「退職金」と「退職手当」の違い!法律上の定義と使い分けを解説

「退職金」と「退職手当」、どちらも会社を辞める際に受け取るお金を指す言葉ですが、実は法的な定義や使われる組織(民間か公的か)によって明確な使い分けが存在します。

一般的には「退職金」が馴染み深いですが、法律や公務員の世界では「退職手当」が正式名称として使われることが多いのです。

この記事を読めば、それぞれの言葉が持つニュアンスの違いから、履歴書や就業規則での正しい使い分け、さらには税制上の扱いまでスッキリと理解でき、もう迷うことはありません。

それでは、まず一覧表で全体像から詳しく見ていきましょう。

結論:一覧表でわかる「退職金」と「退職手当」の最も重要な違い

【要点】

実質的な意味(退職時に支払われる金銭)は同じです。一般企業や日常会話では「退職金」、法律用語や公務員規定では「退職手当」と呼ぶのが基本です。

まず、結論からお伝えしますね。

この二つの言葉の最も重要な違いを、以下の表にまとめました。

これさえ押さえれば、基本的な使い分けはバッチリです。

項目退職金退職手当
中心的な意味退職時に支払われる賃金(一時金)退職時に支払われる賃金(一時金)
主な使用シーン民間企業、日常会話公務員、法令、税務
ニュアンス会社からの功労金的意味合いが強い労働対価としての給与的意味合いが強い
税法上の分類退職所得(退職手当等に含まれる)退職所得(正式名称として使用)

一番大切なポイントは、中身は同じお金でも「誰が」「どこで」使うかによって呼び名が変わるだけということですね。

一般的には「退職金」と言えば通じますが、公的な書類や法律の話をするときは「退職手当」という言葉が出てくる、と覚えておきましょう。

なぜ違う?漢字の成り立ち(語源)からイメージを掴む

【要点】

「金」は単なる金銭を指しますが、「手当」には労働への対価や特定の目的のために支給される金銭という意味が含まれます。このため、法的な権利性を強調する場合に「手当」が好まれます。

なぜこの二つの言葉に使い分けが生まれるのか、漢字の成り立ちを紐解くと、その背景が見えてきますよ。

「退職金」の成り立ち:「金」が表す“まとまったお金”のイメージ

「退職金」の「金」は、文字通り「おかね」ですよね。

「賞金」や「見舞金」のように、ある事柄に対して支払われるまとまった金銭を指す際に使われます。

つまり、退職という事実に伴って支払われる金銭そのものをシンプルに表している、と考えると分かりやすいですね。

「退職手当」の成り立ち:「手当」が表す“報酬の一部”のイメージ

一方、「手当」という言葉は、基本給とは別に支給される賃金(例:残業手当、家族手当)を指します。

これは、労働の対価や生活保障としての性格を強く持ちます。

公務員や法律の世界で「退職手当」が使われるのは、それが単なる「お祝い金」や「恩恵」ではなく、長年の勤務に対する「後払い賃金」としての権利性を持った報酬であるというニュアンスを含んでいるからです。

具体的な例文で使い方をマスターする

【要点】

民間企業の就業規則や日常会話では「退職金」、公務員の規定や税務署への申告では「退職手当」を使います。文脈に合わせて自然な方を選びましょう。

言葉の違いは、具体的な例文で確認するのが一番ですよね。

ビジネスシーンや公的な場面、そして間違いやすいNG例を見ていきましょう。

ビジネス・日常シーンでの使い分け

相手が民間企業か役所か、話題が一般的か法律的かを意識すると、使い分けは簡単ですよ。

【OK例文:退職金】

  • 当社の就業規則には、勤続3年以上で退職金が支給されると記載がある。
  • 転職先の企業は退職金制度がない代わりに、確定拠出年金が充実している。
  • 老後の資金計画のために、退職金の受取額を試算してみた。

【OK例文:退職手当】

  • 国家公務員退職手当法に基づき、定年退職者に手当が支給された。
  • 源泉徴収票の「退職手当等」の欄を確認して、確定申告を行った。
  • 地方自治体の条例により、職員の退職手当の支給率が改定された。

このように、民間や日常会話では「退職金」、公的・法的な文脈では「退職手当」とするのが自然です。

これはNG!間違えやすい使い方

意味は通じますが、場にそぐわない表現になってしまう例を見てみましょう。

  • 【NG】(居酒屋で同僚に)俺、公務員なんだけど、定年したらガッポリ退職手当をもらって世界一周するんだ。
  • 【OK】(居酒屋で同僚に)俺、公務員なんだけど、定年したらガッポリ退職金をもらって世界一周するんだ。

日常会話で「退職手当」と言うと、少し堅苦しく、法律用語をそのまま使っているような違和感があります。

公務員であっても、普段の会話では「退職金」と言うのが一般的でしょう。

【応用編】似ている言葉「退職慰労金」との違いは?

