「所定外」と「法定外」の違いは、基準が「会社が決めたルール(就業規則)」にあるか、「法律が決めたルール(労働基準法)」にあるかという点にあります。
なぜなら、所定外は会社が定めた時間を超えただけの状態を指すのに対し、法定外は法律で許された上限を超えた違法性(免除条件あり)を伴う状態を指すから。
この記事を読めば、残業代の計算で損をしないための知識や、36協定が必要になる境界線について自信を持って理解できるようになります。
それでは、まず両者の決定的な違いから詳しく見ていきましょう。
結論:一覧表でわかる「所定外」と「法定外」の最も重要な違い
「所定外」は会社が決めた時間を超えることであり、「法定外」は法律の上限(1日8時間・週40時間)を超えることです。割増賃金(1.25倍以上)が発生するのは原則として「法定外」のみです。
まず、結論からお伝えしますね。
ビジネスや労務管理の現場で混同されがちなこの二つですが、給与計算においては天と地ほどの差があります。
最も重要な違いを以下の表にまとめましたので、まずはここを押さえておきましょう。
| 項目 | 所定外(所定時間外) | 法定外(法定時間外) |
|---|---|---|
| 基準となるルール | 就業規則・雇用契約(会社独自) | 労働基準法(国の法律) |
| 時間の目安 | 会社が決めた定時(例:7時間)を超えた分 | 1日8時間・週40時間を超えた分 |
| 割増賃金(残業代) | 原則1.0倍(割増なし)でも違法ではない ※就業規則による | 必ず1.25倍以上の支払い義務あり |
| 36協定の必要性 | 法定内であれば不要 | 必須(ないと違法になる) |
| 休日労働の場合 | 法定休日以外の休日(土曜など)への出勤 | 法定休日(週1回など)への出勤 ※割増率1.35倍 |
簡単に言えば、所定外は「会社との約束を破った(延長した)時間」、法定外は「法律の制限を突破した時間」です。
特に残業代において、法定外になれば必ず割増(×1.25)がつきますが、所定外であっても法定内であれば割増がつかない(×1.0)ケースがある点が最大のポイントです。
なぜ違う?言葉の成り立ち(定義)からイメージを掴む
「所定」は“会社が定めた所(ところ)”、「法定」は“法が定めた(ライン)”とイメージすると分かりやすいです。所定の枠は法定の枠よりも内側に設定されるのが一般的です。
言葉の定義をしっかりイメージできると、複雑な残業計算も怖くありませんよ。
「所定」のイメージ:会社が決めた「ここからここまで」
「所定(しょてい)」とは、「決まったところ」という意味です。
ビジネスでは会社と社員の間で取り決めた契約上の枠組みを指します。
例えば、「うちは9時から17時まで(休憩1時間)の7時間労働ですよ」と決めたなら、それが「所定労働時間」です。
「所定外」とは、この会社独自の枠をはみ出した部分すべてを指します。
「法定」のイメージ:法律が引いた「絶対的なデッドライン」
一方、「法定(ほうてい)」は文字通り「法律(労働基準法)で定められた」という意味です。
国は「働く時間は原則として1日8時間、週40時間まで」という絶対的な上限ラインを引いています。
「法定外」とは、この国の引いたラインを超えて働いた部分を指します。
このラインを超えると、「体に負担がかかるから、ペナルティとして高い給料(割増賃金)を払いなさい」という法律の命令が発動するイメージですね。
具体的な例文で使い方をマスターする
「所定外」は定時後の居残り全般を指す際に使い、「法定外」は労基法の上限を超えて割増賃金が発生する残業を指す際に使います。
日常業務でどちらの言葉を使うべきか、具体的なシーンを見ていきましょう。
ここを区別できると、「残業代が合わない!」といったトラブルを未然に防げますよ。
ビジネスシーンでの使い分け
【OK例文:所定外】
- 今日の業務は所定の時間を過ぎてしまったが、まだ法定労働時間内(8時間以内)だ。
- 所定外労働時間が増えてきたので、業務フローを見直そう。
- 土曜日は会社の所定休日だが、法定休日ではないため割増率は異なる。
【OK例文:法定外】
- 昨日は3時間の残業をしたので、2時間分は法定外労働として割増賃金がつく。
- 36協定を締結していないと、法定外労働をさせることはできない。
- 法定外休日(日曜など)に出勤した場合は、35%増しの賃金になる。
これはNG!間違えやすい使い方
- 【NG】定時を過ぎたから、これからは全部法定外残業だね。
- 【OK】定時を過ぎたから、これからは所定外残業だね。
もし定時までの実働が7時間だった場合、定時を過ぎても最初の1時間は「法的にはセーフ(法定内)」です。いきなり法定外になるわけではありません。
- 【NG】うちは所定休日が週1日しかないから、法律違反だ。
- 【OK】うちは所定休日が週1日しかないが、法定休日の要件(週1日)は満たしている。
法律が求めているのは「法定休日(週1日または4週4日)」の確保です。会社独自の所定休日が少なくても、法定休日さえ確保されていれば違法ではありません。
【応用編】似ている言葉「法定内残業」との違いは?
