当の価値が見えてきます。
これからは「株をもらえる」という言葉だけで判断せず、「それはRSUですか? SOですか?」と確認し、自分のキャリアプランに合った選択ができるはずです。
さらに詳しいビジネス用語の使い分けについては、ビジネス用語の違いまとめの記事もぜひ参考にしてみてください。