「culinary(カリナリー)」と「cooking(クッキング)」の最も大きな違いは、「専門的・芸術的な側面」を指すか、「日常的・実用的な行為」を指すかという点です。
なぜなら、culinaryは「台所の、料理の」という意味を持つ格式高い形容詞で、プロの技術や食文化全体を指すのに対し、cookingは「料理する」という動作そのものや、家庭的な料理を指す一般的な言葉だからです。
この記事を読めば、海外の料理学校やレストランのメニュー、求人情報などでどちらの言葉が適切かが明確になり、食に関する英語表現をレベルアップさせることができるようになります。
それでは、まず両者の決定的な違いを一覧表で詳しく見ていきましょう。
結論:一覧表でわかる「culinary」と「cooking」の最も重要な違い
最大の違いは「専門性」と「品詞」です。culinaryは形容詞で「(プロの)料理の」「食文化の」という高度なニュアンスを持ちます。cookingは動詞・名詞・形容詞で「(一般的な)調理」「料理すること」という行為そのものを指します。
まず、結論からお伝えしますね。
この二つの単語の最も重要な違いを、以下の表にまとめました。
これさえ押さえれば、基本的な使い分けはバッチリです。
| 項目 | culinary(カリナリー) | cooking(クッキング) |
|---|---|---|
| 品詞 | 形容詞 (〜の、〜に関する) | 動詞、名詞、形容詞 (〜する、〜すること) |
| ニュアンス | 専門的、芸術的、職業的 「美食」「食文化」 | 日常的、家庭的、実用的 「おかず作り」「炊事」 |
| よく使われる対象 | プロの技術、専門学校、 観光(食の旅)、伝統 | 家庭料理、手順、趣味、 料理教室(一般向け) |
| 対義語的なイメージ | Non-culinary(食に関係ない) | Eating(食べること) Raw(生の) |
一番大切なポイントは、「culinary」は単独で「料理」という意味の名詞にはなれないということです。
必ず「Culinary arts(料理芸術)」や「Culinary skills(調理技術)」のように、後ろに名詞を伴って使われます。
なぜ違う?語源(ラテン語とゲルマン語)からイメージを掴む
culinaryはラテン語の「culina(台所・キッチン)」が語源で、学術的・専門的な響きを持ちます。cookingはラテン語「coquere(火を通す)」から派生した古い英語で、日常的な「煮炊き」という動作に直結しています。
なぜこの二つの言葉は、似たような意味なのにニュアンスが異なるのでしょうか。
そのルーツを知ると、言葉の持つ「格式」の違いが見えてきます。
culinaryのルーツ:台所という場所
「Culinary」は、ラテン語の「culina(台所)」に由来します。
英語においてラテン語由来の単語は、しばしば「学術的」「格式高い」「専門的」なニュアンスを持ちます。
そのため、単なる「煮炊き」を超えた、「厨房における技術体系」や「食文化」全体を指す言葉として発展しました。
cookingのルーツ:火を通す行為
「Cooking」の元となる「Cook」は、ラテン語の「coquere(火を通す、熟す)」に由来しますが、非常に古い時代に英語に入ってきました。
そのため、生活に密着した「食材を加熱して食べられるようにする」という具体的な動作を表す言葉として定着しました。
日常会話で「料理するよ」と言うときに使う、最も一般的な言葉です。
具体的な例文とシーンで使い分けをマスターする
プロの料理人を目指す学校は「Culinary school」、主婦向けの料理教室は「Cooking class」。卓越した技術は「Culinary skills」、夕食を作る作業は「Cooking dinner」。プロか日常かで使い分けます。
言葉の違いは、実際の使用シーンで確認するのが一番ですよね。
プロフェッショナルな場面と日常的な場面、それぞれの例を見ていきましょう。
culinaryを使う場面:プロ、芸術、文化
高度な技術や、文化としての食を語る場合に適しています。
- Culinary arts:料理芸術(調理師専門学校の学部名などで使われる)
- A culinary expert:料理研究家、食の専門家
- Culinary tourism:ガストロノミーツーリズム(その土地の食文化を楽しむ旅)
「Culinary delight(食の楽しみ)」のように、洗練された美食体験を表す際にも使われます。
cookingを使う場面:日常、動作、趣味
日々の食事作りや、動作そのものを指す場合に適しています。
- I enjoy cooking.(料理をするのが好きです。)
- Cooking utensils:調理器具(おたまやフライパンなど)
- Home cooking:家庭料理(おふくろの味)
「What’s cooking?(何を作ってるの?/何が起きてるの?)」というカジュアルなフレーズもあります。
【応用編】「Chef」と「Cook」の違いは?
