「material(マテリアル)」と「ingredient(イングリディエント)」の最も大きな違いは、「加工後も原型や性質が残っている素材」か「混ぜ合わさって溶け込んでいる成分」かという点です。
なぜなら、materialは「物質・材料」全般を指し、服の生地や建築資材のように見てそれと分かるものに使われるのに対し、ingredientは料理や薬のように「混合物の中に入っている要素(成分)」を指す言葉だからです。
この記事を読めば、英語のレシピや製品の成分表示を見た時にどちらが適切かが明確になり、「材料」という日本語に惑わされずに正しいニュアンスで使いこなせるようになります。
それでは、まず両者の決定的な違いを一覧表で詳しく見ていきましょう。
結論:一覧表でわかる「material」と「ingredient」の最も重要な違い
最大の違いは「混合」の有無です。materialは「素材・資材」で、個別の物体として存在します。ingredientは「食材・成分」で、混ぜ合わせて一つの完成品を作るための要素です。
まず、結論からお伝えしますね。
この二つの単語の最も重要な違いを、以下の表にまとめました。
これさえ押さえれば、基本的な使い分けはバッチリです。
| 項目 | material(マテリアル) | ingredient(イングリディエント) |
|---|---|---|
| 中心的な意味 | 素材、資材、資料 (物を作るための原料) | 食材、成分、要素 (混ぜ合わせる中身) |
| 加工後の状態 | 原型や質感が残る (木材→家具、布→服) | 混ざって一体化する (卵・粉→ケーキ) |
| 主な使用シーン | 建築、服飾、工業製品、 教育(教材)、記事のネタ | 料理、食品、医薬品、 化粧品、成功の秘訣 |
| ニュアンス | 「形あるもの」「物質」 | 「中に入っているもの」 |
一番大切なポイントは、料理の「材料」と言いたい時は、ほぼ間違いなく「ingredient」を使うということです。
「material」を使うと、まるで食べられない工業製品の材料のような響きになってしまうので注意が必要です。
なぜ違う?語源と変化のプロセスからイメージを掴む
materialはラテン語の「materia(木材・物質)」が語源で、見て触れられる「物質そのもの」を指します。ingredientは「in(中へ)+ gradi(進む)」が語源で、完成品の中に「入り込んでいる要素」を指します。
なぜこの二つの言葉は、同じ「材料」と訳されるのに使い分けられるのでしょうか。
そのルーツを知ると、言葉の持つ「物質感」の違いが見えてきます。
materialのルーツ:物質としての母
「Material」は、ラテン語の「materia(木材、物質)」に由来します。
さらに遡ると「mater(母)」と同じ語源を持ち、「何かを生み出す母体となる物質」という意味合いがあります。
木、石、布、金属など、物理的に存在し、加工してもその性質(木は木のまま)が残るものに使われます。
ingredientのルーツ:中に入り込むもの
「Ingredient」は、ラテン語の「ingredi(入る)」に由来します。
これは「in(中へ)」+「gradi(進む)」という構成で、「全体の一部として中に入り込んでいるもの」を意味します。
料理のスパイスやケーキの小麦粉のように、混ぜ合わされて元の形が見えなくなったり、全体の一部として融合したりするイメージです。
具体的な例文とシーンで使い分けをマスターする
服の生地や建築資材、会議の資料は「material」。料理の具材やシャンプーの成分、成功の秘訣は「ingredient」。形が見えるならmaterial、溶け込んでいるならingredientと判断します。
言葉の違いは、実際の使用シーンで確認するのが一番ですよね。
日常会話やビジネス、料理の場面での使い分けを見ていきましょう。
materialを使う場面:素材・資料
物理的な材料や、仕事で使うデータなどを指す場合に適しています。
- This dress is made of high-quality material.(このドレスは高品質な素材で作られている。)
- We need to buy building materials.(建築資材を買う必要がある。)
- I gathered material for my new book.(新刊のための資料(ネタ)を集めた。)
「Teaching materials(教材)」のように、形のない情報であっても「何かを構成するための素材」として扱われる場合はmaterialを使います。
ingredientを使う場面:成分・要素
料理の材料や、抽象的な構成要素を指す場合に適しています。
- Mix all the ingredients in a bowl.(全ての材料をボウルで混ぜてください。)
- Check the label for artificial ingredients.(人工的な成分がないかラベルを確認して。)
- Trust is the key ingredient for a successful relationship.(信頼は良好な関係のための重要な要素(秘訣)だ。)
「Active ingredient(有効成分)」のように、薬や化粧品のパッケージでも頻繁に見かける単語です。
【応用編】「Raw material」や「Element」との違いは?
