「指示」と「命令」、どちらも部下に動いてもらうための言葉ですが、この二つの違いを明確に説明できますか?
結論から言うと、やり方や方向性を指し示すのが「指示」、服従を前提として強制するのが「命令」です。
この記事を読めば、部下への適切な伝え方がわかり、チームの信頼関係を損なわずに業務をスムーズに進められるようになります。
それでは、まず最も重要な違いから詳しく見ていきましょう。
結論:一覧表でわかる「指示」と「命令」の最も重要な違い
「指示」は目的や方法を教え、相手に理解させて動かすこと。「命令」は上下関係に基づき、有無を言わさず強制的に動かすこと。決定的な違いは「相手の裁量(工夫の余地)」と「強制力の強さ」にあります。
まずは、結論からお伝えしますね。
この二つの言葉の最も重要な違いを、以下の表にまとめました。
これさえ押さえれば、ビジネスシーンでの使い分けはバッチリです。
| 項目 | 指示 | 命令 |
|---|---|---|
| 中心的な意味 | 物事のやり方や方向を指し示すこと | 上位者が下位者に強制的に言いつけること |
| 強制力 | 中〜強(業務上の必要性に基づく) | 最強(絶対的な服従を求める) |
| 受け手の裁量 | ある程度あり(工夫や質問の余地がある) | なし(言われた通りに実行するのみ) |
| 使われる場面 | 日常業務、手順の説明、方針の伝達 | 緊急事態、法令遵守、人事異動(辞令) |
一番大切なポイントは、「指示」は相手の理解と自律的な行動を促す側面があるのに対し、「命令」は相手の意思に関わらず従わせる側面が強いという点です。
日常業務で「命令」を多用すると、部下は「やらされ仕事」と感じてモチベーションが下がってしまうでしょう。
なぜ違う?漢字の成り立ち(語源)からイメージを掴む
「指示」の「指」は指さすこと、「示」は見せること。「あちらへ進め」と方向を見せるイメージです。「命令」の「命」は言いつけ、「令」は掟や決まり。絶対的なルールとして課すイメージです。
なぜこの二つの言葉にニュアンスの違いが生まれるのか、漢字の意味を紐解くと、その理由がよくわかりますよ。
「指示」の成り立ち:指さして見せる
「指示」は、「指(ゆび)さす」に「示(しめ)す」と書きます。
これは、「あちらに進むべきだ」「こうすると良い」と、進むべき方向や方法を指し示して見せるというイメージです。
あくまで「方向性」を示しているので、そこに向かってどう足を動かすかには、相手の意志や判断が入る余地が残されています。
「命令」の成り立ち:口で言いつけ、律する
一方、「命令」の「命(めい)」は、「口(くち)」で「令(いいつけ)」をすることから来ており、天命や運命のように「逆らえないもの」という意味を含みます。
「令」もまた、法令や律令のように「守るべき決まり」を意味します。
つまり、上位の存在が下位の者に対して、絶対的な決まりとして行動を課すという、非常に強い拘束力を持った言葉なのです。
具体的な例文で使い方をマスターする
日常的な業務連絡や作業手順の説明には「指示」を使います。一方、転勤の辞令や、規律違反に対する処分、緊急時の避難などは「命令」を使います。
言葉の違いは、具体的な例文で確認するのが一番ですよね。
シーン別の使い分けと、間違いやすいポイントを見ていきましょう。
日常業務での使い分け(指示)
普段の仕事では、ほとんどが「指示」の範疇です。
【OK例文:指示】
- 部長から、来期の予算案を作成するよう指示があった。
- 新人に業務の手順を指示する。
- 的確な指示のおかげで、プロジェクトがスムーズに進んだ。
ここでは、「どう動くべきか」というガイドラインが示されています。
ここぞという場面での使い分け(命令)
「命令」は、強い強制力が必要な場面や、法的な手続きに関わる場面で使われます。
【OK例文:命令】
- 本社への転勤を命令する。(人事異動などの辞令)
- 直ちに業務を停止し、退避するよう命令が出た。(緊急事態)
- 就業規則違反により、自宅待機を命令する。(懲戒・処分)
ここでは、個人の意思による拒否は基本的に許されません。
これはNG!パワハラになりかねない使い方
日常業務で「命令」という言葉を使うと、威圧感を与えてしまいます。
- 【NG】上司として、君に残業を命令する。(威圧的)
- 【OK】業務の状況を鑑みて、残業を指示する。(業務上の必要性)
「業務命令」という言葉はありますが、口頭で「これは命令だ!」と言うのは、現代のマネジメントにおいてはリスクが高い表現と言えるでしょう。
【応用編】似ている言葉「依頼」との違いは?
