「受け入れる」と「受け容れる」、スマホやパソコンで変換するときにどちらを選ぶべきか迷ったことはありませんか?
結論から言うと、基本的には「受け入れる」を使えば間違いありません。
この記事を読めば、二つの言葉の微妙なニュアンスの違いと、公的なルールに基づいた正しい使い分けがスッキリと分かります。
それでは、まず最も重要な違いの全体像から見ていきましょう。
結論:一覧表でわかる「受け入れる」と「受け容れる」の最も重要な違い
「受け入れる」は最も一般的で、物理的な移動から抽象的な承認まで広く使われます。「受け容れる」は「許容する」「包み込む」というニュアンスを持ちますが、常用漢字表にない読み方のため、公用文やビジネスでは「受け入れる」を使うのが正解です。
まず、結論からお伝えしますね。
この二つの言葉の最も重要な違いを、以下の表にまとめました。これさえ押さえれば、基本的な使い分けはバッチリです。
| 項目 | 受け入れる | 受け容れる |
|---|---|---|
| 中心的な意味 | 人や物を内部に入れる。 要求などを承諾する。 | 広い心で許す。 中に入れて収める。 |
| ニュアンス | 承認、承諾、取り込み | 許容、包容、受容 |
| 常用漢字表 | あり(標準的) | なし(表外読み) |
| ビジネス・公用文 | 〇(こちらを使う) | ×(避けるべき) |
一番大切なポイントは、ビジネス文書や公的な書類では「受け入れる」を使うのがルールだということです。
「受け容れる」は間違いではありませんが、常用漢字表にない読み方(表外読み)であるため、個人的な文章や小説などでニュアンスを出したい場合に限定して使うのが賢明です。
なぜ違う?漢字の成り立ち(語源)からイメージを掴む
「入」は外から中へ入る移動を表し、単純な「インプット」のイメージです。「容」は器の中に収める様子を表し、そこから「中身を許す」「聞き入れる」という包容力のイメージが生まれます。
なぜ二つの表記が存在するのか、漢字の成り立ちからイメージを膨らませてみましょう。
「入」のイメージ:外から中への移動
「入」という漢字は、外から内側へ入ってくる様子を表しています。
「入学」「輸入」「加入」などに使われるように、「ある枠組みや場所の中に、人や物が移動してくる」という物理的・即物的なイメージが強い言葉です。
感情の有無にかかわらず、単に「中に入れる」「承認する」という動作を指します。
「容」のイメージ:器が中身を包み込む
一方、「容」という漢字は、「容器」や「容量」に使われるように、「中身を入れる器」を意味します。
そこから転じて、「容赦(ようしゃ)」や「寛容(かんよう)」のように、「相手の言動や事情を広い心で包み込み、許す」というニュアンスが生まれました。
つまり、「受け容れる」と書くと、単に承諾するだけでなく、「仕方ないなと許す」あるいは「度量広く飲み込む」といった感情的な深みが加わります。
具体的な例文で使い方をマスターする
日常やビジネスでの「承認」「採用」などは全て「受け入れる」でOKです。「受け容れる」は、「運命」や「他者の価値観」など、抵抗感や異質さを乗り越えて包み込むような場面であえて使われることがあります。
言葉の違いは、具体的な例文で確認するのが一番ですよね。
シーン別に正しい使い方を見ていきましょう。
ビジネスや日常で使える「受け入れる」の例文
ほとんどのシチュエーションで「受け入れる」が使えます。
【OK例文:受け入れる】
- 海外からの留学生を受け入れる。(人を迎え入れる)
- 先方の要求を受け入れる。(条件を承諾する)
- 新しい技術を積極的に受け入れる。(取り入れる)
- 難民の受け入れを表明する。(保護する)
- 現実を受け入れる。(事実として認める)
ニュアンスを込めて使う「受け容れる」の例文
個人的な手紙やエッセイなどで、あえて「包容力」や「許容」を強調したい場合に使えます。
【あえて使うなら:受け容れる】
- 過酷な運命を静かに受け容れる。(抵抗せず、すべてを飲み込むニュアンス)
- 部下の失敗を受け容れる度量が必要だ。(許し、包み込むニュアンス)
- 自分とは異なる価値観を受け容れる。(異質なものを許容するニュアンス)
ただし、これらも「受け入れる」と書いて全く問題ありません。
これはNG!間違えやすい使い方
意味は通じますが、漢字の使い分けルールとして不適切な例です。
- 【NG】本件の提案を受け容れることにしました。(ビジネス文書)
- 【OK】本件の提案を受け入れることにしました。
ビジネスメールや報告書で「受け容れる」を使うと、「漢字変換を間違えたのかな?」と思われるか、「何か特別な意味(仕方なく許した等)があるのかな?」と深読みされるリスクがあります。基本は「受け入れる」に統一しましょう。
【応用編】似ている言葉「聞き入れる」との違いは?
