「勧める」「薦める」「奨める」、どれも「すすめる」と読みますが、漢字をどう使い分けるべきか迷ったことはありませんか?
結論から言うと、相手に行動を促すなら「勧める」、人や物を推薦するなら「薦める」、励まして推奨するなら「奨める」を使います。
ただし、「奨める」は常用漢字表にない読み方であるため、公的な文書では「勧める」に書き換えられることが多い点には注意が必要です。
この記事を読めば、それぞれの漢字が持つ本来の意味やニュアンスの違い、ビジネスシーンでの適切な使い分けがスッキリと分かります。
それでは、まず最も重要な違いから詳しく見ていきましょう。
結論:一覧表でわかる「勧める」と「薦める」と「奨める」の最も重要な違い
基本的には、「勧める」は相手への働きかけ、「薦める」は対象の推薦、「奨める」は積極的な奨励と区別します。「奨める」は常用漢字外のため、迷ったら「勧める」が広く使われますが、推薦の意味では「薦める」が適切です。
まず、結論からお伝えしますね。
この3つの言葉の最も重要な違いを、以下の表にまとめました。
これさえ押さえれば、基本的な使い分けはバッチリです。
| 項目 | 勧める | 薦める | 奨める |
|---|---|---|---|
| 中心的な意味 | 相手に行動を促す | 人や物を推薦する | 励まして推奨する |
| 対象 | 行為・行動(入会、飲食など) | 人・物品(候補者、良書など) | 善行・習慣(貯蓄、勉学など) |
| ニュアンス | 「〜したほうがいいよ」と誘う | 「これがいいよ」と推す | 「頑張ってやろう」と励ます |
| 常用漢字 | ○(常用漢字) | ○(常用漢字) | ×(表外読み)※「奨」自体は常用 |
| 英語 | advise, invite | recommend | encourage |
一番大切なポイントは、「勧める」は相手の行動を促すとき、「薦める」は良いものを紹介するときに使うということです。
「奨める」は「奨励」の意味合いが強いですが、公用文などでは「勧める」で代用されることが一般的ですね。
なぜ違う?漢字の成り立ち(語源)からイメージを掴む
「勧」は力を添えて進ませる、「薦」は神に供え物を捧げる、「奨」は犬をけしかけて励ますという意味が語源です。それぞれの成り立ちを知ると、行動を促すのか、捧げて推すのか、励ますのかという違いが明確になります。
なぜこの3つの言葉にニュアンスの違いが生まれるのか、漢字の成り立ちを紐解くと、その理由がよくわかりますよ。
「勧める」の成り立ち:「力」を添えて進ませる
「勧」という漢字は、「雚(かん)」と「力(ちから)」が組み合わさってできています。
「雚」は鳥占いをする様子などを表し、そこに「力」が加わることで、相手に力を貸して、ある方向へ進ませるという意味になります。
つまり、「勧める」とは、相手に対して「こうしたほうがいいよ」と働きかけ、行動を促すイメージなんですね。
「勧誘」や「勧告」という熟語からも、相手に行動を求めるニュアンスが伝わります。
「薦める」の成り立ち:神前に供え物を「捧げる」
「薦」という漢字は、もともと「草(くさかんむり)」に「神獣(獬豸)」を組み合わせた形に関連し、神前に敷く草や、供え物を表していました。
そこから、大切なものを差し出す、捧げるという意味が生まれ、転じて「優れた人や物を推挙する」という意味になりました。
「推薦」という言葉があるように、「これが素晴らしいものです」と自信を持って紹介するイメージですね。
「奨める」の成り立ち:犬をけしかけて「励ます」
「奨」という漢字は、「将」と「大(または犬)」から成り立っています。
原義では「犬をけしかける」という意味があり、そこから転じて強く励ます、奮い立たせるという意味になりました。
「奨励」や「推奨」といった熟語に使われるように、ある物事を良いこととして積極的に行うよう励ますニュアンスが強い言葉です。
具体的な例文で使い方をマスターする
保険への加入など行動を促すなら「勧める」、美味しいお店や人材を紹介するなら「薦める」、貯蓄や運動など良い習慣を促すなら「奨める」を使います。状況に応じた具体的な例文で感覚を掴みましょう。
言葉の違いは、具体的な例文で確認するのが一番ですよね。
ビジネスと日常、そして間違いやすいNG例を見ていきましょう。
