「着く」と「付く」、どちらも「つく」と読みますが、日常で頻繁に使うだけに使い分けに迷うシーンが多いですよね。
「駅につく」「実力がつく」「席につく」、これらはそれぞれどの漢字が正しいのでしょうか?
実は、移動してある場所に達する場合は「着く」、物がくっついたり備わったりする場合は「付く」を使うのが基本です。
この記事を読めば、二つの言葉が持つ本来の意味やイメージの違いがスッキリと理解でき、ビジネスメールやSNSでも迷わず正しい漢字を選べるようになります。
それでは、まず最も重要な違いから詳しく見ていきましょう。
結論:一覧表でわかる「着く」と「付く」の最も重要な違い
基本的には移動のゴール(到着)なら「着く」、接触や付加(くっつく)なら「付く」と覚えるのが簡単です。「席に着く」は自分の居場所(ゴール)に達する意味なので「着」を使いますが、「服に汚れが付く」は接触なので「付」を使います。
まず、結論からお伝えしますね。
この二つの言葉の最も重要な違いを、以下の表にまとめました。
これさえ押さえれば、基本的な使い分けはバッチリです。
| 項目 | 着く(つく) | 付く(つく) |
|---|---|---|
| 中心的な意味 | 移動してある場所に達する、届く | ある物に別の物がくっつく、備わる |
| 対象 | 目的地、場所、座席 | 汚れ、傷、実力、自信、おまけ |
| ニュアンス | ゴール、到達、定着 | 接触、付着、付属、発生 |
| 間違いやすい例 | 席に着く(〇) | 席に付く(×) |
一番大切なポイントは、「移動した結果、そこに至る」のか、「何かにピタッとくっつく」のかという点です。
例えば、「大阪に着く」は移動の到達点ですが、「服にシミが付く」は汚れが服に接触して離れない状態ですよね。
ややこしいのが抽象的な表現ですが、「自信が付く」「実力が付く」などは、自分の中に能力が「備わる(くっつく)」イメージなので「付く」を使います。
なぜ違う?漢字の成り立ち(語源)からイメージを掴む
「着」は「著(あらわす)」から派生し、衣服を身につける、あるいは行き着くという意味を持ちます。「付」は人が寸(手)を添える様子を表し、人や物に何かを添える、任せる、くっつけるという意味があります。
なぜこの二つの言葉に使い分けが生まれるのか、漢字の成り立ちを紐解くと、その理由がよくわかりますよ。
「着く」の成り立ち:「着」が表す“到達と定着”のイメージ
「着」という漢字は、元々は「著(いちじるしい、あらわす)」と同じ字でした。
そこから「衣服を身につける」という意味が分化し、さらに「ある場所に到達して、そこに落ち着く」という意味が生まれました。
「到着(とうちゃく)」や「定着(ていちゃく)」という熟語を思い浮かべると分かりやすいでしょう。
つまり、「着く」は移動の末にゴールに達し、そこに身を置くというイメージです。
だからこそ、「駅に着く」「席に着く」のように、場所への到達を表す際に使われるのです。
「付く」の成り立ち:「付」が表す“接触と添加”のイメージ
一方、「付」という漢字は、「人(にんべん)」に「寸(手)」を組み合わせた字です。
これは、人が手を添えて何かを渡す、あるいは寄り添う様子を表しています。
そこから、「くっつく」「添える」「任せる」という意味が生まれました。
「付着(ふちゃく)」や「添付(てんぷ)」、「寄付(きふ)」といった言葉に使われていますよね。
このことから、「付く」は、主となるものに、別のものがぴたりと寄り添う、くっつくというニュアンスになります。
「おまけが付く」「技術が付く」などは、本体(商品や自分自身)に新たな要素がプラスされるイメージです。
具体的な例文で使い方をマスターする
場所への到着は「着く」、能力や汚れなどの付着は「付く」を使います。迷いやすい「席につく」は、自分の居場所に到達するので「着く」が正解です。一方、「気がつく」や「決心がつかない」などは、心に感情や考えが備わる意味で「付く」を使います。