「聞き入れる」は、相手の頼みや意見を聞いて、その通りにするという意味です。「受け入れる」よりも「相手の要望に従う」というニュアンスが強くなります。
「受け入れる」と似た言葉に「聞き入れる」がありますね。
「聞き入れる」は、「忠告を聞き入れる」「願いを聞き入れる」のように、「相手の言葉に耳を傾け、その内容を承諾して実行する」という意味合いで使われます。
「受け入れる」が「来るものを拒まない」「承認する」という広い意味を持つのに対し、「聞き入れる」は「相手の言葉(音声や意見)に従う」という点に焦点が当たっています。
「留学生を聞き入れる」とは言いませんよね。「人」や「物」そのものを対象にする場合は「受け入れる」が適切です。
「受け入れる」と「受け容れる」の違いを学術的に解説
文化庁が定める「常用漢字表」において、「容」の訓読みは認められていません(表外読み)。公用文作成の要領では、常用漢字表にない読み方はひらがなで書くか、別の言葉に書き換えることが原則とされているため、「受け容れる」は使用せず「受け入れる」に統一されます。
もう少し専門的な視点から、この使い分けを見てみましょう。
日本の公的な文章作成の基準となっている「常用漢字表(内閣告示)」を確認すると、「入」と「容」の読み方は以下のようになっています。
- 入:ニュウ、ジュ、い(る)、い(れる)、はい(る)
- 容:ヨウ
ご覧の通り、「容」には「い(れる)」という訓読みが含まれていません。
これを「表外音訓(ひょうがいおんくん)」と呼びます。
公務員が作成する公用文や、新聞・テレビなどの報道機関では、原則として常用漢字表の範囲内で漢字を使用するというルールがあります。
そのため、「受け容れる」と書くことは公的なルール上は推奨されず、「受け入れる」と書くか、どうしても「容認」の意味を持たせたい場合は「聞き入れる」「認める」などの別の言葉を使うのが一般的です。
個人の表現としては自由ですが、「社会的な正解」としては「受け入れる」一択であると覚えておくと良いでしょう。
報告書で「受け容れる」を使って上司に指摘された体験談
僕も新人の頃、この「受け容れる」で冷や汗をかいた経験があります。
あるプロジェクトのトラブル報告書を作成していた時のことです。こちらのミスに対して、先方が寛大な対応をしてくれたことを伝えたくて、こう書きました。
「先方は、我々の謝罪を受け容れてくださいました」
自分としては、「こちらの不手際を、広い心で許してくれた」という感謝と敬意を込めて、あえて「容」の字を使ったつもりでした。小説などで見たことがあり、なんとなく「高尚で丁寧な表現」だと思っていたんです。
しかし、提出した報告書を見た上司から、すぐに赤ペンが入りました。
「ここ、『受け入れる』に直して。変換ミスかと思ったけど、わざと?」
僕は意図を説明しました。「寛大な心で許してくれたというニュアンスを出したくて…」
すると上司は苦笑いしながら教えてくれました。
「気持ちはわかるけど、ビジネス文書で常用漢字外の読み方を使うと、読む人によっては『気取っている』とか『独りよがりな文章』に見えるんだよ。それに、『容認する(仕方なく許す)』というニュアンスで取られたら、かえって失礼になる可能性もある。ここは素直に『受け入れる』でいいんだ」
ハッとしました。
自分の「こだわり」が、相手にとっては「ノイズ」や「誤解の種」になる可能性がある。
ビジネスでは、誰が読んでも同じ意味に取れる「標準的な表記」を使うことが、本当の配慮なんだと痛感しました。
それ以来、僕は迷わず「受け入れる」を使っています。
「受け入れる」と「受け容れる」に関するよくある質問
「受入れる」と送り仮名を省略するのは間違いですか?
間違いではありませんが、公用文やビジネス文書の原則(本則)は「受け入れる」です。「受入れる」は許容的な表記として使われることがありますが、読みやすさと正確さを重視するなら、送り仮名を省かない「受け入れる」が最も推奨されます。
「受け入れる」をひらがなで「うけいれる」と書くのは変ですか?
変ではありませんが、少し幼い印象や、柔らかすぎる印象を与える可能性があります。「受け入れる」は常用漢字の範囲内で、かつ難読でもないため、漢字で書くのが一般的です。あえて柔らかさを出したい場合を除き、漢字を使うのが無難です。
「要求をいれる」の場合はどう書きますか?
「要求を容れる」と書くケースも見られますが、これも「受け容れる」と同様に表外読みです。公的な文章では「要求を入れる」あるいは「要求を聞き入れる」とするのが適切です。「受け入れる」と言い換えるのも良いでしょう。
「受け入れる」と「受け容れる」の違いのまとめ
「受け入れる」と「受け容れる」の違い、スッキリご理解いただけたでしょうか。
最後に、この記事のポイントをまとめておきますね。
- 基本の選択:迷ったら「受け入れる」を使えば100%正解。
- 公的なルール:「容れる」は常用漢字外の読み方なので、ビジネスや公用文では使わない。
- ニュアンス:「容」には「許す」「包み込む」という意味があるが、個人的な表現に留めるのが無難。
パソコンで変換するとき、「受け容れる」という候補が出てくると、「おっ、こっちの方がかっこいいかな?」と思うかもしれません。
でも、そこはグッとこらえて、シンプルで誰にでも伝わる「受け入れる」を選ぶ。
それが、読み手への一番の思いやりであり、スマートな大人の選択ですよ。
漢字の使い分けについてさらに詳しく知りたい方は、漢字の使い分けの違いまとめのページもぜひチェックしてみてください。
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