「使用人」と「従業員」の違い!契約書や規定で見る正しい意味とは?

「使用人」と「従業員」、どちらも会社で働く人を指す言葉ですが、その響きや使われる場面には大きな違いがあることをご存じでしょうか?

実は、「使用人」は主に会社法などで使われる法律用語であり、「従業員」はビジネスの現場や統計などで一般的に使われる実務用語という、明確な使い分けが存在します。

この記事を読めば、契約書や就業規則で「使用人」という言葉を見ても戸惑うことなく、その法的な意味や背景をスッキリと理解できるようになります。

それでは、まず最も重要な違いから詳しく見ていきましょう。

結論:一覧表でわかる「使用人」と「従業員」の最も重要な違い

【要点】

基本的には法律上の正式名称が「使用人」、一般的な呼称が「従業員」です。指している対象(雇われている人)はほぼ同じですが、「使用人」には会社法上の権限(支配人など)に関する規定も含まれます。

まず、結論からお伝えしますね。

この二つの言葉の最も重要な違いを、以下の表にまとめました。

これさえ押さえれば、基本的な使い分けはバッチリです。

項目使用人従業員
使われる場面法律(会社法など)、定款日常会話、ビジネス実務、求人
意味使用者に雇用され、指揮命令下で働く人業務に従事する人(雇用されている人)
ニュアンス堅い、古風、法的、主従関係一般的、フラット、実務的
対象範囲一般社員、部長、支配人など正社員、契約社員、パートなど全般

一番大切なポイントは、「使用人」は法律の世界での正式な呼び名だということです。

一方で「従業員」は、法律用語としての厳密な定義はないものの、世間一般で最も広く使われている言葉ですね。

なぜ違う?漢字の成り立ち(語源)からイメージを掴む

【要点】

「使用人」は“使用者(雇い主)”に“使用される人”という主従関係を表します。一方、「従業員」は“業(業務)”に“従(従事)”する“員(人)”であり、仕事内容に焦点を当てた言葉です。

なぜこの二つの言葉に印象の違いが生まれるのか、漢字の成り立ちを紐解くとその理由がよくわかりますよ。

「使用人」の成り立ち:「使用」される立場

「使用人」は、文字通り「使用(つかう)」される「人」です。

ここでの「使用」は、法律用語としての「使用者(会社や経営者)」に対する言葉です。

明治時代などの古い法律用語では、雇用主と労働者の関係を「主人と奉公人」のように捉える側面がありました。

その名残で、雇い主(使用者)の指揮命令を受けて働く人という意味で「使用人」が使われています。

現代の感覚では「召使い」のようなニュアンスを感じるかもしれませんが、法律上はあくまで「雇用されている人」を指すドライな用語です。

「従業員」の成り立ち:「業」に「従事」する人

一方、「従業員」は、「業(業務・仕事)」に「従(従事・たずさわる)」する「員(メンバー)」です。

こちらは「誰に使われているか」よりも、「何の仕事をしているか」に焦点が当たっています。

組織の一員として業務を行っている人、という意味合いが強く、主従関係のニュアンスは「使用人」より薄れます。

そのため、現代のビジネスシーンでは、よりフラットで抵抗感の少ない「従業員」が好んで使われているのですね。

具体的な例文で使い方をマスターする

【要点】

定款や登記などの法的な文書では「使用人」、社内のお知らせや求人広告などでは「従業員」と使い分けるのが基本です。

言葉の違いは、具体的な例文で確認するのが一番ですよね。

ビジネスと日常、そして間違いやすいNG例を見ていきましょう。

ビジネスシーンでの使い分け

「法的な文書か」「一般的な伝達か」を意識すると、使い分けは簡単ですよ。

【OK例文:使用人】

  • 取締役会において、重要な使用人の選任を行った。(会社法上の用語)
  • 定款の規定により、使用人兼務役員として給与が支払われる。
  • 支配人は、会社法において広範な代理権を持つ使用人である。

【OK例文:従業員】

  • 現在、従業員を募集しています。(求人広告)
  • 従業員満足度調査を実施しました。(社内施策)
  • 従業員に向けた社長メッセージが配信された。

このように、法律や規定に関わる場合は「使用人」、それ以外は「従業員」が自然ですね。

日常会話での使い分け

日常会話でも、考え方は同じです。

【OK例文:使用人】

  • (大富豪の屋敷などで)彼はこの家の使用人として働いている。(※家事使用人の文脈)
  • 登記簿を見たら「支配人」って書いてあったけど、あれも使用人の一種なんだね。

【OK例文:従業員】

  • あの店の従業員はみんな元気だね。
  • うちは従業員が100人くらいの会社だよ。

これはNG!間違えやすい使い方

意味は通じることが多いですが、場違いな使い方を見てみましょう。

  • 【NG】(朝礼で)おはようございます。わが社の使用人の皆さん。
  • 【OK】(朝礼で)おはようございます。わが社の従業員の皆さん。

「使用人」は法律用語としては正しいですが、呼びかけとして使うと「こき使われている」ような印象を与えかねません。

現代の職場では「従業員」や「社員」「スタッフ」と呼ぶのがマナーです。

【応用編】似ている言葉「労働者」との違いは?