言葉の違いは、具体的な例文で確認するのが一番ですよね。
シーン別に、正しい使い分けと間違いやすいNG例を見ていきましょう。
「着く」の例文:到着・座席
移動のゴールや、決まった場所に身を置く場合に使います。
【OK例文】
- 予定通り、東京駅に着いた。
- 荷物が明日、自宅に着く予定だ。
- 皆様、どうぞお席に着いてください。
- 船が岸に着く。(※接岸=到着)
- 途方に暮れて、路頭に迷う。(※迷い着くことではないが、行き場を失う対義語的イメージ)
「付く」の例文:付着・発生・備わる
物理的にくっつく場合や、能力・感情などが新たに生じる場合に使います。
【OK例文】
- シャツにインクが付いてしまった。
- 毎日練習したので、かなり力が付いた。
- 細かいところに気が付く人だ。
- ようやく決心が付いた。
- この商品には保証書が付いている。
- 利子が付く。
これはNG!間違いやすい使い方
変換ミスや思い込みで間違いやすいケースを見てみましょう。
- 【NG】会議室の席に付く。
- 【OK】会議室の席に着く。
席は「くっつく」対象ではなく、「移動して座る(到達する)」場所なので、「着く」が正解です。「着席」という熟語を思い出せば間違えません。
- 【NG】悪知恵が着く。
- 【OK】悪知恵が付く。
知恵や知識は、自分の身に「備わる(プラスされる)」ものなので、「付く」を使います。「身に着ける(衣服)」と混同しないようにしましょう。
【応用編】似ている言葉「就く」「点く」との違いは?
「就く(つく)」は、特定の職業や地位、役割に身を置くこと、または動作を開始することを指します。「点く(つく)」は、明かりや火がともることを指します。「着く」「付く」とは対象が明確に異なるため、文脈で見分けることが可能です。
「つく」と読む漢字には、他にも「就く」や「点く」があります。
これらも合わせて整理しておくと、表現の精度がグッと上がりますよ。
「就く」の使い方:職業・開始
「就職(しゅうしょく)」や「就寝(しゅうしん)」という熟語をイメージしてください。
- 職業・地位:新しい仕事に就く、王位に就く、役職に就く。
- 師事:名人に就いて学ぶ。
- 開始:床(とこ)に就く(寝る)、帰路に就く。
社会的地位や、特定の動作・状態に入り込むことを表します。
「点く」の使い方:点灯・着火
「点灯(てんとう)」や「点火(てんか)」のイメージです。
- 明かり:部屋の電気が点く。
- 火:ライターの火が点く。
最近では、PCやスマホの変換で「付く」で代用されることもありますが、厳密に「明かり」を指す場合は「点く」が適しています。
「着く」と「付く」の違いを学術的に解説
文化庁の「異字同訓の漢字の使い分け例」では、「着く」は「行き着く・到達する」、「付く」は「付着する・備わる」と定義されています。辞書的な定義でも、「着く」は空間的な移動の完了を、「付く」は主従関係や接触関係の発生を意味すると区別されています。
ここでは少し視点を変えて、公的な指針や辞書の定義からこの二つの言葉を深掘りしてみましょう。
文化庁の文化審議会国語分科会が作成した「異字同訓の漢字の使い分け例(報告)」によると、以下のように使い分けが示されています。
- 着く:行き着く、到着する、座を占める。(例:目的地に着く、席に着く、大阪に着く)
- 付く:くっつく、付着する、付属する、生じる。(例:傷が付く、実力が付く、気が付く、火が付く※)
※文化庁の例では、「火がつく」や「明かりがつく」も「付く」の中に含まれることが多いですが、文脈によっては「点く」と書き分けることも許容されています。
学術的、あるいは国語学的な視点で見ると、「着く」は移動動詞としての完了(A地点からB地点への移動が終わる)を意味します。