「Chef」は専門的な訓練を受けた「料理長・シェフ」で、culinaryのイメージに近いです。「Cook」は「料理をする人・コック」で、プロアマ問わず使われますが、職業としてはChefより下の階級や、大衆食堂の調理人を指すことがあります。
関連する言葉として、料理人たちの呼び方も整理しておきましょう。
Chef(シェフ)
フランス語の「Chef de cuisine(厨房のチーフ)」が語源です。
単に料理が上手いだけでなく、厨房を指揮・管理するプロフェッショナルを指します。
「Culinary school」を卒業した人は、まずここを目指します。
Cook(コック、料理人)
料理をする人全般を指します。
職業として使う場合、「Line cook(下ごしらえや特定の工程を担当する人)」のように使われますが、Chefに比べると「職人」「作業者」というニュアンスが強くなります。
一般家庭で料理をする人も「Good cook(料理上手)」と呼ばれます。
「culinary」と「cooking」の違いを言語学的に解説
言語学では「レジスター(使用域)」の違いとして説明できます。Culinaryは「学術・専門用語」のレジスターに属し、Cookingは「一般・日常用語」のレジスターに属します。英語にはこのように「フランス語/ラテン語由来の高級語」と「ゲルマン語由来の日常語」が共存する特徴があります。
少し専門的な視点から、この二つの言葉を分析してみましょう。
英語の語彙には、歴史的な背景から「二重構造」があります。
- 日常語(ゲルマン系):Cow(牛)、Pig(豚)、Cooking(料理)。生活に密着した、素朴な言葉。
- 高級語(フランス/ラテン系):Beef(牛肉)、Pork(豚肉)、Culinary(料理の)。支配階級や学者が使っていた、洗練された言葉。
つまり、Culinaryを使うことは、単に意味を伝えるだけでなく「専門性や教養、高級感」を演出する効果があるのです。
農林水産省の食文化発信資料などでも、海外向けの表記では「Japanese Culinary Culture」といった表現が使われることがあります。
参考:農林水産省
僕が留学先で「Cooking school」と言って訂正された体験談
僕がアメリカに留学していた頃、将来はレストランを開きたいという夢を持っていました。
ある日、現地の友人に「将来は何になりたいの?」と聞かれたので、自信満々に答えました。
「I want to go to a cooking school and become a cook.(料理教室に行ってコックになりたいんだ)」
すると友人は少し微妙な顔をして、「へえ、家庭料理を習いたいの? それともプロのシェフになりたいの?」と聞き返してきました。
僕が「プロのシェフだよ!」と言うと、彼は笑って教えてくれました。
「それなら『Culinary school』って言った方がいいよ。Cooking schoolだと、主婦が通う料理教室みたいに聞こえるからね」
「プロを目指すなら、言葉もプロ仕様を使わないといけない」
この時、単語の選び方一つで、自分の本気度や目指しているレベルが相手に全く違って伝わることを学びました。
それ以来、自分の夢を語るときは胸を張って「Culinary arts」と言うようにしています。
「culinary」と「cooking」に関するよくある質問
Q. 「Culinary」の発音は?
A. 「カリナリー(/ˈkʌl.ɪ.ner.i/)」に近いです。「キュリナリー」と発音する人もいますが、英語圏では「カリナリー」が一般的です。最初の「Cu」は「Cut」の「カ」と同じ音です。
Q. 「Gastronomy」との違いは?
A. 「Gastronomy(ガストロノミー)」は「美食学」と訳され、料理と文化、科学、芸術との関係を考察するさらに学術的・文化的な言葉です。Culinaryは「調理技術」に焦点がありますが、Gastronomyは「食の楽しみや知識」全体を指します。
Q. レストランのメニューで見るのはどっち?
A. 高級レストランの説明文やコンセプト紹介では「Culinary experience(食体験)」や「Culinary team(調理チーム)」などが好まれます。一方、調理法(Cooking method)の説明ではCookingも使われます。
「culinary」と「cooking」の違いのまとめ
「culinary」と「cooking」の違い、スッキリご理解いただけたでしょうか。
最後に、この記事のポイントをまとめておきますね。
- 品詞が違う:culinaryは形容詞、cookingは動詞・名詞・形容詞。
- レベルが違う:culinaryはプロ・芸術・専門的、cookingは日常・家庭的。
- 使い分け:専門学校はCulinary school、料理教室はCooking class。
- 関連語:Chef(シェフ)はculinary、Cook(コック)はcookingに近い。
どちらも「料理」に関わる言葉ですが、その裏にある「世界観」が全く異なります。
これからは、家庭での楽しい料理は「Cooking」、レストランでの洗練された一皿は「Culinary art」と、心の中でラベルを貼ってみてくださいね。
言葉の使い分けについてさらに知りたい方は、メディア・文化系外来語の違いまとめの記事もぜひご覧ください。
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