【要点】

「労働者」は労働基準法や労働組合法などで使われる言葉で、賃金を得るために労働力を提供する人を指します。「使用人」が会社法(組織論)の言葉であるのに対し、「労働者」は労働保護法(権利保護)の文脈で使われます。

「使用人」「従業員」と並んでよく聞くのが「労働者」です。

これも押さえておくと、法律のニュースがより深く理解できますよ。

「労働者」は、主に労働基準法などの「労働者を守る法律」で使われる用語です。

定義としては「職業の種類を問わず、事業所に使用され、賃金を支払われる者」となります。

ここでの対義語は「使用者(雇い主)」です。

「使用人」も「従業員」も、労働基準法の適用を受ける場面では「労働者」と呼ばれます。

・会社法(組織のルール)の話 → 使用人
・労働条件(残業や有給)の話 → 労働者
・普段の仕事の話 → 従業員

このように整理すると分かりやすいでしょう。

「使用人」と「従業員」の違いを学術的に解説

【要点】

会社法において「使用人」は、会社と雇用契約を結び、会社の業務に従事する者を指します。特に重要なのは「支配人」などの商業使用人で、彼らは会社に代わって事業を行う代理権を持ちます。「従業員」には法的定義はありませんが、会計用語(従業員給付など)や統計用語として定着しています。

法律の世界、特に会社法では「使用人」という言葉が頻繁に登場します。

ここでは単なる「雇われ人」以上の、重要な役割を持った使用人が定義されています。

1. 重要な使用人

会社法362条などに出てくる「重要な使用人」とは、執行役員や本部長、支店長など、事業運営上の重要な役割を担う人のことです。

彼らの選任や解任は、取締役会の決議事項となるほど重みがあります。

2. 商業使用人

商法や会社法では、会社の営業を補助する「商業使用人」について規定しています。

  • 支配人:営業所の業務に関して、裁判上・裁判外の包括的な代理権を持つ最強の使用人(支店長など)。登記もされます。
  • ある種類または特定の事項の委任を受けた使用人:部長や課長のように、特定の業務(人事、営業など)について権限を持つ使用人。
  • ある場所の業務に関する使用人:店舗の販売員などのように、その場所での業務に関わる権限を持つ使用人。

このように、「使用人」は会社の代理として契約を結んだりする権限とセットで語られることが多いのです。

詳しくは法務省の会社法関連ページなどで確認してみると、より深い法的構造が見えてきます。

(定款の「使用人」という言葉に、“メイドさん”を想像して赤面した話)

僕がまだ入社2年目だった頃、総務部のお手伝いで会社の「定款(ていかん)」を見直す作業をしていました。

定款というのは会社の憲法みたいなもので、難しい言葉がびっしり並んでいます。

その中に「使用人兼務役員」という言葉を見つけたんです。

当時の僕は「使用人」という言葉に、時代劇や洋画に出てくる「お屋敷の召使い」や「メイドさん」のようなイメージしか持っていませんでした。

「えっ、うちの会社、役員がメイドさんも兼ねてるの? お茶くみとか掃除もするってこと?」

真剣にそう思い込んで、先輩に質問してしまったんです。

「あの…この『使用人』って、役員の方が家政婦さんみたいな仕事もするって意味ですか?」

先輩はコーヒーを吹き出しそうになりながら、優しく教えてくれました。

「違うよ(笑)。これは『会社に雇われている人(社員)』という意味の法律用語なんだ。だから、『部長(社員の立場)を兼ねている取締役』ってことだよ」

顔から火が出るほど恥ずかしかったです。

「言葉のイメージだけで判断すると、とんでもない勘違いをする」

ビジネスや法律の世界では、日常用語とは違う「定義」があるんだと痛感した出来事でした。

それ以来、堅い文書で「使用人」という言葉を見ても、脳内でメイドさんに変換することはなくなりました(笑)。

「使用人」と「従業員」に関するよくある質問

役員は「使用人」に含まれますか?

基本的には含まれません。役員(取締役など)は会社と「委任契約」を結んでいる経営陣であり、「雇用契約」を結んでいる使用人とは区別されます。ただし、「使用人兼務役員」のように、役員でありながら部長などの使用人としての立場も併せ持つケースはあります。

「使用人」と「家事使用人」は違いますか?

はい、違います。「使用人」は会社などの事業に雇用される人を指しますが、「家事使用人(家政婦など)」は個人の家庭の指揮命令下で家事を行う人を指します。労働基準法の一部適用除外など、法的な扱いも異なります。

パートやアルバイトは「使用人」ですか?

はい、法律上の定義では、雇用契約を結んで働いている限り、パートやアルバイトも「使用人」に含まれます。もちろん「従業員」や「労働者」でもあります。

「使用人」と「従業員」の違いのまとめ

「使用人」と「従業員」の違い、スッキリご理解いただけたでしょうか。

最後に、この記事のポイントをまとめておきますね。

  1. 基本は分野で使い分け:法律(会社法)なら「使用人」、ビジネス実務なら「従業員」。
  2. 対象は同じ:どちらも「会社に雇用されて働く人」を指す。
  3. 権限の有無:「使用人」には支配人など、会社の代理権を持つ立場も含まれる。

言葉の背景にある「法律」と「実務」の違いを理解すると、契約書や社内規定を読む時の解像度がグッと上がります。

これからは「使用人」という言葉を見ても、古臭い言葉だと敬遠せず、「あ、法的な話をしているんだな」と冷静に受け止められるはずです。

さらに詳しいビジネス用語の使い分けについては、ビジネス用語の違いまとめの記事もぜひ参考にしてみてください。