一方、「付く」は状態変化や関係性の発生(AとBが離れていた状態から接触状態になる、無かったものが有る状態になる)を意味します。
「足が地に着く」と書けば「足が地面という場所に到達した(着地)」ニュアンスになり、「足が地に付く」と書けば「足と地面がくっついている(密着)」ニュアンスになります。
このように、漢字を使い分けることで、微妙な状況の違いまで表現できるのが日本語の面白いところですね。
詳しくは文化庁の国語施策情報などで、さらに細かい用例を確認することができます。
僕が「席に付く」とメールで送って上司に指摘された体験談
僕も新人の頃、この「着く」と「付く」の使い分けで恥ずかしい思いをしたことがあります。
ある日、重要な会議の議事録を担当することになり、開始前に上司へ「準備完了しました。私も席に付いて待機します」とメールを送ったんです。
すぐに上司から返信が来ました。
「やる気があってよろしい。でも、席にガムみたいにくっついちゃダメだよ(笑)。『着く』が正解だね」
一瞬、何を言われているのか分かりませんでしたが、すぐに顔から火が出るのを感じました。
僕は「席に座る」=「お尻と椅子がくっつく」という安直なイメージで「付く」と変換していたのです。
でも、本来の意味は「自分の持ち場(座席)に到達する」こと。
「着席」という言葉がある通り、場所への到達は「着」を使わなければならなかったのです。
「付く」だと、まるで椅子に接着剤で固定されて身動きが取れないような、滑稽なイメージを与えてしまっていたんですね。
この失敗以来、僕は「移動してそこに行く」なら「着く」、「何かがプラスされる・くっつく」なら「付く」と、心の中で呪文のように唱えてから変換キーを押すようになりました。
たった一文字の違いですが、そこには「行動の完了」と「状態の変化」という大きな意味の違いがあることを痛感した出来事でした。
「着く」と「付く」に関するよくある質問
Q. 「決心がつく」はどちらの漢字ですか?
A. 「決心が付く」と書きます。心の中に「決心」という状態や考えが新たに備わる(生じる)という意味だからです。「見当が付く」「鼻に付く」なども同様に「付く」を使います。
Q. 「手につかない(仕事などが)」はどっち?
A. 「手に付かない」が正解です。意識や集中力が対象に対して定着しない(くっつかない)様子を表しています。「落ち着く」は「着く」を使いますが、「手につく」は慣用句的に「付く」が一般的です。
Q. 「地面に足がつく」はどう使い分ける?
A. 文脈によります。ジャンプして着地した瞬間を表すなら「地面に足が着く(到達)」、地に足をつけた堅実な生き方を表す慣用句なら「地に足が付く(定着・密着)」と書くことが多いですが、一般的には「地に足が着く」と表記されることも多く、揺れがあります。物理的な接触を強調するなら「付く」が無難です。
「着く」と「付く」の違いのまとめ
「着く」と「付く」の違い、スッキリご理解いただけたでしょうか。
最後に、この記事のポイントをまとめておきますね。
- 基本は「移動」か「接触」か:場所への到達なら「着く」、物がくっつくなら「付く」。
- 「席につく」は「着く」:自分の居場所に到達する(着席する)ので「着く」が正解。
- 抽象的なものは「付く」が多い:実力、自信、決心、運などは身に備わるので「付く」。
- 「就く」「点く」も区別:仕事や役職は「就く」、明かりは「点く」。
言葉の背景にある「到達」と「付着」のイメージを掴んでおけば、もう変換候補の前で迷うことはありません。
これからは自信を持って、状況にぴったりの言葉を選んでみてくださいね。
漢字の使い分けについてさらに詳しく知りたい方は、漢字の使い分けの違いまとめの記事もぜひ参考にしてみてくださいね。
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