「勧める」の例文(行動を促す)
相手に何らかの行為をするように誘う場合に使います。
- 営業担当者が、お客様に新プランへの加入を勧める。
- 風邪気味の同僚に、早退して休むように勧めた。
- 店員に勧められるまま、試着してみることにした。
- 読書を勧める。(※「読書という行為」を促す場合)
「薦める」の例文(推薦する)
人や物が優れていることを伝えて、採用や利用を促す場合に使います。
- 次のプロジェクトリーダーに、彼を薦める。
- 恩師が薦めてくれた本は、私の人生を変えた。
- このレストランは、自信を持って友人に薦められる。
- 会員登録を友達に薦める。(※「良いサービスだから」と紹介するニュアンス)
「奨める」の例文(奨励する)
将来のために良いことだとして、積極的に行うよう励ます場合に使います。
- 政府は、国民に資産形成としての投資を奨めている。
- 学校では、生徒たちにボランティア活動を奨める方針だ。
- 健康のために、毎日のウォーキングを奨める。
これはNG!間違えやすい使い方
意味は通じることが多いですが、厳密には適さない使い方を見てみましょう。
- 【NG】美味しいと評判のラーメン屋を同僚に勧める。
- 【OK】美味しいと評判のラーメン屋を同僚に薦める。
「美味しいお店」という「特定の対象」を「良いもの」として紹介しているので、「推薦」の意味を持つ「薦める」が最も適切です。
「勧める」でも「行くという行為を促す」という意味では間違いではありませんが、「これがおすすめ!」というニュアンスを出すなら「薦める」でしょう。
- 【NG】入会をしつこく薦める。
- 【OK】入会をしつこく勧める。
「入会」という「行動」を相手に求めている場合は、「勧誘」の意味合いが強いため「勧める」を使います。
【応用編】似ている言葉「進める」との違いは?
「進める」は、物事を前へ動かす、進行させるという意味です。「すすめる」という読みは同じですが、他者に働きかける「勧・薦・奨」とは異なり、対象となる物事自体を変化・進行させる点に決定的な違いがあります。
「勧める」「薦める」「奨める」と発音が同じで、最も基本的な言葉に「進める」があります。
これも混同しやすいので、違いを明確にしておきましょう。
「進める」は、物事を前へ移動させる、進行させる、ランクを上げるという意味です。
他者に対して「〜したほうがいい」と働きかける「勧・薦・奨」とは異なり、「進める」は対象そのものを動かすイメージですね。
- 会議を進める。(進行させる)
- 時計の針を進める。(前へ動かす)
- 計画を予定通りに進める。(捗らせる)
「交渉をすすめる」という場合、「交渉を行うように相手に促す」なら「勧める」ですが、「交渉のプロセスを進行させる」なら「進める」になります。
文脈によって漢字が全く変わるので、注意が必要ですね。
「勧める」と「薦める」と「奨める」の違いを学術的に解説
文化庁の常用漢字表では、「勧」と「薦」は「すすめる」の訓読みが認められていますが、「奨」には認められていません。公用文では「奨める」は使わず、「勧める」で統一するか、文脈に応じて「推奨する」などの熟語に言い換えるのが原則です。
ここでは、もう少し踏み込んで、公的な基準や辞書の定義から違いを解説します。
まず、文化庁が告示している「常用漢字表」を確認してみましょう。
- 勧:音読み「カン」、訓読み「すすめる」
- 薦:音読み「セン」、訓読み「すすめる」
- 奨:音読み「ショウ」、訓読み「(なし)」
実は、「奨める」という読み方は、常用漢字表には記載されていない「表外読み」なのです。
そのため、公用文(法律や役所の文書)や新聞、教科書などでは、原則として「奨める」とひらがなで書くか、「勧める」で代用する、あるいは「奨励する」などの熟語に書き換えることになっています。
辞書的な定義(『広辞苑』など)を見ても、以下のように整理されています。
- 勧める:人がそのことを行うように誘いかける。勧誘する。(例:お茶を勧める、入会を勧める)
- 薦める:ある人や物を採用するように説く。推薦する。(例:良書を薦める、後任に薦める)
- 奨める:そうすることが良いことであるとして、励まして行わせる。(例:倹約を奨める)
「勧める」が最も広い意味を持ち、他の2つの代用として使われることも多いです。