「法定内残業」は“所定外かつ法定内”の魔の1時間を指します。ここは残業代が1.25倍ではなく、1.0倍(通常時給)でも法律上問題ないエリアです。
ここが一番の混乱ポイントであり、最も重要な「応用編」です。
「所定外」の中には、実は2種類の残業が混ざっています。
それが「法定内残業」と「法定外残業」です。
例えば、所定労働時間が「7時間」の会社で、9時間働いたとしましょう。
- 定時(7時間)まで:通常の労働。
- 7時間〜8時間まで(1時間):ここは定時を過ぎていますが、法律の壁(8時間)は越えていません。これが「法定内残業」です。原則、割増なしの時給(1.0倍)でOKです。
- 8時間〜9時間まで(1時間):ここで初めて法律の壁を越えます。これが「法定外残業」です。ここから割増時給(1.25倍)になります。
多くの人が「残業=全部1.25倍」と思い込んでいますが、実はこの「法定内残業」の存在により、最初の1時間は割増がつかないケースがあるのです。
「所定外」と「法定外」の違いを労働法の視点から解説
労働基準法第32条が「法定労働時間(1日8時間)」を、第37条が「割増賃金」を規定しています。36協定が必要なのは、この「法定」のラインを超える場合のみです。
法律の専門的な視点から整理すると、企業の義務がより明確になります。
まず、労働基準法第32条では「使用者は、労働者に、休憩時間を除き1週間について40時間を超えて、労働させてはならない」と定めています。
これが法定労働時間です。
このラインを超える(法定外)場合にのみ、企業は以下の義務を負います。
- 36協定(サブロク協定)の締結・届出:これをせずに法定外残業をさせると違法(労基法違反)になります。
- 割増賃金の支払い:通常の賃金の2割5分以上(1.25倍以上)を支払う義務があります。
一方で、会社が独自に決めた「所定労働時間」を超えるだけの「所定外(ただし法定内)」であれば、法律上は36協定も割増賃金も強制されません。
ただし、多くの企業では就業規則により、所定外であっても一律で割増賃金を支払うルールにしている場合も多いです。自分の会社の就業規則を確認することが大切ですね。
僕が「所定外」を甘く見て残業代計算を間違えた体験談
これは僕が小さな会社の労務担当を任されたばかりの頃の失敗談です。
当時、うちの会社は9:00〜17:00(休憩1時間)の「実働7時間」勤務でした。
ある月、社員のAさんが毎日1時間ずつ残業をして、18:00に帰っていました。
僕は「残業時間は全部で20時間か。大変だったな」と思い、全ての時間に「×1.25」をして残業代を計算し、給与明細を作りました。
ところが、それを見た社長(元社労士事務所勤務)から呼び出されたんです。
「おい、この計算、間違ってるぞ。うちは所定7時間だから、最初の1時間は法定内残業だ。就業規則でもそこは1.0倍と決めてあるだろう?」
頭が真っ白になりました。
僕は「残業=割増」という思い込みで、会社のルール(所定)と法律のルール(法定)をごちゃ混ぜにしていたんです。
Aさんの残業はすべて「所定外」でしたが、法律の壁(8時間)は一度も超えていなかったので、すべて「法定内」扱いだったのです。
結果として、Aさんに支払うはずだった残業代を25%分も多く計算してしまっていました(もちろん、社長の温情でその月はそのまま支給されましたが…)。
この経験から、「定時を過ぎたからといって、すぐに『割増』になるわけではない」という法定内残業の怖さを身をもって学びました。
「所定外」と「法定外」に関するよくある質問
法定休日と所定休日の違いは何ですか?
法定休日は法律で義務付けられた「最低限の休日(週1回など)」で、ここに働くと1.35倍の割増賃金が必要です。所定休日は会社が独自に上乗せした休日(土曜など)で、ここに働いても週40時間を超えなければ割増は不要(1.0倍)、超えれば時間外労働として1.25倍になります。
残業代が1.25倍になるのはいつからですか?
「実働8時間」を超えた時点からです。所定労働時間が8時間の会社なら、定時後すぐ1.25倍になります。所定が7時間の会社なら、定時後1時間は1.0倍(法定内残業)、その後の1時間が1.25倍(法定外残業)となります。ただし、会社の就業規則で「所定外はすべて1.25倍」と定めている場合は、最初から割増になります。
36協定は所定外労働でも必要ですか?
いいえ、必ずしも必要ではありません。36協定が必要になるのは「法定労働時間(1日8時間・週40時間)」を超える場合のみです。所定外であっても法定内に収まっている限り、法的には36協定なしで残業を命じることが可能です(ただし、トラブル防止のため就業規則への記載は必要です)。
「所定外」と「法定外」の違いのまとめ
「所定外」と「法定外」の違い、スッキリご理解いただけたでしょうか。
最後に、この記事のポイントをまとめておきますね。
- 所定外は「会社の枠外」:就業規則の時間を超えたもの。割増があるとは限らない。
- 法定外は「法律の枠外」:1日8時間・週40時間を超えたもの。必ず割増(1.25倍)が必要。
- 法定内残業の存在:所定7時間の会社なら、プラス1時間は「所定外だが法定内」。
- 休日の扱い:法定休日は1.35倍、所定休日は時間外扱いで1.25倍(または1.0倍)。
言葉の定義を正しく理解することは、自分の給与を守るため、あるいは会社のリスクを管理するために不可欠なスキルです。
今、自分がしている残業は「法定内」なのか「法定外」なのか。
この境界線が見えるようになれば、働き方や給与明細の見方もガラリと変わるはずです。
さらに詳しいビジネス用語の違いについては、ビジネス用語の違いまとめもぜひ参考にしてくださいね。