「Raw material」は加工前の「原材料(原油、綿花など)」を指す産業用語です。「Element」は科学的な「元素」や、全体を構成する不可欠な「要素」を指し、より抽象的で基礎的なニュアンスが強くなります。
似ている言葉との違いも整理しておきましょう。
Raw material(原材料)
「Raw(生の)」+「material」で、工業製品などの元となる未加工の資源を指します。
石油、鉄鉱石、木材、綿花などがこれに当たります。ingredientは「調理・調合する段階の材料」ですが、raw materialはもっと川上の「生産のための原料」です。
Element(要素・元素)
化学的な「元素(水素、酸素など)」や、物事を成り立たせるための根本的な要素を指します。
「Key ingredient(成功の秘訣)」と似ていますが、Elementの方がより「基礎的、不可欠な部分」というニュアンスが強く、料理の具材という意味では使われません。
「material」と「ingredient」の違いを物理・化学的に解説
物理的変化(切る、縫う、組み立てる)で製品になるのがmaterial。化学的変化(焼く、発酵させる、反応させる)や混合によって変質・融合するのがingredientという傾向があります。
少し専門的な視点から、この二つの言葉を分析してみましょう。
モノができるプロセスにおいて、その材料がどう変化するかで使い分けることができます。
- Material(物理的変化):木を切って椅子にする、布を縫って服にする。これらは形が変わるだけで、木は木のまま、布は布のままです。このように「素材の性質を保ったまま加工される」のがmaterialです。
- Ingredient(化学的変化・混合):卵と粉と砂糖を混ぜて焼くと、スポンジケーキになります。元の卵の形はありませんし、化学反応で別の物質(ケーキ)に変化しています。このように「融合して新しい性質のものになる」のがingredientです。
消費者庁の食品表示基準などでも、原材料(Ingredients)の表記ルールが細かく定められており、アレルギー物質の表示などにおいて「Ingredient」の概念は非常に重要です。
参考:消費者庁 食品表示法等
僕が料理の説明で「Material」と言って笑われた体験談
僕がアメリカでホームステイをしていた時の、ちょっと恥ずかしい失敗談をお話しします。
ホストマザーに日本のお好み焼きを作ってあげることになり、一緒にスーパーへ買い物に行きました。
僕はメモを見ながら、キャベツや小麦粉、豚肉などをカゴに入れていきました。
レジに並んでいる時、ホストマザーに「これで全部?」と聞かれたので、自信満々にこう答えました。
「Yes! We have all the materials!(はい! 必要な資材は全部揃いました!)」
すると彼女は、目を丸くして笑い出しました。
「Materials? Are we building a house?(資材? 私たちは家でも建てるの?)」
僕は顔から火が出るほど恥ずかしくなりました。
「料理の材料にMaterialを使うと、まるで日曜大工の資材のように聞こえる」
ホストマザーは笑いながら、「Cooking ingredients(料理の材料)」と言うんだよ、と教えてくれました。
それ以来、スーパーマーケットに行くたびに「これはIngredient、ホームセンターにあるのがMaterial」と心の中で唱えるようになりました。
「material」と「ingredient」に関するよくある質問
Q. 化粧品の成分はどっちですか?
A. 「Ingredients」です。化粧品の裏面にある成分表示リストは、英語で「List of Ingredients」と書かれます。化学的に調合された成分なので、MaterialではなくIngredientを使います。
Q. 記事や論文の「ネタ(材料)」はどっち?
A. 「Material」です。「I’m collecting material for my article(記事のネタを集めている)」のように使います。情報は物理的な物体ではありませんが、「記事を構成するための資材」という感覚でMaterialが使われます。
Q. 「Key material」とは言いませんか?
A. 言うこともありますが、文脈が限られます。製品を作るための重要な資材という意味なら使えますが、「成功の鍵」といった比喩的な意味では「Key ingredient」や「Key element」の方が圧倒的に自然で一般的です。
「material」と「ingredient」の違いのまとめ
「material」と「ingredient」の違い、スッキリご理解いただけたでしょうか。
最後に、この記事のポイントをまとめておきますね。
- 変化が違う:materialは原型が残る(物理的)、ingredientは混ざって溶け込む(化学的)。
- 対象が違う:建築・服・資料はmaterial、料理・薬・化粧品はingredient。
- 料理の鉄則:食べ物の材料は絶対に「Ingredient」を使う。
- ニュアンス:materialは「素材・資材」、ingredientは「成分・中身」。
どちらも日本語では「材料」と訳せてしまいますが、その裏にある「物質としてのあり方」は全く異なります。
これからは、ホームセンターに行ったら「Material」、キッチンに立ったら「Ingredient」と、場所に合わせて脳内のスイッチを切り替えてみてくださいね。
言葉の使い分けについてさらに知りたい方は、メディア・文化系外来語の違いまとめの記事もぜひご覧ください。
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