一方で、「薦める」は「推薦」、「奨める」は「奨励」という熟語の意味に特化していると考えると、整理しやすいでしょう。
詳しくは文化庁の国語施策情報なども参考にしてみてください。
僕が「すすめる」の漢字選びで冷や汗をかいた体験談
僕も新人時代、この「すすめる」の使い分けで冷や汗をかいた経験があります。
入社して間もない頃、尊敬する上司との雑談で、あるビジネス書の話になりました。
その本は僕が学生時代に読んで感銘を受けたもので、上司も興味を持ってくれたので、「後で詳細をメールしますね」と伝えました。
自席に戻り、意気揚々とメールを作成しました。
「先ほどお話しした本ですが、本当に素晴らしいので、ぜひ〇〇部長にも勧めたい一冊です」
送信ボタンを押した直後、ふと違和感を覚えました。
「あれ? 目上の人に『勧める』って、なんだか『やったほうがいいですよ』と上から目線で指図しているみたいじゃないか…?」
慌てて辞書を引くと、案の定、「勧める」は「行動を促す」という意味合いが強い。
良いものを紹介する場合は「薦める」が適切だと気づきました。さらに言えば、目上の人に対しては「お薦めします」よりも、「ご紹介します」や「ご案内します」といった表現の方が角が立たないことも学びました。
幸い、上司は細かいことを気にするタイプではなく、「教えてくれてありがとう、読んでみるよ」と返信をくれましたが、自分の無知さが恥ずかしくて顔から火が出る思いでした。
この経験から、「たかが漢字、されど漢字」と痛感し、相手や状況に合わせて言葉を慎重に選ぶようになりました。
特に「すすめる」のような同訓異字は、変換キーを叩く前に一瞬立ち止まって考えるクセがつきましたね。
「勧める」と「薦める」と「奨める」に関するよくある質問
迷ったら最も一般的な「勧める」を使えば間違いありません。「お勧め」と「お薦め」の使い分けも、行為を促すか物品を推すかで判断します。食事の場合は、食べる行為なら「勧」、メニューとしての推薦なら「薦」ですが、混同されやすい表現です。
迷ったときはどれを使えばいいですか?
迷った場合は、「勧める」を使っておけば間違いありません。「勧める」は「推奨する」という意味も含んで広く使われるため、最も汎用性が高い漢字です。公用文でも「奨める」の代わりに「勧める」が使われます。
「お勧め」と「お薦め」の違いは何ですか?
基本的には動詞と同じです。「(行為を)お勧めします」なら「勧」、「(物を)お薦めします」なら「薦」です。お店のPOPなどで「店長のおすすめ」とある場合、特定の商品をプッシュしているなら「お薦め」が適していますが、一般的には「お勧め」も広く使われています。迷ったらひらがなで「おすすめ」とするのも、親しみやすくて良い方法ですね。
食事を「すすめる」ときはどっちですか?
「もっと食べてください」と相手に食事という行為を促す場合は「勧める」です。一方で、「この料理が美味しいですよ」とメニューを推薦する場合は「薦める」になります。文脈によって使い分けが必要ですが、相手をもてなす場面では「勧める」が使われることが多いでしょう。
「勧める」と「薦める」と「奨める」の違いのまとめ
「勧める」と「薦める」と「奨める」の違い、スッキリご理解いただけたでしょうか。
最後に、この記事のポイントをまとめておきますね。
- 行動か推薦か:相手に行動を促すなら「勧める」、人や物をイチオシするなら「薦める」。
- 常用漢字の壁:「奨める」は励ます意味だが、常用漢字外なので公的な場では「勧める」で代用。
- 迷ったら「勧める」:最も意味範囲が広く、無難な選択肢。
- 漢字のイメージ:「力」を添える勧、「草」を捧げる薦、「犬」をけしかける奨。
言葉の背景にある漢字の成り立ちをイメージすると、機械的な暗記ではなく、感覚的に使い分けられるようになりますね。
ビジネスメールや日常の会話で、これらの違いを意識することで、より正確で知的なコミュニケーションができるはずです。
これからは自信を持って、的確な「すすめる」を選んでいきましょう。
言葉の使い分けについてさらに知りたい方は、漢字の使い分けの違いまとめの記事もぜひご覧ください。
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