【要点】

「退職慰労金」は主に取締役や監査役などの「役員」が退任する際に支払われるものです。従業員の「退職金」とは異なり、株主総会の決議が必要になるなど、手続きや性質が異なります。

「退職金」「退職手当」と似ていて混同しやすい言葉に「退職慰労金」があります。

これも押さえておくと、ビジネスでの会話がよりスムーズになりますよ。

「退職慰労金」は、主に会社の役員(取締役、監査役など)が退任する際に、「在任中の労をねぎらう」という意味合いで支払われる金銭です。

決定的な違いは、従業員の退職金は就業規則(退職金規定)に基づく「賃金」ですが、役員の退職慰労金は「報酬」であり、支給には株主総会の決議が必要という点です。

最近では、コーポレートガバナンスの観点から、この退職慰労金制度を廃止する企業も増えていますね。

「退職金」と「退職手当」の違いを学術的に解説

【要点】

所得税法では「退職手当等」として定義され、退職金や退職手当だけでなく、退職に伴う一時金全般を含みます。労働基準法でも「退職手当」という用語が用いられ、賃金の一部として扱われます。

税法や労働法の観点からこの二つを見ると、実は「同じ枠組み」の中で扱われていることが分かります。

国税庁のタックスアンサーなどを見ると、所得税法上は「退職手当等」という名称で定義されています。

これには、「退職手当」「退職金」だけでなく、「退職慰労金」や「退職給付金」など、名称にかかわらず退職に基因して支払われる一時金すべてが含まれます。

また、労働基準法(第89条)においても、就業規則に記載すべき事項として「退職手当」という言葉が使われています。

ここでは、適用される労働者の範囲、決定、計算及び支払の方法、支払の時期などを定めることが求められています。

詳しくは国税庁の「退職所得となるもの」などで、法的な定義や課税の仕組みをご確認いただけます。

つまり、法律の世界では「退職手当」が親玉(総称)であり、「退職金」はその中の一つ、あるいは別名という位置づけなんですね。

人事担当として「退職手当」の表記に悩まされた僕の体験談

僕が以前、ある企業の総務人事で働いていた時のことです。

就業規則の全面改定を行うプロジェクトに参加したのですが、そこで「言葉の統一」という壁にぶつかりました。

それまでの規定では、ある箇所では「退職金」、別の箇所では「退職手当」と表記が混在していたのです。

「どっちでも意味は通じるからいいじゃないか」と僕は軽く考えていました。

しかし、顧問社労士の先生から「法律用語に合わせるなら『退職手当』が正確ですが、社員へのわかりやすさを優先するなら『退職金』で統一しましょう。混在しているのが一番よくありません」と指摘されました。

結局、社内アンケートや経営陣との協議の結果、我が社では親しみやすい「退職金」に統一することに決めました。

一方で、税務署に提出する書類を作成する際は、当然のように「退職手当等」という欄に記入しなければならず、「社内では退職金、対外的には退職手当」という頭の切り替えが必要でした。

「たかが名称、されど名称」。言葉一つで書類の整合性や社員への伝わり方が変わることを痛感した経験でした。

もしあなたが規定を作る立場なら、どちらかに統一することを強くおすすめしますよ。

「退職金」と「退職手当」に関するよくある質問

【要点】

履歴書には規定通りの名称を書くのが無難ですが、一般的には「退職金」で通じます。税金計算上の違いはありません。

履歴書の志望動機欄などで書くときはどっち?

一般企業への応募であれば「退職金」と書くのが自然です。ただし、公務員試験の面接カードや、応募先の募集要項に「退職手当」と明記されている場合は、相手の用語に合わせるのがスマートでしょう。

「退職金」と「退職手当」で税金の計算は変わりますか?

変わりません。名称がどちらであっても、所得税法上は「退職所得」として扱われ、同じ計算式(退職所得控除など)が適用されます。税制上の優遇措置も同様に受けられます。

就業規則に「退職手当」と書いてあるのに「退職金」と言ってもいい?

全く問題ありません。社内規定の正式名称が「退職手当」であっても、日常会話や一般的なビジネスシーンで「退職金」と呼ぶことは普通に行われています。意味は同じですので、文脈に合わせて使いやすい方を選んでください。

「退職金」と「退職手当」の違いのまとめ

「退職金」と「退職手当」の違い、スッキリご理解いただけたでしょうか。

最後に、この記事のポイントをまとめておきますね。

  1. 基本は同じ:どちらも退職時に受け取るお金のこと。
  2. 使い分け:民間・日常は「退職金」、公務員・法律は「退職手当」。
  3. 税金は同じ:どちらも「退職所得」として扱われる。

言葉の背景にある「公的か私的か」というニュアンスを理解すると、書類作成やニュースを見る時の解像度が少し上がりますね。

これからは自信を持って、場面に応じた適切な言葉を選んでいきましょう。

言葉の使い分けについてさらに知りたい方は、ビジネス用語の違いまとめもぜひご覧ください。