「依頼」は相手にお願いすること。決定的な違いは「拒否権の有無」です。「指示・命令」は業務上の義務として従う必要がありますが、「依頼」は相手の都合や意思によって断ることが可能です。
「指示」「命令」ともう一つ、ビジネスでよく使うのが「依頼」です。
この三つの関係性は、強制力のグラデーションで理解すると分かりやすいですよ。
- 命令:強制力【強】。拒否権なし。絶対的な服従。
- 指示:強制力【中】。業務上の指揮命令権に基づくが、方法などの相談の余地はある。
- 依頼:強制力【弱】。相手の意思を尊重する。「お願い」のスタンス。
「資料を作っておいて」と頼むとき、それが業務上必須のタスクなら「指示」、手が空いていたら手伝ってほしいレベルなら「依頼」となります。
上司と部下の関係であっても、専門的なスキルを持つ部下に「これをお願いできないか?」と頼む場合は、形式上は「依頼」の形をとることで、相手のモチベーションを高めることができます。
「指示」と「命令」の違いを組織論・法律の視点から解説
法律(労働契約法)では、使用者は労働者に労務を提供させるために「指揮命令権」を持ちます。この権利を行使する具体的な行為が「業務命令」や「指示」です。実務上は、具体性と強制力の度合いで使い分けられます。
専門的な視点から見ると、この二つは「指揮命令権」という一つの権利の中に内包されています。
業務命令権の法的根拠
労働者は会社と労働契約を結ぶことで、「使用者の指揮命令に従って労働する義務」を負います。
これを根拠に、上司は部下に対して業務上の「指示」や「命令」を出すことができます。
判例などでは、正当な理由なく業務命令(指示を含む)に従わない場合、懲戒処分の対象となることがあります。
マネジメントにおける機能の違い
組織論の観点では、以下のように機能を分けることができます。
- 命令:組織の秩序を維持し、統制するための機能(コンプライアンス、人事権など)。
- 指示:業務の目標を達成するために、リソースを配分し導く機能(ティーチング、コーチングなど)。
「命令」ばかりの組織は硬直化し、「指示」が曖昧な組織は混乱します。
優れたリーダーは、ベースとして明確な「指示」を出しつつ、規律が必要な場面でのみ「命令」権限を行使するというバランスを取っています。
僕が「命令」口調でチームを凍り付かせた失敗談
僕が初めてチームリーダーを任された時の話です。
納期が迫り、チーム全体がピリピリしていました。僕は責任感から「絶対に間に合わせなければ」と焦り、メンバーに対して強い言葉を使うようになっていました。
「A君、この資料を今日中に仕上げて。これは業務命令だからね!」
僕は「命令」と言えば、相手が危機感を持って動いてくれると勘違いしていたんです。
しかし、結果は逆でした。現場の空気は一瞬で凍り付き、メンバーの表情からは生気が消えました。
後日、信頼している先輩からこう諭されました。
「『命令』なんて言葉を使わなきゃ人が動かないのは、リーダーとしての信頼がない証拠だよ。彼らは機械じゃない。なぜやる必要があるのか、方向性を『指示』して、納得してもらうのが君の仕事だろう?」
ガツンと頭を殴られたような衝撃でした。
「言葉一つで、チームの信頼関係は簡単に壊れてしまう」ということを痛感した出来事です。
それ以来、僕は「命令」という言葉を封印し、「目的」と「方向性」を伝える丁寧な「指示」を心がけるようになりました。不思議なことに、その方がチームのパフォーマンスはずっと上がったのです。
「指示」と「命令」に関するよくある質問
上司からの「お願い」は断ってもいいですか?
形式が「お願い(依頼)」であっても、実質的に業務遂行上必要なことであれば、それは「指示」の一種とみなされます。正当な理由(体調不良や他の優先業務など)がない限り、断ると業務放棄と捉えられるリスクがあります。「今は手が離せませんが、午後からでも良いですか?」のように、条件交渉をするのが賢明です。
「指示待ち人間」にならないためには?
「指示」は方向性を示すものだと理解し、その先の「具体的な方法」や「プラスアルファ」を自分で考える癖をつけることです。指示されたことの背景や目的(Why)を理解し、手段(How)を自ら提案できるようになれば、指示待ちから脱却できます。
業務命令に従わないとどうなりますか?
業務上の必要性があり、法令違反などの不当な内容でない限り、正当な業務命令に従わないことは就業規則違反(業務命令違反)となります。程度によっては、譴責、減給、最悪の場合は解雇などの懲戒処分の対象となる可能性があります。
「指示」と「命令」の違いのまとめ
「指示」と「命令」の違い、スッキリご理解いただけたでしょうか。
最後に、この記事のポイントをまとめておきますね。
- 基本は強制力の違い:「指示」は方向性を示し、「命令」は服従を強いる。
- 漢字のイメージ:「指示」は指さして見せる、「命令」は口で言いつけ律する。
- 使い分けのコツ:日常業務は「指示」、緊急時や辞令は「命令」。
- マネジメントの視点:「命令」に頼らず、的確な「指示」で人を動かすのが良きリーダー。
言葉の背景にあるニュアンスや、相手に与える心理的な影響を理解すると、単なる業務連絡が、信頼関係を築くコミュニケーションへと変わります。
これからは自信を持って、場面にふさわしい言葉を選んでいきましょう。
さらに詳しいビジネス用語の使い分けについては、ビジネス用語の違いまとめの記事もぜひ参考にしてください。